11.プレゼントと勉強会 前編
翌朝、アラーム音で目が覚める。しばらくしてようやく頭が冴えてくるが、眠気はかなり残っている。
「結局4時間くらいしか寝てないな……」
そう、俺は成実への日頃の感謝にプレゼントを渡すことにしたのはいいが、なかなか内容が思いつかずに頭を悩ませていたため、眠りについたのはかなり遅くになってしまったのだ。
「とりあえず顔洗って飯食うか」
そうして目を覚ますために顔を洗い、リビングに行くと妹の瑠璃が朝食を作っていた。
「お兄ちゃんおはよ!」
「あぁ、おはよ……」
「えっ、凄い隈だよ? どうしたの?」
「いや……そうだな、瑠璃は誕生日にプレゼント貰うとしたら何がいい?」
一人で悩んでいても埒が明かないと思い唯一、俺が聞くことの出来る女性である瑠璃に質問をしてみた。
「え、誕生日に? うーん、今の私は受験の合格が欲しいかな?」
「そうか……まぁ、そうだよな」
「えっと、誰かにプレゼントするの? あっ、もしかして最近色々やってる彼女さんにかな?」
そう言っていたずらに微笑む瑠璃をジト目で見てから答える。
「そんなんじゃないって前にも言ったろ。ただ日頃の感謝に何か渡したいなと思ってさ。そいつ誕生日も近いし」
「そっかそっかー。んー、ならデートに誘ってみてはどうでしょうか?」
「いや、お前っ……瑠璃に聞いた俺が馬鹿だったか……」
「もぉー、失敬なー!」
そう言ってポコポコ叩いてくる瑠璃を適当にあしらい、朝食を済ませてしまう。そして瑠璃が学校に向かった後、一人呟く。
「デートか……。行けたら楽しいんだろうな……って何言ってんだ俺! さっさと学校行くぞ」
妹に変なことを言われたせいで意識してしまったが、頭を振り学校へと駆け出す。
学校に着くと珍しく晃が先に着いていた。
「おはよう晃」
「おー、友也か。おはよう、ってなんだその隈は?」
「あー、いや、ちょっと寝不足でな。そうだ、晃は日頃の感謝に何かプレゼントを渡すとしたら何を渡す?」
自分も妹もいい意見が浮かばなかったため、交友関係が広い晃に質問をしてみる。
「ん? 瑠璃ちゃんか? あの子ならお前と出かけたりしたら喜ぶだろ」
「いや、違うぞ?」
「そうか? なら誰なんだ?」
「それは……」
誰だと聞かれ、晃になら答えてもいいかもとは思ったが、ここは教室で誰に聞かれているか分からないため言葉に詰まる。
「んー、そうだ! こういうのはどうだ?試験も近いし友也の家で今日勉強会して、そのお返しとしてお前の質問に答える。ここでは言いにくいんだろ?」
そう言って晃が提案してくる。ここでは言いにくいのもバレてるのは流石晃って感じだな。
「あぁ、それで頼む。放課後直で家に来るか?」
「おう、数学と化学の計算問題とか教えてもらえれば助かる!」
「了解。任せとけ」
そうしてその日の学校が終わり、放課後になる。
「それじゃ、行くか」
「おう、今日はよろしくな、友也先生!」
「何言ってんだよ」
「ははっ」
そして二人でふざけ合いながら俺の家へと向かう。
「ただいま」
「お邪魔します」
「おかえりお兄ちゃん! あっ、晃さんも来たんだね?」
「おう! 久しぶり、瑠璃ちゃん」
「うん! 久しぶりだね!」
「今日は俺の部屋で晃と勉強することになったんだ」
「了解したよ! 私はリビングで勉強しとくから何かあれば声かけてね〜」
そう言いながら瑠璃はリビングに戻る。元々瑠璃と晃は仲が良かったな、などと思い返しながら俺は靴を脱ぎ、部屋に向かう。
「ふぅ、それで友也は何があったんだ?」
「いきなり聞いてくるか……」
「後回しにしても言いにくくなるだけだろ?」
「まぁ、そうだな」
一応成実ということは伏せて伝えることにする。
「……日頃お世話になってる女子に何か恩返しとしてプレゼントでも渡そうと思ってるんだ。俺も瑠璃も経験が少なくてな」
「んー、日頃お世話になっている女子ねぇ……」
そう言って少しニヤついてる晃に少しムカついたので悪態をつく。
「なんだよ」
「いやぁ、別に?」
「言え。数学間違った解法教えるぞ?」
「それは酷くねぇか!?」
「分かったよ。お前の言ってる女子ってもしかして神崎さんか?」
「なっ!? なんでそこで神崎さんが出てくるんだよ」
言い当てられたことに一瞬動揺してしまうが、冷静を装う。しかし、晃のことだ。おそらくある程度確信を持って言ってきたのだろう。
「まず、普段は自分からはあんまり挨拶しない神崎さんが友也と俺にだけ自分から挨拶してきた」
「それはたまたま目が合ったからだろ」
「次に授業中に友也がチラチラ神崎さんの方を見ていた」
「い、いや、ていうかお前前の席だろ? なんでこっちの目線なんか分かるんだよ」
「プリント渡す時に後ろ向いたら友也の目線が神崎さんの方向いてたから気になってちょくちょく見てたんだよ」
「真面目に授業を受けろよ……そんなんだから理系科目ダメなんだぞ」
「ゔっ……まぁ、他にもいくつか心当たりはあるが、実際はどうなんだ?」
授業中に必要以上に後ろを向いていた晃には呆れるが、これ以上否定しても、もう疑念から確信に変わってるであろう晃には何を言っても無駄だと判断した。
「あぁ、そうだよ。神崎さんに感謝を伝えたいならどうすればいい?」
「ようやく言ったなぁ〜。しかし、友也にも春が来たかぁ!」
「なんだよそれ。というかそんなんじゃないからな」
「またまた〜。それに向こうも満更でも……いやこれを俺が言うのは違うな」
「ん? どうかしたか?」
「いや、とりあえずプレゼントだっけか?」
「あぁ、そうだ」
晃は少し考え込んでしまう。何でも持ってそうだし、色々と貰っていそうな成実へのプレゼントと聞いて、迷うのも無理はないなと思った。
そして、少ししてから晃はとんでもないことを口にする。
「うん。デートにでも誘ってやれ」
「……は?」
晃とは小学生以来の付き合いで、瑠璃とも面識があったりします。裏表のない性格で、気遣いもできて良い奴だからこそ、当時、人を避けがちだったぼっち気味な主人公とも仲良くなっています。ちなみに瑠璃のことは親戚の妹に接してる感じですね。