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032、お茶会をする前に


 今日はすっごく気合と勇気を入れてドレスを着ました。今日のドレスは、お母様とお父様が私の誕生日にくれた、『あのドレス』です!

 鏡に映った自分を見て満足げに頷く。


(自画自賛になるけど、私可愛い!)


 この世界に転生してきてから、皆が沢山「可愛い」って褒めてくれるから直ぐに舞い上がってしまう。勿論、身内贔屓も大分あると思うけれどね。 

 メイドの皆だって沢山褒めてるし。え、私の着替えを手伝ってくれたメイドはどうしたのかって?向こうで倒れていますよ。鼻血出しながら。最初は急に倒れるから驚いたけれど、もう慣れました…。


 私が今着ているのは、黒のゴシックのドレス。黒のひらひらした布が何層にも重なっていて、端には白のレースが縫い付けられている。スカートはふんわりしていて、袖だって動くのに邪魔にならない程度にふわっとしている。

 ちゃんとハートの形のポケットもついていて、ものが入れられる。まだ何も入れていないけれどね。後でクッキーを袋に詰めなおしてポケットに入れておこう。そしてお父様とお母様はドレスだけじゃなくて、髪につけるリボンや靴、靴下まで一緒に用意してくれていた。全身ゴシックですよ!アンナ曰く、低めのツインテールにしたことで小悪魔度がまた更に上がったらしい。…小悪魔度って何なんだろう?


 そして、そして……、私の腕の中には、私と全く同じ格好をしたうさぎのるぅがいます!


 るぅはとっても可愛い!私なんかよりももっともっと可愛い。るぅみたいな子を天使って言うんじゃないかな?…格好は小悪魔だけれど。





 さて、私はこれから重大な使命があります。それはお父様とお母様にこのドレスを見せにいく事です。このドレスを貰った時に、「着たら見せてね」とお願いされたからです。でもお願いされなくても見せるつもりでしたよ?


 お父様とお母様、今どこだろう?


「旦那様と奥様でしたら、旦那様の執務室におられますよ」

「!」


 び、びっくりした…。私の心の声に答えたのはいつの間にか屍から復活したアンナだった。さっきまで、皆と一緒に「可愛い、尊い」と言って倒れていたのに。


「私は普段からお嬢様と行動を共にしていますので、多少耐性がありますから」

「?」


 耐性ってなんの事だろう?まぁいいや。お父様たちは執務室にいることが分かったから、そこにアンナと共に向かう。


「あ、少々お待ちください。部屋の前にいる騎士に伝令を頼んできますので。」

「伝令?」


 お父様の所に行くのにいつも前もって知らせたりしていないよ?お父様だっていつでも来てもいいって言ってたもん。


「小悪魔降臨のお知らせをしておかなければなりませんので」

「…」


 ねぇ、るぅ。聞いた?私達悪魔扱いだよ?これは流石に酷いと思いませんか…?私人間だもん。


 ……あれ、もしかして、皆が倒れたのって、私のこのドレスが似合わなさすぎるから…!?

 それならすっごくショック。私的には可愛いと思うんだけどなぁ。





 なーんて心配は杞憂でした。


 執務室に入った途端、私はお母様に「可愛い」と褒め倒され、お父様は私を抱いて離そうとしませんでした。


「なぁ、シルフィー。今日はもう家に居よう?こんなに可愛いシルフィーを殿下に会わせるなんて、そんなことはしたくない。お父様が遊んであげるから。ね?」


 なんていうお父様の言葉には頷きませんでしたよ?お父様の目が怖かったけれど、お母様がお父様を叱ってくれたし、何より私がアル様に会いたいし。クッキーも折角作ったし。


 という訳で、お出かけです。お父様はロバートが回収してくれました。





 今日は珍しく、アル様は私が馬車を降りる所にお迎えに来てくれていた。馬車からアル様が見えたので、嬉しくて思わず叫びそうでした。


 いつもなら御者がドアを開けてから私が降りやすいように段差をつけてくれる。でも、今日は待ちませんよ。アル様に久し振りに会えたのだから早くぎゅってしたい。…ので、御者がドアを開けた瞬間に馬車から飛び出してアル様に抱き着きます。御者の慌てた声は聞こえません。淑女らしくないという苦情も聞きません。


 馬車の中から飛び出してきた私をふらつくことなくしっかりと抱きしめたアル様は、私の顔を見ようとしたのか、私の顔を覗き込んでくる。目が合って穏やかに笑った後、アル様は私の全身を見て……固まった。



「シル、フィー……?」

「?」


 え、もしかして、少し合わない間にアル様、私の事を忘れている…?だって、私か分からなくて確認するような言い方だったよね?さっき目があったのに?

