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022、お昼寝は最高です

「お嬢様、おはようございます。」

「おはよう、アンナ」


 結局ほとんど眠れなかった。眠れたのは朝日が昇って部屋が明るくなり始めた頃。それでも眠りは浅かった。虫の鳴く声や、落ち葉を踏む音。全ての音に敏感になっているようで、すぐに目が覚めてしまう。

 正直とても眠たい。今すぐ目を閉じたら眠れるだろうけれど、恐らくぐっすりとは眠れない。


 眠れなかった事が分かったら心配させてしまうから、いつも通りを心掛ける。いつも通り…。寝起きだからまだ少し眠そうに、「ふわぁ…、」と欠伸の演技をしようとしたら本当に出た。あと、「う~ん、もうちょっとねたいよぅ。」と駄々をこねる。これもいつも通り。


「ふふ、だめですよ。旦那様も奥様もお嬢様と朝食をとる事を楽しみにしているんですから。」


 笑顔でアンナが私をたしなめるのもいつも通り。よし、アンナは私が寝不足だという事に気が付いていない。ちゃんと目を覚まさないと。うとうとなんてしていられない。


「ごはんたべる!」

「ふふ、本当に美味しいものが好きですね」

「だって、おいしいもん!」


 元気に、いつも通りに。それが私の取柄だから。お父様もお母様も、お兄様もお姉様も、使用人の皆も私の体調には少し敏感になっている。私が熱で倒れたからだ。倒れた当時よりは皆の反応も少しはましになっているけれど、それでも皆は心配性だから。私の事を大切にしてくれていて、慈しんでくれている。愛してくれている。それは本当に心から嬉しい。けれど、だからこそ心配をかけたくない。


「はやくいこ!」


 大丈夫。ただの夢だから。るぅとディーがいない不安から見た怖い夢だから。今日はもう大丈夫。それに、お昼にはお昼寝も出来るし。“お昼寝では寝られるし”。





「ふわぁ!ほっとけーき!だいすきなの!」


 今日の朝食はホットケーキだった。なんて贅沢。思わず目が覚めました。お陰で家族のだれにも寝不足を気付かれていない。


 ホットケーキには苺やブルーベリーなどのベリーが沢山乗っていて、蜂蜜とかチョコレートソースとかもかかっている。……はっ、よだれ出てないよね?……、うん大丈夫!


 って、あ!またやってしまった!まずは、


「おはようございます!」


 挨拶だよね。挨拶をする前にホットケーキに目が行ってしまって、思わず叫んでしまった。これだとこの間の孤児院の時の失敗を繰り返してしまうことになる。前は自己紹介の前に「かくれんぼ!」って叫んだんだよね。そして今日は「ホットケーキ!」……。気をつけよう。


 私がうなだれていると、「ブブッ」っと笑いを堪え切れなかったような声が聞こえた。声の主は、


「おにーしゃま……」


 何で笑うのですか!いや、正直理由は分かっていますけれど!孤児院でもしっかり笑われたし。しかも、よく見るとお父様やお母様、お姉様も肩を震わせている。


「い、いや悪い!あまりにも可愛くて……、ふっ」


 お兄様、焦りながら私に弁解しているけれど笑いが堪え切れていない。しかも、可愛いって言えば許してくれると思っていませんか?私はそんなに甘くはないですよ!……まぁ、一回くらいなら許してあげない事もないです。ついでに頭を撫でてくれてもいいんですよ?そうしたら許してあげます!


 お父様、お母様、お姉様は声に出して笑わなかったので、あえて気にしないようにしました。朝から家族に笑えるような楽しい出来事を提供した自分を褒めておきましょう。





 想像通り、ホットケーキは素晴らしい味でした。正直食欲は余りないと思っていたんだけれど、そこは私だった。甘くておいしいケーキという名の付くものを前にすると、どうしても食欲が勝ってしまうみたい。お陰で家族に体調不良の心配はされなかった。どちらかというと食べ過ぎの心配をされました。





 今日はお屋敷には私一人みたい。勿論使用人の皆はいるけれど、家族は皆それぞれで出掛けていくみたい。お母様とお姉様は社交。お父様とお兄様はお仕事や王子様たちに会いに行く。私も一緒に行くかと誘われたけれど、仕事場に子どもが頻繁に出入りすると邪魔になる。という事でお留守番。それに、家族の皆、忙しいみたい。社交シーズンっていのがあるみたいで、地方の貴族達も王都に集まってきているから沢山お茶会などが開催される。貴族との繋がりを持つ為に出来るだけ参加しているみたい。私は子どもだから不参加。あ、子どもでも友人を作る為に参加している人も沢山いるから、正しくは、“幼女”の私は不参加。


