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27.大晦日の約束


 翌日の朝、父さんはいつものように仕事に戻るために家を出た。


 しかし、これまでと決定的に違うことがあった。今までは気付いたら出ていたことが多かったが、今日は瑠璃と二人で見送った。父さんは心做しか喜んでいたように見えた。


 そして変わったのは家族の関係だけでは無い。俺は少しでも成実に見合う人間になろうと思い、まずは早朝にランニングをすることにした。最初は若干面倒に思っていたが、続けるうちにだんだんと慣れてきた。




 そうして父さんが仕事が忙しい日々へと戻り数日が経過し、大晦日の前日となる。ちなみに、どうして年末も忙しいのか聞いてみたら、仕事に打ち込みすぎたせいでかなり偉い立場になってしまったと言う。



「父さんらしいっちゃ、父さんらしいな」

「お兄ちゃんとそっくりだよね〜。悩んだりしてると何かに没頭しちゃうところ」


 遅めの朝食を食べていると瑠璃も起きてきた。


「俺は父さんほどじゃないよ」

「えぇ? そうかな、どっちもどっちだと思うよ?」

「そうか?」

「うん。そうだね」


 そんな中身のないやり取りをしていると成実から連絡が届く。いきなりのことに驚きつつ内容を読む。



『友也くんは年末やお正月ってどう過ごしてるのかな?』


 何かのお誘いかと一瞬期待してしまった自分がいるが、友達なら何気ないメッセージも普通にするだろうと頭を振り、そんな考えを頭の中から忘れようとしながら返事を返す。


『年末は毎年恒例の音楽番組を見てだらだらと過ごしてることがほとんどだな。正月の方は、年明けの朝に近くの神社に妹と行ったりするな』


 そんな返事を返していると瑠璃から声をかけられる。


「またあの人かな? お兄ちゃんすごく嬉しそうだね」

「な、なんで分かるんだよ。まぁ、嬉しい気持ちはあるが、そんな表情に出てるか?」

「うーん、普段見てる人なら分かる、ってくらいかな」

「そうか」


 確かに彼女から連絡が来たことで気持ちが昂っていたことは事実だ。クリスマスを一緒に過ごし、彼女が自分の中でさらに大きな存在となっているという自覚もある。


 だが、浮かれていることが周囲に気付かれるのはなんだか癪だ。そんなことを考えていると瑠璃から質問をしてきた。


「そういえば今年のお正月はどうしようかな?」

「ん? 神社に行くか行かないかってことか?」

「そうそう。私としては息抜きがてら行きたいんだけどね〜」

「なら今年も一緒に行こうか」

「うん! ありがとう!」


 おそらく受験のことを考慮して勉強をしているべきか迷ったのだろうけど、詰め込みすぎても体に悪いと思うので正月はいつも通りに過ごすことになった。



 そうして俺たちは少し話をしてから朝食を終えた。



 部屋に戻り、さらに成実からの連絡が届いていることに気がつく。


『年越しの時に嫌でなければ電話してもいいかな?』

『あっ、嫌だったり用事があれば別にいいんだけど……どうかな?』


 一つ目の方は先程の返事の後すぐに来ていた。二つ目は、少しの間返信が途絶えていたため、返信が遅れたことで俺が嫌なのかと思ったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。


『全く問題ないぞ。むしろ俺としても嬉しいよ』


 年明け初めに彼女の声を聞けるのかと思い、少々心が弾む。するとすぐに返事が返ってきた。


『良かった……。それじゃまた明日に電話させてもらうね!』

『おう。年越しの時にと言ったけど、夜八時過ぎからならいつかけてきても構わないぞ』

『了解! それなら早めにかけちゃうね!』

『あぁ、待ってるよ』


 そうして彼女とのやり取りを終える。


「久しぶりに成実と話ができるのか。楽しみだな」


 最近話してから五日ほどしか経っていないにもかかわらず、再び彼女と会話ができることを心待ちにしてしまう。



 その日は午後がとても長く感じられ、早めに就寝した。



 そして大晦日当日。少し緊張しながらその日は過ごし、日が暮れてくる。


 大晦日は妹と蕎麦を早い時間に食べて食後はのんびりするというのが今までだったが、今年は受験があるため、早めに食事を済ませた瑠璃は再び勉強へと戻る。自分を律することができ、人の相談にも乗ってくれ、気遣い上手ないい子であるそんな瑠璃を俺は尊敬している。


 そして、俺も食事と入浴を済ませたところでもうすぐ八時だと気付く。


「まだ早いが一応連絡を入れておくか」


『準備は済んだからいつでも大丈夫だぞ。せっかくの年末なんだから成実の方も焦らずゆっくりでいいぞ。』


 そんなことを連絡したが、すぐさま返事が返ってきた。焦らずでいいと言ったんだがな、とそんなことを考えつつ連絡を確認する。


『私の方も少し前から暇してたから大丈夫だよ! 電話繋いでもいいかな?』


 彼女も早くに食事などを済ませていたようだった。焦らすようなことを言ってしまったかなと後悔していたが、彼女も早くに済ませる人だったので良かった。


『電話かけるぞ』

『うん!』


 そう伝えて、通話ボタンを押す。


「もしもし」

『聞こえてるよ! 久しぶりだねっ』

「おう、そうだな。久しぶり」


 電話口から彼女の明るい声が聞こえてきて、心が満たされていくのを感じる。


『電話は繋いでおくけど、お互いやることもないよね』

「そうだな。まぁ、音楽番組でも見ながら何かあれば話でもしようか」

『そうだね!』



 電話すること自体は嬉しいが、確かにやることや話すことはそれほどない。そのまま彼女が毎年の大晦日や正月をどうしているのかを話しながら、リビングでまったりと音楽番組を見ていたら気付いた時には彼女は寝落ちしてしまった。


 一定のリズムで可愛らしい寝息が聞こえてくる。声をかけて起こすか、通話を切るか迷っているうちに俺自身にも眠気が襲いかかってきてしまう。



「すぅ……」



 そうして二人は電話を繋いだまま眠ってしまった。

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