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アルフォンスpart1


 シルフィーは可愛い。初めてあった時は、天使がいると思った。私だけの小さな天使。





「私の息子達だ。第一王子のレオンハルト、第二王子のアルフォンス、第三王子のルートハインだ。」


 父上に呼ばれて、執務室に行くと、天使がいた。フィオーネ公爵とは面識があったから、何となく、隣にいる天使は彼の娘なのだろうと想像がついた。レオン兄上やルートハインも「可愛い……」と呟いていた。


「みんなそっくりだろう、唯一違うのが、身長と髪型くらいか。あぁ、そうそう、レオンハルトは今年9歳でフィオーネ公爵家の双子と同じ年齢だ。それでアルフォンスがその一つ下、ルートハインがシルフィー嬢の二つ上だ」


 父上が私達の事を彼女に紹介してくれた。おそらく彼女は3歳くらいだろう。……父上、もっと簡単に紹介してあげて下さい。彼女には難しいのでは?

 

 そんなことを考えていると、


「あ、あの……シルフィー・ミル・フィオーネです……」


 と、自身を紹介する天使の声が聞こえた。公爵の背中から顔を出し、私達を覗き見る。いや、もう。その行動が可愛すぎる。


 すると、彼女とバッチリ目が合ってしまった。その時、私の中で何かが叫んだ。


『彼女を慈しめ。決して手放すな。』


 彼女が欲しいと思った。触れたい。頭を撫でてあげたい。抱きしめたい。様々な欲求が自身の中を駆け巡る。


 自身の欲求を隠し、もう一度シルフィーに目を向ける。その瞬間、シルフィーの顔に怯えの色が浮かび、泣き出してしまった。


 驚いた。

 父上でさえ普通に接しているのに。レオン兄上やルートを見ても何ともなかったのに。"私の”顔を見て泣いた。


「うぅ~……、ひっく、……っ」


 公爵の足に抱きつき、本格的に泣き出してしまったシルフィーに、どうしていいか分からなくなる。自分の顔は怖かっただろうか。


 心配していると、父上や公爵、レオン兄上やルートハインに睨まれる。


 言葉で発していなくても、言いたいことは分かる。


『お前が泣かしたんだから何とかしろ』

『可愛い娘を泣かせやがって』





 安心させてあげたかった。私は彼女に害をなす人間では無いと。


「大丈夫?」


 優しく、安心出来るように。そっと声をかける。


 シルフィーはゆっくりと顔を上げる。


「っ!」


 私が思ったより目の前にいて驚いたみたいだった。悪い事をしてしまった。

 公爵の服をギュッと握り、さらに泣きながら、


「ごっ、ごめん、なさっ……」


 と必死に謝る姿は見ていて痛々しかった。必死に目をこすって涙を止めようとしているけれど、中々止まらないようだった。


「目が腫れちゃうから擦ったらダメだよ」


 可愛い目が腫れてしまう。そう思って、シルフィーの目から手を取る。そして、思わず頭を撫でてしまう。


 その時、シルフィーから私に対する怯えが無くなったことに気がついた。あぁ、何だか子猫が懐いてくれたような感覚。それに気がついた瞬間、わたしはシルフィーを抱き上げた。


「ひゃあっ!」


 驚いて思わず出たのだろう。急に抱き上げられたのだから驚いて当然だ。けれど、その悲鳴すら可愛い。


 8歳の私にとって、3歳のシルフィーは本当に小さくて軽い。と、同時に『守らなければならないもの』という認識が頭の中に広がる。


「急に色んな人と会ったから驚いちゃったのかな?」


 そう声をかけると、シルフィーはゆっくり頷く。


「もう大丈夫だよ」


 そう言いながら背中を撫でると、安心したのか、シルフィーの体から完全に力が抜けてきた。そっと、シルフィーの顔を覗き込んでみると、どうやら眠ってしまったようだった。寝顔すら可愛いなんて、本当に天使の生まれ変わりじゃないのか?






