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018、騎士の訓練場に行きます


「それでは、行ってきます」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 玄関からお姉様とお母様の会話が聞こえてくる。お姉様がお出掛けする時にお母様と一緒ではないのは珍しい。お茶会とかもお姉様はほとんどお母様と一緒だから。


「おねーしゃま、おでかけですか?」

「ええ。少し騎士の訓練場に」

「くんれんじょう?」

「ええ。シルフィーも一緒行く?」

「いいんですか!」


 そういえば、お姉様とお出かけしたことほとんどないかも。お姉様とお出かけなんて、こんな素敵なことがあってもいいんですか?


「ええ、もちろん」


 そうと決まれば着替えて準備をしましょう!





「どうして、くんれんじょうにいくんですか?」


 今はお姉様と一緒に馬車に揺られている。その中で、気になったことを聞いてみた。


「あら、シルフィーには言ってなかったかしら? 今日は私の婚約者に会いに行くのだけれど、その婚約者が今、訓練場にいるのよ。」

「え、おねーしゃま、こんやくしゃいたんですか!?」


 今まで一緒に暮らしてきたのに知らなかった……。


「ええ。けれど、最近訓練の時間を増やしたみたいで、なかなか会う機会が作れないのよ。それで、今日は午前で訓練が終わるそうだから一緒にお昼を食べようと思って」


 なるほど。だからお姉様は大きなバスケットを持っていたのね。……ん?それってデートだよね?私いていいの?


「おねーしゃま、わたし、じゃまじゃないですか……?」

「どうして?」


 お姉様は心底不思議そうに聞いてくる。


「だって、せっかくあえるのに、わたしがついていったら、ふたりじゃなくなっちゃう……」

「ふふ、そういう事ね。大丈夫よ。実は婚約者もシルフィーに会いたがっているの。私が自慢する妹がどんな子か気になるんですって」





 何度来ても城は大きい。でも、いつもはアル様に会うために来てるから、入る門が違う。騎士の訓練場は直接訓練場へと続く門から入る。アル様とお茶会する時は通らないから新鮮。今日はアル様に城に行くことは伝えてないから会えなさそう。王子様達は忙しいだろうし。


 騎士の訓練場に直接繋がる門って言ってたからコンクリートの味気ない道を想像してたけど、さすがはお城。門から入った途端のレンガの道。更に両端には色とりどりのお花達。もう素敵としか言いようがない。


「おねーしゃま、おはなのみち、すてきです!」

「ええ、そうね」


 ついはしゃいでウロウロしてしまったけれど、お姉様はお淑やかに歩いてる。お花畑をや優雅に歩くお姉様。素敵。何だか自分が恥ずかしい……。

 お姉様を見習って、黙ってお姉様の横を歩く。けれどお姉様はそんな私を不思議に思ったみたい。


「シルフィー、好きなようにお花を見ていいのよ? 私は何度も来ているから見慣れているけれど、あなたはそうではないでしょう?」

「でも……。」

「それに、思いっきりはしゃげるのは今のうちよ?」


 お姉様は悪戯っぽい笑顔を向けてくる。


「はしゃいでもいいですか……?」

「ええ。元気なシルフィーを見られるのは嬉しいわ」


 そんな事言われたら思い切りはしゃぎますからね!?

 ウロウロとお花畑を見て回る私をお姉様は優しい目で見つめていた。





 訓練場に近づいてきた所でこちらに向かって歩いてきてる人影が見えた。

 あれ、向こうから歩いてきてるのは……、アル様?じっと見つめていると、こちらに気づいてくれたようで、笑いながら手を振ってくれる。


「あるしゃまー!」


 アル様に会えた事が嬉しくて、思わず走って抱きつく。はしたない事は分かっているよ?でも3歳だから許してね。それに、アル様だってしゃがんで腕を広げて待ち構えてくれてたんだもん。抱きつくしかないじゃん!


「あるしゃま、こんにちは!」

「こんにちは。シルフィー、今日はどうしたの?」

「おねーしゃまがくんれんじょうにいくので、ついてきました!」


 アル様は抱きついた私をゆっくりと抱き上げ、そのまま頭を撫でてくれる。幸せとはこの事ですね。ついでにアル様の胸に頭をこすりつけておきます。気分は犬か猫です。


「シリア嬢が騎士の練習場に行くなら、その間シルフィーは私が城を案内しようか?」


 アル様が素敵な笑顔でそう提案してくれる。今でさえ素敵だから、もっと大きくなったらその笑顔で何人もの女性を魅了するんだろうなぁ。


 アル様が案内してくれるとしたら、いっぱいアル様と居られて嬉しい!……でも、王子様は忙しいよね?もし手が空いてたとしてもせっかくならゆっくり休んで欲しい。


「だいじょうぶです! おねーしゃまといっしょにまわります!」

「え……」


 アル様は断られると思っていなかったのか驚いた顔をしている。


「でも、騎士の訓練なんてシルフィーには退屈でしょう? なら私と一緒にお茶をしよう?」


 アル様、それは騎士団の人に失礼ですよ!私の子守りをするよりちゃんと休んでください!


