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064、黒い笑顔には逆らいません




「あ、シルフィー、リシュハルト。ちょうどよかった」


 リシューと一緒にお姉様方とお茶をしていたら、ルートお兄様が来た。ここは、門とは少し離れているから、帰る道筋には入らない。という事はわざわざ探しに来てくれたのだろうか。


「ルートお兄様!」

「ルートにぃ」

「………どういう状況?」


 ですよね。そういう感想が出てきますよね。ルートお兄様は私達の現状をみて、きょとんとした表情になる。そんなルートお兄様は何だか可愛く見える。さっきまでは格好良かったのに。いや、今が格好悪い訳じゃないよ?ただ、可愛いが格好いいに勝っただけ。


 ルートお兄様をそんな表情にさせる現状。それは、私もリシューもさっきからお姉様方に頭を撫でられていました。なんでも


「もきゅもきゅ食べるのがリスみたいで可愛い」

「双子みたいで可愛い」


 らしいです。もきゅもきゅって何だろう?リシューも恥ずかしそうにしながらもされるがままです。だって、美味しいケーキを分けてくれているんですよ?私もリシューも頭くらいなら差し出しますよ?


 美味しいケーキの為に!


 多分、リシューも私と同じような気持ちだったと思う。


 でも、ルートお兄様が来た事で、お姉様方は手を止める。そして席を立って、ルートお兄様に礼をする。お姉様方の礼は美しい。

 私もお姉様方と同じように、殿下に対する礼をする。私とリシュー、ルートお兄様だけなら今更こんな挨拶はしない。ルートお兄様が嫌がるから。でも、ここには他に人が居るからそういう訳にはいかない。それはルートお兄様も分かっているから、満足そうな顔で頷く。


「どうかされましたか?このような所まで」


 リリー様がルートお兄様にそう問いかける。


「あぁ、シルフィーとリシュハルトに用があったんだ。連れて行ってもいいか?」


 命令すればいいのにわざわざ伺いを立ててくれるルートお兄様。そんな優しい所も大好き。


「ええ、勿論です」


 リリー様は私達が頷いたのを確認してそう答える。用って何だろう。リシューと顔を見合わせるけれど、リシューも分からないみたい。


「リリーも一緒に来てくれ」

「分かりました。……という事はあの事ですね」

「あぁ」

 

 あの事?という事は、リリー様にも関係している事?リリー様は何の事か知っているの?怖いことじゃないと思うけれど。

 

 というか、リリー様とルートお兄様はお知り合いだったんだね。リリー様は2年生みたいだから、ルートお兄様とあまり関りが無いと思っていたけれど、そうじゃないのかな?





 ルートお兄様とリリー様についてもう一度校舎の中に入っていく。ソフィアとの約束があるから、あんまり遅くならないといいな。


 



 校舎に入ると、教室がある棟とは別の方へ進んでいく。私もリシューもこちら側には来た事がない。無縁だと思っていたからこそ、私もリシューも来た事が無いし、今回の案内にも乗らなかった。こちらの棟には確か、委員会みたいな集まりとか、文科系の部活動の人が使う教室があったと思う。私もリシューも部活動には入るつもりはないし、本当に無縁だった。だからこそ、この棟に案内される意味が分からない。私達を部活動に入れる気なのだろうか?でも、リシューはまだしも、私が入れる部活動は無いと思うな。私は音楽的センスも美術的センスも無いと思っているから。





 他の生徒も沢山残っているから、注目するようにこちらを見てくる。…生徒会長が綺麗なお姉様と新入生2人を連れていれば気になるよね。





「ここだよ。歩かせてごめんね。入って」


 リシューと一緒に案内されたのは…、生徒会室?一般生徒が入ってもいいのかな?私とリシューはソファに案内される。隣同士で座ると、リリー様が紅茶を用意してくれた。……なんだか、リリー様ここの設備に慣れているみたい。もしかしてリリー様も…?


「突然ごめんね。入学初日だけど、こういうのは早めの方がいいと思って」


 私達が紅茶を飲んで一息ついたところでルートお兄様がそう切り出す。


「シルフィーとリシュハルトにお願いがあって来たんだ」


 もう一度リシューと顔を見合わせる。…リシューは何と分かっているいるみたいで、真剣な表情をしている。わ、私だって何となく分かっているんだからね!

 私もリシューみたいに真剣な表情をして、「これから何を言われるか分かっています」という表情をしてみる。……私のそんな表情をみて、ルートお兄様が噴出したけれど、気にしない事にしよう。


「二人には生徒会に入って欲しんだ」

「ふぇ、生徒会?」

「うん」


 これは予想外でした。でも、リシューはやっぱり分かっていたのか、納得の表情をしている。やっぱり私だけ分かっていなかった。


「私が、ですか?」

「うん」

「リシューだけじゃなくて?」

「うん」


 ………本気で言っていますか?私が生徒会とか、無理があると思います。こんな引きこもりの人見知りに何が出来るとお思いですか?


「アル兄上には許可をとってるから」


 そこで何でアル様が出てくるのか不思議だが、それを言った途端、リシューの表情が安堵に変わった。


「生徒会長は僕で、副会長はここにいるリリーだ。」


 リリー様が「お願いします」と頭を下げる。まだ入るとは言っていないんですけど……。でも、ルートお兄様とリリー様、そういう繋がりがあったんだね。リリー様が一緒なら楽しそうかも。優しい人だし。どうりで生徒会室の設備に慣れているはずだよ。


「毎年、成績優秀者から生徒会メンバーが選ばれるんだ」

「それなら、ソフィアは?」


 私より成績優秀なソフィアが生徒会に入ったら私必要ないよね?

