46.妹との登校
始業式の翌日、今日から瑠璃も登校するようになる。瑠璃も成実や白雪とは別ベクトルで美少女だから、最近はほとんど見かけないとはいえ、変なのに絡まれないように気をつけないとな。
そんなことを考えながら学校の支度を済ませ、朝食を食べるために一階へと降りる。
「あっ、お兄ちゃんおはよ〜」
「おう、おはよう。今日から学校だな」
「そうだね。クラスに馴染めるか心配だけど、どうせなら楽しい高校生活にしたいなぁ」
「何かあれば相談くらいは乗るから頼ってくれな?」
「うん、お兄ちゃんありがとっ」
うちの学校はこの辺りだと進学校と呼ばれている学校なため、瑠璃の中学での同級生はほとんど来ていないのだとか。
進学校とは言っても少し電車を乗り継げば難関校もあるため、難関校を目指す生徒の滑り止めとしてもよく受験されるらしい。
そういえば、成実は成績もいいのにどうしてこの学校にしたのだろうか。俺と晃は近いからって理由だけだし、同じく優秀な白雪は家から近いのと晃と俺がいるからって理由だった。
今度聞いてみるか、と心の中で呟き朝食を食べ進める。
洗い物を終え、荷物を部屋から取ってきて玄関へと向かうと、瑠璃が待っていた。
「お兄ちゃん、せっかくだし一緒に行かない?」
「ん? あぁ、いいぞ。行こうか」
「うん!」
小学校、中学校の頃もこうして一緒に通ってたことを思い出し、懐かしさが込み上げてくる。
「なんか久しぶりだな」
「そうだね〜」
二人で会話をしながら、のんびりと学校へと足を進める。
「あっ」
「ん? どうしたの?」
「あぁ、いや、なんでもないよ」
学校が近くなり、他の生徒も見え始めたところで成実を発見した。
「わぁ、あの人綺麗だね〜」
「そうだな……」
在学生はもちろん、新入生も他よりも一際目立つ成実の美貌に目を奪われていた。
「あれ、よく見ればあの人って……」
瑠璃も同じ中学だったため、彼女のことを一度は見たことがあるし、彼女は一度見れば忘れないくらいには綺麗だ。瑠璃には成実の名前は伝えてないから気付かないはずだ。
そう考えていると、瑠璃がじっと俺の事を見ていた。
「どうした?」
「んー、いやぁ、まさかお兄ちゃんがね〜」
「どういうことだ?」
「お兄ちゃんがあの神崎さんと……」
「!? ちょ、ちょっとストップ! なんで気づいたのかはこの際いいが、誰にも言うなよ」
通学路で言われてしまったら、嫌でも広まってしまうだろう。しかし、どうして気付いたのだろうか。
「お兄ちゃんの見る目が好きな人を見る目だったしね。まぁ、黙っとくのは了解だよ」
「やっぱり瑠璃も晃たちも気付きすぎだと思うんだがなぁ……」
そんなことをボヤきながら足を進めていると、いつの間にか学校へと着いていた。
「それじゃ、またな」
「うん、またねお兄ちゃん」
そうして瑠璃と別れる。瑠璃と歩いている時もそうだが、今も視線を感じる。兄の贔屓目を除いても、瑠璃は可愛いし注目を集めてしまう。それが俺なんかといると不思議に思われるだろう。
だが直接は声をかけられないので気にせず教室へと足を運ぶ。
「おはよう晃」
「おう、おはよう友也! そういえばもう話題になってたぞ」
「ん? 何がだ?」
「新入生の美少女と一緒にいた男は誰だ、ってね」
「あー、なるほどな……」
分かってはいたが、しかし情報が早すぎるだろ。そう思いながら授業の準備を進めていく。
その日は何事もなく……いや、昼休みにRICEで成実から連絡があったな。
『一緒に登校していたのは誰ですか?』
普段はもっと砕けた口調なのだが、今日は違った。隣の席から、怒りと言うよりも悲しみに近い雰囲気が漂ってきた気がしたので、すぐに返信をした。
『妹の瑠璃だよ。久しぶりに一緒に登校したんだが、配慮が足りてなかった。すまん』
『あっ、妹さん? 良かったぁ……。あ、一緒に登校するのは全然大丈夫だよ?』
隣からの雰囲気が柔らかくなり、俺もホッと一息つく。
『そうか? まぁ、嫌なら嫌と言ってくれ。というか家が近ければ一緒に登下校できたんだがな』
『それは仕方ないよ。気にしない気にしない』
昼休みにそんなやり取りをし、その後は何事もなく授業を終えた。
「そうだ、来週に美術館行くからな〜。一年では博物館だったし、どんな感じかは覚えてるだろ」
終礼の時に担任がそんなことを言ってきた。一年の時はクジで班決めをし、運良く晃と一緒になれたが、今年はどうなるだろうか。
そう思っていると担任が話を続けた。
「班決めはクジで四人一組にするが、学級委員長の二人は固定だからな〜」
そういえばそうだった。思いもよらないことだったが、俺は心の中でガッツポーズをする。
「まぁ、明日の朝にでも決まった班とパンフレットは渡すから待っとけな。それじゃ、挨拶よろしく」
終礼の締めの挨拶が終わり、生徒がそれぞれ帰っていく。
「良かったな、友也」
「あぁ、そうだな。運が良かった」
前の席の晃とそんなことを話しながら帰りの支度を進める。担任が話をしている時に、横の成実も喜んでいる雰囲気が出ていたと思う。
学校行事が楽しみだと思うのはいつぶりだろう、とそんなことを考えながら俺は家へと帰って行った。




