048、演劇鑑賞です
生徒会の演劇を見る為に講堂に来たけれど、そこはものすごい人だった。演劇はプログラム的に今日のメインディッシュだもんね。
「ふわぁ、流石生徒会だね。凄い人だよリシュー!」
「そうだね!」
ふぇー、リシューがいてよかった。一人なら絶対はぐれる。
「はぐれないように手を繋いでおこう?」
私達…、というか私は特に背が低いから、はぐれたら探し出すのは困難!
「うん。あ、あそこ!」
前の方に空席があるのを見つけた。あれ、あそこに座っているのって…、ディアナお姉様だ!
「リシュー、ディアナお姉様がいるよ!」
「あ、本当だ。行こう」
私達がディアナお姉様の方へ向かおうと歩いていると、周りに居た人たちが道を譲ってくれた。優しい生徒さんがいっぱいだね。お礼を言いながら進んでいくと、あっさりとお姉様の所に着くことが出来た。
「姉上、ここにいたんですか。学園内で会えると思っていたのになかなか会えないからシルフィーがへこんでいましたよ?」
「あら、リシュー、シルフィー。それはごめんなさい。ずっとレオンハルト様といたものだから。それより、こちらへいらっしゃい。一緒に見ましょう?」
「はい!」
ディアナお姉様に席を進められたのでそこに座る事にした。
「今日はマリーお姉様は来ていないのですか?」
「ええ、マリーは今日、おじいさまに呼び出されて出かけているのよ。」
「学園祭に行きたかったって悔しがっていたけれどね。」
残念。お兄様も劇に出るならマリーお姉様も見たかっただろうなぁ。
「そういえば、生徒会による劇ってありましたけれど、5人で劇をするんですか?」
「ええ、そうみたいよ。ナレーションは一般生徒がしてくれるみたいだけれど。生徒会の出し物は毎年生徒の要望で決まるのよ。それで今年は演劇なの。勿論、台本も生徒が書いているのよ」
台本も生徒が?!プロに任せるんじゃなくて??
…この学園は才能が豊富だなぁ。
しばらく皆でお話していると、
『ジーーーーー』
という音が鳴り響いた。
「??」
なんの音だろう?
「あ、もうすぐ始まるみたいね。」
なるほど。始まりの合図なのね。確かにさっきまで騒がしかった講堂が静かになってきた。
(アル様は何の役なんだろう。楽しみ!)
『むかーし昔、あるところに美しい少女がおりました。』
そのナレーションと共に出てきた少女は私の知らない人だった。もしかして彼女が平民で成績優秀の生徒会メンバーかな?
「彼女は生徒会メンバーのノア様よ」
ディアナお姉様が紹介してくれる。ノア様って言うのね。
…むぅ。生徒会の女性ならお姉様だっているのに!お姉様が主役の方が良かった!……でも、お姉様、『面倒』って言って断りそう。実際断ったのかも。
お姉様は何の役なんだろう。
『その少女はノア姫といい、動物と心を交わす優しい少女でした。』
途端に、舞台のセットが草原に変わる。ま、魔法って凄い!こういう使い方もあるんだ。これはたぶん、緑の属性の魔法だね。
「ノアは今日も元気だね」
そう言って出てきた人は私が知っている人だった。
(レオンお兄様!)
「お兄様。だって今日はいい天気ですもの。このまま動物達とかけっこでもしちゃおうかしら」
「ふふ。ノアの元気な姿を見ていることが私の幸せだよ」
『王様は妹であるノア姫の笑顔が何より大切でした』
王様はそっとノア姫の頭を撫でる。目が優しさに溢れている。
「もう。本当は国民の笑顔の方が大切なくせに」
「ごめん。でも、どっちも大切なのは本当だよ?」
「ふふ、分かっているわよ。」
凄い。演技って分かっているけれど、二人が本当の兄妹のように見える。演技力が凄い。あと、純粋に敬語じゃないレオンお兄様って新鮮。敬語じゃなかったら少しだけ雰囲気が変わるね。
実際に敬語で話さなくなったレオンお兄様ってどんな感じなんだろう?でも多分、私達に向けてくれる優しさは変わらないと思う。
「本当は顔を合わせたことのない隣国の王子と結婚なんてさせたくないんだ。本当はノアが心から望んだ人と寄り添えるようにしてやりたいんだが…」
「……仕方がないことよ。我が国のように小さな国は大きな隣国を頼らないと生き残れないもの。でも、私の婚約者はとても素敵な人みたいよ?良い噂しか聞かないもの。きっと幸せになれるわ。」
「だと、いいのだが」
「もう!お兄様は心配しすぎ!私は幸せになるの!」
ノア様もすごい。本当にただの平民なのだろうか。レオンお兄様に気後れすることなく演技をしている。本当に幸せになると、心から思っている。まるで演技じゃなくて本心みたい。もしかして演技の勉強でもしていたのだろうか、と思ってしまう。
素敵な幸せな風景が一瞬にして変わった。今度は舞台セットが王様(レオンお兄様)の私室になった。少し薄暗いから、場面はたぶん夜だ。
「「あれ~??」」
と思った途端に聞き覚えがある2つの声が聞こえてきた。息がぴったりで、いつも聞いている大好きな声。間違えるはずがない。
(お兄様とお姉様だ!)
