45.委員決めと説明
成実が教室へとやってきた。少しずつ登校していたクラスメイトの視線がそちらへと向く。
「おはよう、一ノ瀬くん。それから和泉くん、白雪さんもおはようございます」
彼女は学校での、敬語で常に笑顔を絶やさない優等生の振る舞いで俺たちに挨拶をしてくる。
クラス内での席順は新年度なので名前で決まっているが、今年は早い名前が少なかったため、運良く成実と隣の席になれた。ちなみに晃は俺の前の席で、白雪は成実の右隣の席だ。
本来ならとても喜ばしいことだが、今はタイミングが悪い。
白雪が成実に直接質問する可能性があり、挨拶を返した後に白雪の方へと顔を向けると何かを察したような顔をしていた。
「おはようございます、神崎さん」
「おはようございます、神崎さん。今年はよろしくお願いしますね?」
何か意味ありげな表情で成実へと挨拶を返す白雪。そういえば彼女も晃のように察しが良いのだった。晃と俺への対応の差で何か気づいたのだろう。
「白雪、後で説明するから今は何も聞くな」
「うん、了解したよ。詳しく教えてね?」
「あぁ……」
何を言われるのか想像できないため、少々恐怖を感じる。彼女なら言いふらす心配はないが、何だか笑顔に圧を感じる。
その後は担任が入ってきて、始業式のために講堂へと移動するように言われた。ちなみに担任は去年のうちの担任がそのまま繰り上がった形だ。
校長の長い話が終わり、クラスに戻る。そして、そこで今年のクラスの委員を決めることになった。
「それじゃ、何かやりたい委員があれば立候補してくれ〜。あ、言い忘れてたが各委員で男女一人ずつな〜」
担任のやる気のなさそうな声で何人かが挙手をし、委員が決まっていく。
「ん? 白雪は体育委員か」
「えぇ、やってみたいと思っていたので」
「そうか。ほぅ、男子の方は和泉か〜」
白雪や成実が男子生徒の中で人気なのは教師も知っているため、誰がペアになるのか気になっていたようだ。
晃の方が先に体育委員に立候補して決定していたが、白雪が決定したことで、一部の男子がぐぬぬと声を上げ、悔しそうにしていた。
「んー、あとは学級委員長だけか」
他はすんなりと決まったが、学級委員だけは男女共に誰も立候補していなかった。
女子は成実に譲っている雰囲気がある。男子は面倒臭い仕事はしたくないが成実と一緒ならやりたいと思い、様子を見ている状態だ。
ふと横を見ると彼女と目が合う。何か目で合図している様子だが、なんだろうか。
そんなことを考えていると、先日の通話を思い出す。
『んー、でもさ! 同じクラスになって委員とかも一緒なら、ずっと一緒にいられるよね!』
『あっ、そうか。委員だからと誤魔化せるしな』
『それじゃ、もし良かったら一緒にやらない?』
『おう! もちろんいいぞ』
どの委員にするかは決めていなかったが、余りは1つしかない。しかし彼女が先に立候補すると男子も間違いなく大勢来るだろう。そのため俺が先に立候補をした。
「他がいなければ立候補します」
「おー、一ノ瀬か。成績も男子ではトップだし、決定でいいか」
そんな担任の緩い決定の後、すぐに彼女が挙手をした。
「私も立候補します」
「お、今年も神崎か。よろしく頼むぞ」
俺との対応の差……去年の実績もあるし当たり前か。まぁ、一応決定してよかった。案の定だが、後ろからの嫉妬や圧が凄い。まぁ、気にしたら負けだと判断し、気にしないようにする。
「よろしくね、友也くんっ」
こっそりと隣から小さな声でそう微笑みかけられ、ドキッとするが、周りにバレないように俺も小声で返す。
「あぁ、よろしく頼むな、成実」
そうして無事に委員決めも終わり、下校となった。
「それじゃ、詳しく聞かせてもらおうかな?」
完全に忘れていた。成実との関係を白雪に説明することを……
白雪の家は学校から近く、晃と俺の家だと俺の家寄りなため、久々に一緒に下校していると先程のことを質問された。
「いや……そうだな。成実とは春休み前から付き合ってるんだ」
「へぇ、やっぱりそうだったんだね」
「や、やっぱりって……晃もだが、白雪も本当に察しが良いというか、人の心が分かりすぎるというか……」
「ははは、そんなんじゃないのだけどね。うちは大きい家で色んな人が来てたからね。嫌でも人の心を読んで暮らさないと大変だったんだよね」
「そうだったな」
彼女も彼女で、家で色々と過去にあったり大変な思いをしていたのだ。自分を取り繕うようになってからはマシになったと言っていたが、俺や晃の前では自然体でリラックスしていて欲しいと思う。
「それにしても友也に彼女かぁ、他人とあんなに関わらなかった友也がね〜」
「な、なんだよ。悪いか?」
「いや、成長したんだねって思っただけだよ」
抗議の視線を送るが、ひらりと躱される。
「あっ、もう私の家だね。今日はありがとう。久々に話せて楽しかったよ」
「あぁ、こちらこそだ。まぁ、これからよろしくな」
「うん、よろしく頼むよ。それじゃ、またね」
「またな」
そう言って彼女と別れる。成実には下校前に白雪に教えること、一緒に帰ることをRICEで伝えていたが、彼女がいるのに他の女子と帰るのも不誠実だと思う。
もう白雪にも伝えたし、これからはこういうことがないように気をつけようと思いながら、俺は家へと足を進めた。




