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131.風邪をひく。そして妹に心配をかける。




 ……ここはどこだ?妙に体が重く感じる。いや、重いどころか全く動かせない。


『友也くん……ごめんなさい。もう私たち別れましょう?』


 ど、どうして……


『お兄ちゃん最低だね……』


 る、瑠璃? お前まで……


 訳の分からないまま大切な人たちが次から次へと離れていく。なんで………結局はみんないなくなるのか?


 心が擦り切れそうだ。現実に考えたくないが、それでもありえないと言い切ることのできない状況の中、背中の汗が妙にリアルに感じられる。


 頭も痛く、身体も重い。そんな中、少し先に僅かな光となんだか俺を呼びかけているような声が聞こえる。


 藁にもすがる思いでそこへ近づき、ついに光に触れることが出来た。





「……っ!」

「あ、お兄ちゃん! 凄いうなされてたし、汗もびっしょりだよ? 大丈夫?」

「る、瑠璃……」

「ん、どうしたの? というか……え、凄い顔色悪いよ……?」

「お前は、いなくならないよな……?」

「え、うん。って、ちょ、いきなり撫でないで! せめて一言言ってからにしてよ……もう……」


 そう言って口では抵抗しつつも、受け入れて俺の手に手を重ねてくる。


 目の前にはちゃんと妹がいる。それだけで心が落ち着く。母さんを失ってから度々見たような夢。そう、あれは夢だったんだ。

 しかも、大切な人が増えたからこそ今回は胸がはち切れそうになった。1人でもいなくならない人がいるというだけで、涙すら出てきそうだ。


「……え、お兄ちゃん?」

「ん? な、なんだ……?」

「と、とりあえず、座って待ってて!」

「あ、あぁ……」


 安心したからだろうか、妙に身体が熱を持っている気がする。そう思い始めると、激しい頭痛や喉の痛みも感じられてきて、息も少し荒くなってくる。



「……お兄ちゃん!」


 あれこれ回らない頭で考えているうちに瑠璃が戻ってきた。


「熱、計ってもらってもいい?」

「あぁ……というか自分でも体調が悪いって自覚してきたところだ」

「だよね。凄い手が熱くて驚いたもん……」


 ひとまず瑠璃から手渡された体温計で体温を測る。すると……


「38度5分……」

「高っ! えっと、とりあえず色々買ってくるからお兄ちゃんは寝てて。いい?」

「あぁ、すまんな……」

「病人は気にしないの! ささっ、ほら横に……なる前に、服着替えた方がいいよね? 凄い汗かいてたし」

「そうだな……そうしよう」


 そうして自分でベッドから出て立ち上がろうとすると、彼女に止められる。


「あ、ストップストップ! 昨日よりも体調悪そうだし、倒れられちゃ困るからお兄ちゃんは座って待ってて!」

「あ……悪い……」

「だーかーら、気にしない!」

「あぁ、すま……いや、ありがとう」

「うん!」


 そう言うと瑠璃は俺の衣類が入っている箪笥からTシャツを取り出して、少し動きが止まる。どうしたんだ? というか、なんの躊躇もなく箪笥を開けたのにも少し驚いたが……


「そういえば背中の汗は凄かったけど、ズボンも変える?」

「あぁ、そういうことか……いや、汗は背中だけだし、とりあえず大丈夫だと思う」

「了解っ。それじゃ、一旦これ持ってて。体拭くタオルと何か飲み物取ってくるよ」

「あぁ、ありがとう」


 彼女は再び部屋を出ていった。

 弱っているからだろうか。その僅かな間が少し寂しく、苦しい時間に感じられる。



 少しして瑠璃が戻ってくると、タオルを渡しながら心配そうな表情で伺ってきた。


「大丈夫……?」

「ん? 体調は結構悪いが……?」

「そうじゃなくてさ。なんだろ……ちょっと辛そうな寂しそうな顔してたからさ」

「……そんな顔してたか?」

「うん……あ、もしかして。1人じゃ寂しかったとか?」


 そう言っていたずらに笑う瑠璃。いや、あまり普段とは変えずに接してくれるのは気遣いが故にだろう。


「いや……いや、そんなんじゃないよ。どこかの誰かさんみたいに、『お兄ちゃん寂しいよ……1人にしないで……』なんて泣きつかないから」

「あー! 幼い頃のを掘り返すのはずるいと思うな! というか! ぶっきらぼうだったけど、結局ずっと一緒にいてくれた優しくお兄ちゃんはどこに行っちゃったのかなー?」


 瑠璃といつもみたく話をしていると、少しだけ回復したようなそんな気がする。病は気からとも言うし、いつも通り過ごして食事もしっかりとるのが治すための1番の近道なのだろう。