「部屋を用意しよう」


 眠ってしまったシルフィーを寝かすため、父上がそう言うと、


「いえ、連れて帰ります。ですから、さっさと、私の可愛い可愛い娘を至急返してください。これ以上シルフィーの可愛い寝顔をあなた方に晒したくありません」


 公爵は、即座に否定した。


「お前はいつも家で一緒なんだから、今日くらいはいいじゃないか。せっかくの初対面なんだから息子達に譲ってやってくれよ」

「嫌です。アルフォンス殿下、至急シルフィーを返してください。」

「あ、はい」


 父上が公爵を窘めるけれど、公爵は受け入れなかった。そして、私は肯定以外の反応を許されなかった。何故なら公爵の目が本気だったから。

 でも、抱いて帰るより、どこかで寝かせてあげた方が良くないかな?


 そう思いつつも、公爵には逆らえそうもなくシルフィーを公爵に渡す。

 ……渡そうとした。けれど、渡せなかった。シルフィーが私の服の袖をしっかり掴んで離さなかったから。


 え、もう可愛い。


 公爵には悪いけど、本当に可愛い。まるで、わたしの腕の中にいることに安心してくれているみたい。公爵が凄く睨んできてるけど、気にしない。……うん、気にしない。





 その時、激しくドアをノックする音が聞こえた。父上が入室の許可を出すと飛び込むように入ってきた。


「申し訳ありません! 至急ご報告したいことが!」


 彼は宰相補佐だったか。宰相であるフィオーネ公爵を探しに来たのだろう。しかし、いつも落ち着いている彼がこんなに慌てているのだから余程のことが起こったのだろう。


 けれど、それよりも今は。


 静かにしろ!シルフィーが起きるだろうが!

 ほら、腕の中でシルフィーが眉を顰めているではないか!

 




「何があった」


 父上が宰相補佐に聞く。……出来れば話し合いは公爵と父上を連れて外でしてください。シルフィーが起きるでしょう。


「薔薇園付近に侵入者があったそうです! 侵入者は現在逃走中で、今、騎士団のものが追っています!」

「そうか……。目撃者は?」

「王妃様が散歩されていましたので、王妃様と護衛達が」

「何!? 怪我は!?」

「怪我人はおりません。ただ、王妃様が……」

「何かあったのか!」

「いえ、寧ろ侵入者にお怒りになって、後を追おうとされて……、流石にお止め致しましたけれど……」

「そ、そうか……。よく止めてくれた」


 母上……、何をやっているんですか。母上が強いのは知っていますが流石に危ないでしょう……。ほら、隣でレオン兄上とルートも呆れているじゃないですか。


 薔薇園は特殊な結界が張られているから、薔薇へ害をもたらす心を持った者はそもそも薔薇園に入ることは出来ない。だから、父上もそんなに慌てていないのだろう。結界が壊れた心配もしていない。結界に少しでも異常が生じたら、すぐさま警報が鳴るようになっているから。

 だからと言って、その後の対応を全くしない訳にはいかない。何故侵入者が薔薇園付近で目撃されたのか、侵入者の目的なども調べなければならない。だから、


「ロイド、行くぞ」

「嫌です。私はシルフィーと一緒に帰ります。私がおらずとも、この程度の問題なら陛下が対応されれば十分です」


 こんな公爵の意見は通るはずもない。


「今回ばかりはそうも言ってられん。何せ侵入者が出たのが薔薇園だからな。ほら、行くぞ」

「しかし、シルフィーが!」

「大丈夫ですよ、宰相。私達がシルフィー嬢の事を見ておきますから。安心して仕事に励んでください」

「だそうだ。行くぞ」


 レオン兄上の言葉に父上が頷き、公爵の服を引っ張って出ていった。よし、これで静かになった。

 

 この城には、バラ園と薔薇園がある。バラ園は特殊で王家の血を引いている者の転移でしかいく事が出来ない。薔薇園は誰でも入る事が出来るが、先程言ったように特殊な結界が張られているから、薔薇へ害をもたらす心を持った者はそもそも薔薇園に入ることは出来ない。





「やっぱりアル兄上の服を離さないね」

「起こしても悪いし、このまま寝かせるよ」


 でも、だからと言って、ずっと抱っこの状態で眠ると、シルフィー嬢も疲れるよね……。ソファに座って、自身の膝の上にシルフィーの頭が来るように寝かせる。所謂膝枕だ。


 ぐっすり眠るシルフィーが可愛くて、ゆっくりと頭を撫でる。その度にシルフィーの顔が穏やかになるのだからやめられない。レオン兄上とルートも私を真似してシルフィーの頭を撫でる。……兄上、ルート、顔が緩んでますよ。シルフィーが可愛いのは分かりますが。


