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132.発熱




「はぁ〜、負けちゃったな〜」


 夜、お風呂から出て部屋に戻った後の第一声がそれだった。


 お兄ちゃんのクラスとの売上金額で勝負を! って意気込んでた結果の敗北だからか、結構悔しい。


「混むことも予想して回してたから、初日はほぼ同率だったのに〜」


 まぁ、向こうの回転率が悪かった初日にもかかわらず、向こうと同じくらいの売上だった時点で勝敗は決していたのかもしれないけど。


 でも、帰ってきたお兄ちゃんの様子を見るとそんなことはどうでも良かったとも思える。だって、去年までは学校から帰っても笑顔だったことなんてほとんど無いんだもん。

 聞けば、クラスで打ち上げに行ってたそうで、すごく楽しそうに話してくれた。成実さんと付き合い始めた時にもちょぴっとだけ思ったけど、何だか寂しい気もするなぁ……



 そんなことを考えていると、ふと携帯が鳴っていることに気がついた。


「誰だろう? クラスの子かな?」


 そう言いながら見てみると、どうやらお兄ちゃんの彼女さんだった。この人は将来的に――流石に気が早いとは分かっているが――お義姉ちゃんになるかもしれない人だ。


 まぁ、そんなふざけた考えは頭の隅に追いやって。私個人としても好きだし尊敬できる人だ。

 こうはしていられないと思い、先程までとは打って変わって、素早い動きですぐに電話に出る。



「はい、もしもし!」

『もしもし、瑠璃ちゃん?』

「はい、瑠璃です! 何かありました?」

『あ、ううん。ちょっとお話したくなって』


 兄妹だから好みが似るのだろうか。この人の声は落ち着くし、とっても好きだ。


「なるほどです。でも、よかったぁ……お兄ちゃんが何か迷惑をかけたのかと思ってビクビクしてましたよ〜」

『あ、あはは……でも、友也くんにならいくらでも迷惑かけられても大丈夫だよ〜』


 なんだろう。少し歯切れが悪い気がする。あれ、もしかして本当に……


「もしかして、本当にお兄ちゃんが迷惑かけちゃいました? 朝から体調悪そうでしたし……」

『あ、えっと、迷惑って程じゃないし、それに…………寝顔とかも見れて良かった部分もあるけど……』

「へ?」

『あっ、ううん! なんでもない! その、お昼の休憩中に友也くんがフラフラしてたから少しお休みしてもらっただけだよ! うん!』

「そうですか……? って、お兄ちゃん……また無理して……」

『あっ、友也くんのことは責めないであげて。私が気付けなかったのもあるし、午後からまた仕事に復帰するっていうのも止められなかったし……』


 我が兄ながら愛されてるな〜。妹としては少し嫉妬してしまうよ。


「ん〜、成実さんにそこまで言われちゃったらなぁ……とりあえず今度何か奢らせようかなー、なんて」

『ほ、程々にね?』

「えへっ、冗談ですっ」

『ふふっ……あ、ひとつ聞いてもいいかな?』

「はいっ、なんですか?」

『友也くんのことで、帰ってからは倒れたりしてないよね?』

「大丈夫でしたよ。むしろすっごい柔らかい表情して帰ってきたくらいですし!」

『えっ、そうなの?』

「はい! 文化祭も、打ち上げも、とっても楽しかったみたいで! 本当にいい笑顔で……」

『瑠璃ちゃん……?』


 ヤバっ……さっきのお兄ちゃんを思い出して嬉しい気持ちと同時に寂しい気持ちまで声に出てしまった。

 私は努めて元気な声を出して誤魔化す。


「あ、いえ! なんでもないですっ」

『………ごめんね』

「へ……?」

『その、なんて言うのかな……私のせいで瑠璃ちゃんが友也くんと一緒にいられる時間が減って、寂しい思いをさせちゃってるから……』

「な、なんで……」