 えーー、どうしよう!忘れられるのは流石に笑えない。


「アル様、私シルフィーですよ?」


 一応名乗り出てみるけれど、アル様には私の声が聞こえていないみたい。


「天使…いや、小悪魔…?」

「あれ、これ幻覚かな?こんなに可愛すぎるシルフィーが目の前にいるなんて、疲れているのかな…」


 アル様は私を抱きしめたまま、ずーっと一人でぶつぶつ言っている。…中々戻ってきてくれない。アル様―、美味しいケーキが私を待ってくれているので、そろそろ正気に戻って下さいー。そんな気持ちを込めてアル様の目の前で手を振ったり、変顔をしてみたりする。でも、それでも戻ってきてくれないので、アル様の頬を軽―く引っ張ってみた。不敬罪?そんなもの気にしません。これは軽いスキンシップです。大体、「第二王子の頬を引っ張った罪」なんてものがあったら、笑っちゃう。第二王子、どれだけか弱いんだろう、ってね。

 

 そして頬を引っ張ったことで、やっとアル様は戻ってきてくれた。


「あれ、本物…?」

「本物ですよ?!」


 偽物だと思ってたんですか?!

 

「そっか、シルフィーは天使の生まれ変わりってだけじゃなくて、小悪魔の生まれ変わりでもあったのか」


 いやいやいや。私はただの人間です。私は天使の生まれ変わりでも、小悪魔の生まれ変わりでもないですよ?!何納得した顔で頷いているんですか!それに天使はまだしも、小悪魔は褒められている気がしません!


「…そんなにこのドレス似合ってないですか?」


 いつもなら、ドレスをみたアル様は「可愛い」って言ってくれるのに、今日はまだ言ってくれていない。もしかして、冗談でも「可愛い」って言えないくらい似合ってないのかな。家族やメイド達の「可愛い」はやっぱり身内贔屓と親馬鹿だったのかな…。前世から憧れてたゴシックは私には似合わないのか…。金髪碧眼だったから、前世の黒髪黒目より可愛いと思ったんだけどなぁ…。


「似合わないわけないじゃないか!」

「?!」

「寧ろ可愛すぎて、どうやったら私だけのものになるか本気で考えていたのに。」

「私はアル様の婚約者だから、アル様の物ですよ?」


 そう。私はアル様だけの物。アル様は確かに私の兄みたいな存在だけど、婚約者だもん。私が他の人の婚約者にならない限り私はアル様の物。アル様に婚約破棄をされない限り私はアル様の物。私もアル様の事は好きだけれど、アル様にこの先私以上に好きな人が出来るかもしれないし、お家柄でもっとふさわしい人が現れるかもしれない。

 一応小説ではソフィアに出会うまでそんなことは無かったけれど、この世界は現実。何が起こるか分からない。


「はぁ。早く結婚したい。持って帰りたい。」

「…私が結婚できる年齢になるまで待ってください。」


 正直早く結婚できると嬉しいな。愛ってよく分からないけど、結婚するって事は愛しているっていう事でしょう?そうしたら、私の事をアル様が愛してくれる。「大好き」をもっと超える「大好き」を知りたい。

 その為に婚約破棄に気をつけないと。何があるか分からないしね。





 そして話をしながらたどり着いたそこは、天国でした。





 いつもは庭でお茶会をするのに、今日は部屋でするなんて珍しいなぁ、って思った。そして、王族しか入らない場所、というか王族の部屋がある辺りに連れてこられたところで「あれ?」と思った。困っている私に構わずズンズン進んでいくアル様に手を引かれるがままについていくと、二つの扉の前で足を止めた。


 そして、アル様はこういった。


「ここは私の部屋。そしてもう一つの扉はシルフィーの部屋。」

「…………え?」


 うん。時が止まったよね。その部屋って、お嫁さんの為の部屋だよね。なんであるの?

え、私達まだ結婚していないよね。私まだ5歳だよ?早くないですか?結婚直前とかならまだわかるけれど。


「……私の?」

「うん」


 そんな素敵な笑顔で即答しないで下さい。


「今回みたいに長い間会えないってなったら、私もシルフィーも寂しいでしょう?でもシルフィーは私が忙しかったら遠慮して会いに来てくれないから、いっその事シルフィーの部屋を作ればいいかと思ってね。そうしたらシルフィーいつでも来れるでしょう?シルフィーがいなかったら私の隣はずっと空き部屋だし。大丈夫、父上は面白がってたし、何より母上もメイドと一緒になって部屋の準備していたみたいだから。息子しかいないから、娘の為に何かできるのが嬉しかったみたい。」


 ……えーっと。私はどこから突っ込めばいいのでしょうか。

 思い切って私の部屋を作った事?しかもアル様の隣の部屋(お嫁さん用)。止めなかったお義父様とお義母様もどうかと思います。しかも準備にまで加わったみたいだし。

 というか、他のメイドさんも止めようよ!なんかいい笑顔でさっきからこっちを伺っているんだけど!さっきまでいなかったのに、いつの間にか周りに人がいっぱい。なんで?

 私の表情を伺っている。え、私この期待したアル様とメイドさん達の笑顔を裏切れるの?……無理です!


