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062、入学式です




 やっと始まりました。入学式!


 ちゃんと時間に間に合ってよかった。心底安心。ルートお兄様も壇上で安堵のため息をついているのが見える。ご迷惑をお掛けしました。


 座る席は自由だったから、勿論一緒に来たリシューとソフィアと一緒に座っている。ふふ、ヒロインと悪役令嬢が一緒に仲良く座っているなんて、小説なら考えられない。

 でもいいんだ。これは小説の中だけれど、私にとっては現実だもん。


 ……それにしても、改めて見ると凄いなぁって思うのが髪色。赤とか青とか黄色とか。黒一色の日本人には考えられない光景だ。あ、でも、髪の毛を染めている人もいたから見ようと思えば見れたのかな?でも、地毛でこの色っていう所が凄いね。流石異世界。


 その中でもやっぱりヒロインが一番かわいくてリシューが一番格好よく見えるのは身内の欲目ですかね?だって私の両隣にいる二人、キラキラしてるんだもん。……こんな二人の間に私がいていいのかな?でも、横に知らない人が来られても怖いからいて下さい。

 ……思ったのだけれど、私のまわりって美形多くないですか?転生12年目で何を言っているのかと思いますが、今更気になったのです。多分、美形しか周りに居なかったから、目が慣れちゃったんだ。慣れって怖い。





 この学園の入学式のいい所は比較的早く終わるところだよね。だって、一人一人名前を呼ばれて返事をするくだりが無いもん。小学校の入学式では名前呼ぶのが普通だったから、凄くありがたい。

 隣を見てみると、二人は飽きた様子も退屈な様子も見せず、ちゃんと前を向いて座っている。いい子。

 そういえば、ソフィアには他に友達はいないのだろうか。私は引きこもりだから友達はいないけれど、ソフィアはそうじゃないかもしれない。それなら私とずっと一緒に居る事になるのも申し訳ない。


「ねぇ、ソフィア」

「なぁに?」


 こっちに振り向いて顔を覗き込んでくれるソフィアも可愛い。でも、ちゃんと静かに話しかける。うるさくして目を付けられても怖いしね。


「あのね、ソフィアは他に―――」

「新入生代表、リシュハルト・ミル・クロード」

 

 友達がいる?と聞こうとしたその時、リシューが呼ばれてしまった。口パクでソフィアに「後でね」と呟くと、ソフィアも頷いてくれた。


「はい」


 名前を呼ばれたリシューは席を立ってゆっくりと壇上に登っていく。これを見てますます思う。私じゃなくてよかった!

 だって、全校生徒が見てるんだよ?絶対無理。転ぶ自信しかないね!それで次の日からこういわれるんだよ。


『あの子って、入学式の日に転んだ……』


 ってね!でも、私が公爵令嬢だから表立っては笑わないけれど、陰でクスクスと笑うんだろう。そして、リシューは嬉々としてこれでいじってくるにちがいない!


 被害妄想がひどいって?いいえ、これは未来予測です。


 本当に私じゃなくてよかった!




「私達新入生は――—」


 リシューの挨拶を聞いていると、入学したんだっていう実感が再び湧いてくる。


「何だか懐かしい」

「え?」


 ふと、思った事が口に出たようにソフィアがそうつぶやいた。懐かしい?


「何が懐かしいの?」


 入学式が懐かしいの?でも、入学式って今までにやったことが無いよね?懐かしいなんて感想は出てこないと思うけれど。……え、もしかして人生2回目の人?まさかの?


「適性検査の時みたいだなって」

「?」


 ますます分からない。適性検査の時と今が似ている?とりあえず、前世とかじゃないんだね?自分が人生2回目だから、他の人もそうじゃないかと疑ってしまう。人生2回目なんてそうほいほいいる訳が無いのにね。

 それに、ヒロインの転生者って怖い。もし、頭お花畑のヒロインだったら……。考えただけで私の未来なんて簡単に想像できる。……え、ソフィアはそうじゃないよね?私と仲良くなろうとしてくれているっていう事は、転生者じゃないって事だよね?