 なんでこの人はこうやって人の思いに気付いて、心配してくるのかな……

 けど……


『私も家族との時間が減って寂しく思う気持ちは分かるから……って、私のせいなのにごめんなさ――』

「謝らないでくださいっ」

『ぁ……』

「成実さん……私、お兄ちゃんが彼女できたって聞いた時も、今日みたいに楽しそうに話すところも嬉しかったし、大好きなんです」

『うん……』

「それにお兄ちゃんと一緒にいる成実さんも大好きなんですっ!」

『うん……え?』

「確かにお兄ちゃんといる時間が減るのは寂しいですよ? でも、それ以上に! 連絡もなしに1人だけクラスの友達と打ち上げに行って、私は1人で夕食をとった事の方が寂しいし許せないんです!」

『え……え? えっと、でも、私が友也くんのこと独占しちゃってるせいで……』

「あ、それは大丈夫です」

『え、えぇ……』

「ちょっと寂しい気持ちもありますけど、ようやく妹離れしたのかなぁって感じです! まぁ、連絡入れないのはお兄ちゃんが悪いんですけどっ」


 少し嘘をついた。寂しいのは私の方だし、兄離れしなきゃなのは私の方だ。まぁ、お兄ちゃんも私の事大切に思ってくれてるっていうのは節々で感じられる。


『ふふっ、そうだね。報連相をちゃんとしないのは悪いことだね』

「そうですよ! って、ようやく笑ってくれましたね」

『へ?』

「さっきから沢山謝られて、気にしてないのにむしろこっちの方が申し訳なくなっちゃいますよ〜。ごめん、よりもありがとう、の方が私は嬉しいですっ」

『あ、ごめんなさ……じゃなくて、ありがとう』

「はい!」


 ずっと昔、お母さんから貰った言葉。お兄ちゃんは覚えてないかもだけど多分心のどこかには残ってると思う。



「……あ、でも、どうしても気になるって言うなら一つだけ全部丸く収まる方法が……」

『! それってどんな……?』

「お兄ちゃんと成実さんが結婚するって方法……なーんて」

『えっ!? あっ……きゃっ!?』


 そんな成実さんの悲鳴と共にガラガラと何かがぶつかったり落ちたりする音が聞こえた。


「えっ! だ、大丈夫ですか……?」

『だ、大丈夫だよ……ちょっとびっくりしただけだから!』

「そ、それなら良かったんですけど……」

『あはは、いきなり随分先のことを話されてびっくりしちゃったよ〜。これもまた冗談かな?』

「あー、えっと、冗談……じゃないかもです?」

『そ、そっか………えへへ……』

「成実さん……?」

『……はっ! も、もう大丈夫だよ!』

「それなら良かったです……成実お義姉(ねえ)ちゃん?」

『っ!? も、もう! 瑠璃ちゃん!』

「あはは、ごめんなさい」


 お兄ちゃんも成実さんも反応が新鮮でちょっとイタズラしたくなっちゃうんだよね。まぁ、昔お兄ちゃんにやってた時は構って欲しかった部分もあるけど……

 でも、今回のは結構本気だよ? お兄ちゃんが誰かと一緒になるなら成実さんしかいないって思ってるし、むしろ他の人じゃ私が嫌だ。それに、成実がお義姉ちゃんになるのも私としてはとても嬉しい。



 そうして、その後は談笑したり、私の文化祭でのコスを褒められたり、逆に私の方から可愛かったと言うと凄い照れたりして――それが可愛いのなんの――、遅くまで2人で楽しんだ後に寝ることになった。



『それじゃ、おやすみなさい!』

「はい、おやすみなさいっ」


 その日は文化祭の達成感と疲労でゆっくりと寝られた。




 そして翌日。確か、今日はお兄ちゃんが朝食担当だったはずだ。昨日は連絡を怠って、今日は寝坊助で……食の恨みは怖いんだぞ〜。


「にしても起きてこないなぁ……」


 土日に開催された文化祭の振替休日で、今日と明日は休みになるのだが私に特に用事はない。ないものの、お腹は空くし、お兄ちゃんはまだ寝るのなら自分で1人分だけを作る必要がある。


