108.相談事
以前からの約束で、明日は成実の家で新作のゲームをする。それに備えて早めに寝ようと準備をしていると、充電中のスマホが鳴った。
「どうした急に?」
『いきなりで悪い。前に聞かれたことで華と意見が一致したから早めに伝えようと思ってな!』
「もしかしてあの件か?」
少し前に晃と白雪に誕生日会ではどこで何を食いたいか聞いていたのだが、恐らくその件だろう。
『おう! 十八日前後に友也の料理をお願いしてもいいか?』
「あぁ、大丈夫だ」
『ありがとな! それから、華からの伝言なんだが』
「何か注文か?」
『ある意味注文だな。瑠璃と成実さえ良ければ、その二人も友也と一緒に作って欲しいってさ』
「あ〜、そういえば白雪は体育祭の時にも成実の手料理が羨ましいとか言ってたな」
『こういう機会でしか頼めないからって言ってたぞ。それじゃ、必要な用件はこれくらいかな』
「その言い方だと必要じゃないのは残ってるみたいだが?」
『はは、そうだな……』
晃は少し歯切れが悪そうにしながら、言葉を続けた。
『夏祭り……一緒に行かないか?』
「……は?」
『あ、いや、勘違いするなよ? 俺と華、友也と神崎さんの四人でだ!』
「あぁ、そうだよな。はぁ……変な言い方するなよ」
『いや、友也が勝手に勘違いしたんだろ!? 俺にそっちの趣味はない!』
「分かってる。分かってるから落ち着け。というか晃と白雪はもう付き合ってるのか?」
『……付き合ってたら他のカップルを誘うと思うか?』
「ダブルデートとかなら……まぁ、理解したよ。それで、告白するから協力して欲しいって感じか?」
『あぁ、すまんな』
「いや、俺の時も相談に乗ってもらったし気にするなって」
そうして晃の考えを聞く。
内容はこうだ。最初は四人で行き、途中ではぐれてから告白するという物だった。
「まぁ、そうなるよな」
普通に呼び出して告白とか、さり気なく言えるのなら協力を求めることも無いだろうし、そもそも既に幼馴染の関係でなかったはずだ。
「明日成実の家に行くから、その時に料理の件と併せて聞いてみるよ」
『おう、助かる!』
「さっきも言ったが、気にするな。お前にも恩がありすぎるしな」
『俺にも?』
「あー、いや、気にしないでくれ」
晃に白雪、瑠璃や父さん、もちろん成実にも多大なる恩がある。思い返せば俺は人間関係にとても恵まれていたと思う。
『まぁ、そういうわけだから頼むな!』
「おう、任せてくれ」
『ありがとな、友也!』
そうして通話を終える。明日の話す内容が増えたとは思いつつも、友人のために何か出来ること、それから彼女の家で明日遊ぶことに胸を弾ませながらその日は眠った。
そして翌日、昼過ぎに彼女の家に着く。今回は彼女の母親は仕事が再開したため、うちの父さん同様に仕事へと出かけている。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、友也くん!」
数日ぶりに見る彼女は相も変わらずとても魅力的だ。
そうして彼女の部屋に通され、パソコンに事前にダウンロードは済ませているらしいので早速ゲームを開始する。
アストラル社の新作、『Freedom History』。高難度を売りにしようとして、ドロップ率や各種調整を間違えた前作とは違い、今作では自由度を売りにしていくらしい。
その中で高難度や周回要素もあるそうだ。そういったゲームはありがちではあるものの、自由度は飛び抜けて凄いとの前情報だ。
「おぉ、自由度って言ってたけど、キャラメイクから凄いな」
「本当だね……髪型だけでも何十種類あるんだろう……」
「まぁ、手は抜きたくないししっかり作ろうか」
「そうだね!」
時間はかかりそうだが、片手間に話は出来そうだ。今のうちに相談事をしてしまおうか。
「成実。作業しながら聞いてくれていいんだが、いくつかいいか?」
「うん? 大丈夫だよっ」
「ありがとう。まず一つ目なんだが、来週晃と白雪の誕生日会を俺の家でやることになったんだが、成実さえ良ければ料理作りを手伝ってくれないか?」
「和泉くんが十八日、華ちゃんが二十四日だったから……和泉くんの誕生日にするってこと?」
「あぁ、そうだ」
「私が手伝ってもいいの?」
「もちろん。それに白雪からの注文で成実と瑠璃の手料理も食べたいらしい」
「それならやらせてもらうよ!」
一つ目は快い返事を貰えた。次は二つ目だ。ちなみにだが、俺の方のキャラメイクは半分程終わった。
「二つ目なんだが……」
「うん、何でも言ってね?」
「何でも……ってそうじゃなくて。二十四日に近くで祭りがあるんだが、そこで成実に協力して欲しいことがある」
「協力?」
