30.冬期課題と冬休み明け
その日も朝にランニングをし、昼になった頃に連絡を入れてから家を出る。
晃の家はうちから徒歩十五分ほどの所にある一軒家だ。どれくらい終わっていないのか、少し怖くなりつつ足を進める。
晃の家に到着し、インターホンを押す。
『はい。友也くんね? 来てくれてありがとう』
「いえいえ、彼には普段からお世話になってますから」
『ありがとね。一応ちゃんとやるようには言ってたのだけど……。あ、外は寒いわよね。すぐに出るわ』
そう言って晃の母親が出迎えてくれる。晃に勉強を教えに来るのは今までにもあったため、慣れたものだ。最初の方は母親がいることへの羨望や嫉妬がなかった訳では無い。しかし、晃も晃の母親も優しく接してくれ、俺も少しずつ気が許せるようになっていった。
そんなことを思い出しつつ、晃の部屋に案内され、部屋に入ると彼は珍しく真面目に課題に取り組んでいた。
「おぉ、友也! 待ってたよ!」
「はぁ……今回はどれくらいあるんだ? 今、真面目にやってるのを見るに、かなりヤバいんだろうけど」
「さすが友也だな……数学自体今日始めたぞ」
その言葉を聞き、一瞬だが本気で目眩がした。
「まじかよ……。まぁ、仕方がないか。手抜きは許さん。やるぞ」
「おう! 友也が居れば百人力だな!」
「よし、そんな軽口を叩けるんなら夕食時まで続けてやろうか?」
ふざける余裕があるようなので、そのまましっかりと見張りながら、時々教えつつ課題を進める。
そして五時間後。
「ようやく半分かぁ〜」
「全然わかってない状態でこれだけのスピードなら早い方だろ」
「そうかもしれないけどなぁ。あ、夕食はこっちで食ってくか?なんなら泊まりでもいいぞ?できれば今日中に終わらせたいし……」
「んー、瑠璃のこともあるしな。まぁ、一応聞いてみて、良かったらこっちに泊まらせてもらうぞ」
「了解! 母さんに伝えてくるわ」
そう言って部屋を出た晃を横目で見ながら、俺は瑠璃へ連絡をする。
『いきなりで申し訳ないが、今日こっちに泊まってもいいか?』
『晃さん達がいいなら私は大丈夫だよ。それにこの時期は毎年そうだったしね!』
『そうか。ありがとう』
『うん!』
毎年恒例だったため、瑠璃からの許可を貰えたので俺は部屋で晃を待っていると彼も許可を貰えたそうだ。
夕食になり晃の母親の料理をいただく。毎年夏と冬にいただくことが多いが、なんだかほっとする味だ。これが母親の味というものなのだろう。
「美味しいです。ありがとうございます」
「ふふっ、喜んでもらえた良かったわ」
そんなことを話しながら夕食を食べ終え、入浴を済ませる。ちなみに着替えは晃の物を借りている。そして夜になり、再び課題を再開しようとすると晃から質問をされた。
「そういえば冬休み、どうしてた?」
「どうしてた、か……」
「その様子だとまた色々あったんだな」
「まぁ、そうだな」
勉強をする前に晃の疑問を解消しておこうと思い、質問に一つ一つ答えていく。その過程で成実とクリスマスに出かけたことや、父さんと和解したことも伝えると、晃はしみじみとした様子で答える。
「そうか……本当に色々あったんだな」
「そうだな」
「今まで友也は苦労し過ぎだと思ってたが、ついに色々と報われ始めて、さらには春もやってきたかぁ〜」
「春云々は置いとくとして、確かに今は幸せだな」
「ははっ、そりゃ良い事だ。手離すなよ?」
「当たり前だ」
そうして二人で笑いあった後、俺はさらに笑みを浮かべて晃に話しかける。
「それじゃ、楽しい課題の時間を再開するか」
「と、友也、笑顔が怖いぞ……」
課題が終わったのは夜の1時を過ぎた頃だった。布団を敷き、晃はベッドで、俺は布団で寝る。
そして何事もなく翌朝になり、俺は晃の母親に感謝を伝え、晃の家を出る。
友人宅もいいが、やはり自分の家が一番落ち着く。そんなことを考えながら歩いていく。
その後の休みは今後の予習をして過ごした。そして冬休みが明ける。
「おはよう晃」
「おう、おはよう友也」
今までのように晃と挨拶をし、席に着くと後ろから声がかかる。
「一ノ瀬くんおはよう。それから和泉くんもおはようございます」
「神崎さん、おはよう」
「おはようございます、神崎さん」
俺にだけ簡単な挨拶だったのはわざとだろうか。そんなことを考えているうちに彼女は席に着く。そしてしばらくしてから担任も教室に入ってきた。
「休み明けだな。全員無事で何よりだ! まさか課題が終わってないなんてないよな? 回収をするぞ!」
そう言って担任は課題の回収を始めた。何人か目を逸らしたり死んだ魚のような目をしていたが見なかったことにしよう。俺も晃も、それから成実も無事に課題の提出をしたようで、始業日を終えた。
そして、その後の一ヶ月ほどは特に何事もなく経過していった。まぁ、成実とたまにゲームをしたり、通話もしたりしていたが。
そうして迎えたうちの学校の受験日、つまり瑠璃の受験日だ。この日の学校は休みとなっていたが、成実はテストの試験官補佐として登校しているらしい。
瑠璃の受験時間が終わる頃に俺は家を出て、学校の校門で瑠璃のことを待つ。
しばらくして瑠璃の姿が見えたため、声をかける。
「お疲れ様」
「あっ、お兄ちゃん! わざわざ良かったのに」
「気にするな。とりあえずどこかに昼食でも食べに行こうか」
「うん!」
そうして俺と瑠璃は二人で並んで歩き、近くにある瑠璃のお気に入りのレストランに入った。
「改めてお疲れ様。一応今日の結果次第で明日からの滑り止めも受けるか決まるが、目標はうちだったしな」
「ありがと! そうだね、多分合格してると思うよ?」
「そうか。流石瑠璃だな」
「えへへ、そうでしょう! もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
受験が終わり、いつも以上に上機嫌な瑠璃と話をしながら、食事を進める。
「受かったら来年からは後輩になるのか」
「お兄ちゃんの後輩かぁ。来年からよろしくお願いしますね、先輩!」
「あぁ、よろしく頼むよ。まぁ、せいぜいこき使わせてもらおうかな」
ふざけてそんなことを言うと瑠璃が拗ねてしまった。
「ぶー、先輩だからってそういうことするのは良くないと思いますー。私こそ先輩に沢山迷惑かけてやるんだから!」
「ははっ、お手柔らかに頼むよ。あ、そういえば今日受かってれば明日から暇だよな?」
「そうだね。どうかした?」
「いや誕生日も近いし、休みのうちになにかお祝いとかプレゼントでも渡そうかと思って」
「そっか……」
するとなにやら瑠璃が考え込んでしまった。
「そうだ! お兄ちゃん、受験は続くから明後日まで確か暇だったよね?」
「ん? そうだな」
「受かってたら明日はゆっくり休んで、明後日一緒に出かけない?」
「まぁ、構わないぞ」
「やった! 約束したからね。絶対だよ?」
恐らく合格してるだろうし、俺も来月の頭には学年末考査があるが、今は暇なので構わないと伝えると瑠璃は嬉しそうな笑顔になった。それから当日はどこで何しようかな、なんて呟きながら考えていた。
しばらくして俺たちは店を出た。その後は家でゆっくりと過し、夜になり、ネットでの合格発表では無事合格していることを確認できた。