51.家と彼女の想い
日曜日、つまり彼女である成実が家に来る日になった。
目立った汚れもなかったが、土曜のうちに家の中を大掃除し、万全な状態で当日を迎えられた。とはいえ家に彼女が来るのなんて初めてなので、昨日から緊張しっぱなしだ。
昨晩もいつものように電話をし、そこで『気にしなくていよ』とは言われているが、気になってしまう。
ちなみに、少しでも長くいたいが、朝からというのは申し訳なく思ったため、お弁当のお返しにお昼をうちでご馳走するというかことになった。
昼食は俺が作るのだが、よく考えたら彼女に食事を振る舞うのも初めてだよな……
「はぁ……凄い緊張する」
「あはは、お兄ちゃんガッチガチだね〜」
「仕方ないだろ。色々と初めての経験なんだしさ」
「そうだね。私もできることあれば手伝うから遠慮なく言ってね」
「おう、助かる」
昼の十一時に駅に迎えに行き、家へ案内し、その後昼食を振る舞う予定なので、朝のうちに下ごしらえなどできることはしておく。それから昼過ぎにおやつとしてお菓子も出すため、その準備も並行してやっている。
今日のメニューだが、ほうれん草のキッシュ、コーンポタージュ、野菜サラダだ。それからお菓子の方はクッキー、プチマンゴーマフィンの予定だ。お菓子の方は余れば、後日に瑠璃と食べればいいので、材料丁度で作れるだけ作っておくつもりだ。
というか瑠璃相手ならばメニューが朝昼で近いものだったり、手を抜いてもある程度は許せたし文句も言われなかったが、彼女への初の手料理だ。いつも以上に気を張って作っていく。
「あ、お兄ちゃん、もう少しで時間だね」
「本当だな。ありがとな、瑠璃」
「どういたしまして〜」
しばらく集中して作っていたら、いつの間にか時間が迫っていた。後は焼くだけというところまではできたので、冷蔵庫に入れ、家を出る準備をする。
「それじゃ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃいっ」
瑠璃に一言告げてから家を出た俺は、気付けば早足に駅へと向かっていた。自分で思っていた以上に今日が楽しみだったようだ。
今日は早く来すぎないように伝えてあったため十五分前に着いた俺は少し待つことにした。
しばらくして電車が到着したというアナウンスが聞こえ、改札口を見やると、何度も見たことがある顔がこちらへ向かってきていた。
「こんにちは、友也くん」
「あぁ、こんにちは、成実」
「今日はお願い聞いてくれてありがとね?」
「いや、こちらこそだ。それじゃ、行くか」
「うん!」
そのまま彼女を連れて家へと向かおうとも思ったが、前のデートで最後に立場が逆転してしまったことを思い出し、気を奮い立たせて彼女の手を握った。
「っ!」
「嫌だったか?」
「う、ううん。嫌じゃない……」
緊張しているのは見せないようにし、彼女を家までエスコートする。
家へと向かう途中で彼女にお昼ご飯は何かな、と聞かれたため、メニューを答えた。
「キッシュ……凄いね。それにお菓子も作ってくれてるんだ」
「結構簡単だぞ。それに結構楽しいし、お菓子作りも何度も作れば慣れてくるよ」
「慣れは大切だよね……」
妙に実感がこもっている言葉を口にしていたが、本格的な自炊を始めたのは去年からだったことを思い出し、きっと最初は失敗もしたのだろうなと思った。
「良かったら今度何か一緒に作らないか?」
「あっ、それいい! 約束だよ!」
「おう」
彼女と一緒に料理をするのは楽しいのだろうな、などと考えているうちに、気付けば家の近くへと来ていた。
「そろそろ着くな」
「あっ、もう? 友也くんのお昼楽しみだな〜」
「あ、あぁ。まぁ、そこまで期待せずに待っててくれ」
「ふふっ、そうするね?」
反応的に本当にしてくれるかは分からないが、直前になって先ほどにも増して緊張して、自信も削れてきた。
「ただいま」
「お、お邪魔します」
「あっ、お兄ちゃん、成実さん! いらっしゃい」
「瑠璃ちゃん! こんにちは」
「成実さん、こんにちは!」
以前の買い物の後から打ち解けていたようで、親しい人と会ったかのように振る舞う二人。二人が仲良くなれているようで、兄として彼氏として、一安心する。
「それじゃ、俺は料理の仕上げしてくるよ」
「うん! あ、お兄ちゃん、私の部屋で成実さんと待ってていいかな?」
「ん? もう少し時間もかかるし、成実がいいなら俺は構わないが……」
「私はどこでも大丈夫だよ。瑠璃ちゃんと二人でお話でもして待ってるね」
「おう、また後でな」
「うんっ」
理由は分からないが、瑠璃が部屋で話したいと言うなら止める理由はない。そのまま二人と別れ、俺はキッチンで料理の仕上げをしていた。
もう少しでできるところまで来たので、二人に声をかけるために二階の瑠璃の部屋へと向かう。すると扉が少しだけ開いていたようで、話し声が聞こえてきた。
「お兄ちゃんのことどれくらい好き?」
「えっ!」
「あっ、言いたくなかったら言わなくていいからね」
タイミングが悪かったようだ。しかし一階へ戻ろうとも思ったが、足音で気付かれたら盗み聞きをしていたようで申し訳ないので、やはり話が終わるのを待つことにする……はい、ごめんなさい。正直に言うと凄く気になります。
そんなことを心の中で呟いている間にも彼女たちの話は続いていく。
「ちなみに私はお兄ちゃんの妹じゃなかったら理想の相手だったかもしれないかなぁ」
「えっ!? それは、その……わ、私も、友也くんが理想の相手だし、誰にもこの気持ちは負けるつもりはないよ!」
――っ!
俺は思わず息を呑む。そんな嬉しいことを思ってくれていたことを嬉しく思い、気付けば鼓動が早くなっていた。
「ふふっ、そっかー。やっぱり成実さんしかいないなぁ」
「えっ?」
「聞いてると思うんだけど、うちもお母さんが亡くなってて、その時にお兄ちゃんの結婚相手は瑠璃がちゃんと見定めてね、なんて言われてるんだよね」
「け、結婚……!?」
「成実さんが嫌じゃなければだけど、これからもお兄ちゃんのことよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる瑠璃。瑠璃も瑠璃で俺の事を気にかけてくれていたようで、嬉しいような申し訳ないような気持ちになる。
「は、はい! 愛想を尽かされない限りはずっと、友也くんと一緒にいるよっ」
「うん……ありがとね、お義姉ちゃん!」
「っ! うん!」
俺自身も彼女のことを離さないように改めて心に誓う。そして今の状況は気付かれると不味いため、音を立てないように忍び足で階段を降りようとするが、運悪く床が軋む音がしてしまった。
「えっ?」
「あっ……」




