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084、『森のうさぎカフェ』営業中です


「いらっしゃいませ!」


 お姉様方は本当に宣伝してくれたみたいで、本当にお客さんが増えた。ありがたいことです。お菓子がなくならないといいけど。売り切れるのはいいことなんだけど、来てくれたお客さんに出せるものが無いと悲しいからね。


「ありがとうございました!」


 でも、忙しい…!


 午後のシフトの人が何人か早めに来てくれたから何とかなってるけど!


 でも、思ったより男性客も多い。『森のうさぎカフェ』ってテーマが可愛いと思うから女性客が多いと思っていたけど。多分、生徒のお父さん世代だと思うのだけど、ここの生徒達だけじゃなくて、一般のお客さんの人達も多い。そして皆、なぜかほわほわした顔で帰っていく。動物達に癒されたって事なのかな?


 でも、すっごく楽しい。皆で協力して何かをするのってすっごく楽しい。忙しいのすら楽しい。





「シルフィー、お呼びよ!」


 ん、お呼び?ここではご指名なんてないはずだけど…?しかも私?知らない人が指名なんてしたら、多分リシューが拒否してくれると思うから私が知っている人かな?


 クラスメイトに呼ばれた方に行ってみると、そこには馴染みのある銀髪黒目の人が居た。


「アル様!」


 思わず走ってアル様に飛びつく。だって、アル様が両手を広げてくれているんだもん。条件反射です。


 実はアル様にも招待状を渡している。本当はアル様は王子様だから招待状なんてなくても来れるんだけど、アル様が欲しいって言うから一応ね。


「来てくれたんですね!」

「勿論だよ」


 疲れている時に見ると一層嬉しい。


「シルフィー可愛いね。結局うさぎなんだね」

「はい、でもね。皆とお揃いなの!」

「そっか。最初は着ぐるみって言ってたもんね。クラスメイトが素敵な人達で良かったね」

「はい!」


 あ、私を抱っこしたアル様が素敵な笑顔で頭をなでなでしてくれる。


「ふにゅう」


 最近、私の頭撫でてくれる人多くないですか?


 あ、アル様、今日も髪紐使ってくれてる。嬉しいなあ。

 アル様はいつも私があげた髪紐をつけてくれている。毎日つけていると、自然にちぎれそうになってしまうから、私は毎年新しいものをプレゼントしている。でも、アル様は古いものも捨てずに大切にとっておいてくれる。そういう所、大好き。




「おーい。二人とも、ここでいちゃいちゃしないの」




 ほわほわしていたけれど、リシューのお陰で現実に戻って来た。危ない危ない。公爵家の令嬢と王子様に口出し出来るのなんてこの場にはリシューくらいしかいないもんね。ありがとうリシュー。


 あ、そうだ。間違えた。


「アル様、おろしてください」

「え?」


 アル様は残念そうに私を降ろす。


 私はちょこんとスカートをつまんで


「いらっしゃいませ」


 という。だってカフェだからね。アル様はお客さんだもん。おもてなししないと。


「か、かわい……」


 アル様がぎゅーっと抱きしめてくれた。あらら?


「アル様…?」

「ちょっと誰、シルフィーにこの衣装を提案したの。可愛すぎるでしょう。ダメでしょう。ありがとう」


 あらら、アル様が壊れちゃった。


 教室のドアからソフィアが帰って来た。あれ、ソフィアさっきまで裏の調理場に居なかった?いつの間に教室の外に出たんだろうか。


「シルフィー、彼がアルフォンス殿下よね?」


 私の耳元でソフィアがこそっと聞いてくる。


「うん、そうだよ」


 どうしたんだろう。


「挨拶をしておいた方がいいかなと思って」

「挨拶…?」


 あ、そっか。これが第二王子とヒロインの初対面だ。私まで緊張する。もし、二人が一目ぼれなんてことになったら…。

 小説では光の魔力を持ったソフィアを王家が気に掛ける事で、アル様とソフィアの接点が出来ると思うのだけど、現時点でそれはもうない。だとしたら、どうなるんだろう。


「はじめまして」


 ソフィアがアル様に挨拶をする前に、アル様がソフィアに気付いて話しかけた。え、これってもしかして一目ぼれ…?


