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139.妹と気分転換に




 11月になった。

 変わったことがあるとすれば、いつもの4人で教室で昼食を摂るようになったこと、それから生徒会長にクラスメイトの松村が就任したことだろう。

 松村はどうやらより良い学校にしたいとのこと。ハッキリとは分からないが、何か目的があるようにも見えた気がする。


 余談ではあるが、他に立候補した人も複数いたのだが、かなりの得票率で選ばれたのだとか。ちなみに晃が応援演説を務めた。


 逆に言えばその他は変わらない日常のままだ。まぁ、この日常が簡単に崩れて欲しいとは一切思わないが。



 しかし俺は今、大きな悩みを抱えている。


「んー、まずいな……」

「――えっ………な、何か美味しくなかった……?」

「……あっ。い、いや、そうじゃないんだ! ちょっと考え事をしてて……!」

「そ、そっか……良かったぁ……」 


 最悪のタイミングで言ってはいけないことを漏らしていた。教室に変わったが故に、白雪だけでなくクラスメイトからの視線も痛い。


「あいつ今、不味いって言ったよな?」

「神崎さんのご飯が不味いだぁ?」

「夜道に気をつけろよ……」


 食事中に考え事をするものじゃないな。夜道を歩けなくなってしまう。というか今度、改めて成実に感謝を伝えたいな。


 それはそれとして、本当にどうしようか……


「そういえば、何を考えてたの?」

「そうだね。最愛の彼女の弁当を()()()なんて言ってしまうくらいだ。相当大変なことなんだろうね」

「おい……まぁ、その、今月って11月だろ? 成実とちゃんと会うようになってから1年だなって思ってさ」

「あ〜、何かしたいのに何も思いついてないってとこか?」

「あぁ、その通りだ。出来れば自分で考えて思いつきたかったんだけどな……」

「だそうだが。ん、成実……?」

「あっ、ううん。ふふっ、私も同じこと考えてたなって思ってっ」

「それなのに互いに相談せずにいたみたいだね」

「似たもの同士なのに見事に絡まってるな」

「あはは〜……」

「もっと色々と会話すべきだったな……」

「まぁ、友也の失言で当日までに相談できるんだ。もっとポジティブに考えた方がいいだろう」

「それもそうか。とはいえ、成実。さっきはごめんな」

「あ、ううん! 本当に気にしてないから大丈夫だよ!」



 とはいえ、お互いに悩んでたことが相談したところでパッと浮かぶわけでもなく、その日の学校も過ぎていった。



 家に着いてから、彼女と電話をして相談もしたが思い浮かばない。というか、彼女の誕生日も来月に控えているからそちらも考えないといけないんだよな……

 なんてリビングのソファで物思いにふけっていると、突然視界が真っ暗になる。


「問題っ、だ〜れだ!」

「父さんは今日も仕事だし、お前しかいないだろ? 瑠璃」


 小さな手を退けて、後ろを振り返る。


「えへへー、正解っ。じゃあ、続けて2問目!」

「続けるなって……」

「もぉ、そんな冷たくしてたらモテないぞ?」

「いや……成実にだけ好かれてればそれで構わないんだが」


 夏過ぎてから、明るくいたずらっ子っぽい様子になった、というか昔のように戻ったという方が正しいのか。

 これはこれで可愛らしいし、幼い頃は無理をさせてきたから構わないんだが、悩み事をしている時くらいは1人で考えさせて欲しいと思う。まぁ、完全に邪険には出来ないんだけども。


