62.父の部下
GWが始まり、数日が経った。
毎朝いつも通り起き、量を増やしたランニングと筋トレをする。朝食後は課題をやり、昼食を食べる。夜までは勉強とゲームをして過ごして、夕食後に彼女と通話をしてから寝る。
そういうサイクルで過ごしている。
しかし、あの日から彼女に会いたいという気持ちが、今まで以上に膨れ上がった気がする。昼前の今は気を紛らわそうと課題を進めている。すると隣に置いてあるスマホが鳴った。
――ブブッ
「! 誰だろう?」
彼女からのだろうかと思い、即座に手に取ってしまう。そもそも勉強会は明後日だから、特に用がなければ電話をしている夜以外に連絡が来るはずもないのだが。
「父さん?」
通知を見ると父さんからの連絡だった。珍しいなと思いながらも、内容を見る。
『今日中に業務が片付けば明日には帰れるかもしれない』
今までの連休や長期休みでは、休みは一日か二日取れればいい方だったが、以前に約束したように、家にいる時間を増やそうとしてくれているようだった。
『了解。瑠璃には伝えておくし、帰宅時間さえ言ってくれれば食事も作っておくよ』
そう返信をすると、思いのほかすぐに返事が返ったきた。
『ありがとう。明日にまた連絡させてもらうよ』
上の立場とはいえ今までがブラックすぎた気もするが、自ら仕事を詰め込んだようだったため、本来は会社としてはあまり残業をして欲しくなかったらしい。
有能な部下と共に実績を残していたため、そこまで強くは言われていなかったが、これからは休みを増やすと会社側に伝えた時は喜ばれたようだった。いや、会社としてどうなのかとは思うが、実際に父さんは働きすぎだ。
「ははっ、父さんらしいな」
尊敬もするし、大切な唯一の父親だが、自分は自ら社畜にはなろうとは思わない。まぁ、それも理由があったためだから仕方ないかもしれないが。
昼食時になり、瑠璃にも父さんのことを伝えた。瑠璃は驚きはしつつも喜んでいた。
瑠璃にはお世話になりっぱなしなので、何かを頼まれたら全力で手助けするし、誕生日に何でも一つ言うことを聞くと約束したのだが今まで全く音沙汰がなかった。
「そういえば誕生日に決めた何でも言う事を聞く権利って使う予定はあるか?」
ふと気になったので直接聞いてみることにした。
「んー、それなんだけどさ。お兄ちゃんって私が頼んだら大抵何でもやってくれるし、受験も終わった最近は特に困ったこともないんだよね〜」
「そうか……まぁ、何も無いのが一番か」
「うん、そうだよ。平穏でいつも通りが一番だねっ」
そんな若者とは思えないようなことを言っているが、一応瑠璃は女子高生なんだがな。
「まぁ、何かあれば言ってくれ」
「うん、了解。ありがとねお兄ちゃん」
「おう」
その後の午後はいつも通り過ごす。
そして、課題の方は順調に進んでいるため終わりそうだし、明日に父さんが帰ってくるならば、またスケジュールを調節していかなければならないなと思いながら就寝した。
翌日の朝、普段通りに起きて、サイクルを繰り返すが、朝食を終えた後に父さんからの連絡が来ていた。
『夕方には帰れそうだ。それから昼食は外食にするよ』
『了解。夜は一緒だな?』
『あぁ、よろしく頼むよ』
瑠璃にも昼過ぎに帰ることを伝え、部屋で勉強に取り掛かる。
そして案の定課題が終わったので、彼女との勉強会が早めに終わるように、授業の復習をしておくことにした。勉強会が早くに終われば、その後はお菓子作りを指南することになっている。
学校があった時は弁当を作ってもらっていたが、贔屓目なしでも料理は上手いと思う。去年は料理だけは慣れないと言っていたが、半年間毎日作っていたのか、はたまた謙遜だったのか、とても上手くて驚いたほどだ。
明日が楽しみだと思いつつ復習を進め、昼時になったら瑠璃と昼食を食べる。
そして夕方になり、家のドアが開く音がした。
「ただいま」
「おかえり父さん」
「あぁ、ただいま、友也」
久しぶりに父さんの顔を見た気がする。まぁ、実際に会うのは久々だが。
父さんが部屋に荷物を置きに行く。夕食時間も近いので、今のうちに準備しておこうと、俺はキッチンへ向かう。
その後、料理をしながら父さんと積もった話をしていると、完成する頃には瑠璃も降りてきた。
「お父さんおかえりなさい!」
「あぁ、ただいま瑠璃、久しぶりだね」
「うんっ」
瑠璃と父さんが話している間に仕上げをしてしまい、机にお皿を並べていく。
「「「いただきます」」」
久しぶりの三人揃っての食卓だ。いつもよりも少し豪華なものになっている。
「そういえば明日だよね? お兄ちゃんが成実さんのとこ行くの」
「あぁ、そうだな。あっ、明日彼女の家で勉強会をしに行くんだ」
「そういう事か」
父さんには説明をしつつ瑠璃と会話を続ける。
「それで成実さんとさっき電話してたんだけど、向こうもお母さんが仕事から帰ったみたいなんだよね」
「そういえばたまに電話してるって言ってたな……え、マジで?」
「うん、マジで」
ということは明日は彼女の母親と会うのか、と思った。しかしそれよりも気になったことが一つ。どうしてこの時期に帰ってきたのだろうか……
「……」
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「あ、あぁ……そうだな。父さん、変なこと聞いていいか?」
「ん? よく分からないけど、なんでも聞いてくれていいよ」
「あぁ助かる。それで前に言ってた父さんの部下の苗字って、なんだ?」
前の春休みといい、今回のといい、父さんと成実の母親の休みがよく被っている。ありえないだろうとは思いつつも、何だか気になってしまった。
「神崎さんだが? ……あっ、シングルで娘さんがいると言っていたが……ま、まさか?」
「あぁ、そのまさかだ。ははっ、世間って狭いな」
まさかの父さんの部下の娘が自分の彼女とは誰が予想するだろうか。とはいえ、だからどうって訳では無いが。
「まぁ、わざわざ伝えることでもないな」
「うん。立場もあるし、変に伝えるよりは現状維持がいいと思うね」
「んー、でも、なんか凄いね。お兄ちゃんはいつから気付いてたの?」
「ん? いや、春休みの時にまさかな、って思った程度だよ」
「そっか。まぁ、私も下手に伝えないようにしとくね」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
予想外の事実はあったが、明日行くことには変わりない。気を取り直し、そのまま家族で団欒しながら食事を進めていった。
まぁ、すぐにバレそうですけどね。
というか課題課題って書いてて自分にダメージが…夏期課題辛い。それに何より友也たちは成績いいのに自分は最近弛んでる……勉強なぁ……
おっと、失礼しました。
それでは今回もありがとうございました。