「適性検査の時と似ているの?」

「うん。何だか、緊張しながら席に座っている所が似ているなぁって」

「なるほど…?」


 確かに自分の順番を待っている時、ドキドキしてたもんね。入学初日の今もちょっとドキドキしてるし。確かに気持ちはちょっと似ているかも。


「ふふ、ドキドキするね」

「うん、そんな感じ」


 ふたりでクスクスと顔を見合わせて笑う。あ、勿論、リシューの挨拶はちゃんと聞いてるよ?本当だよ?





「二人とも楽しそうだったね」


 挨拶を終えたリシューが私達の所に戻ってくる。


「き、聞いてたよ?」

「うん。ちゃんと聞いてたよ?」


 私は思わずどもってしまったけれど、ソフィアはいい笑顔を浮かべて堂々と頷く。


「なんの話をしてたの?」

「ん?このドキドキ感がなんか適性検査の時と似てるなってソフィアが言うからそうだねって言ってたの」

「あぁ、なるほどね。シルフィー、ずっとそわそわしてたもんね」

「言い方!!」


 そわそわってなんだか挙動不審だよ!せめて、わくわくしてるとか他の表現があるでしょ?!


「むぅ」


 拗ねますよ?!


「リシューのばーか……」


 そう、私は拗ねているのです。なのに、何でリシューとソフィアは笑いを堪えているのですか?!


「かわいい」

「ええ、可愛いです」

「やっぱり拗ねている顔も可愛い」

「頬を膨らませている所も、リスみたいで可愛いわ」


 もう!何だかやっぱり二人似てる!嬉しくない方に!


「ふふ、拗ねないで。後でケーキおごってあげるから」


 リシューがそう言ってくる。だから、もうそんなんじゃ騙されないって言ってるでしょ?!


「ココアもつけるよ」


 …っは!お菓子なんかでつられないんだからね!


「じゃあ、ケーキ2つでどう?」

「……お土産に、クッキーもつけてくれる?」

「うん。お安い御用だよ」

 

 ………今回だけ、本当に今回だけなんだからね!


「ゆるしてあげる……。ケーキ、ふたつだよ?」

「ふふ、うん。約束」


 これが割といつもの流れなので、ソフィアも慣れて下さい。だってさっきからお腹を抱えながら震えているもん。笑いたいけど、入学式中だから必死に我慢してる感じ。ご迷惑をおかけします。





「あ、ルートお兄様!」

「あ、本当だ」


 壇上には制服をしっかりと着こんだルートお兄様が新入生歓迎の挨拶をするところだった。こういう所を見ると、ルートお兄様は王子様なんだなって思う。私にとってルートお兄様は王子様というより、アル様の弟って感じだからなぁ。

 ルートお兄様がマイクのようなものを持って話し始める。

 

「入学おめでとう」


 さっきまでの空気と何か変わった気がした。自身に満ち溢れた堂々とした姿。多くの女子生徒が見惚れているのが空気で分かる。きっと男子生徒は憧れの視線を向けている事だろう。


「ルートお兄様、格好いいね」

「うん。ルートにぃは格好いい」

「私もそう思う。先程あった時とは別人みたい」


 ソフィアも同意してくれた。


 アル様ともレオンお兄様とも何か違う。二人とは違う王族の気品。

 レオンお兄様の婚約者のディアナお姉様も優雅美しい。それに比べて、アル様の婚約者の私はちんちくりん。私もいつか、アル様を支えられるような気品を持つ事が出来るのだろうか。


 多くの人が静かに聞きほれている間にルートお兄様の挨拶は終わってしまった。


 ルートお兄様の挨拶でこの入学式は終わってしまった。やっぱり早く終わってくれたからありがたい。


「それでは教員が案内しますので新入生の皆さんはその場でお待ちください」


 生徒会長であるルートお兄様の声をきっかけに教員も動き出す。在校生の皆はそれぞれ動いて恐らく各自の教室に帰っていっている。そうすると、自然と皆がざわざわしてくる。私のまわりの子も皆近くの人と話し始めている。私達も例外ではない。

 ソフィアもリシューも話しかけてくれるから、それに応えながら一緒に話す。








 でも、私は、ルートお兄様の挨拶の時、一瞬だけ静かに瞳を潤ませていたソフィアが気になった。






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