068、先生は先生でした
なんやかんやありましたが、授業開始です。
「今日は属性ごとの授業になる。指定した教室に集まれ」
というやっぱり少しやる気のないようなジェイド先生の声かけで、皆教室からばらばらと出ていく。
授業は曜日ごとに決まっているらしく、今日は魔法デーです。10歳の時に適性検査で自分の属性は分かったけれど、最初の授業は上手く魔法を使えないという人に魔法の使い方を教えてくれるんだって。私はお家にいる人達が教えてくれたけれど、そうじゃない人も沢山いるからね。
「ソフィア、行こ」
「うん」
私とソフィアは風の属性だけど、リシューは火だから教室は分かれてしまう。……ソフィアが一緒でよかったぁ!
「ソフィア、くれぐれも、くれぐれも、シルフィーの事お願いね」
リシューがソフィアの方を見て念押しする。何でくれぐれもを2回言ったんだろう?
そして、ソフィアはどうしてそんなに深刻な顔をして頷いているんだろう。…これから敵でも来るの?
過保護が増えた。何度でも言う。私15歳。子どもじゃない。
私達、風の属性の教室は比較的近かった。教室というか、訓練場?魔法を使うから広いんだね。そこには沢山の生徒がいた。そっか、一学年分だからそうなるよね。
なんかじろじろ見られている気がするけど、なんで?私が公爵令嬢だから?アル様の婚約者だから?それとも小さいから?
確かに小さいけど、小さい声で「小さくて可愛い」って言った人、許しません。あと、小さいって身長の話だよね?お胸の話じゃないよね?アル様に怒ってもらいますよ?これから大きくなるんだから。
もう知らない。私はソフィアの後ろに隠れてるもん。ソフィアの服をつかんで後ろに隠れる。何か、「んん゛」って咳払いが沢山聞こえたけど、気にしない。
「揃ってるか―」
ジェイド先生と、もう一人、女性の先生が入って来た。
「じゃあ、今までに風の魔法を使ったことあるやつと、そうじゃない奴で分かれる。使ったことのあるやつはこっちにこい」
流れが速い。最初は先生の挨拶とかじゃないの?いいけど。
「ソフィアは使ったことある?」
「うん」
「じゃあ、一緒にジェイド先生の所だね」
今までに魔法を使った事のある人は思ったより少なかった。風属性の人がもともと少ないみたいだしね。
「じゃあ、こっちの担当のジェイドだ。取り敢えず、それぞれがどこまで使えるか分からんから、俺が指定した魔法を使ってみろ」
本当に急だね?!もう少し、なんかないんだろうか……、いいけど。もたもたする先生より全然いいけど!
そうして先生は順番に条件を出しながら私達に魔法を使わせた。初級のただ風を出すものから、上級の自分にまとわせる事まで。その中で、魔力の消費を最低限に抑えるやり方とか、その他もろもろを条件に出しながら。
一つ分かった事がある。この先生凄い。
やる気無さそうな顔と態度は変わらないけど、一人一人をちゃんと見てて、教え方は的確だし、生徒が魔力暴走を起こさないように見てて、いつでも対処できるように常に魔力を纏わせている。しかも、一度も生徒を批難しない。
段々と先生の条件をこなせなくなった生徒が出てきたけれど、そんな生徒に「これから出来るようになればいい」って言ってる。先生として完璧すぎない?道理で生徒から慕われてるし、リシューも受け入れてるはずだよ。何人が先生の凄さに気付いているか分からないけど、私は一気にこの先生が好きになった。
「フィオーネ、ライト―ル、やるな」
先生が感心したようにふわって笑う。私の幻聴でなければ、女子生徒の黄色い悲鳴がいろんな所から聞こえたよ。
段々と生徒が少なくなってきて、私とソフィアしか残っていない。やっぱり私達は小さい頃から魔法を使う経験が出来たからこそ。それが無かったらきっと残っていられない。
私は10歳の時に盗賊さんと戦って、風をまとわせる事が出来た。だから、上級まで魔法を使える。
私だって、お家で魔法の勉強頑張ったんだから!
「正直驚いた。凄いな」
ジェイド先生が褒めてくれる。ふふん!ってどや顔したいけど、ちゃんと微笑んで「ありがとうございます」って返したよ?
でも、ソフィアはそんな私の気持ちを分かっているのか、隠れて笑ってる。…ばれてるからね!
そして、私は褒められて伸びる子です。さあ、遠慮なく褒めて下さい!
というか、ジェイド先生、生徒の名前覚えてるんだね。自己紹介してないのに、指導している生徒の名前ちゃんと呼んでる。凄い。
「あのね、あのね!ジェイド先生すごいの!」
授業が終わり、私とソフィアはリシューと合流した。そして、私はこの感動を誰かに分かって欲しくて、リシューに言い寄る。
「先生ね、お空飛んだの!風を纏わせて、ふわって!私ずっと挑戦してるけどすっごく難しかったのに!」
「あとね、次の授業から皆の時間を区切って個人指導してくれるんだって!だからね、皆じっくり教えてもらえるんだよ!」
「ジェイド先生ね、次は私にお空飛ぶ魔法教えてくれるって!」
あとね!
「ふふ」
私が更に言葉をつづけようとすると、リシューが笑い出した。
「リシュー?」
「良かった、シルフィーは先生に懐いたみたいだね」
「懐いたって……」
そんな人を犬みたいに…
「ジェイド先生は信頼出来る人だってアルにぃが言ってたからシルフィーも懐くだろうと思ってたけど、予想より早かったね」
「ふふ。シルフィーったら、ずっと目をきらきらさせて先生を見てたのよ」
「想像がつくよ」
ソフィアまで話に加わった。
「だって……」
先生、とっても凄かったんだもん。
「先生もこんなに熱心な生徒がいたら嬉しいでしょうね」
「ほんとだね」
だって本当にすごかったんだもん。ちなみに、この事をアル様に伝えると、すっごく黒い笑顔で詰め寄ってきました。曰く、「私の膝の上で、教師と言えど、他の男の話するんだ。ふーん」って。もうね、ほんっとうに怖かった。思わず泣いちゃったよね。それでも、いっぱい頬にチューしてくるから違う意味で涙出てきちゃうし…。アル様の前で他の男性の話ダメ。絶対。
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