114.幼馴染と恋人
〈晃視点〉
神崎さんが友也の手を取って人混みへと駆けて行った。友也たちは頼んでいたことを実行してくれたようだ。
「おや、成実と友也は……? いや、そうか。二人も恋人同士だから追いかけるのはやめておこうか」
「そうだな。なら、こっちはこっちで回るか!」
「あぁ、そうだね」
そのまま華と一緒に祭りを回っていく。
今はまだ幼馴染だけど、今日想いを伝える。それで関係がどう変わってしまっても後悔するつもりは無い。
と、考えてから一時間ほど経った。以前にも何度も伝えようとして、直前になって臆病になってしまう。
「はぁ……」
少し前にいる彼女には気付かれないように小さく息を吐く。
幼馴染の関係が心地良く当たり前になりすぎて、これがいつまでも続くんじゃないかと錯覚してしまい、どうしても一歩を踏み出せない。
……いや、踏み出せなかった。けど友也たちに協力してもらって、今日こそ決めると覚悟をして来たんだ。今更日和るわけには行かない。
「あのさ――」
「晃」
「……なんだ?」
「晃は、何か話があるのかな?」
「っ!」
「何年幼馴染をしていると思ってるんだ。何となく分かるさ」
「そうか……いや、そうだな」
「あぁ。それで、私も話がしたい。少し移動しないか?」
「おう」
そうして華と共に神社の裏手側に移動する。神社正面の方の喧騒とは打って変わって、しんと静まり返っている。
しばらく二人の間には沈黙が流れる。
「……友也も協力者かい?」
「あぁ、そうだ。気付いてたのか?」
「ちょっとした違和感だよ。まぁ、私も人のことを言えないけどね」
「……?」
「晃。私は、今のこういうなんでもないような時間も好きだよ」
「そうか……。俺もだ。俺も、他愛ない時間やふざけあったりする時間が好きだった」
嘘だ。今も変わらずそんな時が大好きだ。だけどそれを言ったら、もし言ってしまったら今度こそ覚悟が揺らいでしまうかもしれない。
華はもしかするとこの関係を崩したくないのかもしれない。俺も、ずっと続くのならそれでもいいと思う。
けど、関係が変わったり、続けたくても崩れてしまうというのはよく知っている。華の家は長年かけていい方向へと変わったが、友也の家は小学生の時には崩れてしまった。
友達のそんな姿は見たくなくて華や友也に声をかけたが、今から俺は、自ら大切な関係を壊そうとしている……
「……っ!」
本当にこれでいいのか……? もっといい方法や全部が上手くいく関係はないのか……? 俺はしっかりと考えたのか…………?
「晃」
「っ!」
「落ち着いて」
華の少し冷たく細い手が俺の頬を包み込む。
「晃が助けてくれなければ私も友也ももっと悪い方向へ行ってしまったんだよ? 大丈夫だ。晃の選択がどんなものであれ、私は一緒にいる。何があっても幼馴染は変わらないんだよ?」
そう言って、優しさのある小さな笑みを浮かべる華。
いつもこの大切な存在が隣にいたから自分のしたいことをしたり、言いたいことを言えていた。結局、いつも俺の方が助けられてばっかりだ。自分勝手かもしれないが、だからこそ……
「俺は華とずっと一緒にいたい。幼馴染の関係は居心地が良くて崩したくなかったけど、いつしかそれだけじゃなくて華が俺の中でもっと大切な存在になっていたんだ」
幼馴染のおかげで一緒にいれたけど、幼馴染のせいでこの気持ちに気付くのが遅くなった。だけど、それももうおしまいだ。
「華、お前のことが好きだ……!」
今までの好きは友として、幼馴染としてのものだった。しかしこれは一人の男としての想いだ。どう思われるかとても怖いが、それと同時に僅かに期待してしまう部分もあり、彼女の目をしっかりと見る。
「……ようやく、言ってくれたね」
「え……?」
しかし返ってきたのはそんな言葉だった。
「私も好きだ。ずっと、ずっと好きだったんだよ……。気付いてなかったのかい?」
そう言いながら、彼女はその綺麗な瞳から一筋の涙を零す。
「あ、あぁ」
「まぁ、ずっと幼馴染として一緒にいたからね。多分だけど、好きの区別がついていなくて、夏くらいに気付いたのかな?」
「うっ……」
「夏に入ってから少しよそよそしかったからね。ようやく女子として私を見てくれたのかって思ったよ。自分の好きに気付いた後、晃から幼馴染としか見られてないって分かった時の絶望感は結構応えたよ」
「す、すまん……」
「でもこうして言ってくれたから許すよ。まぁ、もし言われなくても私から言うつもりだったんだけどね」
「そ、そうなのか?」
「あぁ。成実にも頼んで二人きりにしてもらったしね」
「……え? マジですか?」
「マジです」
華はニッコリと笑ってそう答える。色々と情報が渋滞して頭が回らない。いつから好きだったのかとかいつから気付いていたのかとか、あと神崎さんに頼んでいたこととか。
「それで、晃はどうしたいんだい?」
「え?」
「好きだとしか言ってないだろう?」
「それはそうだが……幼馴染なら分かるだろ?」
ここに移動する前にもそう言われた。
「ふむ、言ってくれないと伝わらないこともあるんだよ? うちの家の時みたいに」
彼女の家のいざこざは正面から話し合ったことで解決した。というか話してこなかったからこそ伝わらずに、面倒臭い方へと拗れていった。そんな彼女にそう言われると反論できない。
「それにさっきも言ったけど、どんな関係になろうと幼馴染であることは変わらないんだ。さぁ、がんばれ、男の見せどころだよ?」
「あぁー、もう分かったから! 好きだ! 華のことが好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
「……ははっ、ありがとう」
もしかしたら幼馴染の彼女って弱みなんかも知られているから彼氏の立場弱いのか……? なんて危惧をしていると、
「これは私の返事だ」
そう言う彼女の方を見ると、いつの間にか顔が目の前に来ていて……
――チュッ
「なっ……!」
「もちろん『はい』だ」
ずっと一緒にいて、楽しいものも苦しそうなのも含めて全ての表情を見てきたと思っていたが、今彼女がしている艶めかしさのあるとても魅力的な顔は見たことがない。
「もう幼馴染としてはお互いのことを十分に知っているんだ。これからは恋人として新たな一面を見せてくれ」
先程は弱いのかもしれないと思ったが、これは間違いなくとても弱い。これから付き合っていく中で弱点を挙げられたら逆らえないと思うし、いわゆる尻に敷かれるかもしれない。
だとしても彼女とずっと一緒にいられるのならそんなことは気にならないと思う。
それに俺だって彼女のことは十分に知っている。しっかり者だけどいたずらなんかも好きで、凄く人見知りで本当は寂しがり屋で愛に飢えていると。
今後は俺が隣で彼女を沢山愛していこうと思う。何にせよ、これからの日々が楽しみだ。
次回白雪回想です。過去のこと、家の事とか書きたいことが沢山あるけど削りに削って一話で終わらせます!
それでは今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