「それにしても、薔薇園に侵入者か……」

「今日は母上が散歩をしていて助かりましたね。少し気になるので、やはり私も話を聞いてきます」

「あ、僕もレオン兄上と一緒に行くよ。アル兄上はシルフィーの事見ていて」

「ああ、分かった。後で情報を私にも教えて」

「うん」


 レオン兄上とルートも出て行ってしまって、部屋には私とシルフィーだけになる。……、あれ?未婚の男女を2人きりにしていいんだっけ?まぁ、8歳と3歳なら絶対に間違いは起こらないか。


 それにしてもやっぱり


「可愛いなぁ」


 それから30分ほどした時にシルフィーが身じろいだ。その間私が何をしていたかというと、ずっとシルフィーを眺めていた。いや、自分でも驚いてるよ?30分見続けて飽きないなんて。頭撫でた時の反応も本当に可愛いし。


 ……変態でもロリコンでもないよ?


「ん………にゅう……」


 可愛い寝言を言いながらシルフィーがゆっくりと目を開ける。


「起きたの?」

「はい……おはよう、ごじゃいます、です……」


 目を擦りながらそう挨拶する。え、可愛すぎない?天使の目覚めかな?


「あ、あの……、ねてしまって、ごめんなさい……」

「気にしなくていいよ。緊張してたんだよね?」

「はい……」


 頭を撫でながら落ち着くように話す。実際、誰も怒ってないしね。





「あ、起きましたか?」


 そう言いながらレオン兄上とルートが部屋に入ってきた。


「は、はい。ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ。子どもは寝て育つものだしね」


 そうそう。子どもは寝て育つ。あ、レオン兄上が頭を撫でた!シルフィーの顔も緩んでる!可愛い……、可愛いけど!何か寂しい……。こう、お気に入りのおもちゃを取られたような。シルフィーはおもちゃじゃないし、レオン兄上は私のものを取るような事はしないから勘違いではあるけれど、何となく面白くない。


「おとーしゃまと、へいかは…?」


 あぁ、そうか。シルフィーは寝ていたからね。

 ……初めて来た場所で、初めて会った人と一緒にいるのは不安かな?


「あぁ、2人は仕事に行きました。何か、急な会議が入ったそうで。父上が君の傍にいようとする公爵の服を掴んでいく姿は中々でしたよ」


 レオン兄上はクスクスと思い出し笑いをしながら言う。


「眠っている間、ずっとアルの服を離さなかったのでソファで寝かせましたけど、体は痛くないですか?」

「だいじょうぶです」

「それはよかった。それはそうと、こちらにもおいで。ずっとアルが独占してたから私達はシルフィー嬢に構えなかったんですよ」

「あ、僕も抱っこしたい!妹が居なかったから憧れてたんだ!」



 レオン兄上とルートが私からシルフィーを奪おうとしている……。ただ単にシルフィーを抱っこしたいだけだろうけど、何となくシルフィーを取られるのは嫌だなぁ。

 でも、ずっと私が独占しているのも申し訳ない。レオン兄上とルートだって、小さい女の子と関わる機会は殆ど無かったから妹が出来たみたいだと喜ぶ気持ちは分かる。そう思って、シルフィーをレオン兄上とルートに渡そうとする。


「うぅっ……」


 しかし、シルフィーは再び私の服をぎゅっと握ってまた泣き出してしまった。私の胸に顔を埋めるシルフィーはとんでもなく可愛い。泣いているシルフィーには申し訳ないけど可愛い。


「そんなにアル兄上がいいの?」


 ルートにそう聞かれたシルフィーは頷いた。


「寝てる時ずっと一緒にいたから安全地帯として認識されたのか?」


 多分冗談で聞いたんだと思うけど、シルフィーの私の服を握る力が強くなったから当たってる可能性が高い。


「で、でも……」

「ん、どうした?」

「あ、あの……、あたまをなでなでされるのはうれしいので……、えっと、してくれると…うれしい、です」


 顔を赤くさせながらそう呟くシルフィー。え、可愛すぎない?もう天使。


「「「可愛い、尊い……」」」


 わたし達3人の心は間違いなく1つになった。





 それから、庭でお茶会をすることになった。それはいいんだけれど、シルフィーと手を繋いでいるのはレオン兄上とルートというのが落ち着かない。私だって繋ぎたいのに。でも、さっきまで独占してたから文句は言えない。


