123.夜とゲーム
俺たちは今、リビングで対戦ゲーをやっている。
あの後、サッパリした様子の彼女が風呂から上がってきて、せっかくだからいつもと違うゲームをしようという提案をされたのだ。
その頃には俺も落ち着いており、もちろんその提案を受け入れた。
「むむむ……勝てない〜……」
「結構ギリギリだったし、次は負けるかもしれないな」
「そのセリフももう四回目だよ〜……あとちょっとなのに〜!」
「あはは……まぁ、やるからには負けるつもりは無いからね」
「もちろん! 手加減はしないでねっ。それじゃ、もう一回やろ! 次こそは勝ってみせるよ!」
「あぁ、いくらでも付き合うよ」
そうして夜は更けて……いかずに、次の試合で彼女にかなりボコボコにされ、抵抗する間もなく敗北した。
「あ」
「やった! やっと勝てたよ〜」
「……おめでとう」
「うん! あ……えっと、もう一回やる?」
「よし、やろう。次は負けない……!」
先程までは彼女に対して負けず嫌いだな、などと考えていたが自分の番になると悔しいしもう一度やりたくなる。俺も大概負けず嫌いのようだ。
その後、更に二時間ほど続けてプレイしたが、勝利数は大体同じくらいになってきた。
「次で勝った方が勝ちってことにしない?」
「そうだね、そうしようか」
「あっ、どうせなら勝った方はご褒美があった方が良いかな?」
「あ〜、ならそうするか。勝者になにかご褒美か、敗者に何かお願いができるとかはどうだ?」
「ん、了解っ!」
そうして始まった最後の戦い。
開始からお互い集中して勝ちを奪いに行く。こちらがダメージを与えれば向こうも同じくらいは返してくるし、場外に吹き飛ばしても既のところで戻ってくる。
「……」
「そこ……、よし!」
「っ!」
お互いにあと一撃入れば負けるだろうというところまで来て、膠着状態に入る。
「……」
「……」
「……行くぞっ」
「負けない!」
先に動いたのは俺の方だ。真剣な顔つきでコントローラーを操作する。
こちら同様に彼女も普段のような可愛らしく柔らかいような雰囲気は無く、一プレイヤーとして全力でぶつかりに来た。
フェイントを入れつつ後ろに回り込み、ため技を放とうとしたのだが、彼女に動きを読まれていたようで見事にカウンターを食らう。
「っ!」
見事にそれが決め手となり、そのまま俺は敗北を喫した。
「やった……!」
「くっそ……悔しいなぁ」
「ふふっ。私の勝ちだね、友也くんっ」
「悔しいけど俺の負けだ。行けると思ったんだけどなぁ」
「予想が当たって良かったよ。……それじゃ、友也くん」
「あぁ、約束だからな。なんでも言ってくれ」
そう俺が言うと彼女は少し考える素振りを見せ、先程やっていた対戦ゲームも仕舞われていた場所から一つのソフトを取り出した。
「これなんだけど……一緒にやってくれないかな?」
そう言って彼女が差し出したのは十年近く前に発売された有名なホラゲーだった。
「これか……」
「ダメ、かな……」
「いや、やろうか。でも何でこれなのか聞いてもいいか?」
「うん……昔、お父さんと途中までやったんだけど結局クリア出来ず終いで、でも私一人だと怖くて進められなくて……」
「なるほど……分かった。それじゃ、やろうか」
「うん! あっ、えっと、操作は任せても良いかな?」
「もちろん」
「ありがとう! ちょっと待っててね。準備しちゃうから」
そうして彼女はソフトを入れ替え、起動した。
「始めからにする?」
「俺はどちらでも構わないが……」
「んー、でも、始めからにしよっか!」
「了解」
ゲームの準備を終えた後、彼女は先程まで二人で並んで座っていたソファには座らず、部屋の入口の方へと行く。そして部屋の電気を切った。
「え?」
「ん?」
「あ〜、いや、え?」
「えっと、何かあったかな?」
「あぁ、その、何で電気を?」
「お父さんがこれがセオリーだ〜って……もしかして間違ってた?」
「あ、いや、そうだな。……確かに暗い方が見やすいし雰囲気も出るか。けど……」
「……? まぁ、いっか。始めよ?」
「おう」
彼女はくらい所は苦手だけど、お化けやゾンビが苦手とは聞いたことがないので、もしかしたらそれが原因で一人でプレイ出来ていなかったのでは、と思ったが口には出さずにそのまま開始した。あとで少し後悔するとも知らずに……
ホラゲーとは言うが、このゲームはお化けや妖ではなくゾンビが相手なので、多少の耐性があればあとは突然出てくる時に焦らずに銃を発砲すれば良い……はずだった。
一応、FPSやMMOでプレイヤースキルは多少あると思っていたため、難なく行けるだろうと予想していた。しかし、一番の難関は敵にでは無く味方にいたのだ。
「きゃ!」
何度目かの横からの抱擁。照準がズレたが何とか敵に当たり、事なきを得る。
「ごめんね、友也くん……」
「い、いや、気にしなくていいよ。とりあえずささっと進めようか」
「うん、お願い……」
最初こそゾンビに襲われることと彼女から抱きつかれることで二重に驚いて、幾度とゲームオーバーになったが、ようやく両方に少しずつ慣れてきた頃だ。
彼女が驚いているのは部屋が暗いことが大きな原因だとは思うが、彼女が父親から教えられたことを捻じ曲げてクリアするのは違うと思う。
それに電気をつけて、驚きも減って呆気なくクリアするのはつまらないだろう。
決して役得だ、などと思ってこう考えている訳では無い。
そして、彼女を落ち着けるために頻繁に会話も挟みつつ攻略を進めていると、少しの間自分がまどろんでいたことに気が付いた。
頭を振ってなんとか目を覚まして時計の方を見ると、いつしか日をまたいで、丑三つ時も近づいていた。
「こんな時間か……」
テスト期間でたまに起きていることはあるが、基本的には早寝を心掛けているため、自分が寝そうになっていたことにも納得が行く。
そう考えていると、肩に少し重みを感じた。
「すぅ……すぅ……」
「……はは」
俺の腕にしがみついた状態で肩に頭を乗せて完全に寝ている彼女がいた。
そんな姿を見ていると思わず笑みが零れ、そして自分も気が抜け瞼が重くなっていった。
その流れに身を任せ、俺も深い眠りに着いたのだった。
時間無いなりにやりたいことをやりつつ、この作品の完結までのルートを考えている今日この頃……
途中で諦めることはしたくないです。
それでは今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




