66.初めての共同作業
今現在の時刻はおよそ十六時。時短のため、二人で分担もしていく。
「始めよう!」
「おう!」
そんなかけ声で作業を開始する。
まず彼女がチョコを適温で湯煎して溶かしていく。温度計で温度を見つつ行う。俺はその間にホール型の型やオーブンの方の準備をする。幸い家のものと家電が同じタイプだったため、彼女に聞く必要はなかった。
チョコが溶けて来たらバターを加えてさらに溶かす。一度彼女と交代し、彼女はその間にメレンゲを作る。この時に先程購入した砂糖を使う。
バター溶かす作業を完了したら、ボールに卵黄と砂糖を入れてハンドミキサーで混ぜる。そしてそこに、先に湯煎していたチョコと生クリームを加えて混ぜる。
メレンゲを作り終えた彼女に交代し、彼女はココアと薄力粉をふるった粉をさくっと混ぜていく。その間、俺はメレンゲを混ぜて滑らかにしておく。
彼女が混ぜていたところに、メレンゲを三回に分けて入れていく。
途中、混ぜる役を交代しようかと聞いてみたが、せっかくだから最後までやると返されてしまった。彼女のやる気を削ぐようなことはしたくないので一度で聞くのをやめたが、混ぜる作業って結構腕が疲れるんだよな……
その後、メレンゲを混ぜたものを最初に準備しておいた型に流し、温めておいたオーブンに入れる。
「後は四十五分ほど待てばできるな」
「ふふっ、楽しみだね!」
「あぁ、そうだな」
二人で分担していたこともあり、以前一人で作った時よりもかなり早く終了した。
「友也くん、ありがとね」
「ん? おう、俺も楽しかったよ」
「ふふっ、こうして二人で何か作業するのって久しぶりだね?」
「確かにそうだな……まぁ、ゲーム内を除けば初めてになるかな?」
「そうだね……恋人としての初めての共同作業だねっ」
俺と成実はリビングの椅子に座って、オーブンで焼き上がる時間を待っていた。恋人になってからは初めての共同作業……自覚すると変に意識をしてしまう。
今後は色々なことを一緒にやっていくかもしれない。そして、色々な初めてを経験するかもしれない。それこそ前のキスのように……
俺は前のことを思い出し、顔を赤く染める。それを不思議に思った彼女が問いかけてくる。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもないよ。……そ、そういえば、こういうことも思い出になるよな」
「あっ、そうだね! ふふっ、友也くんとの共同作業〜。えへへっ」
そんなことを言いながら破顔する彼女。あまりにも眩しく、そして幸せそうな彼女を見ているとこちらまで笑顔になっていく。
しばらく雑談をしていると、オーブンの方から焼き上がった音と、甘い香りが少し漂ってくる。
「できたね……!」
「あぁ、そうみたいだな。最後の仕上げと行こうか」
「うん!」
オーブンを開けると、先程はオーブンの中に閉じられており、少ししか感じられなかった香りが一気に解き放たれて、周囲に甘く濃厚な匂いが広がる。
「わぁ!」
「いつになっても開ける瞬間は良いな」
「うん、そうだね!」
オーブンから取り出した後は少し放置し、熱を冷ます。しばらくすると熱が出て、表面にヒビが入っている。
型から取り出してお皿に移した後は、表面に粉砂糖を好みで振る。
「完成〜!」
「あぁ、お疲れ様!」
「友也くんもお疲れ様でした!」
外が暗くなるよりも前にガトーショコラが完成した。
「よし、それじゃ、一緒にちょっと食べよっ!」
「え、いいのか?」
「いいも何も、友也くんがいたからできたんだよ! あ、でも、夕食も近い……けど、甘いものは別腹だよ!」
「ははっ、それもそうか。よし、それなら切り分けて、少し頂こうか!」
「うん!」
そうして彼女が綺麗にホール型のガトーショコラを切り分けていく。八等分にしたが小ぶりなので、そのうち一つを食べたところで夕食に関しても問題ないだろう。
「はむっ……んー! 美味しい!」
「もぐっ……あぁ、美味いな!」
見た目は問題がなかったが、味に関しても全く問題がない。それどころか今まで作った中で一番美味しくも感じられる。濃厚でしっとりとしており、市販のものよりも味わい深い気がする。
「ふぅ、美味しかった〜。うーん、食べ終わっちゃったけど……」
「あぁ、凄い美味かったな。まぁ、流石に夕食に影響が出るのは良くないと思う」
「うん、そうだよね……」
話しながらゆっくりと味わっていたため、思いのほか時間が経っており、気付けば十八時近くになっていた。
「それに友也くんもそろそろ帰らなきゃだよね?」
「あぁ、そうだな……」
欲を言えばまだまだ一緒にいたいと思う。しかしここは彼女の家だ。いつまでも居座るわけにはいかないだろう。
「……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。後ろ髪を引かれながらも、このままだといつまでもここに残ってしまいそうなので、きっぱりと帰る決断をする。
「……それじゃ、そろそろ帰るよ」
「あっ……うん、そうだよね。今日はありがとっ!」
一瞬寂しそうな表情をしたが、すぐ笑顔に戻る。そんな表情を見せられると名残惜しさが増してしまう。
「……それじゃ、また学校でな」
「あっ、ちょっと待って!」
二人で玄関までやってきたところで彼女に引き止められる。どうしたのだろうかと思い、俺は立ち止まって振り返る。彼女は後ろを周囲をきょろきょろと確認してからから近づいてきて……
――チュッ
そのまま唇を奪った。
「っ!?」
「えへへ……チョコっぽい味だね……?」
照れていて恥ずかしそうな表情でそんなことを言ってくる。前は緊張で何も考えるような余裕はなかったが、前回よりも今回は幾らかは思考に余裕があったと思う。キスは甘い味とは聞くが、本当に甘いな……いや、そうではなくて!
「いきなりで、その、えへへ……でも勢いで行かなきゃ照れちゃってできないし……」
「あ、あぁ、そうだよな……」
前言撤回、余裕なんてない。明るくて狭い玄関で、以前と違い目を閉じていなかったため、すぐ目の前に彼女の顔が近づいてきた。むしろ頭がどうにかなりそうだ。
俺は気が動転したまま、しかし緩みそうな表情を抑えながら別れの言葉を言う。
「えっと、その、今日は本当にありがとう……」
「うん……」
「……またすぐに学校も再開するし、数日後に会おうな」
「うんっ」
「それじゃ……」
「うん! またね!」
「おう!」
そうして愛しい彼女と別れ、俺は家への帰路へと着く。いつしか日が傾いていて暗かったおかげで、緩んでいた表情は誰にも見られなかったと思う。
最近作者はお菓子作りしてませんね〜。というか工程結構簡略化しましたけど、長々書くよりもそっちの方がいいですよね。というかこれでも長いのかな?
夏季休暇に入って、むしろやることが多くて続きを書く時間が……しかし、一度毎日連載を休むと怠け癖が付きそうで……
キツそうなら後書きか活動報告で前日には報告します。どうかご了承ください。
それでは今回もありがとうございました。




