64.勉強会と友人の姉
目の前にいる彼女は部屋の前で一度足を止め、深呼吸をしてから部屋を開ける。
「よしっ」
そんな声と共に、扉のドアノブに手をかけ、部屋に入る彼女。その後ろについて行き、俺も部屋に入る。
彼女の部屋はシンプルな木製の家具がいくつかと、白いベッドと机、その上にデスクトップパソコンが置いてあった。見るからによく整理整頓ができている部屋だ。
「……ごめんね、友也くん。女の子らしい感じじゃなくて……」
そんなことを言ってくる彼女。部屋に入ってから無言だったため、不安に思わせてしまったのだろう。
「あっ、すまん。ただPCがかなりいいやつだったことに驚いてただけだよ。それに女の子らしくなかったとしても、それは謝ることじゃないぞ」
俺のよりもスペックが良いPC、椅子も座り心地が良さそうなもので、机には以前渡したブルーライトカットのメガネもあった。
「そっか……そうだね! それじゃそこに座って、勉強会を始めましょうか!」
「おう!」
元気を取り戻した彼女に部屋中央にある机のそばに座るよう言われ、腰をかける。彼女も俺の正面に腰を下ろして、勉強道具を広げた。
勉強を初めて一時間程。俺は少し抜けているところがあり、たまに彼女に質問をしていたが、彼女は黙々と近くに迫った試験の勉強を進める。流石は学年一位だ。
開始してから二時間程。カリカリとシャープペンの走る音だけが部屋に響く。ずっと同じ姿勢でやっていたため、体が固くなっていた。伸びをすると体が伸び、思わず深く息を吐いてしまう。
「ふぅ……」
「……あ、友也くん、今どんな状況かな?」
「家でやっていたし、そろそろ今日持ってきていた分が終わるな」
「そっか! 私ももう少しで今日の予定分が終わりそうだし、何か質問あればなんでも言ってね!」
「あぁ、助かるよ」
再び二人で勉強に取り掛かる。少しして、お互いが今日やる分を終え、雑談へと入った。
「さっきはごめんね。お母さんが色々と聞いたりしちゃったでしょ?」
「いや、俺も色々と話を聞けたし、それに交際のことも認めて貰えたようで良かったよ」
「そ、そっか。その……友也くんはずっと私の傍にいてくれるの?」
先程のことを言っているのだろう。少し顔を赤く染めた彼女が、俺に聞いてくる。そもそも彼女は父親を亡くし、大切な人がずっと一緒にいるとは限らないと分かっている。俺もそうだ。
だからこそ安易に『ずっと』などと、以前ならば言うことが出来なかっただろう。しかし、今は覚悟も決め、たとえ何があろうとも彼女を話すつもりはない。
「もちろんだ。成実が望む限り、ずっと一緒にいよう」
「友也くん……うん、私はずっと一緒がいいよ……!」
「あぁ、了解だ」
いつしか、机を挟んでいたはずの彼女との距離が、すぐ近くへとなっていた。
「友也くん……」
彼女が目を瞑り、いつかのデート終わりの時のような表情をする。
そこに吸い込まれるように近付き、俺も目を瞑ろうとした瞬間、部屋の扉をノックされる。
「っ!?」
「ひゃっ!?」
目を瞑っていて視覚情報が遮断されて、耳からの情報が多くなっていた彼女が驚きの声を上げる。
『成実、ちょっと聞きたいことがあったんだけど、お邪魔したかしら?』
「あっ、だ、大丈夫! 大丈夫だから! 聞きたいことって何!?」
扉越しに聞こえてくる神崎さんの声。焦りながらも彼女は返事を返す。
『それじゃ、少し失礼するわね』
彼女との距離はいつしか、先程のように机を挟んでいた。
「後でお菓子作りするかもって言ってたけれど、お砂糖が足りるか分からないのよね」
「えっ! まだあったはず……」
「多分、昨日までの練習で使いすぎちゃったのかもしれないわ」
「あっ……」
彼女は思い出したかのような表情をする。というか練習していたのか。
「あっ、お母さんなんで言っちゃうの……」
「あら、ごめんなさい」
「むぅ……とりあえず砂糖は私が今から買いに行くよ」
「あ、俺もついて行こうか? 荷物持ちくらいはできるし、何を作るかもまだ話を聞いてなかったしな」
それに少しでも彼女と一緒にいたい。そんなことを心の中で呟く。
「えっ、でも……」
「成実、こういう時はお言葉に甘えなさい。それに一人で家に残すのは良くないわよね」
「えっと、じゃあ、お願いします」
「おう」
神崎さんからの助け舟もあり、一緒に行くことが決まった。そうと決まれば、時間も少ないので、急ぎ準備を済ませて家を出る。
「私のせいで付き合わせちゃって……」
「ごめんはもう大丈夫だよ」
「えっ?」
「ちょっと前から結構謝られている気がしてな。これくらいで謝られるなら、俺の方こそ色々と謝らないといけなくなるしな」
「と、友也くんが謝ることなんて」
「いや、結構あるぞ。それこそさっきのも本心を隠してついてくるって言ったしな。それに感謝しなければならないこともたくさんある」
「隠して……?」
「あぁ。まぁ、だから『ごめん』よりも『ありがとう』って言う方がお互いに気分もいいし、これからは減らしていかないか?」
彼女の家を出てすぐにそんなことを提案する。たとえ彼女と趣味が違くても、たとえ彼女がミスをしようと、ガッカリすることも怒るつもりもない。それにされるならば謝られるよりも感謝される方がいい。
「そっか……うん、分かったよ! ありがとね友也くん!」
「おう。やっぱり成実には笑顔が似合うな」
笑顔でありがとうと言ってくる彼女に対し、つい本音を漏らしてしまう。
「あ、ありがと……」
「お、おう……」
自分で言って恥ずかしくなってしまうが、彼女も同様に頬を染めて俯いてしまう。
手を繋いでいて、すぐ傍にはいるが、無言の時間が流れる。
ふと昨晩のことを思い出し、彼女に伝える。
「そういえば香織さん……あ、晃のお姉さんが帰ってきてるらしいんだ」
「あっ、そうなの?」
「おう、それでなんか今にでも会いそうな予感というか、妙な胸騒ぎが昨日からしてるんだよな」
「あ、それがさっき言ってた、ついてきた理由なの?」
「あぁ、いや、それとは別だな」
「えっと、嫌じゃなければ聞いてもいいかな?」
「そうだな……。す、少しでも成実といたかったから……」
「っ!」
再び二人の間に沈黙が流れてしまった。黙ったままでも歩みは進むため、少し歩いていると目的地のスーパーへとたどり着いた。
PC欲しい……ゲームも作業もできて、快適な物が……!来年にでもバイトして買おうかな。
って私のことはどうでもいいんですよ。今回もありがとうございました。
部屋に入っても二人とも真面目なので何も無いですね。というか成実も抜けてる部分あるので、二人で買い物デートですね!
例の姉さんがどう動くのか……次回もまたよろしくお願いします。




