033、お茶会をします
お部屋の事で驚くことは本当に沢山あったけれど、取り敢えず、あとで用意をしてくれたお義母様達にお礼を言わないと。
あんなに素敵なお部屋を用意してくれたんだから、早速ゴロゴロしたいところだけれど、それをする前に今日はお茶会をしないといけない。ケーキが私を待っているからね!……違う違う。間違えた。アル様にクッキーを渡さないといけないからね。今日の目的はアル様にクッキーをあげる事。忘れちゃダメだよ。これ大事。
今日のお茶会は、アル様だけじゃなくて、レオンお兄様とルートお兄様も参加するみたい。でも、すぐじゃなくて途中からの参加になるってアル様が言っていた。レオンお兄様もルートお兄様も会うのは久しぶりだから楽しみ。
レオンお兄様は会うたびに抱っこしてくれるし、ルートお兄様は頭をなでなでしてくれるから好き。そのたびにアル様が二人を鋭い目で見ているけれど、二人は気にしていないみたい。というより、知っていて面白がっている。まぁ、単純に『妹』っていう存在が私しかいないからって言うのもあると思うんだよね。だって、いっつも抱っことか、なでなでとかしてくれながら「妹、可愛い」って言ってくれるもん。
勿論アル様もしてくれるけれど、抱っことかなでなでしてくれる人が多いのは私的には大歓迎です。
さて、お庭にやってまいりました。
「ふわぁー!!」
「ふふ。そのシルフィーの驚き方、変わってないね。安心する。」
だって、喜ばない理由が無いですよ!勿論、ケーキもお茶も何もかもいつも通りとっても素敵。でもね、今日のお茶会はいつもと違う。
それは、お茶会の会場があのお部屋みたいにメルヘンになっているという事。
「とーっても可愛いです!」
「喜んでくれてよかった」
だって、本当はあのお部屋みたいなふわふわした空間でお茶が出来たらとっても幸せだなって思ってた。お姫様になったみたいにふわふわした気持ちを味わえると思ったし、ケーキだってもっと特別な物になる様に思った。
会場はテーブルにはレースが敷いてあったり、ハートのクッションがあったり、あちこちにリボンがあったり。本当に可愛い。しかも、ただ可愛いだけじゃない。今日の私のゴシックのドレスが合うように、所どころ黒の布も使われている。でもそれは暗い感じになるのではなく、いいアクセントになっている。しかも、しかもだよ?
「るぅ!!」
テーブルには椅子が5つ用意してあって、その1つにるぅが座っていた。おかしいな、今日はるぅはお留守番だったはずなんだけど…?誰かが連れてきてくれたのかな?
「あのね、シルフィー。るぅもシルフィーと一緒にお茶会したかったんだって。だからシルフィーの家のメイドが連れてきてくれたみたいだよ?」
「!」
な、なんと!私の家にはもしかしてるぅの言葉が分かる人が居たのかな?それとも私の事を子ども扱いしている?…子どもだけどね!
でも、よく考えたら、るぅっていっつもお留守番だから寂しいよね…。
「あのね、アル様。今度からアル様に会う時、るぅも一緒でいい?るぅがお留守番かわいそうなの」
「!」
さて、おねだりの時間です。もう心得ていますよね。るぅをぎゅっと抱いて、少し見上げて上目遣い。アル様の服の裾をつかむのも忘れちゃいけません。
「か、かわ…」
え、川?
「え、まって可愛すぎない?これ攫われない?寧ろ私が攫う。それになんだ。シルフィー単体でも可愛いのに、るぅと一緒なんてもはや凶器。しかも今日はこの格好。あれ、私今生きている?小悪魔に空に連れていかれた?」
あ、可愛いって言おうとしてくれたのかな?それにしても、アル様はさっきから全く反応してくれない。話しかけてもこっちを見てくれない。
……なんかデジャヴ。
「アル様…、め?」
「!!!!」
あ、アル様倒れちゃった。……何で?!
「ア、アル様?!」
「可愛い、尊い………」
アル様、戻ってきてーーー!
