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133.看病と勘違い




 ――ガチャ



 玄関の扉の開く音で目が覚めた。どうやら瑠璃が帰ってきたみたいだ。


 どれくらい眠っていたのか気になり、未だに痛い頭と重い体を起こし、時計を確認する。


「1時間くらいか……はぁ、頭痛すぎ……」


 そんなことを呟きながら、再び横になる。



 しばらくして1階から階段を昇ってこちらへとやってくる足音が耳に入る。

 コンコン、というノック音に返事をする。


「失礼します……」


 ……?

 ドアが開くと妹なら言わないような言葉と、聞き慣れてはいるが、今は聞こえるはずのない声が聞こえた。

 思わず上半身を起こし、そちらを体を向ける。


「な、るみ……?」

「え、えへへ……来ちゃった……」


 可愛らしく肩を竦めてそう言うのは間違いなく俺の彼女だ。


「買い物に行ってたらたまたま瑠璃ちゃんと会ってね。そこで話を聞いて、よければ行ってもいいかなって許可を貰ったの。勝手にごめんね」

「あ、あぁ、いや、それはいいんだけど……げほっげほっ……」

「あっ、楽にしてて! それと食欲があればお粥とリンゴを持ってきたんだけど……」

「ありがとう。少しお腹が空いてたから助かるよ」


 ついでに言うと喉も乾いたのだが、お茶とスポーツドリンクなんかも持ってきてくれたようだ。


「しかし、ありがたいし嬉しいんだが、風邪を移さないか心配だな……」

「もう、こんな時に人の心配しないの! 私のことは気にせずちゃんと休んでね」

「あぁ、そうだな……とりあえず、いただきます」

「どうぞ召し上がれ。無理はしないでね?」

「あぁ、食べれるだけいただくよ」


 そうして一口食べようとしたのだが、寒気のようなものが来たせいで手が震えて、スプーンを取り落としてしまう。


「ッ! 大丈夫!?」

「悪い……ちょっと手が震えただけだよ」

「……ちょっとスプーン貸して?」

「え、うん……」


 あれ、これって……


「ふーふー……はい、あーん」

「え」

「あ、あーん……口、開けてほしいな?」

「あ、あぁ………あーん」


 以前やって貰った時とは状況が違うため、なんだか顔が熱くなる。まぁ、熱で元々熱いし、頭はガンガンと打ち付けるような痛みがするのだが。


「味、大丈夫かな?」

「うん、美味しいよ」

「そっか。良かった……」


 味覚自体に異常はないはずなのに、緊張と照れのせいでよく分からなくなっているのは秘密だ。とはいえ彼女の料理が美味しくなかったことなどないので、むしろきちんと味わえないのは悔しいのだが。



 そうして恥ずかしい中食べさせてもらったのだが、体温が相も変わらずひどく熱い。


 食べ終わったので再び横になる。彼女の手前、心配させたくないので普通にして見せたいのだが、どうしても呼吸も荒くなり頭痛で顔をしかめてしまう。


「大丈夫……?」


 心配そうな表情で顔を覗いてくるのだが、少し意識が朦朧として生返事のような感じになってしまう。

 そんな状態で彼女に対して上手く受け答えできないでいると、彼女が立ち上がる。


「あ、そうだ。ちょっと体温計持ってくるねっ」

「ま、待って……」


 咄嗟に彼女の手を掴み、引き止めてしまう。どうやら自分が思っている以上に寂しいのかもしれない。

 何かを感じ取ったのか、彼女は席に戻り優しい表情で手を握り返してくれる。


「……うん、わかった。大丈夫だよ。そばに居るからね」

「ありがとう……」


 そうして包み込むように頭を撫でてくる。それにそこはかとない安心感を感じ、再び俺は眠りについたのだった。



***



 目の前で苦しそうな、それでもどこか安心した表情で眠る彼。


「心細いよね……大丈夫。私は離れないよ」


 そう呟きながら頭を撫でる。おでこに手が触れるとそこからかなりの高温が伝わってくる。

 看病、なんて言ってもできることは限られているし、この苦しみを変わってあげたいとそう思う。


 時折、私の手を握る彼の手がキツくなるのは私がいることの確認だろうか。それが私を必要としてくれているような気がして――こんな時に思うのは卑しく思えるが――少し嬉しい。


 少しして、寝息も先程よりは落ち着き、表情も苦悶としたものではなくなってきた。


「それにしても……」


 前にも思ったことはあるのだけど、眠っている時の顔は普段のしっかりとしてる時とは打って変わって可愛らしく思える。これが俗に言うギャップ萌えなのかな。そう思うと少し笑みがこぼれる。


 そんなことを考えながら手は握ったまま顔を近づける。少し汗が滲んでいたので持ってきたタオルで軽く拭き取った。

 そしてそのままボーっと見惚れてしまっていたが、ふとした拍子に髪が垂れてきて、ガチャっという扉の音で我に返って顔を上げる。


「……って! 風邪移っちゃうしこんな近付いたらダメだよ! あれ……」


 扉の音?


