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アルフォンスpart3

 シルフィーを私の婚約者にする為に、公爵とシルフィーを王宮に呼び出した。正直、権力でシルフィーの婚約者になる事は出来るけれど、それをすると公爵が怖い。父上も今後、宰相である公爵と接するのが怖くなったら嫌だと言うし。政略結婚ならばそれが普通だけれど、私はシルフィーと政略結婚をしたい訳では無い。恋愛結婚をしたいんだ。だから、シルフィーを手に入れる為なら何でもする。取り合えず、最初はこれでもかという程甘やかす事から始めよう。シルフィーと仲良くなって、シルフィーが私と結婚したいと思ってくれるように仕向けたい。





 公爵とシルフィーを呼び出した。……なのに、何故父上は中々二人の元に行こうとしないのか。緊急で入った会議はとっくに終わって、後は執務室に戻り二人を呼ぶだけだというのに。ただでさえ二人を待たせているのに、これ以上待たせたら公爵が怖いじゃないか。


「父上、早く執務室へ戻りましょう」

「あぁ……」

「もう書類整理は終わったでしょう。何にそんなに怯えているのですか」

「……私はこれから戦地へ行くんだぞ! 公爵にシルフィーの婚約の話を持っていくなんて、もう戦争じゃないか! 公爵が怖く無い訳ないじゃないか!」

「……」


 ……父上は国王陛下だよな。どうして臣下をそんなに怖がるのか。いや、公爵は怖いが、正直公爵を掌で転がすような余裕と自信を持って欲しい。国王陛下として。そのうち、公爵に国を乗っ取られそうだな。まあ、公爵は国王とか興味無さそうだから心配するだけ無駄だろうけれど。いやでも、シルフィーが「お父様が国王になって欲しい」等の事を呟いたら、公爵は全力で国王の座をとりに来るだろう。……私はシルフィーを信じている。シルフィーは決してそのような事を言わないと信じている。


「これ以上待たせたら更に公爵の怒りを買うだけですよ。さっさと戻りましょう」

「……息子が冷たい」

「今この時においては何においてもシルフィーが一番大切ですから」


 という訳で、父上の従者に公爵とシルフィーを執務室に呼ぶように伝え、私も執務室に向かう。……父上はそのうち戻ってくるだろう。





 私と父上が執務室に戻ってきて、5分ほどしたら公爵とシルフィーが訪れた。シルフィーは妖精だった。いやもう本当に。今にでも飛んでいきそうだった。羽なんてついてないよね?もしついていたらシルフィーは飛んで行ってしまう。きっとシルフィーは森の妖精から生まれたんだ。森に帰ってしまわないようにしっかり繋ぎとめておかないと。……監禁すべき?いやいや、それは人としてまずい。……それは最終手段に取っておこう。


「こちらから呼び出しておいて、待たせて済まないな。」

「いいえ、だいじょうぶです! おしごと、だいじです!」

「ありがとう。いい子に育ったなぁ、公爵よ。」

「当たり前です。家の娘は世界一素直で可愛い天使です」

「それには私も同意です。シルフィーは天使です」


 父上と公爵の話を聞いて、思わず話に入り込んでしまう。今日は妖精だけど、基本は天使だから。父上が公爵から逃げていた為に待たされていたなんて微塵も気が付かないシルフィーは笑顔で父上を労う。天使かな。天使以外の何者でもないな。


 私が、シルフィーの可愛さを知っている事が羨ましいのか憎らしいのか知らないが、公爵がこちらを睨んでくる。まあ、どっちもだろうな。この家族はシルフィーに対する溺愛が凄いから。レオン兄上も、スティラのシルフィー愛が凄いと言っていたから。

 兎に角、シルフィーの可愛さを知っているのは公爵だけではないんだぞという気持ちを込めて、公爵に得意げな眼差しを送ってみる。すると公爵は更に顔を歪めるのだから面白い。


「殿下、恐縮ながら、殿下の知っているシルフィーの可愛さはほんの一部です。何故なら、私は妻子と共にシルフィーが生れた瞬間からシルフィーの可愛さに心臓を撃ち抜かれ続けてきたのですから」


 クソッ。それを言われると反論のしようがない!


「しかし、私と過ごしている時のシルフィーは私しか知らない可愛さを醸し出しているかもしれないだろう!?」

「私とシルフィーの約3年間には及びません」


 そんなこんなで公爵と睨み合っていると、


「おーい、2人とも、来ないと私とシルフィー嬢で食べ尽くすぞ」


 という父上の声が聞こえた。すっかり公爵とシルフィーの話に夢中になってしまった。シルフィーの方を向くと、シルフィーに合った大きさの椅子に座ってケーキを食べようとしていた。シルフィー用の椅子が用意してあることが少し寂しい。今回も私の膝の上に乗せたかったのに。……いや、公爵がいるから無理か。

 小さい椅子が無かったとしても、大きい椅子にシルフィーがちょこんと座る様子は可愛かったな。けれど、お菓子が食べられなくて泣きそうになっていたから、お菓子を前にしている時はやらないようにしよう。