「お初にお目にかかります。いつもシルフィーのお世話をしているソフィア・リア・ライト―ルと申します」


 ん?何だか挨拶がおかしくなかった?


「知っていると思うが、第二王子のアルフォンスだ。話はリシュハルトから聞いている。いつもシルフィーの世話をしてくれてありがとう」


「勿体ないお言葉にございます」


 …………、やっぱり二人ともおかしくないですか??何だか真剣な雰囲気を出しておきながら、内容がおかしい!ソフィアは私のお世話役じゃなくてお友達なのに!!……………友達だよね…?もしかしてアル様の命令で私の友達になったとか、ないよね?で、でも、きっかけはそうだったとしても、今は私とソフィアは仲良しだもん!


「むぅ」


 でも、二人がお互いに一目ぼれしたような雰囲気はない。じゃあ、二人がお互いを意識するのって本当にどこなんだろう?

 ここで一目ぼれが無かったのなら、もう二人が一目ぼれする機会はないし。私に隠れて仲を深める…?でも、そんな事を二人がするとは思えない。小説とはもう全然違うから分からない!

 でも、二人が一目ぼれする事はなかったから、取り敢えずおもてなし!





「アル様!お菓子食べていってください!」

「うん、勿論頂くよ」


 私はちゃんとアル様を席にご案内します。もうすっかり接客は慣れましたよ。


「なにがいいですか?」

「うーん、そうだな。苺ムースかな」

「はい、分かりました!」


 裏に行ってケーキをとって来る…、前に一度アル様の方を振り返る。何だか視線を感じたから。予想通り、アル様が私の方をじーっと見ていた。


「ふぇ?!」


 アル様はひらひらと手を振ってくれる。何か用かな?あ、用じゃないみたい。口パクで「がんばって」って言ってくれている。


 私も手を振って裏に行こうとするけど、それでも視線が気になる。もう一度振り向くと、さっきよりいい笑顔でアル様が手を振っていた。


 私も手を振ってもう一度足を進める。でも、視線が……



「もう!見ないでください!」

「はは、ごめん。シルフィーが可愛くて」

「~~っ!」


 恥ずかしい!ここは走って逃げます!





 裏からケーキを持って戻る。その時見た光景を、私はとても綺麗だと思った。





 ソフィアとアル様が二人で話していた。二人そろってとても嬉しそうな顔をしたり、深刻そうな顔をしたり。でも、綺麗な二人がいる空間はとても美しくて、目を奪われる。ソフィアと入学式にあった時同様に、スチルにありそう。周りの人も二人の事を羨ましそうに見ている。

 私も思わず「ふわぁ!」って声が漏れそうになる。だって、それくらい素敵。


 あ、アル様が私に気が付いた。「こっちにおいで」って手招きしている。


「おまたせしました!苺ムースです!」


 持っていったら、何故かソフィアに頭を撫でられる。嬉しいけど、何故だろう?


「へぇ、可愛いね」

「かわいいですよね。苺ムースはうさぎをイメージしてるんです」


 隣にコーヒーを置く。うっかりしてて飲み物を聞くの忘れていたけれど、最近のアル様はいつもケーキのおともにコーヒーを飲むからコーヒーを持ってきた。何だかアル様の事分かってきているみたい。


「……可愛いけど、シルフィーを食べるみたいで何だか…」

「?」


 あ、そっか。今日の私は苺ムースと一緒のうさぎだもんね。


「おいしいですよ!食べて下さい!」

「ふふ、何だかシルフィーを食べたくなっちゃうな」

「わ、私ですか?」

「うん」


 私は食べ物じゃないですよ?


「わ、私、食べても美味しくないですよ…?」

「うーん、そうかな。美味しいと思うけれど?」

「あ、アル様は私を食べるんですか……?」

「うん、いつかは食べるよ?」


 食べるって、私のお肉を……?でも、それしかないよね…?でも、食べるって事は…、


「それって私、死んじゃうの…?」


 え、まさかの殺されちゃうやつ…?私まだ何にもしてないよね?ヒロインのソフィアと第二王子のアル様が出会っても何も起きなかったはずなのに…。

 でも食べるってそういう事だよね?