「ふふっ。じゃあお兄ちゃん、秋と言えばなんでしょうっ?」

「秋か……? んー、食欲の秋?」

「うん、ほとんど正解! 秋と言えばスイーツ! というわけで、明日の放課後空いてる?」

「随分いきなりだな……。一応空いてるはずだが」

「あっ、ちなみに成実さんにはついさっき許可もらったよ!」

「……あぁ、それなら大丈夫だ」

「やった! それじゃ、明日は学校にパスモ持って行って、終礼終わったら教室で待っててね!」

「あぁ……って、結局どこに行くんだ?」

「スイーツだよスイーツ! 気分転換にも甘いものは必要だしさ!」


 ……! 考え事をしてたことに気付かれてたのか。気を使わせてしまっ……いや、あの顔はただ自分が行きたいだけなのかもしれない。


「分かったよ。行こうか」




 翌日、言われたように徒歩通学で普段は入れないパスモをカバンに入れてから登校する。今日も昼休みに色々相談したものの、何かピンと来るものは浮かばなかった。


「それじゃ、3人とも。また明日」


 6限まで終わり、言われてたように教室で待つ。


「また明日、友也くん!」

「お、おう? またな?」

「おや、珍しいね……瑠璃かい?」

「あぁ、昨日いきなり誘われてな」

「そうか。成実はいいのかい?」

「大丈夫だよっ。昨日わざわざ許可も取りに来てくれたし」

「なるほど。では、また明日。友也」

「あぁ、また明日」



 それから、サッカー部やバスケ部等の部活勢が残っている中、少し待っていると扉の方から声をかけられる。


「お兄ちゃん、お待たせっ」

「そんなに待ってないよ。それじゃ、行くか」

「うん!」


 クラスに残っていた若干名からの視線を背に受けつつ、俺と瑠璃は学校を後にした。



 そして、しばらく電車に揺られて都心の方へと向かう。


「ここの秋限定のパフェずっと食べたかったんだよね〜!」


 いつか、成実とショッピングモールで入ったスイーツ店の同系列の店舗だ。秋の期間限定パフェが来週までらしく、せっかくならと誘ってくれた。


「んん〜! あまっ! おいしっ!」

「ん! めっちゃ美味いな!」


 俺も妹と同じ秋のスイーツパフェを頼んだ。モンブランやら栗やら甘栗やらが沢山乗った――栗パフェと言った方がしっくりくる――少し大きめでコスパの良い一品だ。

 味もとても好みだし、テンションを上げるなという方が難しい。


「ん〜! あ、そういえば」

「うん? どうした?」

「お兄ちゃん、この前から何か悩んでるの?」

「あー……そう、だな」

「相談くらいなら乗れるし、女子の意見も出せるよ〜? あ、栗もおいしっ」

「……来週で、成実と会ってからちょうど1年なんだ」

「会ってから?」

「あぁ、いや、ちょっと言い方が違うか。なんて言うか、ちゃんと関わるようになってから、か?」

「いや、質問を質問で返されても〜……うーん、何かお祝いしたいけど、思いつかないってこと?」

「そういうことだ」


 今まで2人で色々な所に行ってきたし、色んなこともしてきた。だからこそという訳でもないが、何か他にパッと浮かぶところが無くなってきた。恋愛経験豊富なら色々と浮かんだんだろうが……あ、確かに栗うまっ。


「ん〜、この前遊園地は行ってたし、レストランとかここみたいな店も行ったことあるんだよね?」

「あぁ、そうだな」

「動物カフェとかも行ったし、お家デートとかお泊まりもしてたし、何か他に新しいこととか〜……ってあれ?」

「ん? 何か思いついたか?」

「あ、ううん。そうじゃないんだけど、別に今までやったこととかで被ってもいいんだよね?」

「あ〜、完全に1度やった事はあんまり考えてなかったよ」


 新しいこととか、何か斬新なアイデアのようなものを考えてばかりいた。まぁ、それでひとつも浮かんでいないのが現状なのだが。


「じゃあ例えばだけどさ、初めてちゃんと会った日に行ったところと同じ場所に行くとかは?」

「初めては駅近くのカフェか……でも、別に普段と代わり映えしなくないか? あそこは何度か行ってるし」

「まぁ、そうかもね〜」

「おいおい……」

「でも、最初の思い出を覚えててくれるのは私的には嬉しいし、これから何年先も色々祝ってくんだから、たまには新しさとかよりもちゃんと思い出とか成実さんとの時間を大切にしてるってことを伝えた方がいいんじゃないかな〜?」

