107.犬と猫、妹と彼女
迎えた当日。流石に一日で二つ行くのは時間的にもそうだし、動物は匂いに敏感かもということで、二日に分けて行くことになった。そうして先に瑠璃と行くことになった。
「ふふ〜、お兄ちゃんと二人きりのお出かけって久しぶりだねっ」
「最後に二人だったのは二月だったか?」
「うん、そうだね」
二月の受験終わり以降は瑠璃と出かけていない。
そういえばあの時くらいに付き合い始めて、もうすぐ半年……
偏見かもしれないが、女子って付き合って何ヶ月とかでお祝いなんかをすると思ってたが、成実とは特別にお祝いなんかはしていない。
というか、こんな風に考えている俺の方が女々しいかもしれない。これからも一緒にいるからわざわざする必要もないのかもしれないが、今度少し話してみようかな。
そんなことを考えつつ瑠璃とも他愛ない話をしていると、いつしか目的地に着いていたようだ。
「着いた!」
「おぉ、ここが……」
「犬カフェ! 来てみたかったんだ〜」
先日の成実との一件で猫派に少し傾いたが、純粋にこういう場所は来たことがなく楽しみだ。
「お兄ちゃんがハマってくれればまた来れるから、どんどん可愛い犬たちに魅了されて、犬派になってね!」
「まぁ、入ってみないと分からないけどな」
「よし、それじゃ入ろう!」
そうして二人で店に入店する。
「いらっしゃいませ〜」
店内は天井の高さや席などの配置のためか、広々とした落ち着く雰囲気の場所だ。大まかに犬たちが自由に動けるスペースと人と戯れるスペースに分かれている。
よく見ると奥の方で様々な種類の犬が自由に過ごしたり、何人かいる客のところで撫でられたりしていた。
受付で説明を受け、犬用のおやつを一人ひとつ受け取った後、いざ奥の方へと進む。
「はぁ……! か、可愛すぎるぅ……」
店内にはポメラニアンやチワワ、トイプードルなどの有名な犬種はもちろん、無い名前の知らない犬もいた。聞けばラサアプソと言うらしい。
どの犬も綺麗で毛並みもよく、よく人に懐くようだ。
「わわっ、お兄ちゃんお兄ちゃん! 来てくれたよ!」
「おぉ、そうだな……!」
初めてのこういう場なので、少し緊張しつつも興奮している。
一度心を落ち着け、受付で聞いた通りに、見すぎないようにしつつ手の匂いを嗅いでもらう。
少しずつ犬の方も落ち着いてきたようなので、まずは手のひらで撫でる前に、手の甲で顎の下や首の横辺りをゆっくりと撫でる。しばらくして犬の方も慣れたのか、柔らかな表情になっている。
「可愛いなぁ……」
「だよねだよねっ。はわぁ……すっごい可愛い……もう一生ここにいたい……」
少ししてからおやつをあげようとしたら他の犬たちも寄ってきて、一瞬で最初に持っていたおやつが無くなった。
それでも見ているだけで癒されるし、懐いてくれたり傍でゴロンと寝転がっている子もいて、とても心が落ち着く。瑠璃の言わんとすることも分かる。
その後も店で借りられるおもちゃで元気な犬と遊んだり、許可を貰ったのでフラッシュはオフで写真を撮ったりした。
店の犬だからなのか、それとも犬だからなのかは分からないが、よく懐いてくれて、その魅力に魅了された。
「はぁぁ……。また来る、絶対来るからね……!!」
瑠璃は別れ際に名残惜しそうに、最後まで懐いてくれてた子と別れて店を後にした。
もちろん俺も瑠璃ほどとは言わないが、店を出たくないと思ったのだが、そこから先は沼だと思う。もうここで出れなかったなら、際限なく居続けてしまっていただろう。
その日の夜は瑠璃は蕩けていたため、俺の方で夕食を作った。思い出して俺もダメになりそうだったが、既のところで明日のことを思い出して切り替えられた。ある意味、犬カフェとは本当に危険すぎる。
そして翌日。
「今日は猫カフェだけど……ワンちゃんに随分と魅了されてる……?」
「い、いや、大丈夫だ。問題ないよ」
「そう? それじゃ、行こっか!」
どちらのカフェにも行って、そこで犬と猫のどちらをより好きになったか決める。今は平常心で猫カフェへと向かおう。
そして猫カフェへとたどり着く。昨日のように受付で説明を受けてから奥へと向かう。
