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039、懐かしい歌が聞こえました



 今日の夢はいつもと全然違った。だっていつも見る悪夢の始まりは真っ暗だったもん。でも、今日は夢の中が光で輝いていた。それに体だって自由に動く。光の発生源に向かってゆっくり手を伸ばしていくと、歌が聞こえてきた。



~♪


夜の空に 美しく光る月

星がきらめく 暗闇

鳥が飛び立つ 夜明け前


~♪



頭の中に響いてくる。綺麗な女の人の声。そして、少し低い男の人の声。お父様とお母様?ううん違う。お兄様とお姉様でもない。歌自体は、お姉様と歌ったことのある歌だ。日本の曲だからとても馴染み深い。


この歌声は誰?とっても安心できる声。


(懐かしい……)


もしかしてお父さんとお母さんかな?……多分違う。でも、そう思ってもいいよね?きっとお父さんとお母さんが生きていたら、こんな風に枕もとで子守歌を歌ってくれていたと思うから。


 本当に誰が歌っているの?ずっと聞いていたい。





 目を閉じて歌声に耳を澄ませていると、真っ白の服を着た金髪の2人の人が現れた。

 まだ夢は続いている。これが現実な訳ない。だってこんなに綺麗な人、現実にいないと思うから。誰だろう?今まで見たことが無い人。会った事もない。多分だけど、髪が長い人が女の人、髪が短い人が男の人かな?二人とも綺麗すぎてどちらも女性にも男性にも見える。とても不思議な存在。


『シルフィー』

『シルフィー……』


 男の人と、女の人が私の名前を呼ぶ。この声には聞き覚えがある。さっきまで歌を歌っていた人の声と同じ。


『私の愛し子、辛い思いをさせてごめんね。悪魔があなたを敵視するのも、元々私達神々のせい』


 愛し子?悪魔?神々?……何のこと?


『……まだ分からなくても大丈夫よ』


 うん。だって本当に何のことか分からないんだもん。


『私達が守るから……。今度こそ』


 守る?今度こそ?どうして私を守ってくれようとしているの?何から私を守ってくれるの?アル様からの処刑?それとも悪夢?


 ゆっくりと意識が朧気になってくる。多分夢から覚めるんだ。もっと話していたいのに…。


『……短い時間だけれど会えて良かったわ』

『あぁ。また会える』


 また…?また会えるの?本当?


 ……待っているから。









 ゆっくりと意識が覚醒してくる。耳に穏やかな心地よい声が聞こえてきた。同時にゆっくりと優しく私の頭を撫でる温かい手の感触も感じられた。

 おかしいな。さっきまで何も感じなかったのに。


 ここは現実なのに。


 ……夢から覚めたはずなのに。どうして、どうして……。



~♪


夜の空に 美しく光る月

星がきらめく 暗闇

鳥が飛び立つ 夜明け前


~♪



 どうしてまた歌声が聞こえてくるの?さっきまで夢で会っていた人たちの声じゃない。今度は誰が歌っているの?…ううん、知っている。一緒に歌ったでしょう?この声は……


「おね、さま……」

「!」


 あれ、声が出た…?しかも、喉が詰まっている感覚がして上手くしゃべれない。

 私が呟いた途端、歌声が止まった。


(まだ、聞いていたかったのに)


「シルフィー!」

「おね…さ」


 ゆっくりと、手をお姉様の頬へ持っていく。だって、お姉様が泣いているんだもん。でもしばらく手を動かしていなかったせいで上手く動かない。私の手はお姉様の頬へ届く前にお姉様の手に包まれた。

 

 声だけじゃなくて、体ももう動くようになった。きっと夢に見た二人のお陰。もしかしたらさっきの人達は神様だったのかな?だから、私の心を取り戻してくれたのかな?…私自身、心は戻ってこないんじゃないかって思ってた。だって、私自身が戻す気が無かったんだもん。でも、今は分かる。心は私が『私』である為に絶対必要なもの。いらないなんて思えない。


 だって、心が無いと、皆に心配されて『嬉しい』って事も感じられない訳でしょ?嬉しいも楽しいも全部、私が『私』である事に必要。

 それに、私を想ってこんなに涙を流してくれる人達が沢山いるんだよ?これを愛されていると言わずになんていうの?だから、


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』

 

 なんて声が聞こえても、「ふふん!私は皆に愛されているもん!」ってどや顔してやるんだ!


 ……だからね、そんなに泣かなくても大丈夫だよ、お姉様。


 お姉様に笑顔を向けると、お姉様も泣きながら私に笑顔を向けてくれた。お姉様の涙はとても、とても綺麗で、澄んでいた。





 と同時に、私は今まで他人の為にここまでの涙を流したことがあっただろうかと自分自身が分からなくなってきた。心から他人を想ったことがあるのだろうか。

 涙を流し、拳を握りしめ、自分を責めたことがあっただろうか。こんなに激しい感情を抱いたことがあっただろうか。


『お前は誰も愛せない』


 悪夢のこの言葉はあながち間違いではないのではないだろうか、と思った。……思ってしまった。



 



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