アルフォンスpart4
遅くなりましたが、誤字報告をしてくれた方、本当にありがとうごさいます!
またありましたら、お手数ですがお願いします…!
朝起きて、着替えて、朝食を食べていると、フィオーネ公爵家から至急の面会希望の報せが届いた。至急と聞いて嫌な予感しかしなかった。朝食なんて食べている暇はない。父上と一緒に公爵の元へ向かう。
公爵に面会すると、いつになく深刻な表情をした公爵がいた。それだけではない。騎士団の団長や各隊長、魔法騎士団隊長もいた。しかし公爵がこんな表情をするという事は…
「シルフィーに何かあったのか?!」
私の予想は嬉しくない事に大当たりだった。
話を聞くと、朝からシルフィーがいないという事だった。部屋から出て行った形跡もない。窓も鍵がかかっていて開けた様子もない。割られてもいない。扉の前に立っていた護衛2人も扉が開いた様子もなく、侵入者もいなかったと主張している。門番も誰も侵入した様子は無いという。それに、もし、侵入者ならシルフィーと一緒に眠っていたディーアが黙っていないだろう。
何かに八つ当たりしたいような破壊衝動に体がざわつく。シルフィーが生きていなかったら、この世のものすべてを破壊し……、犯人には生きている事を後悔させるように残忍な……、そこまで考えてハッとする。私らしくない。シルフィーが攫われたと聞いて動揺している。落ち着け、冷静にならなければ助けられるものも助けられなくなる。
それにしても…、
…一体どういう事なんだ?転移魔法か?いや、けれど転移魔法は必要な魔力量が多く、現在は我が魔法騎士団隊長しか使えない。しかし、その魔法騎士団隊長は昨夜、陛下と朝方まで会議をしていた。私だって転移魔法は使えない事も無いが、それはバラ園にいく事のみだ。長距離なんてとてもじゃないが使えない。
陛下はすぐに騎士団に捜索命令を出した。けれど、それでは遅い。王都は広い。何万人もいる人の中から、しかも裏路地も多いのに、そんな中から見つけ出せるのか?一軒ずつ地道に王都中の家を回っていくのか?意識を失っているシルフィーを見つけ出せるのか?
いや、無理だ。騎士団を信用していない訳では無い。でも今回は無理だ。時間が無い。そんな事をしている間にどんどん遠くへ行ってしまう。王都の外に……。何かいい方法は無いのか?父上たちも本当は分かっているのだろう。捜索隊を派遣しても恐らく見つからないであろうという事を。
皆眉を寄せて考え込んでいる。何か…、何かいい方法は無いのか…!
……………そうだ!
「私がシルフィーに送ったペンダントに私の魔力を込めています!それをたどれば!」
「そ、そうか!言いたいことはありますが感謝します!」
実はこの間シルフィーと城で会った時にペンダントに私の魔力を流しておいた。逆に私のペンダントにはシルフィーの魔力を流し込んでいた。…こっそりと。どうやったかというと、シルフィーが魔法の練習をしていた時にその魔力をこっそりと拝借した……。
…シルフィーには内緒。でも、今回はこれが功を奏した。もし街でシルフィーとはぐれたらって時の為にしたけれど、あの時の自分を褒めたい。
公爵は何だか渋い顔をしているけれど。それでも、今はシルフィーを一刻も早く見つけられるのならばどんな方法にでもすがりたいのだろう。シルフィーを助けたい。皆気持ちは同じだ。
意識を集中して、シルフィーのペンダントに込めた私の魔力を探る。しかし、正確な場所が掴めない。いつもなら正確な場所を察知する事が出来るのに。……『いつもなら』っていう所には注目しないでくれ。
……これは。
「地図を用意してください」
そういうと、控えていた騎士がすぐに地図を用意してくれた。方角は、恐らくこっち。そして、魔力の微弱さから察するに、恐らく
「だいたい、このあたりか…」
そうやって地図の上に手をかざす。大体の場所を確認するが、そこは王都から馬で5日かかる所だった。けれども、やはり、正確な場所は分からない。ここから分かるのは大体の場所。その「大体」は恐らく半径5キロを軽く超えている。