「だ、誰だ!」
王様が慌てたように剣を構える。そこに現れたのはとんがり帽子をかぶった二人の魔法使いがいた。私の予想通り、お兄様とお姉様。
素敵!!叫びたい気持ちを必死に我慢する。これぞ本当の双子コーデ!お揃い!
「「僕たちは魔法使い」」
しかも、この魔法使いのキャラなのか知らないけれど、いつも優しそうに笑顔を浮かべているお姉様も、何だかいたずらな笑顔をしている。こんなお姉様、貴重!!お兄様は割といつも通りだけれどね。
鼻をクンクンした魔法使いたちが言葉を発する。
「何だか変な気配がするなぁと思って来てみたけど」
「ここじゃあないわね」
警戒する王様を無視して、二人は部屋中をうろうろする。
「「うーん?どのあたりからだろう??」」
二人とも手をあごにあてて考え込んでいる。
凄い!動きがシンクロしている!何だか、私とリシューよりも、お兄様とお姉様の方が『不思議の国のアリス』の双子っぽい。動きがシンクロしている所とか、いたずらな笑顔をしている所とか。何より本当に双子だしね。
「「あっちだー」」
魔法使いは王様そっちのけで、部屋から出ていく。お兄様とお姉様が飛び跳ねるように歩いている。か、可愛いっ!!思わず歓声をあげそうになるけれど、シリアスな場面っぽいから我慢。
『自分を暗殺するのではないかと慌てた王様でしたが、その気のない魔法使いにすっかり毒気を抜かれてしまい、その魔法使いについていく事にしました。』
確かにナレーションさんの言う通り、自分そっちのけだったら警戒する気も失せるよね。しかも部屋に乗り込んできたのが不思議な魔法使いだったら尚更。
でも、自分のお城をうろうろされるのは流石に困る。だからついていったのね。
……でも現実では考えられないね。だって、まず結界を張り巡らせている王様の私室に侵入してくるなんて事、出来る訳が無いし、もし侵入してきたのなら相当な手練れ。簡単に警戒を解くなんて真似できる訳が無い。いくら毒気が抜かれる魔法使いだとしてもね。
「「ここだー」」
『魔法使いと王様がたどり着いたのはノア姫の寝室でした』
魔法使いは王様が止める間もなく、そそくさとノア姫の寝室に入っていく。そして魔法使いは寝ているノア姫の顔を覗き込んで会話をする。
「「この子だー」」
「この姫にはの呪いが掛けられているなぁ」
「魔女の呪いね」
「の、呪いだと?!」
王様は慌てたように魔法使いに問いかける。
「そう。消えない呪いが掛けられているわ」
「放っておくと死んでしまう呪いだな」
魔法使いは手を繋ぎなんでもないように言う。
「「この姫は1か月後、糸車の針に刺されて死ぬ」」
「!!!」
『驚いた王様が詰め寄ろうとした時には、魔法使いはすでにここにはいませんでした。』
『それからの王様の行動は早く、王様の命令でこの城にある糸車は全て廃棄されました。』
「この城にある糸車を全て廃棄しろ!!」
『そうして、城にある糸車は全て処分されました』
ふわぁ、ドキドキしたぁ。そういえば眠りの森の美女ってこういう話だったなぁ。
それにしても、皆本当に演技上手。そういえばアル様がまだ出てきていない。もう前半は終わってしまったようなものじゃない?まだ出てこないの?
