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28.年明けと寝顔

 電話越しで二人で眠っていると、瑠璃が勉強を一段落し、一階へと降りてきた。


「あれ、お兄ちゃん眠っちゃってる?」


 瑠璃はそんなことを言いながら友也へ近づく。


「通話繋がったままじゃん……。だらしないなぁ、もう」


『ん……。あ、あれ? 私眠っちゃってた?』


 すると、そんな声が友也のスマホから聞こえてくることに気付いた。


「え、どうしよう……」

『女の子の声……?』

「あっ、えっと、私はお兄ちゃんの妹ですっ」


 少し不安そうにそんなことを電話の相手が呟いたことに、驚きつつも友也の言っていた人だと思い至ったため、そんな言葉を返す。


『友也くんの妹さん?』

「はい、瑠璃って言います」

『そっか、妹さんかぁ……』


 ほっとしたような声を聞き、瑠璃もほっとため息をつく。


 自分のせいで友也が要らぬ疑いをかけられるのはとても申し訳ないし、初めて大切な人を見つけたのに、知らないうちにそれが崩れていたら友也は深く心に傷を負うだろう。


『えっと、もしかして友也くんも寝ちゃってるのかな?』

「そうですね。幸せそうに眠ってます」

『幸せそうに……そっか、って私が先に寝ちゃったんだよなぁ。謝らなきゃ!』


 そんなことを言っている成実に、瑠璃はつい微笑みがこぼれる。この人ならお兄ちゃんを大切にしてくれる気がする、そんなことを考えながら。


「よかったらお兄ちゃんの寝顔写真撮りますよ?」


 気付いたらそんなことを口にしていた。話していて楽しく、それでいて落ち着く相手だったため、つい口が軽くなっていた。


『えっ! いや、でも、申し訳ないし大丈夫だよ?』

「いえいえ! 私がただしたいだけですし! 嫌なら別にいいんですけどね?」

『そ、そう? それなら……』


 と成実が言いかけたところで、タイミング悪く友也が目を覚ましてしまう。


「ん? ……瑠璃? 何してんだ?」

「あっ、お、お兄ちゃん! おはよう!」

「え? 俺、寝てたのか?」

「そうだよ、幸せそうにぐっすりとね。ね、彼女さん!」

『えぇ!? 私のこと!?』

「なっ、お、お前何言ってんだよ!」


 寝起きの友也をからかうように瑠璃が話かける。その過程で成実にも被弾したが、この時の瑠璃は気付いていないし、既に付き合っていると思っていた。


「あれ? もしかして違った?」

「当たり前だ! 変なこと言ってるくらいだったら勉強してろよ。全く……」

『当たり前、なんだ……』


 通話先の成実が何か言っていた気がしたが、気にせず瑠璃に部屋に戻るように言っていると瑠璃は素直に戻ろうとしたが、最後にさらに爆弾発言をしてきた。


「あっ、お兄ちゃんの寝顔はごめんね。また今度機会があれば送るから!」

「は? お前……明日、初詣から帰ってきたら覚えとけよ?」

「お、お兄ちゃん顔怖いよ? せっかくの年末なんだからもっと笑顔でいなきゃ!」

「はぁ……誰のせいだと思ってるんだよ」


 俺が呆れていると瑠璃はそのまま踵を返して部屋に戻る。


「妹が本当に申し訳ない」

『いや、大丈夫だよ! こちらこそ、友也くんをほったらかしにして話しちゃってたし』

「すまん、そう言ってくれると助かる」


 そのまま二人の間に沈黙が訪れる。瑠璃が何をどこまで話したのか気になるが、それと同時に先程言っていた寝顔というのも話を聞きたいと思う。そう考えていると彼女の方から声をかけられた。


『二人とも寝ちゃってたから、もう少しで年明けだね……』

「そうだな。今年も一年すごく楽しかったぞ。ありがとう」

『お礼ならこちらこそ言わなきゃだよ。でもまさか一緒にゲームをしてた相手が同じクラスだったとはね〜』

「ははっ、そうだな。俺も滅茶苦茶驚いたぞ」



 そのまま二人で会ってからのことや、それ以前のゲーム内でのことを話していると年明け目前となっていた。


「そろそろか。改めて今年はありがとう」

『こちらこそありがとう!』



 少しして、年が明ける。気付かないうちにどこかの神社から鐘の音が聞こえてきていた。


「あけましておめでとう」

『うん、おめでとう! それから今年もよろしくね!』

「あぁ、よろしく頼む!」



 そうして二人で年を明かした。年の初めに好きな人の声が聞けたことに喜びを感じながら、もう遅い時間ということで電話を終了することになった。



「それじゃ、今日はありがとな」

『こちらこそ。私のお願い聞いてもらえて嬉しかったよ! またね!』

「またな。次こそ休み明けに、だな」

『ふふっ、そうだね。おやすみなさい』

「おやすみなさい」



 俺は電話を切り、自分の部屋へ向かう。


「楽しかったな……。それに寝息も可愛らしかった気がする……」


 そんなことを考えていると、一つ忘れていたことを思い出す。


「瑠璃には明日、じっくりと話を聞かないとな」


 寝顔がどうとか言っていたし、そもそも寝ていることに気付いたなら起こしてもらいたいものだ。過ぎてしまったことは仕方が無いので、今後はそんなことがないようにしっかりと言い聞かせなければ、と決意しつつ布団へ入る。



 そして朝になり、俺は目を覚ます。未だに眠く、開きが悪い目を擦りながら、初詣に行くために暖かい服を準備してから朝食を作りに一階へと降りる。


「あっ、お兄ちゃんおはよ〜。気分転換に朝ごはん作っちゃったよ」

「そうか。悪いな」

「全然大丈夫だよっ。……それに少しでも良いことをしてないとお兄ちゃんに昨日のこと怒られちゃうし」

「何か言ったか?あ、そういえば帰ってきたら昨日言ってた寝顔が、とか言ってたことは聞かせてもらうからな」

「は、はい!」


 何か瑠璃が言っていたような気がしたが、大切なことなら伝えてくれるだろう。それから昨日の件を忘れる前に伝えておくことにした。瑠璃は驚いたような恐れるような顔をしたが、自業自得だと思う。



 そうして二人で朝食を食べ終え、近所の神社に初詣へと家を出た。そこで予想もしなかった出会いをするとも知らずに。



 今回も読んでいただきありがとうございますっ

本日はもう1話の更新と、短編を2時間後に上げたいと思います。お時間があれば目を通していただけると幸いです。

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