「なぜそんなとことに?!」
「シルフィーがいなくなったのは早くても昨夜の10時だろう!半日もたっていないんだぞ!どうやったらそんな所まで?!」
「迷っている暇はない!すぐに部隊を編成して向かうぞ!」
動揺する騎士に父上が声をあげ、すぐに迎えるように準備を整える。私の提供した情報をだれも疑わない。恐らく、皆私の事を信じてくれているのだろう。こんな子どものいう事を。でも、それが凄くありがたい。
しかし…。
「遠いな…」
「魔法騎士団隊長の転移魔法で行く事は可能ですか?」
シュヴァン殿が魔法騎士団隊長にそう提案してくれる。しかし、陛下は反対した。
「申し訳ありません。私の転移魔法は一度行った場所にしか転移をする事が出来ません。殿下が差した場所には行った事がありません…」
そうか…、転移魔法を使うのにも様々な制約があるのだな。ただ便利、というだけではないのか。
「それに、君の魔力量は膨大だが、この距離となると恐らく行き、または帰りのどちらかしか使用できないだろう。それならば行きは馬で飛ばして、シルフィー嬢を助けてから転移でさっと帰る方がシルフィー嬢の負担にならないだろう。」
流石父上…、いや陛下。早めにシルフィーを助けたい気持ちはあるが、衰弱しているだろうシルフィーを長時間馬に乗せるのは得策ではない。
これは私の勘だが、シルフィーの命は無事だろう。命を狙っているのならシルフィーを見つけた部屋ですぐに殺してしているだろうから。それに、私が身に付けているペンダントからシルフィーの魔力が感じられる。
でも、待っていられる訳が無い。
「私も連れて行ってください!」
「し、しかし殿下をそんなに遠くへお連れする訳には…」
騎士団長のシュヴァンが反対するが聞き入れる訳にはいかない。
「私なら近くに行けばシルフィーの正確な場所が分かる!」
近くまで行ってそれから皆でシルフィーを探すなんてことをしていたら何日かかるか分からない。近くに行きさえすれば、私なら正確な場所が分かる。
シュヴァンにも私の覚悟が分かったのか、私に確認をしてくれた。
「時間がありません。馬で飛ばしていきますので、休憩時間もほとんどありません。正直、騎士でも耐えられるか分かりません。それでも行きますか?」
「勿論だ!シルフィーを助ける為ならば!」
という事で、私も同行させてもらえることになった。向かうのは、騎士団の3番隊。そして医療班、転移魔法が使える魔法騎士団隊長。
それから、最低限の準備だけしてすぐに出る事になった。道のりは正直きつかった。休憩はほとんどない。馬に乗りっぱなしでお尻だって痛い。
でも、弱音なんて言っていられない。きっとシルフィーはもっとつらい思いをしている。シルフィーを助け出すまでは耐えて見せる。
シルフィーは生きている。しかし、私のペンダントに込められたシルフィーの魔力反応が日に日に弱まってきているのが心配だった。
5日目の朝にようやく近くまで来ることが出来た。でもここから先はまだ分からない。という訳で、もう一度集中して、自身の魔力を探る。
「……ここから北方に約4キロ離れた場所。……この反応は、恐らくシルフィーは建物の中にいる。」
そう言うと同時に、また馬に乗り直し、シルフィーの元へ向かう。このペースで行くと恐らく数時間くらいだろう。無事でいてくれ。
しかし、その瞬間、私のペンダントに込められたシルフィーの魔力反応が消えた。
「シルフィー!」
「殿下?どうしました?」
「シルフィーの魔力反応が消えた!」
「!!……、急ぎましょう!」
それからは今まで以上のペースで進んだ。最悪の予感が頭を過り続ける。
もしかしたら、シルフィーはもう……。そんな想像をしたのは恐らく私だけではない。犯人はシルフィーを誘拐しておきながら、公爵を脅迫をする様子も、シルフィーを殺す様子もない。だから、きっとどこかで油断していた。シルフィーはきっと笑顔で帰ってくるだろうと。
ただ単に魔力が切れただけならばそれでもいい。けれど命だけは無事でいてくれ…!
