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25.綺麗なもの

 少し歩いていると段々と日が傾いてきて、辺りが暗くなる。そして俺たちと同じ目的なのか、男女で同じ方向へと向かう人をチラチラと見かけた。


「……私たちって傍から見ると、どう思われるのかな?」


 成実がそんなことを呟く。恋人かな、などと言えたらいいのだが、生憎そんな勇気は持ち合わせてないし、覚悟も決まりきっていない。それにその質問は俺としても気になるところだ。果たして今の俺に彼女の恋人が務まるのだろうか、そんなことを考えながら曖昧な返事をする


「あぁ、どうだろうな」

「友達かな? 兄妹かな? それとも……恋人、かな?」

「っ!」


 今一番気にしていることを言われてしまい酷く動揺してしまう。ここで気の利いた事を言えたら何か変わったのかもしれないが、話している内に現地へと着いてしまった。


「と、到着したな」

「そうだね……。ここから見えるだけでもすっごく綺麗で見惚れちゃうね!」

「あぁ、綺麗だな……」


 横でイルミネーションにうっとりとしている彼女も綺麗だな、なんて思いつつ二人でイルミネーションで飾られた道へと進む。


「わぁ……!」

「これは……凄いな……!」


 真っ暗な夜空を背景に、周囲をイルミネーションに囲まれた幻想的な風景に二人は見惚れながら歩みを進める。そうして、そのまま二人の間に沈黙が続くとぽつぽつと雪が降り出した。


「あ、雪だ……」

「そうだな……」


 雪に光が反射し、それがまるで精霊が宙を舞っているようで、いつか二人で見た銀の世界の幻想的な風景を思い出させた。そして彼女も同じことを思い返していたようだ。


「あの時はゲーム内だったけど、今は二人で並んでこの景色を見ているね……」

「あぁ。今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ。誘ってくれてありがとう!」


 並んで歩いていた彼女は小走りで前に行き、振り返って幻想的な風景を背景にし、周囲の光にも負けないような輝かしい笑顔でそんなことを言った。その笑顔を守りたい、一番近くで見ていたい、そう思わせるには十分すぎる、そんな笑顔だ。



 そのまま二人で並んでゆっくりと歩き、イルミネーションのあった場所を抜けた。


「それにしても少しだけ寒いね〜」

「確かに寒いな」


 元々寒かったことに加えて雪が降り出したため、一気に体感温度が下がってしまった。手袋もマフラーもないため、素肌がどんどん冷たくなってしまう。


 クリスマスだから、と言い訳のようなことを考え、俺は包み込むように優しく、彼女の冷えている小さな手を握った。クリスマスを言い訳にしたくないと思っていたが、今だけは許して欲しい。


「えっ!」

「寒いからな。駅に着くまでは許してくれ」

「う、うん……」


 成実は少し顔を赤らめていたが、冷えるよりはマシだと思う。俺も俺で尋常じゃないくらい緊張し、恥ずかしい気持ちが心の中で渦巻いている。


 そんなことを思いながら歩いていると二人ともの体温が少し上昇したため、彼女の体温が手を通して伝わってきた。先程も思ったが、彼女のことを一番傍で大切にしたい、守りたいという思いがどんどん膨れ上がってきてしまう。


 彼女の傍にいるためには何をすればいいだろうか、そんなことを考えて気を紛らわせながら歩いていると駅へとたどり着いた。名残惜しい気持ちもないでは無いが、恥ずかしさが勝ってしまったので、俺は手を離して誤魔化すように声をかける。


「着いたな」

「うん、そうだね……」


 彼女も名残惜しそうな表情をしたのは気のせいではないだろう。誕生日に会い、クリスマスにデートのようなことをする。もはやこれは友人としての好意というよりも……などと考えていると成実から声をかけられる。


「今日は本当にありがとね? すっごく楽しかったし、思い出に残る景色を一緒に見られて良かったよ!」

「あぁ、俺も同じ気持ちだ。……また、一緒に来ような?」


 彼女の瞳を真っ直ぐと見つめ、そんなことを聞いてみる。照れくさかったが、この気持ちは本当なのでしっかりと伝える。


「うん! 約束だよ!」

「あぁ!」



 そうして俺たちは電車に乗り、しばらくして最寄り駅へと着いた。


「ここでお別れだね……。また学校で!になるのかな?」

「あぁ、また。まぁ、何かあれば誘うし、成実の方からも誘ってくれると嬉しいよ」

「うん! 絶対だよ? またねっ!」

「またな!」


 そう言って彼女は家の方へと向かい駆けて行った。俺も家へと歩き始める。今日のことを振り返りながら。





 そうして俺は家に着くと思いがけない人物が待ち構えていた。


「友也、おかえり」

「父さん……」


 俺は思わず口を開けたまま唖然とする。


「ははっ、いきなり帰って驚いたか?」

「まぁ、そうだな」

「……そういえば今までどこに行ってたんだ? もしかして彼女か?」

「なっ! そ、そんなんじゃないから」

「そうか。まぁ、久しぶりだし家族で飯でも食べようか。一応ケーキも買ってきたからな」

「あぁ、夕食はまだだったから助かる。荷物置いたらすぐに行く」


 そう言って気持ちを落ち着かせながら自分の部屋に戻り、荷物を置いて一階へと戻る。


「あっ、お兄ちゃんおかえり〜」

「おう、ただいま、瑠璃」

「よし、全員揃ったな。飯も温かいうちに食べてしまおうか」

「「「いただきます」」」


 そのまま父さんの作った料理を久々に味わい、ケーキも三人で食べてしまう。瑠璃は勉強のために少しして部屋に戻る。



「それで友也、少し時間をいいかな?」

「あぁ、こっちも話す準備は出来てる」


 絶対に話すことになると思っていたため、食事を取りながら俺は覚悟を決めていた。父さんは最愛の人を亡くしたんだ。あまりそういう話をしたいはずはないのに、聞いてくるということは恐らくだが、覚悟を問われると思ったからだ。


「それにしても友也に好きな人か……時間が流れるのは早いなぁ」

「何おじさん臭いこと言ってるんだよ」

「まぁ、実際おじさんと言って差し支えない年齢にもなったしなぁ」

「まだまだ見た目は若々しいけどな」

「ははっ、そうだな」


 父さんは今年で四十五歳となるが、見た目だけで言えば三十代と言われても信じてしまいそうだ。五年ほど前まではかなりやつれていたが、少しずつ心も回復しているのだと信じたい。


「……どんな人なのか聞いてもいいだろうか?」

「あぁ」


 そう言って俺は好きな人である成実のことをどう話そうかと考え、ゆっくりと口を開く。

 お父様初登場!

二人で何を話すのか、父自身は何を思っているのか、続きは次回!

と、まぁ、次回予告のようなことをしてみたかったためちょっとふざけてしまいました。申し訳ない。


 好きな人とイルミネーションのお出かけってもはやデートですよね?早くくっつかないのかなぁなんて作者自身も考えている部分があるので、本日から二話更新にして一章完結まで書き進めていこうと思います。


 ここまで読んでくださった読者の皆様、今後ともどうぞよろしくお願いします!

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