「あ、ありがとうございます…?」

「どういたしまして!」


 いい笑顔。これ、遠慮しますとか言える雰囲気じゃないよね。まぁ、ここに住むわけじゃないし、いいか。今回みたいにアル様に会いたくなった時に遠慮するんじゃなくて、この部屋に来るって理由をつけて王宮に来れるし。

 あれ、私にデメリットないよね?じゃあ、ありがたくいただきます。


「じゃあ、早速中を見てくれるかな?母上とメイドが5歳の女の子に似合うようなレイアウトにしてくれたと思うんだけれど、シルフィーが気に入るか分からなくて。」

「私も見たいです!」


 アル様が合図をしたら、ドアの前にいた騎士が扉を開けてくれた。


 扉を開けると、そこは天国でした。メルヘン。ふわふわ。どういう言葉が合うのか分からないけれど、これだけは言える。


(すっごーっく可愛い!!!)


 ぱっと見た感じはピンク一色!でも、それはとてもセンスが良くて、そこにいるのを苦痛に感じさせないレイアウト。ピンクだって、濃いものじゃなくて、白に近いものだから、とても落ち着く。

 ソファーとか机とか、椅子とか、色々な所に薄桃色のレースが敷いてあったり、カーテンも薄い生地が何層にもなっていて可愛い!

 ソファに置いてあるクッションとかはなんと驚くことに、るぅと一緒の色と触り心地の布。もしかしてるぅを売っていたお店に置いてあったのかな?

 

 とーっても甘々なお部屋。こういうのが好きな私にとって天国でしかない。 


「アル様、お姫様のお部屋みたいです!とっても素敵!」

「喜んでくれたようで良かった。ふふ、シルフィーはお姫様みたいじゃなくて、私だけのお姫様だよ?」

「アル様のお姫様?……じゃあ、アル様は私だけの王子様ですか?」


 あ、間違えた。アル様はそもそも王子様だった。私だけの王子様な訳が無いのにね。

 

「!…あー、もう可愛いなぁ。勿論だよ。」


 あら、了承してくれたよ?嬉しいけどだめですよ?アル様は皆にとっても王子様なんですから、私だけが独占するなんてそんな贅沢……、いや、出来るならしたいけどね。


 それはともかく、私が心から喜んでいるのがアル様にも伝わったのか、ずっと笑顔でこっちを見てくる。メイドさん達も同様。





「あれ?そういえばベッドは置いてないんですか?」

「うん。この部屋にベッドは置かないよ。」


 一通り部屋を見て回って、細かい所まで見て満足した私は、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。ベッドって私的にはお部屋に一番必要なものだと思うのだけれど。ソファで寝なさいって事かな?確かにソファ大きいから私一人寝るには十分だね。

 あ、そもそも流石に城に泊まるのは良くないって事だよね。まだ幼くとも婚約者だし、怒られちゃうもんね、たぶん。

 というか、この部屋は私が城に来る言い訳として用意して貰ったようなものだから、そんなに使わないよね。勿体ないけれど。とーっても勿体ないけれど。……勿体ないし、正直に私がこのお部屋を使いたいからちょくちょく来よう。アル様がいなくても来よう。


「じゃあ、もしここに来ててお昼寝したくなったらソファで寝ますね!」

「……」


 あれ、アル様困っている?ソファで寝るのもだめ?はしたない?お家に帰って寝た方がいい?


「……だめですか?」

「いや、ダメじゃないんだけど……」

「けど……?」


 ダメじゃないって言いながら、アル様何だか渋い顔をしている。アル様に会いに来るのってお昼からがほとんどだから、どうしても眠たくなっちゃうんだよね。もう少し大きくなったらお昼寝はいらないんだと思うけれど……。


「なら、眠たくなったらお家に帰ってお昼寝します……」

「それはダメ!」


 えー…。これもダメなの?お昼寝をするなって事かな?……が、頑張ります…。


「うーん、やっぱりシルフィーにはまっすぐ言わないと通じないよね。あのね、シルフィー。シルフィーが寝るのは私の部屋だよ。私と一緒に寝るんだよ」

「……え?」

「勿論お昼寝の時も、夜泊っている時も私と一緒。いいよね?」


 ………え?


 それってまずくないですか?一度怖い夢を見た時にアル様と一緒に寝た事あるけれど、それって例外だと思うし、相当の我儘を言った自覚がある。それなのに、ただの婚約者なのにアル様と一緒に寝るなんて、ダメだよね?結婚しているならまだしも、私とアル様の今の関係性はただの他人だよ?


 周りの人も止めて下さいよ!………あ、止めなかったんですね。止められなかったんじゃなくて止めなかったんですね。だって皆いい笑顔してるもん。

 まぁ、まだ子どもだからいいのかな?二人ともまだ小さいからぜーったい間違いなんて起こらないもんね。


「はい!アル様と一緒なの嬉しいです!」


 今はちゃんと頷いておきます。だってアル様の有無を言わさぬ笑顔が怖いもん。断る選択肢を与えてくれない。……大丈夫。今だけ、今だけ。





 しかし、シルフィーは知らない。

 この先何年もシルフィー用のベッドを置いて貰えない事を。大きくなっても城に泊まる時は必ずアルフォンスと一緒に寝る結果になる事を。そして、その結果、理性を試されるのはアルフォンスである事を。



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