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002、家族は温かいです

 目が覚めると白い天井が映り込んできた。


(ここは……?)


 部屋を見渡してみても、ここがどこか分からない。養護施設で育った私の部屋は6人で1つの部屋を使っていたため、少し狭かった。その分近くに人が居たから寂しくはなかったけれど。でもこの部屋はとても広い。私達の部屋の何倍もある。けれど、ベッドが1つしか無い事から、余計に広く感じる。1つしかないベッドもとても大きいけれど。何故こんな所で寝ているのだろう。そう思い記憶を振り返ってみる。


(あ、そっか。私トラックに轢かれて……)


 でも、ここにいるということは助かったのだろうか。私は生きている。病院、とは少し違う気がする。普通に生活をしている部屋という感じだ。温かい雰囲気がする。机やソファー、沢山のおもちゃもあり、そして、どう考えても病院より遥かに広かった。

 それにしても身体が痛い。でもおかしい。その体の痛みは怪我による痛みではなく、もっと内側から来る痛みのよう。


 寝転んだままふと自分の手を見てみると、小さかった。そして、ぷにぷにしていた。


 ……ん?


 自分の手に違和感を感じ、顔もぺたぺた触ってみる。

 

 やっぱりおかしい、と思って部屋を見渡してみる。

 自身の姿を確かめようと鏡を探すと、クローゼットのそばにあるのを見つけた。そのソファーに近づこうとベッドから降りようとした。けれども体に力が入らずにそのままベッドに体を預ける。瞬間、急激な頭痛に襲われた。


(いた……っ!)


 以前熱を出した時の頭痛より遥かに痛い。頭を押さえ、ベッドの中で蹲る。痛すぎて声も出ない。視界が黒くなっていく感覚がする。

 トラックに轢かれた時、何処か変なところを怪我したのだろうか。頭を打ったのなら検査をしなければならない。などと、どこか冷静な自分もいた。そんな時、急に頭の中に多くの情報が流れ込んできた。身に覚えの無いはずの記憶なのに、やけに懐かしい。人の姿や建物、風景。私の知っているものと全く違う様々な情景が私の頭を混乱させる。まるで、全部の絵の具を混ぜきったような気持ち悪い感覚も流れ込んでくる。





 混乱しているうちに徐々に頭の痛みがやわらいだ。そして、気が付くと、頭がやけにスッキリしている。そして、今流れ込んできた記憶はこの身体の記憶だろうという事がだんだんと理解出来た。

 同時に思い出した。今の私は有栖川桜であり、そうではない。この体の持ち主はシルフィー・ミル・フィオーネ。フロイアン王国の公爵家次女。半月前に3歳の誕生会を終えたばかりだから、現在は3歳。私の中で二つの記憶を整理していると、桜とシルフィーの魂が融合するのを感じた。





 『私』は先日、庭で遊んでいる時に急に倒れた。その日は朝から体がだるかったように思う。けれど、幼い私にそれが熱であるかなど分からず、気にしないで遊んでいた。急に倒れたりなんかして、家族には心配をかけただろう。もしかしたら、それは記憶が戻る前兆だったのかもしれない。そんなことを思っていると、コンコンッと、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「はーい」


 いつもの習慣で思わず返事をしてしまった。自分の声のはずなのに桜の声と比べると少し高くて違和感がある。すると勢いよくドアが開かれた。


「お嬢様っ! 目を覚まされたのですかっ!?」


 入ってきたのはメイドのアンナだった。アンナは私が物心着いた頃からずっとそばにいて面倒を見てくれた。私の姉のような人。普段はお淑やかでこんな風に勢いよく部屋に入ってくることはない。それほど心配をかけたんだろうな。


「うん、アンナ。だいじょうぶだよ」

「よかったです……」


 アンナは私の手を取り、目に涙を浮かべながら私を見つめる。それほど心配してくれていると思ったら嬉しい。


「でも、本当に目が覚めて良かったです。お嬢様は2週間も目を覚まされなかったので」


 ……え、2週間も!?