その後、無事にるぅを連れてくる許可をもらえました。
アル様が立ち直った所で、お茶会開始です。目の前に並ぶケーキたち。眺めるだけで十分幸せです。あ、勿論見ているだけで満足は出来ません。勿論美味しくいただきます。
本当に美味しいんだよね、特にこの苺タルト。私が初めてアル様と食べたケーキが苺タルトだった。私があまりにも美味しそうに食べていたらしいから、お茶会には必ずこの苺タルトが出てくるようになった。だから、お茶会の最初には必ずこのケーキを食べる。しかも、その後に他のケーキが食べられるように小さめに作ってある。
気遣いが本当にすごい。
あ、そうだ!今日の目的はアル様に私の作ったクッキーをあげる事!幸運なことに今日のお菓子にはクッキーは入っていなかった。
「シルフィー、今日も苺タルトから食べる?」
「あのね、クッキー…」
あ、アル様と言葉が重なってしまった。流石アル様。私が苺タルトから食べることを当然理解していますよね。
よく考えたら、対面で椅子に座ったままならクッキー渡し難いね。そう思って、椅子から降りてアル様の所に行く。
ポケットに入っていたクッキーを取り出そうとして、ふと止まる。目の前にはお城のパティシエが作った、キラキラしたケーキが沢山並んでいる。苺もキラキラしていて、クリームもふわふわ。
「ん?今日はクッキーから食べたいの?ごめんね、今日は用意していないんだ」
「そうじゃなくて…えっと…、」
「?」
わ、渡しにくい……。
でも、だって。いつも食べてるから知っているけれど、お城のお菓子って本当に美味しいんだもん。いつもその美味しいお菓子を食べているアル様に私なんかの手作りをあげるのってどうかな。それに毒見とかもしないといけなくなるだろうし。そんなことをさせてまで食べてもらうのも申し訳ない。
それに比べて私が作ったクッキーって、いくらリンが手伝ってくれたっていっても、作ったのはほぼ私。味だってプレーンしかないし、飾りつけなんてしていないから、おしゃれでも何でもない。アイシングクッキーをするような技術だってないし…。
日頃の感謝と今日会えた喜びを伝えたかったけれど、やっぱり渡すのやめておこう、と思って、クッキーを背中に隠す。
リンには本当に申し訳ないけれど、今日のクッキーは責任もって私がいただきます。帰ってからお菓子作る練習しよう。それで、上手に作れるようになったらアル様に食べて貰おう。パティシエまではいかなくても、練習すれば今よりもっと上手なのが作れるはず。
「やっぱりなんでもないです!」
私はなんでもないって言ったのに、アル様も椅子から降りて、私の前に膝をつく。
「大丈夫だよ、話して?」
「でも……、」
「話したいのは、今後ろに隠した袋の事?」
「!!」
き、気付かれてた……!そうだよね、すぐに隠したけれど、一回アル様の前でポケットから出したもんね!本当にこういう所は5歳児!もっと頭働かせてよ、私!
「あ、あのね。リンと一緒にクッキー作ったの……。」
おずおずと背中からクッキーの入った袋を取り出す。
「でもね、上手に出来なかったの……」
アル様は私からクッキーの袋を受け取り、リボンを解いた。
「食べてもいい?」
「でも…」
「シルフィーが頑張って作ってくれたんでしょう?」
そう言って、アル様はクッキーを口に含んだ。アル様がクッキーを口に入れる姿をじっと見つめてしまう。美味しいかな?美味しいかな…?
「とっても美味しいよ!上手!私の為に頑張って作ってくれたんだよね?本当にありがとう!」
アル様、予想以上に喜んでくれた!嬉しい!
アル様はそのまま、一つ、もう一つと口に入れていく。
「おいしい?」
「すっごく!」
作ってよかった。こんなに喜んでくれるなんて思ってなかった。よく考えたら、アル様は人の好意を無下にするような人じゃないもん。私が一人で作って、もっと不格好だとしても食べてくれるだろう。
「アル様、また作ったら食べてくれる……?」
「勿論!寧ろ絶対持って来てね。私以外の異性にあげたらだめだよ?いい?」
「?はい」
その後、レオンお兄様とルートお兄様が来てくれました。
「ねえ、アル。私そのクッキーが気になるのだけれど?」
「アル兄上。僕もそのクッキー食べたいなぁ?」
「ダメ。これは私の。」
レオンお兄様とルートお兄様が、アル様の持っている私が作ったクッキーを狙っていたみたいだけれど、アル様はその願いを断って、一人で抱えて食べていました。
二人にも分けてあげてと言うべきか。そこまで喜んでくれたことに感謝を言うべきか。
私がケーキを食べている間、二人がアル様の持っているクッキーに手を出して、アル様が黒い笑顔で怒っていた事を私は知らない。