028、お誕生日のお祝いです
「楽しかったです!」
「ふふ、それはよかった」
アル様との街歩きが終わり、二人で私の家に帰ってきた。アル様忙しいのに、わざわざ送ってくれるなんて優しい。まぁ、街でさよならっていうのも少し寂しかったから嬉しいけれど。
「また連れて行ってくださいね!絶対ですよ?」
「勿論。その代わり、私と家族以外の男性を誘ったらだめだよ?」
「?はい、わかりました」
門から家に入ると、アンナが出迎えてくれた。
「お嬢様お帰りなさい。さあ、服を着替えましょうか。殿下、少しお待ちくださいね」
「うん、よろしく」
…お着替え?平民服でいても気にする人いないと思うけど?アル様もいるけど、今までもこんな感じの服装で一緒に過ごした事があるのに。
「私も着替えてくるから、シルフィーも着替えておいで」
「は、はい」
え、アル様も着替えるの?アル様の着替えってうちにあったっけ?あ、お兄様の服を着るのかな?
「さぁ、お嬢様、行きますよ」
「はーい」
「……アンナ、私こんな服持ってたっけ?」
「はい」
「……」
いや、服自体に問題は無いんだよ?薄い水色のふわふわした可愛いドレスなんてとっても素敵で可愛いんだよ?でも、初めて見たよ、こんなドレス。今まで何度もクローゼットをのぞいてきたけれど、見た事が無い。いつの間に用意したんだろう?どこにしまっていたんだろう?
「まぁ、やっぱり似合いますね!」
「ええ!髪型はどうしましょう?」
「そうねぇ、今日は特別かわいらしくしたいものね」
「なら、編み込みはどうでしょう、それならあれにも合いそうですし」
「そうね、そうしましょう」
……特別?あれ?なんのことだろう?
私が考えている間もメイド達がサクサクと私の着せ替えを終わらせてしまう。
「「「満足ですわ~!!!」」」
ぼーとしていた所にいきなりメイド達が声をあげたから驚いた。ビクッとしちゃったよ。
それを合図にしたのか、ドアがコンコンっとノックされたのに気付いた。
「はーい!どーぞ!」
許可を出してから、あ、先に誰がノックをしたのかを聞かないとと思った。でも時はもう遅し。ドアがゆっくりと開いてゆく。
入ってきたのはアル様だった。
「アル様!」
アル様もお着替えしている。……今までに見たことがない服だなぁ。お兄様の服でもないみたい。王子様みたいにキラキラしてる格好いい服。……王子様だけど。
基本は白がメインの服だけど、所々に薄い水色がちりばめられていて、ラインとかもほとんど薄い水色。……これって、
「アル様、お揃いです!素敵、素敵!」
誰かとお揃いの服なんて初めてかも。とっても嬉しい。
「シルフィーもとっても良似合っているよ。うん、もう抱きしめたい。可愛い。あぁー」
アル様は顔を覆ったまま蹲ってしまった。正直、こんなに可愛いって言ってくれるのは嬉しい。そのお礼といっては何だけれど、
「アル様、ぎゅーってしますか?」
アル様に向かって手を広げる。…私が抱きしめて欲しかっただけじゃないよ?
「うぐっ、上目遣い…」
「?」
「……抱きしめてもいいの?」
「勿論です!」
だって婚約者だもん!許可なんてなくても、いつでも抱きしめてくれていいのに。私が腕を広げているとアル様がそっと腕の中に入ってきた。といっても、私がアル様を抱きしめてあげるというより、私がアル様に抱きしめて貰う形になっている。まぁ、体格差的に難しいよね。でも、やっぱりアル様に抱きしめると安心出来るし、
「あったかいです」
「さあ、行こうか」
「はい」
アル様が私に手を差し出してくれる。手を取ったのはいいんだけれど、どこに行くんだろう。
「どこに行くんですか?」
「皆がいる所だよ」
アル様と今日のお話をしながら廊下を歩いていると、いつも皆でご飯を食べている部屋にたどり着いた。メイドさん達がドアを開けてくれると、「パンパンッ!」とクラッカーの音が鳴り響いた。
「!!」
予想していなかった大きな音にびっくりしてアル様に抱き着く。そんな様子の私を見て、アル様はクスクスと笑う。思わず、頬を膨らませてアル様を睨む。
「むう~」
「ふふ、シルフィー、見て」
アル様が指さした方向を向けば、私の家族だけでなく、メイド達や執事さん達、屋敷中の皆が集まっている。それだけじゃなくて、王家の人たちもいる。……何でお義父様達が!?
