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035、怖い夢をまた見ました



 本当は何となく分かっていた。お父さんとお母さんが亡くなったのは半分私が原因。夢が教えてくれたから。私が、おもちゃが欲しいなんて我儘を言ったから。

 私はテレビのCMで紹介されていたおもちゃがどうしても欲しくなって我儘を言った。


「どうしてもほしい!あのね、ほいくえんのおともだちといっしょにあそびたいの!」


 私の両親はそれを叶えてくれた。……正確には叶えようとしてくれた。だって、帰りがけに信号無視した車と私達の車が衝突したから。私以外誰も助からなかった。

 皆私が、私だけが生き残ってしまったことを奇跡だといった。養護施設の先生も、「あなたは奇跡的に助かったの。皆が生かしてくれた命を大切にしてね」って言う。

 

 でも、そんな奇跡いらない。私には親戚がいるのかさえ分からなかった。だって3歳だったから会った事があるかどうかも分からない人なんて覚えていない。

幼心に両親が亡くなってしまったことだけは理解できた。

 その後の事は覚えていない。私はどうだっただろう?泣いたかな、叫んだかな、それとも放心状態だったかな。もしくは受け入れられなくて、両親が帰ってくるのを待っていたかもしれない。


 私が我儘を言ったせいでお父さんとお母さんは亡くなった。あともう少し遅く帰っていたら。私がもう少し我慢出来ていたら。他の日に買い物に行っていたら。私が……、


 私のせい。私がいたから。私の我儘のせい。


 時が戻るなら、我儘なんて絶対言わない。お父さんとお母さんが生きてくれているのなら、私は絶対我儘なんて言わない。おもちゃが欲しいなんていわない。家の家事だってできる範囲になるけれど手伝う。愛してくれなくてもいい。傍にいてくれたら、生きていてくれたらそれでいいから。お願いだから、私の所に帰ってきて。









 そっと目を開く。


「ゆめ……」


 久し振りにお父さんとお母さんの夢を見た。夢が教えてくれた私の罪。でもこれは夢。だから、本当にあった事か、私が造り出した夢か分からない。だって、私自身は覚えていないから。私は二人が亡くなった現場にいたのだろうか。


 でも、もしこの夢が本当だったら…………、


 それなら私はきっと両親に恨まれている。自分達が死ぬ原因になった人を許せる人なんていない。たとえそれが自分の家族だったとしても。

 私はいつか両親に会えると信じていた。それが天国であっても、地獄であっても。


 私が本当に怖いことは「産まなければよかった」と言われること。「お前のせいで死んだ」と罵られるのはいい。だって夢が本当なら事実だから。それでも、「産まなければよかった」と言われるのは、今までの私全部を否定されるようで怖い。


「……っ!」


 泣いちゃダメ。大丈夫。これは夢だから。私にはるぅがいるから大丈夫。


『怖いの怖いのとんでいけ』


 布団にくるまって、何度も何度も魔法の呪文を唱える。


『怖いの怖いのとんでいけ』

『怖いの怖いのとんでいけ』





 不思議な事に、悪夢はその次の日から続いた。3歳の頃に見た夢と一緒。


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


 ひたすらこの言葉を繰り返される。

 

 どうしてだろう。何が原因なんだろう。心がすり減っていくような感覚がする。


 前回悪夢を見た時はアル様と一緒に寝たら見なくなった。でも、今回はアル様に言えない。言える訳が無い。前にも助けてもらったのに、今回も頼るなんて図々しい。それに悪夢を見るたびに頼っていては、その内本当に一人では寝られなくなってしまう。


 大丈夫。前みたいに夜に寝れなくてもお昼に寝ればいいだけだもん。それに、前だってアル様以外には気付かれなかったでしょ?だから今回も大丈夫。いっぱい寝れば寝不足だって気付かれないよね。

 私にはるぅがいる。るぅを抱きしめて寝れば夜は怖くても安心できるから。

 いつも近くにいてくれるディーだっている。


 大丈夫、大丈夫。


 私はお父様とお母様に愛されている。シルフィーは愛されている。


 ……じゃあ、『私』は?『桜』は?皆は私が『シルフィー』だから愛してくれている。

 皆は私が『桜』でもある事を知らない。皆は私が『シルフィー』と思っている。


 皆は私が『桜』だと知っても『私』を愛してくれるだろうか?