「え?!ち、違うよ!そういう意味じゃなくて!」

「じゃあ、どういう意味ですか?!」

「えーっと、それは…」


「ふぇっ…」


 ここにきて、殺されちゃうの?もしかして、さっきの少しの時間にソフィアとアル様が仲を深めてしまったの…?私とアル様が過ごした時間より、大切なものになってしまったの…?


「うぅっ」


 目に涙をためてアル様を睨む。


「はい、アルにぃ。シルフィーをいじめないの」


 リシューが私達の間に入ってくれる。


「リシュハルト。いじめてなんかないよ」

「でも、シルフィーが今にも泣きそうだよ」


「アル様なんて、嫌いだもん」


「え?!」


 アル様が慌ててる。


「ど、どうしたら許してくれる…?」


 焦ったように私の目の涙を拭くけれど、それでも次から次から涙が溢れてくる。



「あ、ルートにぃ」


 リシューの声の方を向くとルートお兄様が教室に入ってきていた。


「あれ、アル兄上。やっぱりここにいた」


「弟と可愛い婚約者なら、先に可愛い婚約者の方にいくだろう」

「そんな事だと思ったよ」


 呆れながら入って来たルートお兄様はソフィアに目を向ける。


「ソフィアに、アル兄上が来たら伝えるように言っておいてよかったよ」


 うっすら笑った後、私をみて目を開く。


「ルートお兄様…」

「で、何でシルフィーは泣きそうな顔をしているのかな?」


 ルートお兄様がアル様に怖い顔をしながら、ソフィアに事情を求めている。でも、ソフィアが言える訳が無い。ソフィアは困った顔をしている。


「あのね、アル様が意地悪するの…。私の事、食べるって…」

「ん?」


 ルートお兄様もよく意味が分からないようで、頭にはてなを浮かべている。


「えっと、どういう事?」

「あのね、アル様が、苺のムースより、私の事食べたいって…。私の事殺すって…」

「言ってないよ?!前半はともかく、後半は言ってないからね?!」

「前半は言ったんだね?」

「あ、いや…」


 ルートお兄様の言葉にアル様が更に焦ったように戸惑う。


「何となく状況はつかめたよ」

「いや、だって。あんなにシルフィーが純粋だったとは思わないじゃないか……」

「で、アル兄上の言い訳はそれだけ?」

「えーと…」


 ルートお兄様にアル様が押されている。何だか、どっちが兄か分からなくなるね。もっと言ってやってください、ルートお兄様。


「シルフィーが純粋なのはもう分かり切っている事だろう?シルフィーのまわりの人がシルフィーにいらない知識を与える訳ないじゃないか」

「いや、いらない知識じゃ、」

「アル兄上」

「うっ」

「でも、シルフィーを悲しませた結果になった事には変わりないよね?」

「……はい」

「ここにレオン兄上がいなくてよかったね。あと、シルフィーの実の兄姉」


 ルートお兄様がそういうと、アル様の顔がさっと青くなった。


「じゃあ、シルフィーに謝って」

「はい…」


 あ、何だかアル様が負けたみたい。


「ごめんね、シルフィー。決してシルフィーを傷つけたくて言ったんじゃないんだ。ただ、シルフィーが大好きだったから、ついでた言葉だったんだ」


 …ん?これは謝られているんだよね?大好きだったら食べたくなるの?


 ん、リシューが私の耳元で何か言ってる。ふむふむ。これをアル様に言えばいいのね?分かったよ、リシュー。

 アル様の方をしっかり見て、睨む。さっきまで泣いてたから目が潤んでるけど気にしないでください。


「じゃあ、私もアル様の事食べてやります!」


「……っ!」


 あら、アル様の顔が真っ赤になっちゃった?


「ごめん、完全に私が悪かったよ…」

「?」






もし、少しでもこの小説をいいなぁって感じたら、☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらてると、すっごく嬉しいです!

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