29.初詣
初詣へと出かけた俺と瑠璃。まだ朝ということもあり、厚着をしても少し寒く感じる。
「うぅ、寒いね〜」
「そうだな。確かに最近で一番寒い気がするな」
毎朝ランニングを続けているので朝の気温は毎日肌で感じているが、今日はその中でも一番冷え込んでいる。
「お兄ちゃん、あの人のために変わろうって頑張ってるからね〜。青春ですなぁ」
「何年寄り臭いこと言ってるんだよ」
「失敬な、私はまだ中学生だよ!」
そんなことを話して軽口を叩きあっているうちに神社へとたどり着く。
「やっぱり混んでるね〜」
「だな。はぐれないように気をつけろよ」
「次は子供扱いする〜。酷いお兄ちゃんだな〜」
「何言ってんだか。ほら行くぞ」
そう言って呆れながら瑠璃の手を取り、参拝の列へと並ぶ。
そのまま参拝をした後、絵馬も書こうと思い、二つ購入した。
「瑠璃が受験で合格するように、っと」
「お兄ちゃんが報われますように。よし、書けたよ!」
「瑠璃……ありがたいが、そこは自分のことを書けよ」
「いやいや、お兄ちゃんこそだよ! というか私の場合は願掛けに頼らず自分の力で合格したいしね!」
「そうか……。ありがとな」
こういうところは瑠璃の美点だと思う。自分のことは常に努力し、普段は他人のことを思いやっている。瑠璃が妹で良かった、なんて改めて思う。
「甘酒でも買ってくるか。おしるこもあったと思うがどっちがいい?」
「今年は甘酒にしようかな!」
「そうか……酔うなよ?」
「もう大丈夫だよ! もぉ、私だって成長してるんだから」
ポコポコ叩いてくる瑠璃から逃げるように甘酒を配っているところに行くと、その列に思いがけない人物と出会った。
「成実……?」
「えっ、友也くん!?」
「お待たせしましたー」
「あっ、ありがとうございますっ」
驚きつつも俺も列に並んで甘酒を2つ受け取って、先に受け取っていた彼女の元へ向かう。
「まさか正月そうそう出会うとは思わなかったな」
「そうだね。私もすっごく驚いたよ」
「まぁ近くの神社と言えばここくらいか。最近は学生が初詣に来るのは少ないらしいがな」
「そうみたいだね」
幸い、他には学校の生徒を見かけなかったので、こうして彼女と会って話していても大丈夫だろう。
「そういえば私は休みが取れたお母さんと来たんだけど友也くんは?」
「俺は妹と受験の合格を願いにな。まぁ本人は願掛けは別のことにして、受験は実力で合格するなんて言ってたが」
「強い妹さんだね」
「あぁ、凄いやつだよ……。あ、お互い人を待たせてると思うし、このままだと甘酒も冷めるな」
「そうだね。それじゃ、正月そうそう会えて嬉しかったよ!またねっ」
「こちらこそ。またな!」
そうして成実と別れ、瑠璃の元へと戻った。
「お兄ちゃん遅いよ〜」
「悪いな。たまたま知り合いと会ってな」
「あっ、あの人? 新年早々幸運だね〜。私の願いが届いたのかな」
「そうだな……って誰とは言ってないだろ」
「いやいや、お兄ちゃんわかりやすいですから。あっ、甘酒ちょうだい?」
「あぁ、どうぞ」
若干不満を感じつつ、俺たちは二人で甘酒を飲んで暖まる。その後瑠璃が少し酔ってしまったため、家に戻った。何かやり忘れていることがある気がしたが瑠璃を部屋に戻し、俺も正月をのんびりと過ごした。
しかし夜になって晃から何度も電話がかかってくる。なんで出ないのかと言うと、長期休みの最後の方はいつもこうだからだ。少しして俺の方が折れ、電話に出る。
『なんで一度で出ないんだよぉ!』
「なんの用かは分かってたからな。だから早めに初めておけと……」
『毎日コツコツやってはいたが、数学が分からなくて嫌になってな……。すまん! 今回だけは助けてくれ!』
「お前……そう言ったのこれで何回目だよ……」
呆れつつも、晃には日頃から感謝をしているため手伝うことに決め、伝えようとしたタイミングで彼から先に対価を言われた。
『神崎さんのことで何かあれば協力するし、女子へのプレゼントとかも相談に乗る。それに告白するってんならおすすめの場所やルートも教える! 助けてくれ、お前だけが頼りなんだよ……』
別に貰うつもりなんてなかったが、せっかくなので受け取らせてもらう。ちなみに、晃の幼馴染も同じ学校の別のクラスにいるが、勉強に関してはスパルタの権化のようなものなのでいつも俺に頼りに来る。
「分かったよ。分かったから落ち着け。それで明日にでもそっち行こうか?」
『あぁ、助かる! 時間はいつでも大丈夫だからな!』
「了解。昼過ぎくらいに向かうからそれまで自分でも進めておいてくれ」
『あぁ! それじゃ、明日はよろしくな!』
そう言って通話を切った晃にため息をつく。約束は約束なので明日しっかりと教えられるように、少し復習をしてから俺は眠りについた。