 何だか嫌な予感がしつつも、私は後ろに振り返る。


「あ……る、瑠璃ちゃん……」


 自分の顔が引きつっているのが分かる。瑠璃ちゃんの表情から察するに――いや、察しなくてもさっきのを後ろから見たら――キスしてたんだと思われているんだと思う。


「え、え〜っと、体温計を渡し忘れたなぁと思ったんですけどぉ………し、失礼しました! ごゆっくり〜!」

「あ! 待って瑠璃ちゃん! 違うの!」


 咄嗟に立ち上がろうとしたが、彼の手は握られたままなのでここを離れることが出来ない。

 彼氏の妹さんであり、私自身の友達でもある瑠璃ちゃんにこんな所を見られてしまうなんて……

 しかも、相手は病で床に臥せている。弱った相手にこんなことをする女だって思われたら……


「う、うぅ、どうしよう……絶対に勘違いされてるよ……」


 とはいえ後でどうにかして弁明するしかないのだけど。自業自得とはいえこんなことになり、先程の自分を責め立てる。


「はぁ……」



 そのままの状態でしばらく居たが、友也くんの熱も下がり手も気付けば離れていたので、お昼までいても邪魔だろうと思い、私は帰ることにした。


 ちなみに帰り際に瑠璃ちゃんにちゃんと――恥ずかしい気持ちを抑えて――説明したはいいけれど、完全には納得してない様子だった。本当なのに……



***



 目が覚めるとかなり体が軽くなっていた。そのまま体を起こすとおでこに既にぬるくなっている冷感シートが貼ってあることに気が付く。それを剥がし、枕元にあったドリンクを飲む。


 一息つくと、窓から差し込む陽の光は既に茜色に染っており、随分と眠っていたのだと分かる。



 不思議な夢を見た。しかしそれは、朝に見たような誰もが離れていくようなものではなく、誰かが暖かな優しい雰囲気で包み込んで撫でてくれているような、まるで白昼夢のような感覚だった。

 それに最後には凄く顔が近付いていた気がする。夢だったのでハッキリとは覚えていないが、そんな感じだったと思う。



 とりあえず迷惑をかけた妹に回復したと伝えに行かないと。その後で看病に来てくれた彼女にも感謝を伝えないとな。


 そう思い、自室から出て1階のリビングへと向かった。瑠璃は自室にいるよりもリビングにいる時間の方が長いし、そうじゃなくても下から物音が聞こえていた。


「瑠璃」

「あっ、お兄ちゃん! もう大丈夫な、の……?」


 何故か後半少し頬を赤らめて目を逸らしたが、とりあえず質問に答える。


「あぁ、もう大丈夫だよ。迷惑かけてごめんな」

「あっ、う、ううん! それは別に大丈夫なんだけど……」

「そう言ってくれると助かるけど、何かあったのか?」

「い、いや! 何にも見てないよ!」

「ん? 見てない?」

「あ、ちがっ……なんでもないから! 本当に気にしないで大丈夫!」

「そうか? それならいいんだけど……」

「そ、それより成実さんにもお礼を言わなきゃだよ! 私の方はいいからさ! ほらっ、ね?」

「お、おう……」



 何だか追い出すような、俺を避けてるようなそんな印象を持ったが瑠璃の言うこともまた正しいので、再び自室に戻って成実に電話をかけようとする。


「電話……電話か……」


 彼女に看病してもらったのは何となく覚えているんだが、色々と甘えすぎたせいで恥ずかしさから少し電話を躊躇う。食べさせてもらったり、手を握ってもらったり、撫でてもらった……のは夢で見ただけか。

 イマイチ記憶が朧げな部分があるが、それでもいくらか甘えたのは覚えている。



「しかしなぁ……」


 弱っていたとはいえ色々やらかした気分だ。そもそも無理をして体調を崩した時点で自業自得で情けないのに、それだけに収まらず彼女に看病させて甘えるなんて。なんというか恥ずかしすぎる。


 とはいえこのまま感謝も無しという方が人として終わっているので気合を入れて通話ボタンを押す。


「男ならこれくらいは……!」


 プルプルプル、と機械的な音が流れる。3回ほどそれが繰り返された後、彼女が電話に出た。


『も、もしもし、友也くん?』

「あぁ、そうだよ。その、看病してくれたお礼を言おうと思ってさ。いきなりごめんな」

『う、ううん! 気にしないで! 苦しそうだったから心配だったし……』

「心配かけてごめん。それから看病もありがとう。……少し心細かったから成実が来てくれて嬉しかったよ」

『ッ! そ、そっか……それなら良かったよ……』


 お礼も言ったことだし、1つ気になることを聞いてみる。


「それで、なんか元気ないか? あっ、もしかして風邪移しちゃったか?」

『えっ! そ、それは大丈夫だよ! それに私は元気だよっ?』

「そうか? なんか声が少し元気ないというか、よそよそしいような気がして……」

『だ、大丈夫! 私は元気だし、風邪の友也くんにこう言うのは悪いかもだけど、休みの日に友也くんと会えて嬉しかったし!』

「それならいいんだが……もし、風邪っぽかったりしたら言ってくれよ? 何時でも看病しに行くからさ」

『うん! その時はちゃんと頼むよ!』

「おう。そうしてくれ。それじゃ、そろそろ……」

『あっ、うん……それじゃ、お大事にね?』

「あぁ、ありがとう。また休み明けに」

『うん! またね!』


 そうして通話を終える。幸い明日も休みなので、明日はのんびりとゲームでもして休もうと思う。


 それに来週は彼女との遊園地でのデートだ。付き合って半年で家デートと外デートをするという話だったのがようやく実現出来る。

 それを心から楽しみにしつつ、残りの休みを満喫した。



 ちなみに次の日、オンラインで彼女ともゲームをしたのだが、まだ少し調子が悪いようだった。聞いても風邪ではないというが、少し心配だった。そんなこんなで休みが明けていった。






 皆さん、こんばんは。以前の体調不良が尾を引いたりもせず、元気に忙殺されてます作者です。


 春休みの方が学校のあった平日よりも忙しいって何なんでしょうかね。まぁ、忙しい理由の半分は担当のピックアップ復刻のせいだったりするんですけど。


 それはさておき、今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。次回は27日には投稿出来ると思います。それではまた来週です〜

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