「おかし、おかし~」


 ちょっと沈みがちだった気分もシルフィーの可愛い歌で持ち上がった。


「そんなにお菓子が好きなのか?」

「はい!」

「可愛いですね」

「えへへ」


 さっきまでの緊張とか恐れは本当にどこかに行ったみたいで本当に良かった。





「わぁっ、きれい!」


 お茶会会場の庭には花壇が沢山あり、庭園らしく花が咲き誇っていた。シルフィーも感動したのか花の方に引き寄せられているが、兄上とルートと手を繋いでいる為、それも叶わない。


「あ、ごめんなさい!」

「シルフィーはお花が好きなのか?」

「はいっ!」

「じゃあ、お茶会が終わったら皆で一緒に見る?俺は余り花に詳しくないけど、レオ兄上とアル兄上なら花に詳しいと思うし。」

「いいんですか!?」

「うん、もちろん」

「ありがとうございます!」


 シルフィーが知りたいなら花言葉くらい教えるよ。もし知らなくても勉強して覚える。


 お茶会の机には沢山のケーキが並んでいた。シルフィーを見ると瞳が輝いているから期待を膨らませていることが分かる。

 熱心にケーキを見つめているシルフィーをレオン兄上が抱き上げて椅子に下ろした。

 そして、ここで問題が起きた。


 シルフィーが椅子に座ると机が高すぎる。ケーキに届かずシルフィーは泣きそうだ。というか泣いてる。ちょっと可愛いけど、ほっとけない。それにこれはシルフィーを膝に乗せるチャンスだ。


「うぅ……、おかし……」

「泣かなくていいよ。こっちにおいで」

「あ、あの…っ!」

「ん?ここなら届くでしょ?」

「はい……、でも……っ」


 やっぱり私相手だとまだ緊張している?少しは緊張が解れたと思ったんだけど。


「そんなことより、お菓子食べなくていいの?」

「たべます!」

「何から食べる?」

「えっと、えっと……。うぅ……」

「ふふ、ゆっくり選んでいいよ。沢山種類を食べたいなら一口ずつ食べてもいいよ」


 私がそう言うとシルフィーの瞳が輝いた。……けれど、次の瞬間落ち込んだ顔をした。


「もったいないからダメです……」

「じゃあ、僕達が残りを貰うよ。」

「それもダメです! きょうはひとつだけたべます」


 遠慮しなくてもいいのに。レオン兄上とルートだってシルフィーの残りなら気にせず食べるのに。

 いちごタルトを選んだシルフィーは幸せそうにタルトを食べた。本当に幸せそうに食べるシルフィーを見るとこっちもお腹いっぱいになってくる。





 その後、シルフィーにお兄様と呼ばれているスティラを羨ましいと思ったレオン兄上とルートが、シルフィーにお兄様と呼ぶように言っていたのはずるいと思った。シルフィーは素直だから、呼んでと言ったら呼ぶに決まっている。


 でもお兄様と呼ぶシルフィーは本当に可愛かったからレオン兄上とルートが「天使……、尊い。」と呟いて倒れるのは無理がないと思った。


「え! あ、あのっ!?」

「大丈夫だよ。2人とも、君の可愛さにやられただけだから」


 でも、羨ましいな。


「それで、僕のことは呼んでくれないの?」


 2人の事を兄と呼んだのに、私の事は呼んでくれないなんて少し寂しい。


「ええっと……。あるしゃま?」


 その言葉を聞いた瞬間倒れた私は悪くないと思う。「お兄様」が付いていないのは何故か分からなかったけどそれでも舌足らずで「しゃま」と言うのは可愛いとしか言いようがない。


 あぁ、もう。本当に天使の様だ。私だけのものになればいいのに。


読んでくださってありがとうございます~

誤字・脱字ありましたら是非報告をお願いします~

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