 ……愛って何だろう?





『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


(うるさい)


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


(やめて、来ないで)


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


(あっちに行って)


 






 カーテンの隙間から差し込む光が眩しくて目を覚ます。


「…っ!」


 どうして!どうしてなの?!今はお昼なのに!

 怖い夢は夜にしか見ないんじゃないの?どうして……、どうして?


 このままだと、私は……。夜にも寝れない。お昼にも寝れない。私はいつ寝ればいいの?

 夢を見ながら寝ることはできなくもない。でも寝れないよ……。怖い。またあの声を聞くことになるの?


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


 深く暗い声。私を闇の底へ沈み込ませていく。


(助けて)


 そう願っても、誰も助けてくれない。寧ろ私が助けを願えば願う程暗闇に引きずりこまれていく。


(誰でもいい。助けて)


 傍にいてくれればいいから……。ううん、嘘。気付かれたくない、傍にいてくれなくていい。誰でもいいから、私を愛してくれているという確証があればそれで安心できるから。

 

 お父さんとお母さんは私を愛してくれていた?お父様とお母様は私を愛してくれている?

お兄様とお姉様は私を愛してくれている?


 アル様は……私を愛してくれている?


 誰でもいい。『私』を、『私』だけを愛してくれる人が居るんだろうか。


 ……じゃあ、逆に私は誰かを心から愛しているの?

  

 ……大丈夫。私には魔法の呪文があるでしょう?


『怖いの怖いのとんでいけ』

『怖いの怖いのとんでいけ』


 この呪文を唱えると、お父さんお母さんに守られている気がするから。だから大丈夫。お父さんとお母さんの愛を感じる様な気がするから。だから悪夢の言葉にも負けない。


 眠たい。思わず目をこする。ぼーっとしていたら、だんだんとうとうとしてきてしまう。


「お嬢様?大丈夫ですか?眠たいのなら、もう少しお昼寝していてもよろしいですよ?」

「……うん。ねるの・・・。」


 せっかくお昼寝から覚めたのにまた眠ってしまう。嫌だ、寝たくないのに…、目を閉じたくないのに…。


「あんな…」

「はい、どうしましたか、お嬢様?」

「あのね、いっしょにねて…?」


 今日だけでいいから、今だけでいいから。


「お嬢様……、怖い夢でも見たのですか?」

「うん…」


 私がそう言うとアンナは手を握ってくれた。


「一緒に寝ることは出来ませんが、傍にいます。だから安心して眠って下さい。るぅ様も傍にいますから」

「うん」


 私の意識はゆっくりと沈んでいった。





「――様!お嬢様!」


 私を呼ぶ声に、そっと目をあける。飛び込んできたのは心配そうな顔で私を見ているアンナだった。


「お嬢様?!大丈夫ですか?!」


 どうして慌てているの?


「魘されていましたよ?」


 え、本当?夢なんか見なかったのに?とってもぐっすり眠れたのに?

 

 外を見てみるともう暗くなっていた。え、こんなに眠っていたの?さっきまでお昼だったのに。


「アンナ、だいじょうぶ!怖いのなかったよ!」

「そうですか…?なら良いのですが…」


 本当に大丈夫だった。本当に怖いのは無かった。だから。もう大丈夫。

 お昼に眠っても、暗い中で眠っても、何もなかったんだよ?


 もう怖い夢は見ないよね?


「あ、アンナ、ずっといてくれたの?」

「はい。ゆっくり眠れてよかったです。夜に眠れなくならないか心配ですが…」


 確かにそれは心配。でも、今日は眠れる気がする。最近寝れなかった分をしっかり眠るんだ~!


 



 安心しきっていた。だから、こんな事になるなんて思わなかった。





 頭の中で囁く声は消えない。


『お前はもう逃げられない。お前は誰からも愛されない、お前は誰も愛せない』


『この時を待っていた』


 




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