 そんなことを考えているうちにシルフィーはアップルパイを口に頬張っていた。


「ふわぁ~」


 え、何?アップルパイを食べた感想がふわぁ~って可愛い過ぎない?私を殺す気?まあ、今のは感想というより思わず漏れたって感じだろうけれど。あぁ、ほら。可愛さをまき散らしているから、公爵も父上もシルフィーを見ているじゃないか。私だけのシルフィーでいてくれたらいいのに。

 3人でずっとシルフィーを見ていたせいか、シルフィーも目線が痛くなってきたみたい。とうとう食べる手を止めてしまった。


「たべないのですか?」

「いや、シルフィー嬢は幸せそうに食べるなぁ、と。」

「だって、すごくおいしくて、しあわせです!」


 はあ。可愛い。父上と公爵も同じことを思ったのか、真顔になってしまった。真顔にもなるよね。この笑顔をどうやって残していくか真剣に悩むよね。

 

「公爵、アル。この笑顔は守らなければならない気がする。」

「「当然です」」


 私達の会話をよそに、シルフィーは再びアップルパイを食べ進めていた。マイペースなシルフィーもいいね。……?あれ?シルフィーの顔が段々と暗くなっていく…?どうしたんだろう。さっきまで上機嫌でアップルパイを食べていたのに。……あぁ、そうか。食べ終わってしまったのが残念なんだな。

 そう解釈した私は、自分のケーキを切り分け、フォークに指してシルフィーに差し出した。


「シルフィー、あーん」


 私が差し出した瞬間のこのきらきらした笑顔。守りたい。いつか、シルフィーのファンクラブとかできるんじゃないかな?


「あーん! わぁ、やっぱりおいしいです! あるしゃま、ありがとうございます!」

「うん」


 可愛いなあ。ついでに公爵にもドヤ顔をしておく。


 ふんっ、いいだろう。


「シ、シルフィー……なにを……!」

「おとーしゃま、どうしたんですか?」

「大丈夫だよ。公爵は羨ましがってるだけだから。」

「うらやましい?おとーしゃまも、あるしゃまにあーん、してほしかったんですか?」

「いや、シルフィー、多分そっちじゃないと思うよ?」

「?」


 そのままの可愛いシルフィーでいてくれ。





「それより陛下、さっさと本題に入ってくださいよ」


 そうだった。話があったんだった。シルフィーの可愛さですっかり忘れていたよ。じゃあ、父上。後はお願いします。


「あぁ、そうだった、すっかり忘れていた。本題に入ろう。実はシルフィー嬢に話があったんだ。アルの強い要望なんだが、」

「は、はい!」

「アルと婚約してくれないか?」

「こん、やく?」

「あぁ」

「ちっ、やっぱりそう来たか」


 流石公爵。予想してたか。シルフィーは私の事どう思っているんだろう。流石に嫌われてはいないと思う。そういえば、シルフィー本人に婚約を断られた時の事は考えていなかったな。……そんな事になったら生きていけるだろうか。まだ婚約の事を考えられない、という理由ならまだ許せる。これからゆっくり口説いていけばいいんだから。けれど、他に好きな人がいる、という理由だったらどうしよう。取り合えず相手を殺そう。それか呪う。でもシルフィーに気付かれたら間違いなく嫌われるから、気付かれないようにしないと。


「私はまだ早いと思ったんだが、アルに押し切られてな。他に攫われたらどうするつもりだとね。なるべく早く結婚したいそうだから、シルフィー嬢が学園を卒業した年に結婚式を行うことになりそうだな」

「……私攫われるんですか?」


 まずい、シルフィーが不安がって涙目になってる。目が潤んでるシルフィーは正直言って可愛いけれど、悲しい思いをして欲しい訳では無い。


「い、いや、違うぞ。攫われると言ってもそういう意味ではなくてだな……!」

「陛下、シルフィーを泣かせましたね……?」

「いや、これは不可抗力だろう!?」


 いいぞ、公爵。もっと言ってやれ。たとえ父上でもシルフィーを泣かす奴は敵だ。あぁ、でもシルフィーが更に泣きそうになっている。……攫われるのが怖いというのもあるのだろうが、喧嘩も苦手なのだろうか。まあ、人が言い争うのを見ていい気分になる人はいないよな。


「おとーしゃま、だめ……。けんか、だめなの……!」


 シルフィーの声でようやく公爵が父上に募るのを止める。シルフィーの言葉で止めたというより、天使+涙目+上目遣いで止めた感じかな?