 道理で力が入らないはずだと思った。体は動くけれど、思うようにはあまり動かない。さっきもベッドから降りようとした途端力が入らなくなってベッドに倒れ込んじゃったし。


「大丈夫ですか、お嬢様?」

「うん」


 ぼーっとしてたからか、アンナが心配して声をかけてくる。

 3歳児の体だから、ゆっくり喋らないと言葉を噛んでしまいそうになる。


「それならよかったです。旦那様と奥様、それにシリア様やスティラ様も大変心配されてましたよ。心配をされて勉強や仕事も手につかない様子で……」


 お父様とお母様はとっても仲良しで、いつも一緒にいる。さすがにお父様が仕事の時には一緒には居ないけれど。でも、見ていてとっても幸せになれるから2人とも大好き。お兄様とお姉様は私より6歳年上で、双子の兄妹。時々喧嘩をする所を見るけれど、喧嘩の内容は割としょうもない事だった気がする。でも、2人とも私のことを大事にしてくれるからとっても大好き。……結果的に家族全員大好きな訳だけど。


「では、お嬢様。私は皆様を呼んで参りますね。ゆっくりお休みください」

「うん、ありがとう」





 しばらくすると、ドタバタという足音が鳴り、勢いよくドアが開いた。


「シルフィー!大丈夫かい!?」


 お父様の声だった。びっくりしましたよ。その後に続々とお母様やお兄様、お姉様が入ってくる。お父様とお母様の姿を目にした時、何故か目に涙が浮かんだ。


「おとーしゃまっ!」


 抱きつきに行こうとしたけれど、どうしても体に力が入らずにベッドに倒れ込んでしまう。するとお父様が私の体を抱き起こしてぎゅっと抱き締める。その途端、更に涙が出てきた。桜の両親は早くに亡くなってしまった為、抱きしめられた記憶が朧気だった。勿論、両親以外に外に抱きしめてくれる人が居なかった訳では無い。養護施設の職員も、私の保護者のように、親身になってくれた。けれど、その人達は皆の『お母さん』のような人だから独占は出来なかったし、甘えきることは出来なかった。仕方の無い事と言われればそうなのだけれど、どうしても寂しかった。いつぶりだろう。こんなに強く抱きしめられるのは。


「あぁ、良かった。なかなか目を覚まさないから心配したよ」

「ふぇ…っ、しんぱいっ、…ごめんな、さっ」


 涙ながらにそう答えると、


「そんなこと気にしなくていいっ! 無事に目を覚ましてくれたからそれでいいんだっ!」


 お父様はギュッと抱きしめて、頭を撫でてくれる。お父様の優しい言葉と行動で、更に涙が溢れる。お父様は私が泣き止むまで頭を撫でたり、背中をポンポンしてくれた。危うく寝てしまいそうになったのは内緒です……。





「ちょっと父上、俺達にもシルフィーを抱っこさせてくれよ」


 私が一通り落ちついた時、そう声をかけてきたのはお兄様だった。そして私達の傍に来て、私の方へ両手を伸ばす。私はついその手の中へ飛び込んだ。するとお兄様は、私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。


「シルフィーっ! やっぱり可愛いなぁっ!」

「すてぃらにーしゃまっ! かみがぐしゃぐしゃになっちゃいますっ!」


 ただでさえずっと寝ていたからぼさぼさなのに!……はっ、もしかして私臭い?二週間寝ていたって事はその期間はお風呂に入っていない訳だし。汗もいっぱいかいているだろうし。

 ……くんくん。あれ?あんまり臭くない?もしかしてアンナが拭いてくれていたのかな?

 それでも後でお風呂に入ろう。


「大丈夫っ! お前はそれでも可愛いからっ!」


 ……そんなんでごまかされると思ったら大間違いですよ!今回は騙されてあげますけれど!

