表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/209

スティラpart2

 今日は朝から父上は宰相の仕事に、母上とシリアは茶会に行ってしまった。皆、シルフィーが目を覚ましたばかりだから行きたくないって言っていた。けれど、父上の仕事はもう既に2週間休んでいる。そろそろ行ってもらわないと。母上とシリアも前から決まっていたお茶会だったから休めない。つまり、この屋敷には、使用人を除けば俺とシルフィーしかいない。朝食はみんなで一緒にとったが、やはり、シルフィーの食事量は落ちていた。倒れる前の半分くらいしか食べられないのはいつか本当に倒れてしまう。けれど、シルフィーは沢山食べているつもりだから何も言えない。しかも体はまだ上手く動かないらしく、移動は誰かしらが抱っこしていた。決して抱っこしたいだけとか、そんなんじゃないからな。

 そしてシルフィーは今もベッドでしっかり休んでいる。と思う。


 午前の剣の稽古が終わってシャワーを浴びると小腹が減ってきた為、食堂へ向かった。


「何かつまめるものはあるか?」


 料理長のトマスに話しかける。トマスは若いがいつも美味しい料理を食べさせてくれる。強面だが、シルフィーが美味しそうに食べている姿を見て、いつも顔を緩ませている。本当に良い使用人達ばかりだ。しかし、最近はシルフィーの食欲が落ちてしまって、なかなかシルフィーの笑顔が見れず凹んでいる。


「ゼリーならありますよ」

「ゼリーか!」


 俺はゼリーが好きだ。だから、とても嬉しい。


「いただきます」


 でも、いざ食べようとした時に、アンナが入ってきた。


「アンナ、シルフィーは?」

「お嬢様はお眠りになっています。1人でゆっくり眠りたいと仰られたので、起きた時の為に飲み物と軽食を用意しに参りました」

「そうか」


 ゆっくり眠っているなら良かった。


「軽食か。なら、このゼリーくらいなら食べれるんじゃないか?」

「そうですね、お嬢様もそのくらいなら食べてくださると思います」

「じゃあ、俺もシルフィーが起きてきた時に一緒に食べようかな」


 そう思って、食べようとしたゼリーを冷蔵庫に戻そうとした。、


「お、おにーしゃまぁ……! どこぉ~!」

「!?」


 突然シルフィーの泣き声が聞こえてきた。


「シルフィー!?」

「お嬢様!?」


 この声はシルフィーの部屋からじゃない。俺達のいる場所は1階の食堂で、シルフィーがいるのは2階の私室だ。けれど、私室と食堂は遠いので、シルフィーの声が届くはずがない。アンナと一緒にシルフィーの泣き声を頼りに探していると、シルフィーが、階段の踊り場で窓の方を見ながら泣いていた。


「シルフィー!」

「おにーしゃま」


 俺を見つけて安心したのか、必死に俺に手を伸ばし、更に涙を浮べる。


「シルフィー、どうしたんだ? 部屋で寝てたんじゃなかったのか?」

「ごめんなさい……っ」


 泣きながら謝るシルフィーを抱き上げ、背中をトントンして落ち着かせる。きっと、庭に行きたかったんだろう。シルフィーは窓の方を見ながら泣いていた。窓の向こうにあるのは家の庭だけ。シルフィーがどこに行きたかったかなんてすぐ分かる。きっと、1人で行こうとしたけど、途中で体力が持たなかったんだろう。それに、最近、家にいる時は誰かしらが傍にいたから、1人になって心細かったんだろう。


 シルフィーを抱いたまま、ゆっくりと階段を降りる。


「おにーしゃま、どこにいくんですか……?」

「んー? 庭に行こうかなぁと思って。シルフィー、起き上がってから部屋の外に出てないもんな。さすがに退屈もするわなぁ。」

「!! おにーしゃま、だいすきです!」





 庭でシルフィーはディーアと遊んでいた。


「ディーっ!」


 シルフィーが名前を呼ぶと、ディーは走って駆け寄ってくる。使用人達がシートを持ってきてくれたので、その上にシルフィーを降す。


「ディー、シルフィーだよっ! ひさしぶりだねっ!」


 ディーに話しかけるシルフィーがひたすら可愛い。使用人も何人か悶えていた。シルフィーがディーの背中を撫でると、お返しとでもいうように顔中を舐めている。


 ディーはシルフィーが大好きだからなぁ。


 ここ2週間のディーの落ち込みようは凄かった。言葉が分からない俺達でも、シルフィーに会えなくて落ち込んでいるのが分かった。


「ディーっ!まって、つぶれちゃう!」


 シルフィーの声に意識を戻すと、シルフィーはディーに押し倒されていた。シルフィーからしたらディーはとても大きく、潰れそうだ。慌ててディーに


「ディー、ストップ!」


 と声を掛ける。すると、ディーはシルフィーの上から降りて俺の側でお座りをする。


「よしよし」


 うん、やっぱりディーは賢い。シルフィーの番犬だもんな。





「シルフィー、あっちにある大きい木のところでおやつを食べないか?」

「おやつ! 食べます!」


 そう声をかけると、思ったより良い反応が返ってくる。


「じゃあ行こうか」

「はい!」


 立って行こうとすると、シルフィーは俺の方へ両手を伸ばしてきた。


「ご、ごめんなさいっ!」


 シルフィーは無意識の行動だったのか、慌てて手を引っ込める。あぁもう!可愛い!


「シルフィーは本当に可愛いなぁ!あ~もうやばい!ロビンっ!妹が可愛くて死にそうなんだが!」


 と言いながらシルフィー抱き上げてぎゅっとする。ロビンは俺の執事だ。小さい頃から一緒で兄弟のように育った。だから、お互い遠慮がない。


「シルフィー様が可愛らしいのは知っています。それよりも強く抱きしめすぎて苦しそうですよ。」

「あっ! シルフィー大丈夫か!?」

「だ、だいじょーぶです……」


 思わず強く抱きしめてしまい、ぐったりしているシルフィーを気遣う。





 大きな木の下に行くと、使用人がシートをひいて、その上に小さい机を置いてくれていた。シルフィーを、クッションの上に降ろす。先程食べようとしたゼリーを使用人が用意してくれた。シルフィーはそのゼリーをキラキラした目で見つめていた。俺を見つめる目が、食べてもいい?と聞いてきたので、


「食べていいよ」


 と言うと、幸せそうに食べ始める。


(久しぶりだなぁ、シルフィーがこんなにも幸せそうな顔をするの。)


 ふと、周りを見渡せば顔を緩ませて、目に涙を浮かばせているトマスが見えた。トマスもよっぽど嬉しかったんだろうな。使用人達も安心したような顔をしていた。ふと、シルフィーを見てみると、ゼリーはもう食べ終わっていた。けれど、その表情は悲しそうだった。きっと美味しいゼリーを食べきってしまって悲しいんだろう。そんな姿も可愛いけど。思わず自分の分のゼリーを掬って、シルフィーに差し出す。


「シルフィー、あーん?」

「あーん!」


 シルフィーは顔をキラキラさせ、俺の差し出したゼリーを口に入れる。俺の分のゼリーは後で冷蔵庫から取り出せばいい。シルフィーを笑顔にさせることの方が大切だ。けれど、食べ終わった後の、シルフィーの、


「おにーしゃま、ありがとうございます! だいすきです!」


 この言葉に嬉しすぎて倒れそうになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