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020、執務室にお邪魔します


「あるしゃまー!おじゃまします!」

「いらっしゃい、シルフィー。」


 騎士がアル様に私が来たことを伝えると、アル様は笑顔で私を迎え入れてくれた。


 アル様との婚約を結んでから、私は度々アル様の執務室に遊びに来ている。勿論、勝手に邪魔しに来てはいないよ!呼ばれていないのに勝手に来てお仕事の邪魔をするのは悪役令嬢の典型だからね。ちゃんとアル様に呼ばれた日に来ているよ。

 それはそうと、まだ8歳なのにお仕事を任せられているアル様ってすごい。アル様曰く、簡単な仕事しかないし、今は現地視察をして自分の視野を広げることを大事にしろって陛下に言われているみたい。第一王子のレオン様を支える為に少しずつ勉強中なんだって。


 私も少しずつ勉強した方がいいのかな。でもまだ3歳だし、家族もまだ何も言ってこないからいいという事にしよう。


 話を戻すけれど、最初の頃は私からはアル様に会いに行かないようにしてたんだよ?アル様が執務室で簡単なお仕事をするようになったって聞いて、邪魔になったら嫌だなって思ったから。でもね、2週間くらい会わなかったら、アル様から手紙が来て、その内容が会いに行かざるを得ないものだった。簡単に訳すと、




 愛しいシルフィーへ


シルフィー、最近会えてないね。

私は寂しくて倒れそうだよ。

シルフィーという癒しが足りない。

至急会いに来て。さもなくば私から会いに行くよ。


 アルフォンスより。




 というような内容の手紙だった。忙しいアル様にわざわざ来てもらうなんてことは出来ない。それなら私が行きます。何と言っても私は毎日遊んで過ごすだけなので暇なんです。





 という訳でアル様の執務室にお邪魔しています。本当はお仕事で疲れているアル様にお茶を入れてあげたりしたかったんだけれど、私が入れたら確実に零す。もう少し大きくなってからじゃないと危ないと思って断念した。それに、何回も来ているうちにアル様は私にどういう事を求めているのか分かってきた。それは、“癒し”。

 そう、理解しているからこそ、私はこの行動に出る。


「あるしゃま、だっこしてください!」

「もちろんだよ」


 それはそれはいい笑顔でした。アル様の安らぎの為ならば私の羞恥心など必要ないのです。そして、現在は椅子に座ったアル様の上に座っています。


「はぁ、癒される……」


 そう呟きながら私の頭を撫でる。正直、私もこれが大好き。格好いい男の子の膝の上に乗せられて頭を撫でられるなんてご褒美でしかない。それに、頭を撫でられるの好きだし。だからついつい気が緩んで、


「ふにゅう~……」


 なんて気の抜けた声が出てしまう。でもいつもの事なので気にしない。アル様の撫でる手が一瞬強張るのが不思議だけれど。

 あ、あと昼を過ぎた頃にお邪魔したときは、満腹とか頭なでなでとか色々相まって眠たくなってしまうの困る。だって折角のアル様との時間なのに寝てしまうなんて勿体ない。それに起きた時にアル様のベッドで寝てて、横でアル様が私の頭を撫でながら私を見ていたなんて心臓に悪すぎる。それに、婚約者といえど、王子様とレディーが同じ部屋で寝るなんてダメでしょう!……あ、幼女はレディーじゃない?あ、そうですか。ごめんなさい。


「今日はシルフィーの好きそうなものを用意したよ」


 アル様が私の頭を撫でながら呟く。私の好きそうなもの……、それって!


「ケーキ!」


 そう叫んだ途端、アル様が噴出した。アル様失礼ですよ!私がケーキって言う事分かってたくせに!


「あたりですか?」

「ふふっ。うん、半分ね」

「はんぶん?」


 という事は、ケーキはある!


 私の考えている事が分かったのだろう、アル様は再び笑い出した。


「あー、本当に可愛い。」


 アル様が思わずというように呟いた。アル様、それ褒めてますか?それとも揶揄ってますか?……とりあえず喜んでおきます。


「あるしゃま、もうはんぶんは?」

「あぁ、これだよ」


 アル様が取り出したのは絵本だった。これって、


「『ルルの花束』!」

「シルフィー、読めなかったでしょう?」


 『ルルの花束』はクロード公爵家へ行った時にディアナお姉様が読んでくれた絵本。でも、私は睡魔に負けて最初の方しか読んでいない。もう一度読みたいと思っていたけれど、ディアナお姉様がクロード公爵家に入ってきたばっかりの絵本って言ってた。借りるのは申し訳なくて、だからといってわざわざ買うのも……と思っていた絵本だった。


「うれしいです!ほんとのほんとにうれしいです!」

「ふふ、喜んでくれてよかったよ。出版社を脅し……、頼んだ甲斐があったよ。」


 今、恐ろしい言葉が出ませんでした?王子様に脅されるなんて恐ろしい……、え、私の空耳?うん、そういう事にしておきましょうか。私の心の安寧の為にも。


「読んであげようか?」

「!!」


 正直嬉しい。お姉様達に少しずつ文字を教えて貰ってるけれど、まだスラスラは読めない。


「おねがいします!」

「勿論」


 そうして、アル様の膝に乗せられたまま、頭を撫でられるというオプション付きで絵本を読んでもらった。今回は寝ませんでしたよ?


 その後にケーキも食べさせられました。自分で食べるって言ったんだけれど、「絵本を読んだご褒美を頂戴」って断られた。お膝に乗せて貰えて、頭撫でられて、絵本読んで貰えて、ケーキを食べさせて貰えて。これって、私の方がご褒美貰ってない?


 これではダメだ。アル様へのお返しは何がいいだろう。自分がされてうれしいことを相手にしなさいって言うよね。じゃあ、これしかない。


「あるしゃまいつもおつかれさまです!」


 そう言いながらアル様の頭を撫でる。どう?癒された?気になりながらアル様の方を見ると……、何だか天に召されてる?


「はあ、天使が見える……」


 アル様、それは幻覚ですよ、天使なんて見てないで私を見て下さい。戻ってきてください。




 それからしばらくのアル様は話しかけても全く反応がありませんでした。




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