「ねぇ、リシュー、アル様まだかなぁ?」
「もう少しだよ。アルにぃはたぶんあの役だね。」
「え、あの役って?」
「もう少しで分かるよ。」
なんでリシューは分かるんだろう。……もしかして演劇の事知ってた?いや、生徒会が演劇をするって聞いた時、私と同じように驚いていたからそれはないね。
私達のやり取りが面白かったのかディアナお姉様は私達を見てクスクス笑っている。
「ディアナお姉様はアル様が何の役か知っているのですか?」
「いいえ。でも、何となく予想はついているわ。」
むぅ。分からないのは私だけ?何だか悔しい。
『一か月後、ノア姫は公務をしている王様の元へ向かっていました。しかし、その途中である部屋の扉が開いているのに気が付きました。』
というナレーションの声と共に、ノア姫が再び出てきた。
「誰かいるの?」
部屋の中を確認するも、誰かがいる様子はない。ノア姫はそーっと部屋の中へ入った。そしてノア姫の目の前には、
「あら、これは何かしら?」
もう城にないはずの糸車があった。
『しかし、ノア姫は糸車というものは知りません。呪いの事も知りません。ノア姫は何の気なしに糸車に手を伸ばし、針で手を指してしまいます。』
「いたっ!」
『魔法使いの予言通り針に刺されたお姫様は、魔女の呪いで眠りについてしまいました。』
「なぜだ!糸車は全て処分したはずだ!」
倒れていたノア姫を見つけた王様は、姫の近くに糸車がある事に気が付きました。
「「あーあ。だから言ったのに」」
そこに再び魔法使いが現れた。やっぱり息がぴったり。流石私のお兄様、お姉様。
「お前たちは!!」
王様は魔法使いに詰め寄る。
「お前たちは魔法使いなんだろう?!だからノアの未来を助言できた!だったらノアを救う事も出来るはずだ!そうだろう?!……そうだと、言ってくれ。」
王様はうなだれるように拳を下げる。そんな王様に対して魔法使いはニヤッと笑う。
「「いいよ。祝福をあげる」」
「祝福…?」
「「うん」」
「幸い、姫はまだ息があるからね。」
「魔法をかけてあげる。」
「姫の命を助けることはできるよ。ただし、1か月以内ね。」
「それ以上は持たないわ。」
「姫の眠りを覚ますことが出来るのは真実の愛のみ。」
「茨を越えることが出来るたった一人の真実の愛のみ。」
「「僕たちの役目はここまで。後は姫を愛する一人の男の出番だよ」」
そう言って、魔法使いは再び消えてしまった。最後までシンクロ率最高でした。お家でもやってくれればいいのに。
「愛…?姫を愛する一人の男……。そんなの一人しかいないではないか」
『王様が思い浮かべたのは一人の男。隣国の王子でした。そうして幸いなことに、その王子は姫を妻として迎える為、この国に向かっており、間もなく到着するところでした。』
そしてまたもや舞台セットが変わり、城門になった。
「ここが私の婚約者がいる国か」
その声と共に登場したのは
(アル様だ!!!)
待ちわびていたアル様がようやく登場した。このタイミングでこのセリフっていう事は、アル様は隣国の王子様だね!という事はアル様も主役だ!!流石アル様!
『しかし、王子を迎えたのは、姫でも王様でもなく、城に巻き付く大きな茨でした』
「な、なんだこれは…?我が国でもこんなに太くて大きい茨は見たことが無いぞ」
『王子は間を縫って城の中に入ろうとしますが棘が邪魔をして思うようにいきません』
「「姫は眠っているよ」」
そこに再び魔法使いが現れた。
「誰だ?姫とはノア姫の事か?」
王子は急に現れた魔法使いに警戒しながら言葉を投げかける。そんな王子に魔法使いは顔を見合わせてニヤッと笑う。
「「そうだよ」」
「姫の眠りを覚ますことが出来るのは真実の愛のみ。」
「茨を越えることが出来るたった一人の真実の愛のみ。」
「「あなただけ」」
魔法使いは王子に指をさして言う。
「この茨を突き破って姫の所に行かないとー」
「姫は死ぬよ?」
「!!!」
何でもない事のように死を宣告するお兄様のセリフに思わず鳥肌が立ってしまった。
再び神出鬼没の魔法使いが消えたが、王子は茨をじっと見つめる。
「この茨を何とかしないと姫の命が…。何とかできないものか。」
王子が剣を構えた瞬間、城に巻き付いた茨が意思を持ったように、一斉に王子の方へ向かってきた。
「はっ!」
しかし、王子は次々と襲ってくるその茨を剣を使って切り捨てる。
(かっこいい!!)
そして当然のように客席から歓声が上がる。わ、私だって叫びたい。でも我慢。アル様の見せ場なんだから、しっかりと目に焼き付けないと。あぁ、こういう時にカメラが無いのが残念!
