113.射的
「金魚すくいやヨーヨー釣りでは惨敗だったけど、射的なら……!」
隣で意気込んでいる成実。ネットゲームのセンスは良いが、屋台での遊びは今のところ負け続きである。まずは手前の景品目掛けて銃を放つ。
「当た、れっ!」
ポンッ、という音と共に射的用の銃からコルクが飛び出る。
初めこそ真っ直ぐ飛んだかに見えたが、段々と軌道が逸れていき、的とは離れたところに玉は飛んで行った。
「十センチ右……次こそ……!」
先程の軌道から予測し、銃の方向を変えてから再び放つ。しかし、今度は反対方向へと逸れてしまう。
五個の玉を撃ち切り、少し悔しそうに「むぅ」と唸る彼女。
「次は俺がやってみるよ」
「うん、頑張って!」
小さい的で高い位置にあるゲーム機などの豪華景品もあるが、狙うは中央付近にある簪だ。
白雪が付けてきたのを見て、成実がしたらどんな風になるのかと思っていたのだ。自分本位だとは思うが許して欲しい。
腕を伸ばして狙いを定める。
「よし、行けっ」
しかし玉は狙いから右に逸れて、たまたま他の的を倒した。
「! 友也くん、当たったよ!」
「完全にまぐれだな……何が当たったんだ?」
「おっ、おめでとう。ペアの猫のストラップだな!」
射的屋のおっちゃんからそう告げられ、景品を渡される。
「ペアの……」
「猫のストラップ!」
予想外の物が取れたが、彼女が喜んでくれたので良かった。
「あと四発あるがやっていくか?」
「じゃあチャレンジだけさせて下さい」
「あいよ!」
たまたまとはいえ景品を取れた事で少しリラックスした状態で残りの四発を挑む。
しかしそう簡単には当たらず、三発続けて見当違いの方向へと飛んでいってしまった。
「ラスト一つ……」
「友也くんっ、頑張って!」
「あぁ!」
ゲームの強ボスに行く前みたく、深呼吸をしてから銃を構える。
「当たれ!」
ゆっくりと引き金を引き、それに伴って玉が飛び出る。
少し銃口が上を向いていたのか思ったよりも上へと飛んでいき、諦めかけたところで玉が下降を初めて、狙い通りの的へと吸い込まれていった。
「当たった……?」
「うんっ、当たったよ!」
上から下へと向かっていったことで左右のズレが少なかったのだろう。狙いのものを射的のおっちゃんから受け取る。
「これは成実が貰ってくれ」
「これって……簪?」
「あぁ。白雪が付けてるのを見て、成実も似合いそうだなって思ってさ」
「今付けてもいいかなっ?」
「俺はいいんだが、成実こそいいのか?」
「大丈夫! こうやって、ちょっと変えれば……っと!」
元々あった編み込みを使って、後ろで簪に絡ませて先程とは少し違うお団子にする。
「器用だな……」
「家になかったんだけど、簪を使ったヘアアレンジも気になってたからねっ。それで……どうかな、似合ってる?」
「あぁ、凄い似合ってるし可愛いよ」
「ふふっ、そっか〜……えへへ……」
そう言って破顔する彼女。その笑顔がとても眩しかった。
「はっはっ、いいカップルじゃねぇか」
「っ、はいっ、自慢の彼氏ですっ!」
「っ! ……自慢の彼女です」
自慢の彼氏なんて言葉、こんな所で言われるとも思わず、しかも腕を掴まれた状態で言われたので、ものすごく嬉しいような恥ずかしいような。
そのまま射的屋を後にし、他の屋台へと移動する。ちなみにはぐれたら不味いということで腕は組んだままだ。祭りの雰囲気で俺も彼女も少々浮かれているのかもしれない。
「あっ、お兄ちゃん」
引き続き祭りを楽しんでいると、ふと聞き覚えのある声が耳に入る。案の定、そこには妹の瑠璃とその友人らしき人たちがいた。
「やっぱり瑠璃か」
「こんばんは、瑠璃ちゃん」
「成実さん! こんばんはっ。デートの邪魔しちゃったかな?」
「ううん、気にしないで大丈夫だよ」
「この人が瑠璃ちゃんのお兄さん……」
「美男美女カップルね……。というかすっごい仲良さそう……」
「優しそうだし、瑠璃ちゃんが大好きなのも分かるわぁ〜」
「ちょ、ちょっ! 何言ってるの!?」
「だって暇があればお兄ちゃん自慢するじゃない? まぁ、最近はお兄ちゃんの彼女も凄く良い人だって話してるけど〜」
「な、成実さんはともかく! お兄ちゃんは別に普通だから!」
「ブラコンよね?」
「ブラコンね」
「もぉ! お兄ちゃん、成実さんまたね! ほら、皆ももう行くよ!」
「お、おう?」
「ま、またね〜?」
台風がごとく、瑠璃とその友人が立ち去っていく。というか無いとは思っていたが、裏で実は妹から嫌われているということも無くて良かった。
「友也くんも瑠璃ちゃんのこと好きだけど、瑠璃ちゃんも友也くんのこと大好きみたいだねっ」
「まぁ、そうだな……」
というか……
「腕組んだままだったな」
「……へ? あっ、あっ!」
瑠璃の友人に仲良さそうと言われた辺りで成実と腕を組んだままだったことを思い出した。そのせいで彼女らとの会話内容は全て頭に入った訳では無い。
「まぁ、気にしても遅いか」
「そ、そうだね……まぁ、ちょぴっと恥ずかしいけど、もちろん嫌じゃないよ?」
「そ、そうか……」
そうして少し頬を染めつつ、再び二人で歩き始める。彼女の頬も赤くなっていたが、それが屋台からの眩いほどの光の反射なのか、彼女が照れているからかは分からない。
そうして俺と成実は夏祭りを思う存分楽しんだ。もちろん腕は組んだままで。
次はあの二人の方です。そうですあの二人です。
はぐれた後からのどちらか視点を書きます。二人の関係はどうなってしまうのか。果たして華の想いは……
次回、夏祭り編後編です。