横にいるアル様をそーっと見ると、先の私をからかうような笑みじゃなくて、とっても優しい笑顔をしている。
「シルフィー、誕生日おめでとう。」
アル様がそっと呟いた。それから、皆も口々に私にお祝いの言葉を言ってくれる。
お、たんじょうび……?そっか、今日、私の誕生日なんだ!忘れていた!
「ありがとうございます!!」
家族だけじゃなく、王家の人たちにまでお祝いを言ってもらえるなんて、すっごく贅沢!!
嬉しい。とっても。皆が心から私の事を祝ってくれていると分かる。こんな大きな誕生日会をするのは初めて。
楽しい。嬉しい。心に温かい気持ちがたまってくる。
おまけにおっきなケーキ!!
私の目がケーキにくぎ付けになったのが分かったのか所々から笑いが漏れる。分かってますよ、食いしん坊とか思ってるんですよね、朝ごはんにパンケーキを食べたのにとか思ってるんだよね。え、まだお腹に入るのかって?さっきお腹いっぱいって言ってたって?そんなの沢山歩いたし、目の前の美味しいものを我慢できるようなお腹を私は持ち合わせておりません。
美味しいものに罪はないんです。
「さあ、お嬢様。ケーキを切り分けますね」
「うん!苺が大きい所!あとクリームもいっぱいの所!」
アンナが私の要望に応えてケーキを切り分けてくれる。横で、
「流石シルフィー、真っ先にケーキに行くとは」
「ですね、可愛らしい」
なんて言っている、ルートお兄様とレオンお兄様の言葉は気にしなかった事にする。
ケーキを食べたり皆とお話して過ごしていると
「私達からの誕生日プレゼントはドレスよ」
そう言ってお母様とお父様はドレスが入った大きな箱を私にくれた。でも、ドレスはいつも貰っているし、どうして誕生日にわざわざ?
箱を開けてみると黒色のゴシックの服が入っていた。黒を基調としているけれど、白いレースが散りばめられていて
「え、この服って…」
「シルフィー、こういう服って持っていないでしょう?シルフィーが好きか分からないけれど、最近シルフィーの小悪魔度が育ってきたからこういうのもありかなぁって」
お母様、小悪魔度って何でしょう?アル様が横で思い切りうんうんって頷いているけれどよく分からない。でもね、正直こういう服ってすーっごく着てみたかった!だって、憧れるもん!前世で大好きだったアイドルが良くこういう服を着てたから、私も着てみたかったんだよね!
私の目がキラキラしていた事に気が付いたのか、お母様とお父様がほっとしたのが分かった。
「ありがとうございます、お母様、お父様!」
「どういたしまして、でもそれだけじゃないのよ」
「?」
「ドレスの下を見てみて」
お母様の言葉通り黒のドレスを持ち上げてみる。そして箱の底からもう一つひらひらした黒い布が見えた。
「これって…!」
「そう、るぅのドレスよ。シルフィーとお揃いのね。」
私のドレスをそのまま縮小したようなレースの位置も全く同じのドレス。
「嬉しいです!」
ぬいぐるみとおんなじドレスって一度は夢見ることじゃない?嬉しすぎる!しかも、普通のお店に人とぬいぐるみの同じ柄のドレスなんて売っている訳が無い。という事は、これはきっとオーダーメイド。喜ばない訳が無いよね。
「俺からはこれだ」
お兄様がくれたプレゼントの中身を空けてみると、
「るぅだ!」
中にはるぅにそっくりのうさぎのポシェットが入っていた。
「シルフィーがるぅを買った店にるぅが鞄になって売られてたから、これはシルフィーに届けないといけないと思って」
「お兄様、ありがとうございます!」
可愛い。かわいい、可愛い!手触りも色もふわふわ具合も全部一緒!これで外に行く時にるぅを連れていけない時もるぅと一緒って感じがする。
うれしい…!