「あぁ。晃が……いや、晃たちと四人で祭りに行って、途中で自然に二人ずつに分かれたいって晃から相談されたんだ」
晃が告白するから協力してくれ、なんて言おうと思ったが、白雪と成実はよく電話で話しているらしいし、鋭い白雪に万が一にもバレることがないようにしたい。
というか口に出したことで気付いたが、二十四って白雪の誕生日か。
「えっと、どうして? あ、いや、協力が嫌とかじゃないよ? ちょっと気になっちゃって……」
「そうだよな……。あー、晃から白雪に何か大切な話があるらしいんだけど、こういう機会でしか言えないらしいんだ」
らしいばかりだし、こんな言い方だと気付かれたかもしれない……
そう思いつつ、成実の方を視線だけで見る。
「んー、分からないけど了解したよ! 和泉くん、ちゃんと言えるといいね!」
「あ、ありがとう、成実。……そうだな。晃には頑張ってもらいたい」
何とかバレてないように見える。晃たちと故意にはぐれた後は成実と二人で祭りを回ることが出来る。白雪にもバレないようにしつつ、俺もしっかりと晃の頼みを遂行しよう。
「あと、最後に一つあるんだが……って、ひとまずだがキャラ完成できたよ」
「えっ、もう少しで終わるからちょっと待って欲しい!」
「一緒に始めるから大丈夫だよ。それで、最後の話なんだが、来月で付き合ってから半年だろ?」
高一の時の三月に付き合い始めて、九月で半年だ。
「半年を記念って言うか、これからもよろしくって意味でお祝いみたいなものを二人でしたいと思ったんだが……成実?」
「……」
「もしかして嫌だったか?」
「そん…………い」
「え?」
「そんなことない! やろう、是非やろうよ!」
「お、おう」
想像以上の食いつきっぷり。今まではやってなかったが成実が忘れていた訳もないし、もしかすると……
「……遠慮してたのか?」
「……」
「言ってくれれば………って思ったけど、旅行の時も不安に思わせてたり、今までは会話が足りてなかったな……」
これからはしっかりと相談していこうと思って、今回の件も自分で却下したりせず、成実と話そうと思った。
「……そうかもしれないけど、でもそれはこれからもっと話していけばいいんだよっ。それから、記念の件は遠慮じゃなくて……友也くんに重い女って思われたくなかったからなんだ」
「重いって愛がってことか? それならいくらでも構わないが……」
「そうだけど、そうじゃないの! その……何ヶ月刻みでお祝いしたり、カレンダーに今日は初めてキスした日とか書いてるのがバレたりして、万が一にも嫌って思われたくなかったの……」
そんなことで嫌うはずないし、むしろ愛されていると感じて嬉しく思う。というか今の後半部分って聞かなかったことにした方がいいか?
「告白の時も一ヶ月待たせたりなんてことしちゃったから、付き合い始めたばかりは少し臆病になってたんだ……」
「ということは今は違うのか?」
「うんっ。友也くんはずっと一緒にいてくれるって分かったし、お祝いも半年か一年経った時にはしてみたいなって思ってたよ? だからさっきはあんなにがっついちゃったけどね……」
「ははっ、そうだったのか……良かった……」
「良かった?」
「あぁ。無理して遠慮させてたり、今回の件も嫌だと思われてなかったのが分かったからな。それに本当に愛されてるなって思ってさ」
「うん、当たり前だよっ。友也くんのことは心から愛してるもん」
「っ! い、いきなりは、ずるい……」
「え? ……! わ、私何言って……!」
二人して顔を赤く染めてわたわたとする。
好きと言われること以上に愛してるの威力が凄いということに気が付いたが、今はそれどころじゃない。心は一向に落ち着く様子がなく、心臓はむしろドキドキしていっている。
「……あれ? そういえば、さっき私、勢いで何か変なこと言わなかったかな?」
少し経ってようやく心が落ち着いてきた頃、彼女も大分落ち着いたのかそんなことを言う。
変なこと、というかカレンダーのことは知らなかったが、その事だろうか。まぁ、ここで伝えても良いことにはならないだろう。
「気のせいじゃないか? それよりもキャラメイクはあとどれくらいだ?」
「あっ、もう終わるよ!」
難なく話は逸らすことができた。では再び彼女が思い出す前にゲームを始めよう。
お久しぶりです。
今月中はひとまず二、三日おきくらいに投稿出来ればいいなって思ってます。来月近くになればまた予定も落ち着くはずなので……
ゲームの内容考えていて思ったのですが、自由度の高いMMOやりたいなぁ、と。まぁ、時間に余裕が無いのであったとしてもできませんがね……あはは
それでは今回もありがとうございました。また次回更新でお会いしましょう。