私の魔力をたどっていくと、四方八方をコンクリートの壁で覆われた建物があった。いや、建物と呼ぶには建物に失礼だな。だって『これ』は窓どころかドアすらない。入り方も分からない。だが私の魔力反応から察するに、間違いなくシルフィーはこの中にいる。
「シルフィー嬢はこの中に…?」
「間違いない。」
助け出さなければ。しかし…。
「どういたしましょう。壁を壊したとしても中にいるシルフィー嬢に危険が及ぶ可能性があります。」
と3番隊隊長。
「そして、不自然なことに、中にはシルフィー嬢以外の反応はありません。それどころか、残った魔力の残留を見ても、ここ数日の間はシルフィー嬢の魔力反応しか感じません。つまり、犯人を特定する事が出来ません。」
との魔法騎士団隊長。私も探ってみるが、本当に何の反応もなかった。
「シルフィー!聞こえるか!」
呼びかけてみても中から何も反応は無い。だが、迷っている暇はない。
「壁を壊してくれ」
「しかし、それではシルフィー嬢が!」
「私がシルフィーのまわりに結界を張る。」
私はこの中で魔法騎士団隊長の次に魔力量が多い。しかし、結界魔法は難しくまだ安定して使用できない。けれどもやるしかない。
「殿下、それでしたら結界魔法は私が!」
魔法騎士団隊長がそういってくれるが、そういう訳にはいかない。確かに魔法騎士団隊長の方がより高度な結界を張ってくれるだろう。しかし、
「魔法騎士団隊長は転移魔法の為に出来るだけ多くの魔力を温存していてくれ。可能な限り馬での移動時間を短縮したい。」
「了解いたしました!」
魔法騎士団隊長が納得したところで、早速結界魔法に取り掛かる。対象は見えないが、私の魔力を注ぎ込んでいるペンダントを中心に、半径1メートルの球体の結界を慎重に張る。これは球体が大きければ大きいほど薄く、脆くなる。しかし、シルフィーは5歳児の中でも小さい方だから、このサイズの球体でも十分だ。その為、ある程度の衝撃ならばたえられるだろう。
少しずつ結界を完成させる為に魔力を注いでいく。ゆっくりと魔力を注いでいくと、あるところではじかれる感覚がした。恐らく結界が張れたのだろう。
「出来ました」
私のその言葉を合図に3番隊員たちが一斉にコンクリートの壁へ魔法を打ち始めた。……ものすごい音だが、シルフィーの耳は無事だろうか。一応結界には防音効果もついていたから大丈夫だと思うが。
それから10分ほど打ち込んで、ようやく壁に穴が開いた。驚くことにこの壁は1メートル弱もの厚さだった。これは外から叫んでも声が届く訳が無いな。
危険がない事を確認し、壊れた部分から中に入ると、ぐったりしているシルフィーを発見した。
「シルフィー!!」
シルフィーを抱き起して、まず、安心した。何故ならシルフィーの心臓はきちんと動いていたから。
(生きていた……!)
情けないことに、力が抜けて膝から崩れ落ちてしまった。
そういえば、シルフィーが生きているならば、何故私のペンダントのシルフィーの魔力が消えてしまったのだろう?
けれど、それでも指示はしっかりと飛ばす。
「医療班!シルフィーの様子を!」
「はい!」
呼びかけてもぐったりしたシルフィーから何の反応もなかった。意識を失ったままだった。よくよく見ると、シルフィーの手足は紐で縛られ、その部分は痣になっている。しかも服に隠れた部分以外には鋭いもので切られたような傷が多々あった。顔にまで。
(この傷は……、矢?)
嫁入り前の、私のシルフィーに傷を……?犯人がこの場に居たら殺してしまいたい。シルフィーはいったいどれほど怖い思いをしたのだろう。
だがしかし、この傷は数日経ったであろうものから、たった今付いたばかりのものまである。私と魔法騎士団隊長の見解だと、ここには誰も出入りしていない。一体誰がどうやって傷を……。考え込んでいると、医療班の診察が終わったようだ。
「城で精密検査をしない事にはまだ分かりませんが、今の所身体に外傷以外の問題はありません!しかし、この様子ではこの数日あまり眠れておらず、何も口にされておられません。早く休める所に連れていく必要があります!」
ありがたいことに、魔法騎士団隊長も転移魔法の準備が整っており、「すぐに転移を行えます!」と言ってくれた。
「数名は調査の為ここに残り、4番隊と合流して情報共有をしてくれ!」
「「了解!」」
今回は3番隊を引き連れてきたが、後続部隊として4番隊も派遣している。その4番隊は食料を持ってゆっくり(しかし、ある程度はとばしている)こちらに向かっている。これからここの調査をしてもらわないといけないからな。
……これで何かしらの犯人の手がかりでも見つかればいいが。残留魔力があったなら魔法騎士団隊長を残したんだがそれは無かったし、私も役に立てない。今はシルフィーの救出が最優先だ。
「戻るぞ!」
「「はい!」」
城に戻る3番隊が魔法騎士団団長の用意した転移魔法陣に入っていく。
「それでは転移を行います!……『転移 フロイアン城 訓練場』」
次の瞬間、目を開けるとそこは騎士の訓練場だった。