「あぁ……なるほど……」

「あっ、店員さ〜ん、こっちのケーキもお願いしますっ」

「かしこまりました」

「夜、食べれなくなるぞ?」

「まぁまぁ、今日の担当は私だし自分のをちょっと軽くすればいいしさ!」


 1度やった事か……それならこういうスイーツ店に来たり、服をまた色々買いに行くのもいいかもしれない。


「あ、でも、何かどうしても特別な思い出がって言うんなら、土曜の放課後から1泊2日の旅行に行くとかどう? お土産は期待しちゃうよっ?」

「んー、行けて近場の温泉くらいか? あんまり休まらなそうだな……あ、すみません。紅茶とこのケーキお願いします」

「かしこまりました」

「お兄ちゃん……?」

「今日の夜は軽めで頼む」

「はぁ……それじゃ人のこと言えないじゃん」

「悪い悪い。でもしばらく悩んでたことに進歩があって嬉しくてな。ありがとう、瑠璃」

「えへへっ、気にしないで! お礼はここ奢ってくれるくらいでいいよっ?」

「あぁ、分かった」

「えっ、いや、冗談だよ!?」

「いや、これくらいなら別に……実際助かったし」

「いやいや、来週成実さんともどこか行くのに必要以上に散財しちゃだめだって! 誰かとお付き合いする中でお金はいくらあっても足りないんだから!」

「ご、ごめん……」

「うむ。それに私はお父さんに頼めばちょっとはお小遣い貰えるし……あはは〜……」

「おい……夏から明るくなったと同時にほんとに図太くもなったよな……」

「えへっ、まだ1回しか貰ってないから大丈夫!」

「……はぁ、程々にな。まぁ、改めてありがとな、瑠璃」

「うん!」




 行きしの道を戻るように電車に揺られ、空が暗くなった頃に最寄り駅に着いた。改札を出て歩いていると少し先に見知った顔があった。


「ん? あれは……」

「あ、生徒会長かな?」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、生徒会選に立候補してた上にイケメンだって、1年生でも有名人になってるよ〜」

