19.天使の気持ち 前編
私は出会ってからのことを思い返す。
出会うことになったきっかけはサービス終了と、それから友也くんからの一通のチャットだ。
『どうせなら一度会って話さないか?』
銀の世界がサービスを終了するということで混乱していたし、見間違えかもと思い目を擦るが、実際にそうチャットが来ていた。
しばらく動揺で返事を返せないでいると、友也くんが発言を撤回しようとするのですぐさま返事を打つ。
『いいよ』
恥ずかしかったため一言しか送らなかったが、実際はかなりテンションが上がっていた。
「ユウくんからそんなことを言われるとはな〜。ふふっ、楽しみだな!」
彼は『ユウ』という名前のプレイヤーで、実は私が二年間片想いを続けている相手でもある。以前、放課後に先生への提出物を提出し、教室に戻っている途中でユウこと友也と晃の会話を聞いてしまった。
「友也まだあの鬼畜ゲーやってるのか?」
「あぁ、やってるぞ。それに慣れたらそんなに鬼畜じゃないぞ」
「……そうか? まぁ、いいや。そういえば今もあの人と一緒にやってるんだっけか? えっと……」
「シャーロットな」
私は銀の世界を『シャーロット』という名前でプレイしている。以前から一ノ瀬くんと『ユウ』の話し方が似ており、同一人物ならすごいのになぁ、なんて考えていたため、普通に考えたらありえないこともその時はありえるかもと思ってしまった。
「この前二人でプレイしてる時に、最高レアのデビルハートってのが落ちた時はめっちゃテンション上がったぞ」
「へー、おめでとう」
私とユウも少し前にそのアイテムを入手したことを思い出す。その後もこっそりと聞き耳を立て話を聞いているとどんどん一ノ瀬くんがユウに繋がってくる。その日は帰宅後にゲーム内でそういうことを話すのは良くないとは思いつつ少しリアルの話をしてしまったが、そこで疑念は確信へと変わった。
私は、彼がユウくん本人であることを知った時のことを思い出して頬を緩ませていたが、ふと心配になる。
「明日から学校で普段通りにできるかな……」
次の日から週末まで、学校では多少意識してしまったが、きっとバレてはいないと思う。
「それにしてもすれ違った時のユウくんかっこよかったな……」
その時に友也にはにやけている所を見られているが、当の本人は気づいていない。
そして迎えた日曜日、服装と荷物を確認し待ち合わせ場所へと1時間も早くに向かう。駅前に着くと既に待ち合わせている相手が待っていた。驚きはしたが、身だしなみの最終チェックし、冷静を装い声をかける。
その後はカフェに入り、お互いのことを話してから解散することになった。
「今日は楽しかったな〜。それに連絡先も交換しちゃった!」
その日の出来事を振り返りながら私は家へと向かう。そしてしばらくして家に到着する。
「ただいま〜、って言っても誰もいないんだけどね……」
気を紛らわすために交換した友也くんのRICEの画面を開き、ふと考える。
「今なら送っても変じゃないよね? 送っちゃおう!」
『今日はありがとう! また機会があればよろしくね!』
そう打ち込み送信をするとすぐに返事が返ってくる。
『俺の方こそありがとう。またよろしくな』
また次があるのだと思い、自然と笑顔になってしまう。明日からの学校で普段通りを装えるかは分からないが、その時はその時だ、などと考えながら眠りについた。
それから数日経って、サービスが完全に終了する前に銀の世界に入り、友也くんと一緒に行きたかった場所へ行く。
緊張で道中は上手く話せるか分からなかったため、遊び要素を入れつつ目的地へと誘導した。
その後、ゲーム内とはいえ、二人きりという状況に加え、幻想的な景色で私は思わず口が緩み、思ったことを口に出してしまった。
「あのさ……友也くんはいきなりいなくなって会えなくなったりしないよね?」
幼い頃、学校に行って、帰ってきたらお父さんが帰らぬ人となってしまっていたことを思い出して、不安になる。すると力強い声で返事が返ってきた。
『パートナーを置いていなくなるわけないだろう?』
パートナーという言葉はきっと一緒に遊ぶ仲間という意味だろうが、それでも私はとても嬉しい気持ちになった。
「ふふっ、ありがと! これからもよろしくね。おやすみなさい!」
そう言って私は通話を終える。そして顔が緩みきっていることに気がつく。
「パートナーか……リアルでもパートナーになれたらなぁ、なんて」
そんなことを言いながら私は眠った。これほどまでに晴れやかで、嬉しい気分で眠ったのはいつぶりだろう、などと考えながら。
今回もありがとうございます。
前編のところで本日の更新が終わってしまうのは申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、ストックや一日約三話投稿にしようと思っていることを考慮し、ここまでとさせていただきます。
これからも引き続き、『サービス終了から始まる恋』をよろしくお願いします!