「うぅ……ひっく、ごめっ、なしゃ」


 シルフィーのお陰で公爵と父上は言い争うのをやめた。それでもシルフィーはなかなか泣きやまない。というか、今更だが、幼女が泣いていたら普通、言い争うより慰めるでしょう!全く、父上も公爵も頼りない。

 ここは私が頼れるという所を見せておかないと。


「大丈夫だよ、私が守るから。シルフィーに怖い事が起こっても、必ず守るよ」

「ほんと、ですか?」

「うん。だから安心して?」


 ゆっくりとシルフィーが落ち着くように頭を撫でる。段々とシルフィーの表情が緩んできた。


「はい、えへへ、あるしゃま、ありがとうございます」


 はい、可愛い。この笑顔を守りたい。


「わたし、あるしゃまと、けっこんするんですか?」

「うん。シルフィーが良いって言ってくれたらね」

「……」


 「はい」と言ってくれ。いや、言ってください。何かさっきからずっと悩んでいるけれど、もしかして断り方を考えているの…?私が王子だから、変な断り方は出来ないって?それか、本当は嫌だけれど断れそうもないから、私と婚約、結婚をするメリットを必死で探しているの?あぁ、そんなに悩むなら一思いに断ってくれ!……悲しいし、嫌だけれど。


「あの、わたし、あるしゃまとけっこんする。……そうしたら、ずっと、あるしゃまといっしょにいられますか?」


 え、今結婚するって言った?本当に?嘘じゃない?撤回は許さないよ。

 ずっと一緒にいられるかって?いるに決まってるよ。寧ろシルフィーを逃がさない為の婚約だよ?一緒にいるどころか離さないよ?


「もちろん。シルフィーが私と居たいと思ってくれる限り、私はずっとシルフィーと一緒にいるよ」

「ほんとですか?」

「うん。約束する」


 分かっている。自分の顔が今にも緩みそうなのを。だってこれ、もう婚約を受け入れてくれたようなものでしょう?喜ばないはずがないよね。父上、ニヤニヤしないでください。本当に顔が緩んでいるのは自覚していますから。あと、公爵、そんなに悔しそうな目で見ないで下さい。シルフィーの婚約は遅かれ早かれいつか来るものです。それが早かっただけですよ。……勿論、相手は私以外は許さないけれど。


 そういえば、私は何故こんなにシルフィーに惹かれているのだろう。シルフィーは可愛いし、天使だからかな。でもそれだけではない。兄としてではなく、結婚して夫婦として傍にいたいと思っている。それは何故だろう。シルフィーは3歳。私は8歳。年齢差だってあるのに。……あれ、私これロリコンって呼ばれない?


「あるしゃまと、いっしょにいられるの、うれしいです!」


 あぁ、もうなんでもいいや。シルフィーは可愛いが過ぎる。シルフィーが私との婚約を受け入れてくれた。シルフィーは私のもの。ロリコンと呼ばれようが構わない。私は、シルフィーが好きだから。

 そうか、好きだから。答えは単純だ。


 より一層シルフィーを愛しく感じ、思わず抱きしめてしまう。


「あぁ、可愛い。なんでこんなに年齢が離れてるんだろう。シルフィーがもう少し大きかったら……」


 もう少し早く結婚出来て、シルフィーがもっと早く私の物になるのに。いや、でもシルフィーが小さいからこそこれからの成長を特等席で見守っていける。それはそれでいいな。取り合えずシルフィーに近寄る不届き者は徹底的に排除できるように王家の特別部隊「影」を仕込んでおかないと。


「アル、一応言っておくが、せめてシルフィー嬢が学園に入学するまでは頬へのキスまでにしておけよ?」


 ようは、手を出し過ぎるなよ、という事ですね。醜聞は結婚に響くから。勿論弁えていますよ。シルフィーと結婚する為ならば耐えて見せますよ。

 まあ、頬への口づけはシルフィーと街へ出かけた時にシルフィーから貰っていますけれど。……公爵に言ったら怒られそうだから内緒にしておこう。

 15歳で学園に入学。つまり、シルフィーが15歳になったら唇へのキスは許されるが、結婚するまではそれ以上の手出しは許されない。あと12、いや13年は我慢しないといけない。耐えるしかない。

 そんなことを考えていると服の裾を小さな手が掴んでいた。言わずもがなシルフィーだ。


 屈んでってことだろうか?


 シルフィーの前に屈んで目線がシルフィーと合うようにする。すると、段々とシルフィーの顔が近寄ってきて……。頬にシルフィーの唇の感覚がした。


(~~~~!)


 叫ばなかった自分を褒めたい!いくら二回目とは言え、可愛すぎる!しかもどっちもシルフィーからだなんて。……ん?という事は私からしてもいいんじゃないだろうか。シルフィーからしてきたってことは私の事を嫌っていないという事だろうし。


 ああ、もう!本当に可愛いが過ぎる!こんな腑抜けた顔をシルフィーに見せたくないから、シルフィーを抱きしめて、私の顔が見えないようにする。


「ねぇ、公爵。シルフィーの可愛さは何なの?天使なの?女神なの?それとも、小悪魔?」

「大変羨ましい状況ですね、恨みますよ殿下。そして私の娘は、天使であり女神であり、妖精であり、小悪魔でもあります。」

「なるほどな、理解した」


 ……あと12、いや13年。耐えるしかない。いや、耐えなければならない。耐えなければ……。耐えられるだろうか……。


 というか、思ったより公爵は怒らなかったなあ。いや、怒れなかったの間違いか。私からシルフィーにキスをしたのなら怒れるが、公爵が見たのはシルフィーから私にキスをした光景だからな。どう見てもシルフィーの意思だったから。きっと腹の中では私に怒鳴りたいのを我慢している事だろう。


 ありがとう、シルフィー。公爵がいない所では私からしたいな。


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