 だから、今日は一日遊んでくれる人が居なくて暇なんです。アンナに遊んでもらう事も出来るけれど、今日は余り走りたくないなぁ。取り合えず、今日はまだお花たちにお水をあげていないからあげに行こう。お水をあげたらお絵描きして、絵本読んで……


「アンナ、るぅは?」


 流石にもう乾いただろうか。


「お嬢様は本当にるぅ様がお好きですね。乾いているか見てきますので、お庭で待っててくださいますか?庭師がいるならば先にお水をあげていても構いませんよ。」

「わかった!あ、でも、るぅがかわいてたら、おへやにつれていってあげて!もうぬれるの、や!」

「あらあら。分かりました。昨晩るぅ様がいらっしゃらなくて寂しそうでしたものね。」

「うん。るぅいないと、さびしい……」


 アンナはるぅを見に行ってくれたので、私は花壇にいく事にした。お母様とディーと一緒に植えたお花達は相変わらず綺麗に咲いている。このまま綺麗に咲き続けてくれると嬉しい。

 庭師がいたので先にお水をあげているとアンナが来た。


「アンナ!るぅは!?」

「ふふ、乾いていたので、お嬢様のお布団で寝ていますよ。」

「じゃあ、はやくいこ!アンナ、おみずあげるのてつだって!」

「はい」





 お部屋に入るとるぅが私の布団で寝ていた。


「るぅ!」


 可愛い私のピンクのうさぎ。洗ってくれたおかげだろうか、前よりすごくふわふわになっている。るぅを抱きしめていると落ち着く。何だか、依存症にでもなったみたい。はっ、そういえば、幼い頃からずっと持っていたものに執着していると、中々手放せなくなることがあるって聞いたことがある。……そうならないように気をつけよう。いや、手放す予定はないから別にいいのかな。

 それからるぅと、合流したディーと一緒にお絵描きしたり、絵本を読んだりした。途中、何度も寝そうになったけれど耐えました。お昼寝まであと少し。


 お昼ご飯はお庭でサンドイッチ。何だかピクニックみたいで楽しかった。でも、今日に限って外はだめだよ。心地のいい日差し、お昼ご飯による満腹、寝不足。これが重なって寝ない訳が無いよね。そんなわけで、ピクニックをしているシートの上で眠っていました。





「お嬢様、起きて下さい」


 ……アンナの声が聞こえる。でもまだ眠たいもん。起きたくない。


「お嬢様、寝すぎると夜に眠れなくなりますよ」


 寝すぎてないよ。だってまだこんなに眠たいんだもん。それに、お布団も、私を離したくないって言ってるもん。

 そういえば、今回は夢を見なかったなぁ。良かった。見た夢を全く覚えていないくらいぐっすりだった。やっぱりるぅとディーと寝たからだね。もうこの子達を手放せない。でも、やっぱりお昼寝の三時間だと足りないなぁ。今日の夜は早寝遅起きを心掛けよう。そうしよう。


 でもやっぱり眠たいから、アンナには悪いけれど二度寝しよう……。


「お嬢様、起きないと3時のおやつのプリンアラモードは、私が食べてしまいますわよ?」

「だめ!」


 あ、起きちゃった。デザートの名前を聞いたら反射で答えてしまった。流石アンナ。私の扱いを良く分かっている。


「ふふ」


 アンナの得意げな顔が目に入る。……負けました。デザートを人質…物質に取るなんて卑怯な!でもアンナだから許す!





 夕食の時間になって、やっと皆が帰ってきた。玄関までお出迎えに行くと、お兄様とお姉様が私に気が付いて走り寄ってきてくれた。そして、そのまま流れるようにお兄様が私を抱っこした。


「ただいま、俺の癒しぃ……、疲れた…。」

「スティラ、早くシルフィーを貸して!」

「はぁ?シルフィーは今俺が抱っこしてんの。もう少し待て!」

「嫌よ!私も癒しが欲しいの!」


 ……お兄様、お姉様私の上で喧嘩をしないで下さい……。泣きますよ。

 でも今日は二人とも本当に疲れているみたいだから、私はおとなしく人形になります。社交って本当に大変なんだなぁ。私、大きくなりたいけれど、社交には余り自身が無いかも。どうか平和にお友達が作れますように。


 お父様とお母様も私に気がついた様子で近寄ってきてくれて、私の頭を撫でてくれた。


「ごめんなさい、シルフィー。一人で寂しかったでしょう?」

「あのね、さびしいけど、アンナも、ディーも、るぅもいたよ!」

「それなら良かったわ。これからもうしばらく今日みたいな日が続くの。ごめんね。」


 そっかぁ、明日もいないのかぁ。


「……」


 しゅんとしていた私に気付いたのか、夕食時には家族の皆が今まで以上に構ってくれました。




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