「ふふ、喜ぶシルフィーは可愛いわぁ。」
「お姉様!」
「スティラと少しかぶってしまったのは悔しいけれど、私からはこれよ」
お姉様がくれたのは、お兄様と一緒で、るぅみたいな薄いピンク色の、ふわふわした
「お洋服!」
これは着ぐるみかな?あ、でも上下別れている。もこもこ。上はフードにうさ耳がついてて、下はふんわりかぼちゃパンツ。しかも尻尾付き。
すーっごくすごくかわいい。
いつ着よう?パジャマにしてもいいけれど、普段着としてもきたい。流石にお客さんが来ている時はドレスじゃないといけないけれど。
「お兄様もお姉様もありがとうございます!大好きです!」
それから、皆も私に色々とプレゼントをくれた。
お義父様、お義母様、レオンお兄様とルートお兄様はお菓子。本当はケーキにしようとしていたらしいのだけれど、誕生日ケーキがあるから日持ちのする焼き菓子にしたみたい。
「やった、これでお菓子沢山!」と小さい声でつぶやいたけれど、アンナには聞かれていた。それで、「一日一つですよ」って注意された。ひどい。
使用人の皆は絵本をくれた。最近、読む絵本が尽きてきたんだよね。ずーっと読んでいるから。
「ありがとう、皆!こんど読み聞かせてあげるね!」
使用人の何人かが倒れたけれど、気のせいだよね。
「私からはこれだよ」
アル様もプレゼントをくれた。
「でも、アル様にはいっぱい貰ってますよ?今日だって、パンケーキとワッフルを買ってもらったのに…」
「違うよ、シルフィー。私は、私がシルフィーにあげたくてあげてるんだよ。だから貰ってくれない方が悲しいよ。貰ってくれる?」
そんなことを言われたら断れないですよ。ここはありがたくいただきます。
「アル様、ありがとうございます!」
中身は何だろう?何だか固い?手の平に乗るサイズだから…、ダメだ予想がつかない。
ゆっくりと袋を開けていく。中から出てきたのは…
「ティアラ…?」
お姫様が着けるみたいにキラキラしていて、可愛い。シルバーベースで水色の宝石がちりばめられている。
「可愛い…。嬉しいです。」
「私が可愛いシルフィーを愛でたいだけだから。」
思わず頬が緩んでしまう。
「ありがとうございます、アル様。…お願いしてもいいですか?」
「お願い?なあに?」
「アル様、ティアラ、つけて下さい」
「私がつけていいの?」
「アル様がいいです」
アル様は微笑んで私にティアラを乗せてくれた。
「うん、可愛い。ドレスともよく似合っているよ」
「ありがとうございます」
ふふ、お姫様になったみたい。それにしてもアル様すごいなぁ。今日のドレスにこのティアラは良く似合う。だって、このドレスもティアラも水色の宝石が散りばめられている。あれ、
「…もしかして、このドレスもアル様が?」
「あれ、言っていなかったっけ?」
やっぱりそうだ!私アル様に貰いすぎている!
今度お返ししよう…。
「皆、本当にありがとうございます、とってもとっても嬉しいです。貰ったもの全部ぜ~んぶ大切にします!」
私がそういうと皆が頬を緩めて微笑んでくれた。
皆大好き。