「あぁ、なるほど」

「うん。まぁ、応援演説してた晃さんも人気になって、結構な1年女子が松村さん派と晃さん派ってなってるよ〜」

「まぁ、あいつらイケメンだしな……あ〜……」

「ん? どうかした、お兄ちゃん?」

「いや、その……」

「私が誰派かって?」

「なんで分かるんだよ……」

「ふふふ、お兄ちゃんのことなら何でもお見通しだよっ」

「はいはい」

「ん〜、ちょっと適当にあしらわれてる感……ちなみに誰だと思う?」

「んー……どっちだ?」


 何でもお見通し、なんて瑠璃には言われたが、逆に俺はあんまり瑠璃のことを知らないのだろうか。ずっと2人だったのにそれはそれで少し寂しいな……


「じゃあ、当てずっぽうでもいいから言ってみて?」

「なら、晃か?」

「ぶぶー!」

「松村か……まぁ、性格も良くなったし、顔も綺麗だからな……」

「ふふっ、ぶぶー!!」

「……は?」

「おぉう……そんな顔しないでよー」

「……それで、結局正解はないってことか?」

「正解は〜……家に着いてからで!」

「は、はぁ……まぁ、いいか」



 今の瑠璃が素直に教えてくれるかは分からないが、とりあえずスルーしとこう。

 ……いや、気にならないかと聞かれれば嘘になるが、言いたくないならそれでしょうがないだろう。思えば今まで過干渉すぎたか……

 なんて考えながら歩いていると瑠璃から話を振られた。


「そういえば生徒会長といえば、選挙の演説で新入生が過ごしやすい環境を〜とか、体育祭や文化祭をもっと盛上げるように体制を整える〜とか言ってたね〜」

「あぁ、そうだったな。本当に去年の体育祭から凄い変わったな、あいつ……」

「んー、前も言ってたけど去年はどんな人だったの?」

「あ〜、なんというか、自分が中心って感じだったな。それが今では新入生とか皆のためにって周囲のために動けるようになったみたいだ」

「そうなんだ? 今の姿しか知らないとちょっと想像できないかもっ。まぁ、頑張って欲しいね!」

「あぁ、そうだな」



 そうしてのんびり歩きながら話していると、家のすぐ近くまで来ていた。


「それでさ〜……ってそろそろ家だねっ」

「もうここまで来てたのか」

「あ……ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「さっきの話だけどさ」

「さっきの……?」


 さっきと言うと生徒会選の話だろうか? それともまた別の……?


「私はずっとお兄ちゃん派だよ?」

「あ……」


 あぁ、その話か。そういえば着いたら言うって言ってくれてたな。それはそれとして普通に嬉しい……が、ちょっと恥ずかしいので顔には出さないように意識して表情を取り繕う。


「んー、なんか反応が鈍い? 可愛い妹が他のイケメンよりお兄ちゃんの方がいいって言ってるんだから、ちょっとくらい反応してくれてもいいのにさ〜?」


 そう言ってぷくっと頬を膨らませてジトっと睨んでくる瑠璃。


「いや、嬉しいし可愛いのは認めるが、妹から言われてもな」

「っ、可愛いのは……って! もー、このシスコン! もっと喜べ! もー!」


 照れ隠しなのかポコポコ叩いてくる瑠璃。

 ……そういえば瑠璃がこうなる前は感謝こそすれ、褒めたりはあまりしてなかったかもしれない。そして、向こうが素直になった分、こちらも思ったことをちゃんと口にするようになったのだろう。


 そうだな、気づいた時にもっと褒めて感謝しないとか。別に他意はない。


「瑠璃」

「もー……ん? なに、お兄ちゃん?」

「瑠璃は可愛くてしっかりしてるし、優しくて家事も上手くていつも本当に助かってる。ありがとう。他にも勉強もゲームもやること全部に一所懸命で――」

「ちょ、ちょ、ちょっとストップ! ………ねぇ、もしかしてわざとやってる? あ、ちょっと、目をそらさない!」

「……ちょっと興が乗って」

「はぁ……褒められ損だよ……。というか彼女もいるのに冗談でもほかの女の子にそんなこと言うもんじゃないよ?」

「いや、内容は全部本心だが」

「余計にタチが悪いよ! ……もぉ、とりあえず早く家入ろ? あ、先お風呂入っていい?」

「もちろん」

「あ、あとさ」

「ん?」


 家の玄関扉を開けてから、なにか思い出したかのように振り返ってこちらを向く。


「今日のデート、楽しかっよっ?」

「……っ」


 いたずらっぽく上目遣いでそう言ってから家に入る瑠璃。我が妹ながら末恐ろしい子……

 実兄であるにも関わらず、ちょっと言葉に詰まるくらいには可愛くて、それでいて何とも魅力的な表情だった。

 シスコンではないが、変な男がついてこないか心配になる。彼氏でも出来たらまずは俺と父さんに見せに来て欲しい。


 冗談はさておき、その後、家で妙に瑠璃に避けられた気がしないでもないが、恥ずかしいならやらないでくれ。こっちの心臓にも悪影響だ。



 と、そんなこんなで翌日。突然、昨日話にも出た彼からとある相談を受けた。






 お久しぶりです。

 忙しすぎて2ヶ月ぶりに投稿しました。誠に申し訳ないです……


 エタは嫌だ、エタは嫌だ……なんて考えながらほんとに暇な時に息抜きでコツコツ書いてようやくって感じです。短編くらいのネタならいくらでも浮いて書けるんだけども……


 今後も気分転換でちょいちょい続きを書いたり、短編を投げるかもしれませんが、たまたま目に留まったら読んでくださると幸いです。


 それではまた次回の投稿で会いましょう〜




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