「とりあえず、どっちにしろ起こさなきゃかな〜」


 そう、軽い気持ちでお兄ちゃんの部屋に向かい、扉をノックしてから部屋に入る。


「お兄ちゃん〜、起きて〜……って、うなされてる?」


 夢見が悪いのかな? 寝苦しそうだし汗もかいてるからひとまず起こそうかな。




 その後はちょっとしたやり取りでお兄ちゃんの熱が発覚して、私は今スーパーに買い物に来ている。


「それにしても、いきなり撫でるのは反則だよっ……」


 そのお陰で熱だと分かったし、撫でられるのは好きだからいいんだけども。


「あ、でも、いきなりと言えば、成実さんにしたイタズラのツケが回ってきたのかも……」


 彼女にも昨晩、ちょっとしたイタズラでドキッとさせてしまったけれど、私も私で今朝それが回ってきた。なら仕方ないか……なんて考えながら買い物カゴに必要な物を揃えていると少し先に見知った後ろ姿を見かけた。


「あれは……」



***



「もう瑠璃ちゃんってば……」


 大切な人の妹さんとの通話を終えた後、1人そんなことを呟く。だって……


「いきなりあんなこと言うんだもん! すっごいびっくりしちゃったよ!」


 瑠璃ちゃんとただ文化祭のことを話したかっただけなのに、どうしてああなってしまったんだろう。


「うぅ、恥ずかしい……けど……」


 もし本当にそうなれたなら……


「――ッ!! 〜〜〜!!!」


 ベッドの上で足をバタバタさせて身悶えする。嬉しさと恥ずかしさが混ざりあってどうにかなっちゃいそう。


「と、とりあえず、今日は疲れたから寝よう……」


 その後もなかなか寝付けずにいたが、ふとした瞬間に意識が薄れて眠りについた。




 翌日は普段よりも1時間も遅くに目が覚めた。


「久々だなぁ、こんなにゆっくり眠ったの……」


 そう言いながら朝のルーティンをしてから朝食を作ろうと冷蔵庫を見るとかなり空いていた。


「あ……買い物行かなくちゃ」


 今日のこの後の予定が決まったところで、朝食を簡単に作って食事をとり、支度をしてから家を出た。




 買い物カゴに食材や足りなくなっていた他の物も入れていきながらスーパーを回っていると、いきなり声をかけられた。


「成実さん!」

「え? あっ、瑠璃ちゃん!」

「こんにちは、成実さん!」

「こんにちは! 瑠璃ちゃんも買い物?」

「まぁ、そんなところです。お兄ちゃんが熱出しちゃいまして……」

「友也くんが……? よければお見舞いに行ってもいいかな?」

「あ、ちょうど私の方から聞こうと思ってました! もちろん大丈夫ですっ」

「ありがとう、瑠璃ちゃん!」


 そうして急いで買い物を済ませて友也くんの家に向かう。

 ちなみに1度荷物を家に置きに帰ろうと思ったのだが、心配なのが顔に出ていたのか、買ったものは冷蔵庫に入れておいて貰えるとのことなのでお言葉に甘えた。



 そうして少しぶりに友也くんの家へとやってきたのだった。






 体調不良明けのテストウィークが終わって、その反動でまた少し体調崩しかけてとやってようやく投稿までいけました……!

 主人公とは別の視点ばかり続いてますが、次回からはまた戻っていくかと思います。


 そういえばふと思ったんですが、私って更新頻度の割に文量少ないですよね……ってことで、これからは今までよりも増量していきますよー!

 なんというか、マメに投稿していくよりも週一でどーんとやった方が自分に合ってるようでして……


 というわけで、今回もありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。

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