118.文化祭決め
十月の試験明けに行われる文化祭ではクラス単位で何かをする。何をするか決めるために、俺と成実は教室の前へと出ていく。席替えでざわついていた教室はしんと静まり返った。
「みんな注目! えっと、この時間をお借りして来月の文化祭で何をやるか決めていきたいと思いますっ。意見がある人はどんどん言ってください!」
授業初めの担任の話を忘れていたのか疑問そうに俺たち二人を見ていた生徒も、成実の呼びかけで思い出したようだ。
そして静かだった教室に再び音が戻ってくる。
「やっぱお化け屋敷!」
「それな!」
「縁日みたいなのやってみたいな〜」
「外で屋台やるのもいいんだっけ?」
「多分いいはずだよー」
近くの席の友人と相談したり、早速意見を出してくれる生徒もいた。成実が意見を纏め、俺が黒板へと書いていく。いつになくみんなテンションが高い気がする。
「文化祭と言えばメイド喫茶だよな!」
「うわぁ……」
「意見出しなんだから別にいいだろ!?」
「あっ、だったら執事喫茶とかもいいよね! 松村くんとか和泉くんとかかっこいいし!」
「結局は顔なんだよな……」
「そう落ち込むなって。お前だってかっこいいからな」
「男に言われてもな……」
「おい」
と、そんな感じで意見があらかた出尽くした。その後、一度多数決を取ってみたのだが……
「メイド喫茶と執事喫茶がちょうど十七人ずつか」
「ちょうど男女で割れたね〜」
まぁ、クラスに学年一の美男美女が居ればこんな結果になるのも納得か。
「委員長たちはどれがいいとかないの〜?」
「えっ、私たち?」
「確かに! 二人の意見で決まるかもだし!」
「えっと、私は……と、友也くんはどれがいいっ?」
「俺か? 俺は強いて言うなら……成実のメイド服姿は見ていたいかな……」
「っ、わ、私も友也くんの執事姿は見たいよ……?」
「っ! ……あ」
「え……?」
教室の、しかも全員の視線があることを忘れていた……
横に視線を向けるとクラスメイトからの暖かい視線や、にまにまとしたような笑顔が見えた。しかも晃と白雪はすぐ目の前にいるし……
「と、とりあえず! 俺たち二人の意見が入っても二つが同率だ!」
「……! そ、そうだねっ。でもこれじゃ決まらないね……」
「神崎、一ノ瀬」
「は、はい、先生! どうかしましたか?」
「全員視野が狭まっているようだが、二つ一緒じゃダメなのか?」
「「あ」」
俺たち二人、いやクラス中の声がハモった気がする。教室の後方で生徒のやり取りを眺めていた先生だったが、良い案を出してくれた。
クラスを見回すと、白雪や松村辺りは気付いていて男女でどっちの方が良いという主張のやり取りを見ていた気がする。
何はともあれ丸く収まりそうで良かった。
「なら先生の案で良ければ決定するが、反対意見、もしくは別の意見とか案はあるか?」
「はい!」
「晃か……反対か?」
「いや、反対じゃなくてな。いっその事メイド、執事に縛られなくてもいいんじゃないかと思ってな!」
「というと……コスプレみたいな感じってことか?」
「そうだな。まぁ、大層なものじゃなくても、例えば猫耳だけ、とかそういうのだな!」
「……猫耳」
「ん? どうかしたか?」
「あ、あぁ、いや、なんでもない」
猫耳と聞いて少し前の彼女のそれを思い出してしまった。俺は一度咳払いをして気を取り直す。
「あれ、成実も少し様子が変だね?」
「大丈夫、神崎さん? 顔赤いよ?」
白雪の言葉に続いて、成実の様子に気づいた他のクラスメイトも成実の方へと注目する。恐らく彼女も同じことを思い出して恥ずかしくなっているのかもしれない。
「だ、だだ大丈夫だよ! 気にしないで!」
「そうかい?」
「そう! うん、ほんとに!」
「ふふふっ……まぁ、とりあえず私も晃の意見には賛成だ。せっかくなら和風メイドとかもやってみたいかな」
「白雪さんの和風メイド……」
「絶対似合うだろ!」
「神崎ちゃんは普通のメイド服かな? なんでも似合いそうだよね〜?」
「めっちゃ分かる!」
という訳で色々と意見が出た結果、今年の文化祭ではクラスでコスプレ喫茶をやることになった。ちなみに成実になんでも似合いそうなのは俺も同じ意見だ。
『今日のうちに決められて良かったね!』
「あぁ、そうだな」
家に帰った後、いつものように彼女と電話をする。
「まさか晃からピンポイントであんなことを言われるとは思わなかったけどな……」
『そ、そうだね。すっごい動揺しちゃったよぉ……』
「白雪は多分、猫か猫耳で何かあったって気付いてそうだよな……」
『うぅ……で、でも何があったかは分からないだろうし、気にしたら負けだよね!』
「そうだな……えっと、そういえば成実は何か着てみたい衣装はあるのか?」
『私? 私は……シンプルなメイド服も着てみたいし、華ちゃんの言ってた和風も気になるかな……それにコスプレってことは全然違う衣装でもいいんだよね?』
「まぁ、そうなるのかな。でも成実なら本当になんでも似合いそうだよな」
『えっ、そうかなぁ?』
「あぁ、もちろん。色んな衣装の成実を見てみたいな」
『っ……ち、ちなみに! 友也くんは特に何を来て欲しいとかあるかなっ?』
「俺の意見か? そうだな……猫耳メイドとか?」
『うっ……もう、友也くん!』
「ははっ、冗談だ」
絶対可愛いのもそうだが、昼のこともあってか脳裏に彼女の猫耳姿が浮かんでしまい、それに引っ張られた。
「逆に聞くが、俺に着て欲しいとか、似合いそうなのってあるか?」
『友也くんに? う〜ん、そうだなぁ……執事服は来て欲しいし、しっかりとした和風とかも似合いそうだなぁ……他にも………あっ!』
「どうかしたか?」
『文化祭のことで大事なこと聞き忘れてたよ……』
「大事なことって?」
『クラスに料理できる人がどれくらいいるのか……もし少数だったらローテなんかを考えると、衣装をどうするか以前にずっと裏方かもしれない……』
「そう、だな……」
クラスのみんなのテンションが高いなんて思っていたが、自分たちも意外と浮かれていたのかもしれない。
その後は文化祭のことで他にも忘れていることがないかの確認や、今後の予定などを話し合ってその日は終了した。