 それに……


「わたし、おねーしゃまといっしょがいいです!」


 お姉様とお出掛けなんて今まであんまり記憶にない。アル様とは何度もお茶会をしているけど。お姉様の婚約者にも会ってみたいしね。


 そっとアル様の顔を見ると、アル様が凄く悲しそうな顔をしているのに気がついた。


「あるしゃま?」

「え、あ……、ううん、なんでもない。シリア嬢と楽しんできてね」

「はい!」


 アル様の顔が凄く悲しそうに見えたけど、一瞬で笑顔になった。悲しそうに見えていたのは気のせいだったのかな?


 シルフィーは知らなかった。

 アルフォンスが悲しんでいたのは、シルフィーが自分よりシリアと一緒に居たがったからであることを。そして、シリアが、アルフォンスに勝ち誇った笑みを浮かべていたことを。





「お、シリア嬢じゃないか」

「お久しぶりです、シュヴァン様」


 色々あったけどやっと訓練場に着いた。そこに居たのは顔に大きな傷のある騎士。どうやらお姉様の知り合いみたい。背が高くて、威厳もあってとても強そうな騎士。


「今日も息子に会いに?」

「ええ。最近なかなか会う機会がないので……」

「済まない、それは私のせいでもあるな。最近、あいつが訓練にやる気を出してくれるものだから、つい休みの日も訓練を……」

「いいえ! トーリ様はいつもシュヴァン様のような騎士になりたいと仰ってます! きっと訓練もトーリ様が望まれたことですので!」


 なんだかお姉様と仲良さそう。……なんだか疎外感……。つい寂しくなってお姉様のスカートを摘む。すると、騎士様がどうやら私に気づいたみたい。


「ん? 後ろにいるのは……?」

「あ、申し訳ありません。こちらは私の妹のシルフィーです」

「あぁ、噂の……。俺はシュヴァン・リア・ルートリアだ。騎士団長をやっている」

「え、えっと、シルフィー・ミル・フィオーネです……」


 初めて会う人だから緊張するよぅ……。ついお姉様の背中へ隠れてしまう。


「ごめんなさい、シュヴァン様。妹は人見知りが激しくて……。慣れればよく懐くのですけれど……。」


 え、確かに人見知りだけど、そこまで激しくないと思う……。あと、懐くって動物みたい……。


「警戒心が強いのは悪いことじゃないさ。それに、私は顔に大きい傷があるからな。幼子や女性にとっては恐ろしいだろう。……まぁ、シリア嬢は驚きもしなかったが」

「だって、怖くないんですもの」


 確かにシュヴァン様の顔には大きな傷がある。でも、シュヴァン様の話す言葉から優しさが溢れているのが分かる。

クロード公爵家のルシファー様も、顔は怖かったけれど人柄は怖くなかったから、きっとシュヴァン様も怖くないと思う。顔で人を判断するのは良くない!……ルシファー様ではちょっとしちゃったけど。


「こわくないです! すっごくかっこいいです!」


 私も全然怖がってないという事を前面に押し出してみる。

 シュヴァン様は一瞬驚いた後に、はにかみながら


「ありがとうな」


 と、答えてくれた。怖い顔の人がはにかむのってなんだか可愛いね。





「今日はどんな訓練をしていますの?」

「模擬試合だ。アイツもシリア嬢にいい所を見せようと張り切っているぞ?」

「ふふ、あの方はいつも格好いいですわ」

「ほら、あそこで今戦っているぞ」

「本当ですわ! まぁ、素敵……!」


 むぅ。やっぱり、仲良さそう……。しかも話がよく分からない……。アイツ?あの方?お姉様の婚約者様のことかな?疎外感……!


 それにね?その戦っている姿が私には見えないの……。私の背が低すぎて。目の前の壁が高すぎて。お姉様に抱っこをしてもらおうかと思ったけど、必死に訓練を見ているお姉様に少し申し訳ない。それに9歳のお姉様にとって3歳の私が重たくない訳ないもん。……お姉様は羽根の様に軽いって言ってくれるけど……。となるとやっぱり……


「あの、シュヴァンしゃま……。だっこ……」


 しかないよね?お強請りのつもりで、両手をシュヴァン様に向けて広げる。シュヴァン様は私の言葉を聞いた途端、


「幼子が……、私に抱っこを強請ったのか……? この、強面の私に……?」


 と、呟いた。どうやら現実として受け入れられないみたいだ。


「あら、シュヴァン様、早速懐かれましたわね。」

「シリア嬢よ。この子は可愛すぎやしないか? 攫われたりしないか?」

「ええ、とっても可愛いでしょう! いつか攫われそうで……。むしろ私が攫いたいわ!」

「いや、シリア嬢は攫わなくても屋敷で一緒ではないか。」

「それはそうなんですけれど……。」


 2人してまた話に盛り上がっている。ところで、私は抱き上げてもらえるのだろうか。先程からシュヴァン様に向けてずっと手を広げているんだけど一向に抱き上げてくれない。焦れた私は思わずシュヴァン様の服を掴む。


