003、状況を整理します
ふかふか~………。
暖かいものに包まれてとても幸せ。これはなんだろう?さらさら、ふわふわしてる。私が使っている布団はもっと手触りが違った気がする…。ぼやけながら少しずつ目を覚ますと、視界に映り込んできたのは真っ白な天井だった。
あれ……?ここどこ?桜の部屋じゃない……?
あ、そっか。ここはシルフィーの部屋だ。転生しちゃったんだ。いつの間に寝たんだろう?えっと……、確か皆に抱きしめられて……、そのまま眠っちゃったんだった。
皆に抱きしめられて幸せを感じた後、私は安心して眠くなって、お母様の腕の中でまた眠ってしまった。
今は夕方だ。皆は部屋に戻ったみたい。
「ふぁ~、よくねたなぁ」
本当によく寝たおかげか、頭も体もすっきりしている。……2週間も寝込んでいたから、体はあんまり動かないけど。それにしてもお腹減った。2週間も食べてない為、それもそうだろう。今日の朝も起きたけど、皆に抱きしめられて眠ってしまったから食べ損ねてしまった。ウチの料理人が作る料理はどれも美味しいんだよね。特にハンバーグとオムライスが好きだなぁ。前世ではごはんのリクエストもほとんどしなかった。リクエストする事は出来たんだけど、私より小さな子もいたからどうしてもしにくかった。それに私に好き嫌いはないし、なんでも美味しく食べられたしね。でも、そんな私に気付いて、こそっとリクエストを聞いてくれた人も居たなぁ。私はあの養護施設が好きだった。あまり裕福ではなかったけれど、とっても暖かくて、まるで本当の家のようだった。帰るのはきっともう無理だけど、それでも会いたい人はいっぱいいる。会えないのは寂しいな。
でも、それはしょうがない。今世ではいっぱい美味しいもの食べたい。
リクエストしたら、料理人の人達は作ってくれるかな?あと、お菓子がいっぱい食べたい。
今世でも、まだ小さいから沢山は食べたことない。今世では、前世で経験した事がない事をいっぱいしたい。
それにしても、転生かぁ。
やっぱりまだ、シルフィーであることにほんの少しだけ違和感を感じる。それに何か、『シルフィー』って名前、聞き覚えあるんだよね。自分の名前だから当然なんだけど。でも、もっと前に聞いたことがあるような……。
うーん、…。
あっ!そうだ、思い出した!前世の友だちの悠里ちゃんが読んでた本に出てきた名前だ!
興味なかったけど、おすすめだからって、貸して貰った記憶がある。確かファンタジー小説だったと思う。主人公はソフィアで、そのソフィアの恋を邪魔するのが悪役令嬢のシルフィー。同じ名前なんてすごい偶然。確か小説の中のシルフィーはフィオーネ公爵家の次女で、上にはスティラとシリアっていう双子の兄と姉がいて………
あ、あれ……?
偶然……だよね?確か小説の中のシルフィーは金髪碧眼だよね。そう思いながら、鈍っている身体を何とか動かして鏡の前へたどり着く。そこに写っていたのは小説の挿絵で何度も見かけた金髪碧眼の少女の姿だった。大きな目にふわふわの髪。小説の表紙でも何度も見た容姿だ。
(うそぉ……。まさか、ここって本当に小説の中の世界なの……?ど、どうしようっ!え、えっと、一旦落ち着こう……!)
そう思い、深呼吸をして、もう一度ベッドに戻る。確か小説の名前は『ソフィアと恋の物語』だった気がする。もし本当にここが小説の中の世界なら、私は8歳の時に国王の命令で第二王子と婚約する。でもそれは、会話の中でそう知るだけ。そして、物語は王都のナイア学園入学時の15歳から始まる。小説の名前通り、ヒロインの名前はソフィア。伯爵家の長女で、私と同じ歳だったと思う。この国で一人しかいない光の魔法の使い手だ。そのせいか、国に留めておくために第二王子の婚約者は私よりソフィアの方が相応しいって囁かれるんだよね。第一王子は私が15歳の時には既に結婚してるから、私の代わりにって言われてた。それで、第二王子と段々と仲良くなっていくソフィアに嫉妬して、私はソフィアを虐める。ただの虐めならいいけど、…いや、良くないけど。でも時には暗殺未遂までいく時もあった。そして、私は光の魔法の使い手を陥れた罪で第二王子に処刑される。
(あぁ、なんというか、典型的な悪役令嬢だぁ……。と、とりあえず対策を考えないと……)
まずは、第二王子と婚約しなければいい。そうすれば嫉妬することもないはず。
(あ、でも、婚約は確か国王の命令だった気がする。)
国王の命令なら断ることは出来ない。下手したら反逆罪になるかな?公爵家の娘だから私が選ばれたんだろうけど、それならお姉様でもいいのに。だって、私と第二王子は5歳差。お姉様は1歳差。うーん、分からない。とりあえず他の案を考えよう。今の目標は、15歳になるまでに第二王子と仲良くなっておく。婚約回避は後々困ることになりそうだから、そうしよう。そして、第二王子が心変わりしないようにする。もし、第二王子が私に対してある程度の好意を持ってくれていたら、温情をかけてくれて簡単には処刑されないかも。または、必要以上に仲良くならない。それなら嫉妬もしないだろうし。それか、ヒロインと仲良くなっておく。出会うのは15歳になってからだけど。でも、ヒロインと仲良くなってからなら、虐めたいと思わないかも。……いや、そもそも、第二王子との仲をどうするか以前に、ヒロインを虐めなければいいんだよ。うん、解決した。よし、ヒロインを虐めないように、周りの人の好感度も上げていこう。
そこまで決意したところで、ぐぅ~、と気の抜けた音が聞こえてきた。もちろん、私のお腹からだ。
「おなかがへってはいくさはできぬ……。まずははらごしらえ……」
と思い、ベッドの横に置いてあるベルを鳴らす。
しばらくすると、アンナがトレーを持って入ってきた。
「お嬢様、目を覚まされましたか?」
「うん、いまおきたの」
「もう大丈夫ですか?急に眠られたので驚きました」
「ごめんね、だいじょーぶだよ」
「よかったです」
と、そこで、私のお腹がぐぅ~となる。
「あらあら」
そう言って微笑むアンナに顔が赤くなる。
「お腹が空くのは健康な証拠です。スープを持ってきましたので、宜しければ召し上がってください」
そう言って、トレーをベッドに置いてくれる。アンナはすごい。私が何も言ってないのに、最初からお腹が空いている事を見越してスープを持ってきてくれた。いや、想像つくか。2週間も食べてないもんね。
出されたのはポタージュスープだった。温かくてとっても幸せ。後で料理人にもお礼を言わないと。
「おいしい~っ!」
「ふふ」
食べていると、アンナに微笑まれる。
「どうしたの、アンナ?」
「いえ、お嬢様があまりにも幸せそうに食べるもので」
そんな表情をしていただろうか?でも、本当においしくて幸せ。これからも美味しいご飯いっぱい食べたいなぁ。