でも、アル様の剣術って…。
(ずっと思っていたけれど、アル様の剣術ってなんだかお兄様達と違う?王宮剣術かな?)
そうして、茨は……、木っ端みじんになった…。アル様、やり過ぎじゃないですか??凄いけれど。
そうして王子は茨を越え、城の中に入っていく。そこで待ち構えていたのは王様だった。
「あなたは?」
「この国の国王、レオンと申します。よくぞ、遠いところまで……」
「いったいこの国はどうしたのですか?」
「それが……」
『王様が王子にノア姫にあった出来事を簡単に説明します。』
「なるほど。それでは、私が姫の呪いを解くことが出来る可能性があるという事ですね」
「はい。あの魔法使いによると、茨を越えた者がノアの呪いを解く可能性があると」
「なるほど。」
「しかし、呪いの解き方については一切知らされていないのです。真実の愛が呪いを解く、としか。」
「分かりました。まずは、姫に会わせて下さい。」
王様と王子は二人で姫の寝室へ向かった。
王様と王子がノア姫の寝室に行くと、姫はいつもと変わらず美しい姿で眠っていた。
「ここで眠っているのが私の妹、ノアです。」
「……なんて美しい姫なんだ」
王子は寝ている姫に愛おしそうに話かける。
「ノア姫の婚約者のアルフォンスと申します。姫を迎えに来ました。どうか目を覚まして下さい。私の姫。」
そうして眠っているノア姫に王子が口づけをする『ふり』をする。
すると姫はゆっくりと目を開けた。
「あなたが、助けて下さったのですか…?」
「はい。」
『王子の真実の愛による口づけで、ノア姫は無事に目を覚ましました。そうしてお姫様と王子様は結婚し、幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし』
ナレーションがそう締めくくったと同時に大きな拍手と歓声が上がった。
(とーっても素敵!皆演技力が凄い!)
この演劇の台本を考えた人はプロになれると思う!
私も全力で拍手を送る。
「とーっても素敵だったね!」
私がそういってリシューとディアナお姉様の方を向くと、二人とも複雑そうな顔をしていた。
「そうね…」
「うん、すごかった、ね?」
??
「二人ともどうしたの??」
「……。シルフィー強がっているわけじゃないよね?」
「??」
強がる??何に対して?
「ねぇ、嫉妬しないの?」
「?」
嫉妬?どうして?何に対して?
「殿下とノア様がキスしていたのよ?」
「え、でもしているふりですよね?」
「そ、そうだけれど…」
実際にしているわけでもないのに、どうして嫉妬なんてするんだろう?
確かに本当にしていたら少し悲しかったかもしれないけれど。
「それに劇とは言え、ノア様は殿下の婚約者を名乗ったのよ?」
??
それこそ劇の中だけでしょ?
皆、変なの。
まだ複雑そうな表情のディアナお姉様とリシューを連れて舞台裏にやって来た。そこにはまだ王子様の衣装を着ているアル様しかいなかった。お兄様達どこだろう?
「アル様!お疲れ様です!剣で戦う所、すっごく恰好良かったです!」
「シルフィー?!どうしてここに……、」
「チラシを見てきました!」
私がそう言うと、アル様は頭を抱えてしまった。
「あぁ、やっぱり学園祭に呼ぶんじゃなかったかな…。シルフィーが気にすると思って劇の事言わなかったのに…」
「そうですよ!どうして教えてくれなかったのですか?!こんな素敵な劇、見ないなんて勿体ないです!見ない方が気になりますよ!」
だって、終わった後に、『生徒会の演劇、素敵でしたわよね』『本当に!特に最後は感動しましたわ!』って生徒さんが話しているのを何のことだろう?って気になりながら帰らないといけないんだよ?
「え、そっち??」
え、他に何があるの?
「でも、本当に素敵でした!」
私は目を輝かせてアル様に感想を伝える。アル様は何だかリシュー達と同じような複雑な目をしていたけれど、何でだろう?いつの間にかここに来ていたお兄様やお姉様、レオンお兄様も可哀想なものを見る目でアル様を見ている。何ならノア様もアル様にそんな目を向けている。
不思議。
「私もアル様みたいに素敵な劇をしてみたいです!」
私がそういうと、絶対キスシーンはやめてね、ってアル様に真顔で言われた。少し怖かったので、絶対にキスシーンはしないと誓います。
そうしてトラブルもなく、楽しかった学園祭は終わってしまいました。早く学園生になって私も学園祭したいなぁ。