 お兄様に撫でられていると、どこからかぼこっという音が聞こえた。それと同時に、お兄様が私を抱く手が緩んだ。どうしたのだろうかとお兄様の方を向く。するとお兄様の頭の上にはたんこぶが出来ていた。

 

 え、たんこぶ?!


「おにーしゃま、だいじょーぶですか?」

「あ、あぁ……。いや、ちょっと痛いかも……」


 そう言いながらお兄様は自身のたんこぶを撫でる。たんこぶはとても痛そうだ。この短時間のうちにいつ出来たのだろう。……今のぼこっって音以外に原因は無いよね…。そんな事を考えていた私はお兄様がお姉様を睨んでいたのに気付かなかった。


「おにーしゃま、いたいのいたいのとんでいけっ! ……もういたいのなくなった?」

「ああ。もう大丈夫だ。シルフィーは優しくて可愛いなぁ。どこかの俺を殴った妹とは大違いだ」

「何よ。最初に私の可愛いシルフィーをいじめたのはスティラじゃない」


 お姉様が会話に入ってきた。会話からするとお兄様を叩いたのはお姉様なのかな?お兄様とお姉様が喧嘩するのはたまに見るけど、ここまで言い合うのは珍しいなぁ。2人は基本、私の前で喧嘩はしない。するとしても表面上は笑顔で決して怒鳴ったりはしない。


「虐めてねぇよ! 可愛がってただけだろ!?」

「シルフィーは病み上がりなんだから、そんなに激しく撫でたら熱がぶり返すかもしれないでしょ!」


 なんだろう。心が体に引きずられているのだろうか。自分が怒られているわけでもないのに、何故か怖い。やっと引っ込んだ涙がまた溢れ出す。


「け、けんかは、だめなの……!」


 涙を流しながら精一杯の大きな声で叫ぶ。すると、2人は喧嘩を止めて、ギョッとした顔でこっちを見る。


「ごめんね、シルフィー! 大丈夫よ、もうしないから泣き止んで~!」

「わ、悪かった! シルフィー、怖がらせてごめんなぁ」


 2人とも謝りながら頭を撫でてくれる。何でだろう。涙が止まらない。私、こんなに泣き虫だっけ?養護施設にいた時は、泣いたら迷惑をかけると思って泣いたことはほとんど無かった。やっぱり体が小さくなったことに影響されているのかなぁ。


「全く。皆してシルフィーを虐めないの。」

「おかーしゃま…!」


 そう言って声をかけてきたのはお母様だった。


「いや、まて。私は虐めていない。」

「お、俺だって!」

「私もよ!」


 という皆の発言をスルーし、お母様は私に目線を合わせて話しかけてくる。


「でも、本当に良かったわ。もう本当に大丈夫?」

「はい、だいじょうぶです。おかーしゃま。」

「本当に? 無理してない? 何かして欲しいことある?」


 して欲しいこと……。あるけど、言っても大丈夫かな?


「えっとね………、あのね、おかーしゃまに、だっこしてほしい…です…」


 そう言って、両手を上げ、母へ向ける。お母様は私を見て目をパチパチさせる。前世では父に抱っこされた記憶はもちろん、母に抱っこされた記憶も曖昧だった。


(だめ……かな…?)


 そう思ったら、お母様を見つめる目に段々と涙が浮かんできた。


「ダメなわけないじゃないっ! あぁっ、うちの娘はなんて可愛いのかしらっ!」

「ちょっと、母上! 強く抱きしめすぎ! シルフィーが可愛いのは分かったけど、苦しそうだからっ!」

「あぁっ! ごめんね、シルフィー! 大丈夫!?」

「だい、じょーぶです……」


 苦しかったけど、とっても嬉しかった。抱きしめられるのはこんなに幸せなことなんだ。前世の家族のことはあまり覚えてないけど大好きだった。でも、今の家族も大好き。今度こそ失いたくない。



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