動画漁り
小説の練習で書いたものです。
いろいろ拙い部分がありますが読んでいただけると幸いです。
カチカチ。
マンションの一室、締め切られた部屋の中にクリック音が広がる。
「見た。見た。見た。これも見た」
パソコンの画面を見つめていた男性はそういうと大きくため息をついた。
「最近ずっと家にいるからなあ。そりゃ見るもんもなくなるわな」
当然、実際には見ていない動画の方が多い。
世界中で無数の人々が動画を上げ続けているのだから。
しかし、男の興味がそそられるような動画が目の前の画面には写っていない。
だから、面白そうな動画を探し続ける。
カチカチ。
カチカチ。
「おっ、これは見てないんじゃないか?」
目に留まったのは『7分24秒』というタイトルの動画だ。
タイトルと同じく7分24秒の動画の時間。
真っ白で何も書かれていないサムネイル。
内容のまるでわからないその動画に、男性は心惹かれた。
カチッ。
00:00
わずかな読み込み時間の後、動画が再生される。
写ったのはサムネイルとほぼ同じ、白一色の画面。
違うことといったら明るさくらいだ。
00:30
どこか暗い場所で白いものを撮っているのだろう。
ただそれだけの動画なのだろうか。
期待していただけに、少しがっかりした気持ちで画面を見つめていると、わずかに変化が現れだした。
白い画面に濃淡が現れ始め、模様のようになってきたのだ。
アップで撮った何かを引きで映していくのか。
そう理解した男性は最後に映るものがなんなのか当ててやろうと注意深く観察を始めた。
01:44
だんだん全体像が見えてきて、どうやら白いものはカーテンだったことがわかる。
窓にかけられているようだ。
ふと、自分の部屋のカーテンを見つめる。
薄暗い部屋にかかったカーテンは白く、画面に映るそれと同じ模様が刺繍されていた。
「偶然……だよな」
画面に顔を戻す。
01:51
「うわっ」
画面には閉じ切られていないカーテンの隙間に、窓の外に佇む女性が身じろぎもせずじっとこちらを見つめている。
少し怖くなってしまった男性が、画面を変えようと左上の『<』と書かれたボタンをクリックする。
しかし、再生を続ける動画を除き画面はなんの変化も起こさない。
「なんで!? なんでっ!?」
パニックになった男性がなんどもボタンをクリックする。
が、やはり画面が切り替わることはなかった。
「はぁはぁ」
03:04
恐怖から呼吸が乱れる。
男性の目には動画が写っている。
窓を離れ部屋の半分ほどが写った画面が。
カーテンも、カーペットも、家具も。
女性以外の全てが自分のいる部屋と同じ光景が。
04:00
画面の中央には、すでに頭が見え始めている。
その頭は、何も動いていない映像の中で唯一小刻みに震えている。
頭の次は肩が見え。
次に、マウスをクリックし続ける手が見えた。
「ああああああああああああああああっ」
寄生を発しながらパソコン持ち上げ床に叩きつける。
画面に映る男性も、同じ動きをしているのがわかる。
パソコンの画面は大きくひび割れ、半分ほどしか残っていない。
砕けた画面の小さな破片が辺りに飛び散っている。
映像を映したまま。
残った画面に頭をかきむしりながら叫ぶ自分の姿が写っている。
「ぁっ」
04:44
男性は玄関に走り外に出ようと鍵を開けドアノブに手をかける。
ガチャガチャ。
ドアノブは回らない。
「ぅあ」
ガチャガチャガチャガチャ。
ドアノブは回らない。
「ああ」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
ドアノブは、回らない。
05:14
「ぁああ」
男性は泣きながら、全てを諦めたようにドアに背を預けて座り込んだ。
床にある割れたパソコンが目に入る。
動かない。
画面は何も動かない。
部屋全体を映したところで引きも終わっている。
何も変わらない画面を見て。
男性はホッと息をついた。
06:00
ガラッ。
窓が開く。
映像の。
そして現実の。
ひたひた。
画面の中を女性がカーテンの隙間から部屋に入る。
閉じ切られたカーテンが、人が通ったように大きく揺れる。
ひたひた。
画面の中を女性が歩く。
それと同時に、現実に人の歩く音が聞こえる。
ひたひた。
女性は歩く。歩き続ける。
そして、画面の終わり。
今自分のいる玄関へ続く廊下の前で立ち止まる。
男性は、いやいやと首を左右に振り続ける。
女はにこっと笑うと。
廊下へ歩き始めた。
ひたひた。
音がする。
もう画面に女は写っていない。
ひたひた。
音がする。
男性は再びドアノブに手をかける。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
しかし、やはり、ドアノブは回らない。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガ。
07:24
「一緒に行こうね」