「ははっ………ごほっ!」

「あ、もう、調子乗ってはしゃぐから……」

「う……誰のせいだと……」

「む、私も悪かったけど……。とりあえず、体拭いて着替えたら横になって」

「あぁ」


 瑠璃はこちらに背を向け、お互い無言になる。


 昨日の文化祭で無理しすぎたのだろうか。重たい頭を使って少し考える。


 一応、瑠璃に言われた通り休みを貰ったが、その途中でも体調を崩して成実に迷惑をかけてしまった。最後に体調を崩したのはいつだっただろう。


「でもさ……お兄ちゃんが熱出すなんて珍しいよね?」


 ちょうど妹も似たようなことを考えていたらしい。


「そうだな……小学生以来か?」

「だね。その時は私もちっちゃかったし、お父さんが有給取ってた時だったから何とかなったんだよね〜」

「そうだったな……」


 父さんが有給を取ってた時。あの時は母さんがいなくなってすぐで、父さんの心も不安定だったために有給を使って休んでいたのに、俺が体調を崩して迷惑をかけてしまった。


「あの時くらいからか……」

「え? 何が?」

「いや……あ、着替え終わったよ。ありがとう」


 あの時以来、父さんには迷惑をかけたくないと過剰に思ってしまったのか、段々と話をしなくなり溝ができていってしまったと思う。


「そうだね……それじゃ、私は色々と必要なもの買ってくるよ」

「あぁ、ありがとな」

「ううん、それは気にしなくていいんだけど……1人で大丈夫?」

「さっきも言ったが、そんな幼くはないぞ? 自分の調子くらい自分でわかるよ」

「そう言って昨日は朝も、それから昼もフラフラだったんだって?」

「な、なんで瑠璃が昼のこと……」

「夜に成実さんと話してた時に聞いたんだよ。もう、無理しないでって言ったのに……ばかお兄ちゃん……」

「す、すまん……」


 とはいえ、止められていてもある程度は無理していたと思う。しかし心配をかけてしまったのも事実なので、今日は瑠璃に従い、きちんと休んでおこう。


「それじゃ行ってくるけど、何かあったら連絡入れてね?」

「あぁ、そうさせてもらうよ」

「ん、また後で。ちゃんと休んでてね?」

「おう」

「じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 無事に帰ってこいよ。そう、言葉を続けようとしたが、そもそもそんなことが浮かぶのが夢のせいもあってだろう。心配性が過ぎるなと思い、心の中に留めておいた。



 そうして玄関の扉が開く音がして、瑠璃が行ったのだと分かる。


「行ったか……ごほっ、げほっ……」


 瑠璃がいる手前、少し無理をして取り繕っていたが、1人になると喉が痛いせいで咳払いが止まらないし、頭をガンガンと叩きつけてくるような痛みも感じる。


「ああは言ったが、確かに少し寂しいな……」


 そう言って乾いた笑いを漏らす。


「まぁ、自分のせいだし仕方ないか。……寝よう」


 そうして1人、泥のように眠りについたのだった。





 まずお久しぶりです。前回投稿から10日以上ですね……


 んー、体調不良の部分を書こうと思ってた時に、ここ5年くらい熱出たことなくてなかなか想像できなかったんですが、まさかちょうど体調崩すとは思いませんでした。

 とはいえ、その影響もあり、投稿が遅くなったことは謝らせてください。


 ちなみにただの風邪で最近流行りの感染症ではなかったです。



 私情により次回投稿は11日以降になると思います。

 それでは今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします〜。


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