昨日も感じたが、店にいる客はもちろん、店員の人たちも犬や猫を大好きなのだとよく分かる。そして一緒に来ている隣の彼女ももちろん……
「わっ、可愛い……! って落ち着かなきゃ。怖がらせないように……」
そんな彼女のところに一匹の猫が……
「っ! 手を鼻のところに……」
動物の習性なのか、匂いで判別をするどころが犬も猫もあるようだ。そして成実は恐る恐るといった感じで、自分を受け入れてくれた猫の顎の下を撫でる。
「ん〜! 可愛い……!」
そう言いながら、彼女は猫を優しく撫でていく。見ていて本当に猫が好きなんだと分かる表情だ。
「それにしても……」
犬はパラパラと近付いてきてくれたし、おやつをあげるときにも何匹かに囲まれたのだが、猫はほとんど来てくれない。一匹だけ近付きかけたが、すぐに立ち去っていった。
こちらから行くのもストレスを与えるかもしれないので、向こうから興味を向けてもらうのを待っているが、これだといつまでも一人かもしれない。
「まぁ、成実が楽しそうだからいいんだけどな」
始めて来たと言う成実の元へは何匹もの猫が寄っていた。その中で楽しそうに戯れつつ、満面の笑みでいる成実。その光景を見ているとこちらまで癒されるからこの時間も全く苦痛ではない。
そんなことを考えていると、一匹の猫が俺の方へと寄ってきた。よく見ると、色は先日の成実猫の付け耳と同じ色で、明るくて優しそうな瞳をしている。
受付で聞いたやり方でその猫と接し始めると、少ししてから座っている俺の膝の上に乗ってゴロンと休み始めた。
「……!」
「わぁ、その子あんまり初めての人に懐かないんですよ。凄いですね」
「そうなんですか?」
「はい。そんなにお客様の傍で気持ちよさそうにしてるのも久しぶりに見ますよ」
店員さんからの豆知識を貰って、再び黒猫の方へと視線を移す。優しそうなこの猫の落ち着く場所が俺の膝だったのかもしれない。
優しくていい子の方が抱えるものがあったり、色々と取り繕ってることがあるからな……
そうして時間いっぱいまで黒猫は俺のところにいて、俺は落ち着いた心でその黒猫を眺めていた。
「膝に乗ってもらえたなんて羨ましいなぁ〜」
「成実だって何匹もの猫に囲まれてたじゃないか」
「えへへ、そうだねっ。凄く可愛かったよ〜」
「そうだな……」
猫はもちろん楽しんでる彼女もとても可愛かった。犬カフェの時にも思ったが、それ以上の気持ちでまた来たいと思った。
「昨日と今日でどちらともと触れ合って、優劣なんて付けるものじゃないと思いもしたけど……俺は猫派かな」
「っ! そっか!」
色々と要因はあるかもしれないが、俺は猫派になった。
家に帰って瑠璃にそのことを伝えると、「そんな気はしてたし、昨日よりもいい表情してるもん」とすんなり受け入れられた。
よく考えたら後者の方が印象に残ることもあるかもだし、最初に焚き付けた時からこうなることを予想、あるいはこうなるように仕向けたのかもしれない。
今回のは考えすぎかもしれないが、今までのことでも妹に感謝しなければならないことが多すぎる気がする。本当に自分には勿体ないし、とても良い妹だ。人としても憧れる部分すらある。
もし、成実と出会わず、瑠璃と兄妹という関係でなかったら……
「いや、馬鹿なことを考えるのはやめよう」
頭を振って、今日の楽しかったできごとを振り返りながら俺は眠りについた。
犬カフェとか猫カフェとかフクロウカフェとかみたいなところ行ってみたい……
もふもふ……人類に必要なものはもふもふですね
というか可愛いものってやばいですね。想像しながら書いてたら語彙力が可愛いしか無くなりました。
それから最後のところのどうでもいい情報ですが、最初は重度のブラコン設定で瑠璃を考えてたんですよね。なんならヒロインを義妹になんてのも考えてましたけど、違うかなと思って変えまして。友也の想像するありえない展開は、実はありえたかもしれない出来事……
後書きが日に日に長くなる……大変申し訳ありません。
それでは今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。




