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030、お父様と遊びます



 目を覚ますといつもと同じ景色。私の為に用意されたふわふわのお布団で、るぅとディーと一緒にいつものように目覚める。私が目を覚ましたことを察したディーはすかさず私の元にやってきて私の顔をなめる。


「おはよう、ディー」

「クゥーン」


 流石ディー。朝だから大きな声で吠えない。最近たまに思うんだけれど、ディーは時々人間の言葉を分かっているんじゃないかなって思う時がある。まぁ、流石に分かるはずはないと思うけれど。でも、私の気持ちを察しているとは思う。私が元気のない日には傍に寄り添ってくれるし、走り回っていて転びそうになったらすかさず支えてくれる。私が嫌いな野菜と格闘していた時には見守っていてくれるし、


 あれ、話がずれてきてるし、これだけ聞くと私がダメな子みたいじゃない?まぁいいや。ディーは私のお兄ちゃんだから。これからも私の面倒を見て下さい。


 いつもより真剣にディーを撫でていると外から音が聞こえた。


「ハッ」

「まだまだっ!」


 剣がぶつかり合う音と、お父様、お兄様の声が聞こえる。お父様とお兄様は早く起きれた日には二人で剣の稽古をしているらしい。…そう。『らしい』のだ。私は一度も見たことが無い。騎士団の練習はお姉様に連れて行ってもらったことがあったけれど、お父様とお兄様の剣を振るう姿は見たことが無い。


 そういえば、シュヴァン様とトーリお兄様、元気かなぁ。トーリお兄様はシリアお姉様の婚約者で、シュヴァン様はトーリお兄様のお父様。お姉様がトーリお兄様に会いに行くときに私も何度も連れて行ってもらっているけれど、最近会ってないなぁ。トーリお兄様もシュヴァン様も優しいから好き。特にトーリお兄様は私が「トーリお兄様」と呼ぶと凄く喜んでくれる。


 でも、今日二人の朝稽古の声が聞こえるって事は私、早起き!いつも私が起きる頃には二人とも稽古を終えて朝食の席についているから、見たことが無かった。


 窓を開けて庭を見てみると予想通り二人は剣で打ち合っていた。お父様も現在11歳になったお兄様に手加減はしている様だけれど、二人とも真剣だ。


 かっこいいなぁ。


 声をかけて邪魔になってはいけないので、静かに見学する。二人とも私が起きているなんて気が付いていないみたいで相手から一本とる事に夢中だ。気付く訳ないよね。私がいるなんて思ってもいないだろうから。


 だって今日は早起きだもん。


 心の中でどや顔をしておく。本当は私も剣を扱ってみたい。お兄様みたいに剣で戦ってみたい。でも、私は女の子だから。今は力だってないし、長時間剣を持っている事が出来ないだろうという事は想像に難くない。それに私を大切にしてくれている家族がそんな危険なことを認めてくれるはずがない。私自身、どうして剣を習いたいのかと聞かれても、これは興味本位の域を出ないだろう。


 私は前世から体を動かす事が好きだった。でも、訓練をしてまで厳しい特訓をしたいかと聞かれたら、否だ。だって私に続けられるとは思えない。すぐにやめてしまう訓練に参加して周りの気をすり減らしてしまうより、最初から見ているだけの方が良い。



「シルフィー」


 ぼーっとしていると、下から声をかけられた。どうやらお父様とお兄様の稽古が終わったみたいだ。


「お父様、お兄様!おはようございます!」

「おはよう、シルフィー。」

「おはよう。シルフィーが見てくれたから俺も父上もやる気が出たよ」

「え、気づいてたんですか!?」

「当然!」


 流石お父様とお兄様。私が窓から見ていたのに気が付いていたなんて。


「…お邪魔でしたか?」

「いいや、その逆。父上も張り切ってたぞ」

「まぁな。シルフィーの前でかっこ悪い所は見せられないしな。」

「お兄様もお父様も凄くかっこよかったです!」


 私がそういうと、二人は安心したように顔を緩めた。





 私はお姉様に貰ったもこもこうさぎの部屋着を着ると、お兄様に貰ったポシェットを首から下げて、ついでにるぅも抱いて、お父様とお兄様がいる庭に急いだ。


「お父様もお兄様もすっごく素敵でした!初めて見ましたけど、本当にすごいです!」


 本当にすごかった。私に対して甘々な二人の真剣な表情は素敵。こんな人がお父様とお兄様なんて贅沢。

 だから思わず、本当に思わず口から出てしまった。


「私、大きくなったら、お父様かお兄様と結婚したいです!」





 知らなかったんです。娘を溺愛する世の中のお父さんにとってナンバー1の嬉しいことが「娘に結婚して」と言われることだったとは。

 そして、お父様もその一人だった。その後のお父様がどうなったかって?泣き崩れました。それはもう見事に。ただでさえ私の事が大好きなお父様なのに、娘に結婚宣言をされると顔が緩むだけじゃ耐えられなかったみたい。