 

「ソフィア嬢にはもう打診して、了承の返事を貰っている」


 いつのまに…。


「校内案内の時にすれ違って、生徒会室にれんこ……、ついてきてもらったんだ」


 ……今、連行って言い掛けませんでした?気のせいですか。そうですか。でも、ソフィアが生徒会に入っても私も入らないといけないほど人が居ないのかな?


「二人もソフィア嬢も身分が高いから、他の生徒も従いやすいしね」


 真っ黒な本音を聞いた気がする。よく考えたらルートお兄様は王子様だもん、綺麗事だけじゃやっていけないよね。


 どうか、その真っ黒な部分が私達に降りかかりませんように。





「拒否権は…?」

「……」

 

 ルートお兄様が笑ってる…。黒い笑顔で。さっそく降りかかってきたぁ…。ふぇ、何だか、アル様の笑顔と似てるよぅ。有無を言わさぬ笑顔って言うのかな?逆らったらダメなやつぅ。


 拒否権は……、ないんですね。


「リシューはどうするの?」

「ん?僕はシルフィーがやるならやるよ?だってシルフィーと一緒に居ないとアルにぃに怒られるからね」


 リシューの行動基準は私とアル様ですか?リシューはそれでいいのだろうか。

  

「……僕がこんな事を言うのもなんだけれど、アル兄上が迷惑をかけるね」

「それは仕方がないよ。シルフィーが可愛いからね」

「うん。可愛いからね」

「可愛いものね」


 リリー様まで入って来た?!





「わ、わかりました!リシューとソフィアがいるなら頑張ります!」


 ここは逃げても仕方ない。それに、アル様の許可が出ているっていう事は、アル様が私には出来るって判断してくれたって事だと思うし。アル様の期待を裏切れない。


「それなら僕も入るよ」


 私とリシューがそう答えると、ルートお兄様はほっとしたようにため息をついた。


「ありがとう。実は二人に強制なんかしたらアル兄上に殺される事になっていたから、快く引き受けてくれて良かったよ」


「ころ…?」


 ……なんだか物騒な言葉を聞いた気がします。しかも、あの真っ黒な笑顔は快くだろうか?脅しに思えたのは私だけ?


 疑問を感じていた私に頬をリシューがつぶす。


「いいかいシルフィー。その物騒な単語を今すぐ頭から消し去るんだ。いいね」

「ふ、ふぁい」


 頬をつぶされているからちゃんと喋れないけど、リシューの笑顔も怖いから頷くしかない。だから、リシューが私の頬を開放しながら「シルフィーに変な単語を教えたらアルにぃに殺される」と呟いたのは聞こえない事にした。今度はリシューが殺されちゃう。




 

 コンコン


 リシューが私の頬をいじっていると、ノック音が聞こえた。


「あぁ、来たか。どうぞ」


 ルートお兄様はノックの相手がだれか分かっているようであっさりと入室許可を出す。


「しつれいします」


 ドアを開けて入ってきたのは、この後一緒にケーキを食べに行く予定だったソフィア。

 

「ソフィア!」

「あ、シルフィー、リシュハルト様もいたのね」


 ソフィアは生徒会室にいるって言うのに、緊張した様子が全くない。流石ヒロイン。


「ソフィアも生徒会に入ったんだね」

「ええ、シルフィー達も入っているって聞いたから。二人がいるならいいかなって」


 あれ、ルートお兄様がソフィアに生徒会の事を打診したのは私達にするより前。つまり、ソフィアに打診した時、私たちは生徒会に入る事なんてかけらも知らなかった。ルートお兄様は私達を逃がすつもりなんて微塵も無かったてこと?


 私達がじとーってルートお兄様を見るけれど、ルートお兄様はバツが悪そうにそっと目をそらす。ついでにリリー様の方を見るとリリー様もそっと目をそらす。そうだよねリリー様も同罪だもんね。


 でも、このメンバーなら楽しく出来そう。


 頑張る!ふんす!



 拳を握って息を吐きだしたら、リシューに変なものを見る目で見られた。……そのまなざしは何だかつらい。





「ちなみに役職は?」


 リシューが疑問に思ったとを聞いてくれた。確かに気になる。


「取り敢えず、リシュハルトは書記だな」

「あぁ、やっぱりね」


 リシューの役職は本人も納得している。流石ルートお兄様。

 リシューの字って本当に綺麗なんだよ。さらさら~って流れるように書くから昔はリシューが勉強してたところを意味もなく眺めていたっけ。


「シルフィーは会計」


 え、会計?!お金の計算なんて無理無理!何かあったら怖いもん!自慢じゃないけれど、生れてこの年までお金なんてほとんど持ったことないもん!だって、買い物する時はいつも自分で払わせてくれないもん!


「…と思ったんだけれど、少し不安だから、ソフィア嬢にお願いしようかな」


 それが正解!…不安って言われると何となく釈然としないけれど、それが正しいと思う。


「私はそれで大丈夫です」


 やった。ソフィアも納得してくれている。


「という事は私は雑務ですね」

「うん。と言っても、普段する仕事は基本的に皆変わらないからね。結構忙しいと思うけれど、よろしく」

「はい」


 ん?忙しいという事はケーキの食べ歩きをする時間てあんまりない?!……ショック!


「……シルフィー。ケーキなら生徒会室にも用意できるから」


 ルートお兄様が私の心を読んだようにそう言ってくれました。…エスパー?!でも、一安心。ケーキがあるなら頑張ります。だからリシュー、そんな残念な子を見る目で見ないでください。リシューだってケーキがあるの嬉しいくせに。

 リリー様とソフィアも隠れて笑ってるのばれてるんだからね?!









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