17.二つのプレゼント
二人の間に沈黙が訪れ、どう言おうかと悩んでいると頼んでいたサンドウィッチが運ばれてくる。
「お待たせしましたー」
「あっ、ありがとございます! 美味しそうだね!」
「ありがとうございます。そうだな」
店員さんが来てくれたおかげで沈黙が破られる。
「とりあえず食べようか」
「う、うん、そうだね!」
そうして二人で食べ始め、その間にも俺は思考を動かす。
伏せていてもいつかはバレるだろう。それにまだ言えないとはいえ、いつかさらに親しい関係になるというのなら黙っているのも不誠実だと思い口を開こうとするが、先に成実が話し出す。
「私もね、私のお父さんも何年も前に亡くなったんだ」
「そ、そうだったのか」
「うん。お母さんは一人になってから仕事に専念しててなかなか会えないんだ。だからたまに一緒にどこかへ行く時がとても楽しいの」
ふと俺は、成実が母親らしき人と歩いていたのを思い出す。あの時の嬉しさと寂しさが混ざったような表情はそういうことだったのか。
「だから、全てとは言わないけど、友也くんの気持ちもわかる気がするな」
「そうだな……よく考えると俺たちってゲーム好きなところも境遇も似ているのかもしれないな」
「あはは、そうだね。だからこそ意気投合して、一緒にいて楽しいのかも!」
そう言って笑顔になる成実につられて、俺も笑顔になる。銀の世界を終えた時にも思ったが、彼女は明るい方が似合う。だからこそ寂しい思いはさせたくないし、心を満たす存在になりたいとも思う。
「そうだ、ちょっと待っててくれ」
「えっ?」
そう言って俺は席を立ち、奥に控えている店員さんに声をかける。この店は食事も飲み物も美味しいが、近くのチェーン店に客を取られているのか普段は客が少ないし、今日に至っては俺たち二人だけだった。
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
「はい、お願いします」
そうして俺は席に戻る。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと気になったことがあって聞いてきただけだ」
「え〜、気になるじゃん! 教えてよ!」
「少しすれば分かるから落ち着けって」
詳しく話を聞かれないように話をそらす。そして、少しして店員さんがケーキを持ってくる。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「えっ、これって……」
朝の間に店に電話をかけ、誕生日ケーキを作ってもらっていた。個人経営だったためこのような融通が利くのは助かる。
「誕生日おめでとう」
「わぁ……! ありがとう友也くん!!」
「喜んでもらえたようなら良かったよ。プレゼントも一応用意してるんだが」
「見たい見たい! 貰ってもいいかな?」
「あぁ、これだ」
そう言って包装されているプレゼントを二つ渡す。
「あれ、二つも?」
「あぁ、食べれないものや好物は聞いていたが、物の好みなんかは分からなかったからな」
「そっか、ありがとっ! 早速見てみるね!」
彼女はとても喜んでくれたようで、眩しいくらいの笑顔を見せてくれる。この顔を見れただけでとても嬉しいが、どうせならプレゼントも使ってくれると嬉しいな。そう考えているうちに包装を開け、一つ目のプレゼントを手に取る。
「これは、ブルーライトカットのメガネかな?」
「そうだ。銀の世界時代はいつログインしてもインしていたことを思い出して、これはあった方がいいと思ったんだ」
「ありがとう! 長時間プレイするし、いつか買おうかなって思いながら後回しにしてたから助かったよ!」
若いうちから目を酷使しすぎると良くないと思いプレゼントしたが、持っていなくて助かったな。そして二つ目の包装を開け終える。
「これは……」
「ネックレスだ。あっ、趣味じゃなければ返してくれていいぞ」
「そ、そんなことないっ! とっても嬉しいよ! ありがとう!!」
この様子だと本当に喜んでくれているようだ。安心して一息つく。このネックレスは妹の瑠璃に意見を貰いながら、成実に合うイメージの物を探している時に目に入ったものだ。
何故これを選んだのかと言うと、そもそも銀の世界というゲームはクリアするまでは雪が降り続けるという設定だ。それから森に稀に現れる精霊も雪の結晶がモチーフだ。最後に二人で見た、あの幻想的な湖の周囲にも精霊がいた事を思い出して、即購入してしまった。
「雪の結晶……綺麗……!」
「気に入ってくれたなら良かったよ」
「うん。本当にありがとね!」
そうして俺たち二人は話をしながらケーキを食べ、店を後にした。
「ふふっ、今日は楽しかったなぁ〜」
「あぁ、俺もだよ」
「プレゼントもとっても嬉しいよ!」
「うん、それは良かった」
そんなことを話しながらゆっくりと歩いていたが、駅前に着いてしまう。
「着いたな……」
「そうだね……」
名残惜しいが、夜に女の子を長く連れ出す訳には行かない。送っていく選択肢?先に断られたよ。
「それじゃ、名残惜しいけど今日はここで解散だねっ!」
夜の街明かりを背景に、そう言って寂しそうな笑顔でこちらを見る成実に目を奪われた。
「あぁ、そうだな。今日は本当にありがとう。また一緒に出かけたいな」
「そうだね! 冬休み中は暇してるから誘ってくれたらどこへでも飛んでいくよ!」
「おう、また誘わせてもらうよ」
「うん!」
そうして成実は駆けていった。
しばらく成実の後ろ姿を見てから俺も帰ることにする。
今日は来ることが出来て本当に良かった、心の底からそんなことを思いながら、俺は歩を進めていく。
帰宅後、妹に顔が緩んでいると注意された。確かに今日は楽しかったが、そんなに緩んでいただろうか?
「まぁ、なんにせよ今日は本当に楽しかったし、成実の笑顔が見れて幸せだったな……」
気づいたらそんなことを呟いていた。好きな人の笑顔はどうしてこれほどまでに眩しく、そして心を満たしてくれるのだろうか。そんなことを考えていてふと気がつく。
「こんなにも俺は、俺にとって彼女は大切な存在になっていたのか……」
一緒にいて落ち着き、話していて楽しい。母さんのことを話したら、彼女も幼い頃に父親を亡くしていたという。
近しい境遇だが、彼女は他者を拒まなかった。だが、俺は関わりを自ら絶った。似ているところもあるが、違うところもある。これからが大切だと自分に言い聞かせる。
そうして俺は彼女に見合うような男になると改めて決意をし、その日は眠りについた。