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103.アルバム


 リビングを出たあと、成実と一緒に自分の部屋に入って腰を下ろす。


「ふぅ、ひとまず良かったよ」

「うんっ。友也くんのお父さんもいい人だったし、認めてくれたようで安心したよ……」

「そうだな。それにしても、嬉しかったな……」


 この短時間で二度、いや家の前で出迎えた時も合わせたら三度もとても嬉しい気持ちになっている。

 一度目は出迎えた時、二度目は成実が父さんに想いを伝えた時、三度目は父さんの表情。最近、嬉しいことが多すぎて、何か大きなしっぺ返しでも来るのではと心配になるほどだ。


「っと、そうだ。流れで出てきちゃったけど、お茶とお菓子でも取ってくるよ」

「あっ、ありがとう」


 そう言って立ち上がろうとした時、部屋のドアがノックされる。


「お兄ちゃん、入っていい?」

「いいけど……何か用か?」

「これ、お茶持ってきたよ」

「そういう事か。ありがとな」

「ありがとう、瑠璃ちゃん!」

「どういたしまして〜。……お父さん、嬉しそうだったね」

「あぁ、そうだな……」

「それだけだよっ。それじゃ、ごゆっくり〜」


 お茶を置く時に俺にだけ聞こえるように父さんのことを伝える瑠璃。普通の笑顔は最近になってよく見かけるようになったが、あれほどの表情は母さんがいた頃まで遡らないとなかったと思う。


 つい記憶を振り返っていたが、成実の前でいつまでも考え事をしていては悪いなと頭を振り、今日しようと話していたことを始める。

 というか今そんなことをしなくても、後で必ず思い返すことになるのだ。



「それじゃ、早速見るか」

「うん!」


 過去のこと、母のことを今度話すと言いつつ先延ばしになっていたので、今日は前とは別の家族でのアルバムを見ることになっていた。


「そういえばこれを見るのは俺も久しぶりだな」

「そうなの?」

「あぁ。中学くらいまでは母さんのこと思い出して悲しくなってたし、そもそも自分のアルバムを自分で見る機会が少ないだろ?」

「あっ、そうだよね……」

「もう気持ちの整理もできてるから気にするな」

「表情に出てたかな……?」

「しっかりとな。心配してくれたのは嬉しいけど、気にされすぎても俺の方が申し訳なくなる」

「あはは、ごめんね。……うん、もう大丈夫!」

「おう。それじゃ見ようか」

「うん!」


 そうしてなかなかに厚いアルバムを開く。父さんと瑠璃には許可を貰ってるので心置き無く見ることが出来る。



「わぁ、ちっちゃくて可愛いね!」

「何だか赤ちゃんの頃を見られるのって恥ずかしいな……」

「ふふっ、そんなに気にしなくてもいいのに〜」


 アルバムを開くと俺や瑠璃の赤ん坊の頃の写真が最初にあった。事前に見てなかったから自分でもどんな写真があるのか分からないため、恥ずかしいやら怖いやらで心がいっぱいになっていた。


 そのまま目を通していると一人の女性が小さな子供を抱きかかえている写真があった。


「あっ、友也くん……」

「あぁ、母さんだな」


 本当に久しぶりに見た。小学生の時には悲しさや寂しさでどうしても写真で見返すこともできてなかったし、中学の時も似たようなものだった。

 少しずつ思い出が掠れて行っていたのだが、顔や声ははっきりと思い出せる。


「何で今まで見返してなかったんだろうな……」


 懐かしい思いや母さんとの思い出が一気に波となって押し寄せてきた気がする。小中と自分の気持ちや他者との関わりを無理に抑えていたが、なんてことはない。ちゃんと心の中で生きている。

 どうせ離れ離れになるくらいなら、なんてそんな寂しい考えもしなくて良かったのに。


 本当にすぐ傍にいる彼女には感謝しかない。こんな機会をくれて、俺を変えてくれて、一緒にいてくれて……


「ありがとう」

「え?」

「いや、色々あったけど、成実と出会えて良かったなぁって思ってな」

「え、あ、私も! 私も友也くんと出会えて本当に嬉しいから!」

「おう、ありがとな」


 そのまま晴れやかな気持ちでアルバムを見つつ、思い出を振り返っていた。やっぱり幼い頃の自分を見たり話したりするのは少し恥ずかしかったけど、彼女に話せて良かったのかなって思える。


 それに今度は成実もアルバムを見せてくれると約束した。彼女の幼い頃がどんな子だったのかはとても気になる。成実も俺と約束したときはそんな気持ちだったのかな。そうだと嬉しい。



「お邪魔しました!」

「またいつでもいらっしゃい」

「うんうん。いつでも来てね、成実さん!」

「はいっ、また今度!」


 昼過ぎに来たのだが、昔話をしていたら気付けば夕方になっていたため、暗くなる前に帰ろうということになった。



「今日は話聞いてくれてありがとな」

「ううん、私が聞きたいって言ったんだもん。むしろこっちこそありがとう!」


 そういえば今でこそ送られてくれるようになったけど、最初の方は遠慮されたり申し訳なさそうにしてたなぁ、と思い返しているとふと彼女が立ち止まった。


「何かあったか?」

「その、猫ちゃんが……」


 彼女の指差す方向へと視線を向けると、可愛らしい黒猫がいた。


「か……」

「か?」

「可愛い……!!」

「そ、そうだな」

「野良猫みたいだけど、黒くて毛も綺麗で、目もくりっとしてて……!」


 猫、好きだったのか……。でも彼女の言わんとすることは分かる気がする。


「あ〜、そういえば瑠璃は犬派だったっけな……」

「……!」


 まずい。何がまずいのかは分からないけど、そんな気がした。


「友也くんは……」

「お、おう?」

「猫派? 犬派?」


 期待と不安が織り交ざったような視線でそう問いかけてくる彼女。どちらも甲乙つけたがい可愛さがあるけど、多分ここで答えない訳にはいかないだろう。


 というか前に瑠璃に聞かれてどっちもって言ったら少し拗ねられた記憶がある。それくらいこの質問にはきちんと答えなければならないのだろう。

 正直に言うと選べないが、どうしても彼女の期待を裏切りたくない。


「俺は」

「あっ、お兄ちゃん、成実さん! 忘れ物を……」

「猫派か、な……」

「そっか!」

「へぇ……?」

「あ……」



 そういえば犬猫とか、きのこたけのことか色々日々争っているものってありますけど、私は全部中立だなんて言えない……

 ちなみに普段は極力そういう会話に混ざらないようにして過ごしてます。



 それからご報告なのですが、八月が終わってまた時間に追われる日々になるため、もしかすると定期投稿ができなくなるかもしれないです。いつも見てくださる方々には申し訳なく、大変心苦しいのですがご了承頂きたく思います。



 それでは今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

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