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004、お兄様は素敵です

 目が覚めてから2日がたった。体はだんだんと動くようになり、食欲も少し戻ったけど、体力はほとんど戻ってない。家族が心配性で部屋から……、いや、ベッドからほとんど出して貰えない。唯一食事の時は机で食べるけど、ほんの少しの距離でも誰かが抱っこして連れていってくれる。そんな生活をしてたら体力が戻るはずもなく……。私は現在、階段の踊り場で座り込んでいます。もちろん体力が無いからです。皆が部屋から出してくれないので勝手に抜け出した結果がコレです。


(わ、私ってこんなに体力無かったの……?)


 窓から庭が見えて、お花が綺麗に咲いてたから見に行きたかっただけなのに、予想外の問題だった。部屋から出て、50mほど廊下を走って階段を降りてたら、息が上がって歩けなくなってしまった。これは無駄に広い屋敷を恨むべきか、それとも体力が衰えている自分を恨むべきか。誰かがここを通れば良いけど、お父様はお城で仕事だし、お母様とお姉様はお茶会に行っている。今お兄様しか家にいない。たぶん、今頃は朝の剣の稽古をしている頃だろう。アンナには寝てるから1人でも大丈夫って言ったから、私が抜け出した事に気付かないと思う。あとで叱られるだろうなぁ……。ちなみに今はまだ温かいとはいえ、風が冷たい。ここでじっとしてても冷えるだけだ。


 座り込んでいるからだろうか、それとも寒いからだろうか。屋敷がとても大きく感じる。大きいのは事実だけど。誰もここを通らなかったらどうしよう。そう思ったら段々と心細くなって、涙が浮かんでくる。寂しいのは慣れてるはずなのに。ここ数日、ずっと家族と一緒にいたからだ。妙に寂しくなった。そして気づいた。


 きっと私は部屋で一人でいることが寂しかったんだ。庭を見たかったという気持ちに嘘はない。でも、お兄様が家にいることは知っていたから、一緒にいて欲しかっただけなんだ。抜け出すくらいならアンナにでも一緒にいてもらえば良かった。この家の人は理由なく私の願いを断ることはしない。少し考えれば分かったことだ。なのに自分勝手に部屋を出て、勝手に泣いて。本当にダメだ。


「お、おにーしゃまぁ……!どこぉ!」


 嗚咽を漏らしながら泣いていると、


「シルフィー!」


 そう言って走って来てくれるお兄様の姿が見える。安心してもっと涙が出てきたけど、必死にお兄様に手を伸ばす。


「おにーしゃま!」


 きっと私は酷い顔だろう。泣き腫らして顔はぐちゃぐちゃ。鼻水だって垂れてる。それなのにお兄様は何も気にせず抱きしめてくれる。


「シルフィー、どうしたんだ?部屋で寝てたんじゃなかったのか?」

「ごめんなさい……っ」


 泣きながら謝る私を抱き上げ、背中をトントンしてくれる。しばらくそうしていたが、お兄様は私を抱きしめたまま立ち上がり、そして、そのままゆっくりと階段を降りる。


「おにーしゃま、どこにいくんですか……?」

「んー?庭に行こうかなぁと思って。シルフィー、起き上がってから部屋の外に出てないもんな。さすがに退屈もするわなぁ」

「!」


 お兄様すごいっ。私が庭に行きたがってたの気づいたのかな?


「おにーしゃま、だいすきです!」





 庭には飼い犬のゴールデンレトリバーのディーアが庭の端っこで寝転んでいた。とっても大きい犬だ。こげ茶の毛並みに目は黄色。私や家族はディーと呼んでいる。でも、使用人はディーア様と呼んでいる。


「ディーっ!」


 お兄様の腕の中から名前を呼ぶと、ディーは走って駆け寄ってくる。使用人達がシートを持ってきてくれたので、お兄様はその上に私を降してくれる。


「ディー、シルフィーだよっ! ひさしぶりだねっ!」


 ディーの背中を撫でると、お返しとでもいうように顔中を舐めてくる。座っている私の両肩にディーの両前足が乗っている。しかし、私より大きくて重いディーの重量に耐えられるはずもなく、私はそのまま押し倒される。


「ディーっ! まって、つぶれちゃう!」


 今の私からすると、ディーは本当に大きくて潰れそうになる。本気で慌てていると、お兄様が、


「ディー、ストップ!」


 と声を掛ける。すると、ディーは私から降りてお兄様の側でお座りをする。すごいなぁ、ちゃんと躾がされている。


「よしよし」


 そう言いながらディーの頭を撫でているお兄様はとってもかっこいい。私、お兄様の妹じゃなかったら、お兄様と結婚したいっ!それくらい大好き!





「シルフィー、あっちにある大きい木のところでおやつを食べないか?」

「おやつ!食べます!」


 お兄様の事を考えていると、嬉しい提案があがった。実はこの世界に転生してから、ごはんは食べたけどおやつは食べていない。まだ、消化のいいものをって言われてるから。でも、私はおやつを食べたい!


「じゃあ行こうか」

「はい!」


 私は無意識に両手をお兄様の方へ向けてしまった。そんな私の行動を見て、お兄様は目を丸くしている。それは所謂抱っこをねだるポーズな訳で……


「ご、ごめんなさいっ!」


 すぐに手を引っ込めて、無意識な行動とはいえ謝る。お兄様はここまでずっと抱っこで連れてきてくれたから疲れているはず。そんなお兄様に迷惑はかけられない。私は休んだから少しなら歩ける。今まで少しの距離でも抱っこされてきたから甘えてた。


「シルフィーは本当に可愛いなぁ! あ~もうやばい! ロビンっ! 妹が可愛くて死にそうなんだが!」


 と言いながら抱き上げてぎゅっとされる。ロビンとはお兄様の執事だ。お兄様と小さい頃から一緒で兄弟のように育ったらしい。


「シルフィー様が可愛らしいのは知っています。それよりも強く抱きしめすぎて苦しそうですよ」

「あっ! シルフィー大丈夫か!?」

「だ、だいじょーぶです……」


 お兄様は強く抱きしめられてぐったりしている私を気遣ってくれる。……なんか似たようなことがこの間もあった気がする。





 大きな木の下に行くと、使用人がシートをひいて、その上に小さい机を置いてくれていた。クッションもいっぱいあったから快適。焼き菓子はまだ消化に悪いかもしれないからと言って、ゼリーを用意してくれていた。

 めちゃうまです。りんご味のゼリー最高です。

 食べ終わった事にしょんぼりしていると、お兄様は自分の分のゼリーをあーん、と言いながら食べさせてくれた。自分の分のゼリーまでくれるなんてお兄様はなんて優しいのだろう。でも、私が食べる度に、何故かお兄様は身悶えていたけれど、あれはなんだったのなだろう?


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