 お母様曰く、「まぁ、そうなるわよね。嬉し泣きだから放っておいて大丈夫よ」

 お姉様曰く、「気持ちは分かるけれど父親としての威厳を保って欲しかったわ」

 お兄様曰く、「父上がシルフィーとアルフォンス殿下の婚約を破棄しないように見張っとくわ」


 とりあえず、皆さんお父様に厳しくないですか?そしてお兄様。それは流石にありえないと…、ありえない…、ありえそうですね。お兄様、しっかりと見張っていてください。

 




 そして残念なお知らせ。私は今日、別に早起きではなかったみたい。寧ろ朝寝坊。今日はお父様がお仕事お休みだから、朝稽古は早朝からやる必要もなかったみたい。数分前のどや顔していた自分が恥ずかしい。


 でも、お父様がお休みという事は、遊んでもらうしかないよね!前世の感覚でいえばあれかな。平日に忙しいお父さんが土日には本気でしっかりと子どもと遊ぶ感じ。だから、休みの日のお父さんって特別感あるんだよね。あれってお母さんを休ませてあげる意味もあるんだよね。


 「お父様、今日は私と遊ぼ…?」


 どうだ、私必殺のお願い!先程のうさぎ姿で上目遣いのお願い!ついでに足に抱き着くことも忘れない。私は今までこれで何度もお願いを通してきた。


「勿論だよ、可愛いうさぎさん」


 やった。今回も通った。私はそのままお父様に抱き上げられて抱っこされた。令嬢としては抱っこは微妙なラインというかアウトだけど、私はまだ子ども。お父様がしているんだから誰も文句言えない。


「何をして遊ぼうか」


 うーん、何しよう。前世みたいにキャンプとかはこの世界じゃ出来ないだろうし、遊園地なんかのテーマパークは無い。家の中で遊ぶしかないかな。


「じゃあ、お絵描き!」


 私が叫ぶと、控えていたメイド達がすぐさま紙と色鉛筆の用意をしてくれた。仕事が早すぎます。


「じゃあ、私はシルフィーを描こうかな」

「なら、私はお父様を描きます!」

「楽しみだな」

「書き終わるまで見ちゃだめですよ!」


 そう言ってお父様から少し離れてお父様を描く。勿論私が描くのは美術部のデッサンみたいなものじゃなくて、5歳児らしいものですよ。何よりデッサンとかは私には無理。難しすぎる。…そういえば、前世でも芸術の点数はお世辞にも高いとは言えなかったなぁ。

 

 でも、いいんだ。私は5歳だから、逆に上手過ぎても変だしね。


「出来ました!」

「…シルフィーは天才だな。」


 私はお父様を描くつもりだったけれど、お父様が一人だと寂しそうだったから、お母様とお兄様、お姉様とディーも描いておいた。ついでに自分も。一つの紙の上で皆が仲良く笑っている。幸せな家族。

 お父様は感極まったように、ずーっとその絵を見つめている。


「ロバート!」


 と思ったら急に大きな声でロバートを呼んだ。正直びっくりした。お父様の大きな声を聞いて、ロバートだけでなく、ナタリーやお母様もやってきた。


「旦那様!どうかされましたか!」

「見てくれ!この絵を!シルフィーが描いたんだ!私の娘は天才だ!これを私の執務室…いや玄関に飾ろう!今すぐ最高級の額縁を用意してくれ!」


 ………ちょっと!!それは恥ずかしいです!せめて執務室にしてぇ!玄関なんて、この屋敷に来た人皆に見られるじゃないですか!5歳児が色鉛筆を使って描いたただの絵ですよ!

 そんな絵に最高級の額縁なんて贅沢すぎる!

 ほら、ロバートだって呆れて……ない!?なんかうっとりしてる?何で私が描いた絵に拝んでいるの?

 ナタリーでもいいからお父様を止めて…。だから何でナタリ―も拝んでいるの?いつの間にか来ていたお兄様とお姉様もお母様と一緒に感動しているし。

  

 え、本当にただの絵なのに、どうしてこんなに感動されたの?訳が分からない…。取り敢えず喜んでくれてよかったって思っておけばいいのかな?




 

 そして、その絵は本当に無駄に豪華な額縁に入れられ、玄関の目立つところに飾られましたとさ。





 その後は家族の皆で魔法で遊んだ。魔法で遊ぶのは一見危険な事の様に聞こえるけれど、全然安全だった。お父様が危険なことを私にさせる訳が無いしね。

 魔法を使って遊ぶのは楽しかった。私は風の魔法が使えるから、お姉様が出した水を風で操ってみたり、お兄様が出した木の人形と遊んでみたり。風の魔法で空を飛べるかなって試したら上手にいかなくてそのまま転んで水溜りに突っ込んでびしょびしょになったり、そのままお兄様とお姉様と水遊びをしたり。お父様もお母様も見守っていてくれたから楽しく遊べた。汚れるからやめなさいって言うようなお父様、お母様じゃなかったから、思う存分遊んだ。



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