「シュヴァンしゃま、だっこして……?」


 そういった途端、シュヴァン様や周りにいた騎士が固まってしまった。シルフィーは普通にお強請りしたつもりだが、外から見たらどうだろう。

 金髪碧眼の愛らしい幼女が、顔に大きな傷のある強面騎士に上目遣いで抱っこを強請っているのだから。

 シルフィーの可愛らしさに悶えるものも居れば、愛らしい幼女と強面騎士という組み合わせに犯罪要素を感じ取った者もいる。

 ちなみにシリアは前者で、シュヴァンは両者だった。


 そうして、皆の気持ちが収まった頃ようやくシルフィーはシュヴァンに抱き上げて貰えた。けれど、その頃にはお姉様の婚約者の試合は終わっていて、結局どんな人か分からなかった。





「シルフィー嬢、私の息子のトーリを紹介しても良いか?」

「トーリ、しゃま?」


 トーリ……?何だか聞いた事のある名前……。あれ、トーリ様って小説に出てきたよね?騎士団長として。


 確か今の騎士団長であるシュヴァン様が引退した時に、息子であるトーリ様が跡を継ぐんだよね?でも、息子だから継いだ訳じゃなくて、騎士として優れているから。シュヴァン様とトーリ様は歴史に残るくらい強い親子って言われてた気がする。でも、小説だとシュヴァン様の名前は出てこないから気づかなかった。


「シルフィーはまだ会った事が無いものね。私も是非紹介したいわ」

「俺の息子は強いぞ」

「団長、親バカですからねぇ」


 自信満々に言うシュヴァン様に対して、団員の揶揄う声が聞こえる。

 仲が良さそう。でも、シュヴァン様に威厳がない訳では無い。むしろ尊敬されてるからこその態度って感じ。騎士団の雰囲気がとても良い事が分かる。


 すると、向こうの方から物凄い勢いで走ってくる人影が見える。

 もしかして、彼がトーリ様かな?


「父上! お呼びですか!?」


 そう言いながら私たちの前で急停止した男性はシュヴァン様そっくりだった。正確にはシュヴァン様を幼くしたような見た目だった。うん、そういえば、小説の挿絵で見たなぁ。


 でもね……、気付こうよ、私!

 シュヴァン様って、小説の挿絵で見た、騎士団長になったトーリ様そっくりじゃん!シュヴァン様を見て、トーリ様の血縁って気付こうよ!


「おお、トーリ。そんなに焦ってどうした?」

「父上が至急来いと言ったからでしょう……。緊急ではなさそうですね。」

「いやぁ、また足が早くなったなぁ。流石俺の息子だ」


 私達の雰囲気を見て、緊急でないことを察したトーリ様はため息をついて息を整える。

 というか、いつの間にかトーリ様に伝言をしたのかな?そんな素振り無かったのに……。

 そして、トーリ様はお姉様に気付いたようで、シュヴァン様をスルーして話しかける。


「シリア嬢、久しぶりだな」

「お久しぶりです、トーリ様。先程の試合、とても素晴らしかったですわ!」

「ありがとう。婚約者殿を守れるように強くなりたいからな」

「まぁ!」


 むぅ。またしても疎外感……。なんでトーリ様はお姉様とこんなに仲がいいの?……私の方がお姉様と仲良しなのに。トーリ様にお姉様を取られたくなくて、お姉様の腰に抱きつく。その時にやっと、トーリ様は私に気づいたみたい。何だかシュヴァン様の時と同じ流れだなぁ。


「この子がシリア嬢の妹か?」

「ええ。可愛いでしょう?」

「あぁ。物凄く」


 何だか、会話を聞いている方が恥ずかしい。自分の事を会ったばかりの人に褒められるのは少しくすぐったい。

 でも、お姉様は渡しません!

 私のそんな思いが届いたのか、お姉様は


「シルフィー、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。彼が私の婚約者なの。」


 と言った。


「えっ!」


 婚約って、トーリ様の事だったんですか!全然気づきませんでした。というか、どうして誰も教えてくれないんですか?


 歳はお姉様と同じではなさそう。お兄様よりも年上っぽいから。


「トーリ様は私より5歳年上だから、シルフィーより11歳年上って事になるわね。」


 私が3歳で、お姉様が9歳って事はトーリ様は14歳って事ね。何だか、凄く大人に見える。


 でも、トーリ様はお姉様の事本当に大切に想ってる。妹みたいに見てるんじゃなくて、婚約者として、女性として、守るべき大切な人としてみてる。だって、トーリ様がお姉様を見る目が凄く優しいもん。

 うん、トーリ様なら、お姉様を任せてもいい!なんて、上から目線で思ってみる。でも、お姉様はまだ、私のお姉様です!


「初めましてだな、俺はトーリ・リア・ルートリア。シリアの婚約者だ。よろしくな」

「シリアおねーしゃまのいもうとの、シルフィーです! よろしくおねがいします、トーリしゃま!」

「よろしく……、だが、少し……うーん、」


 私は自己紹介しただけなのに、何故か凄く唸られてる。そして、数秒後、閃いたようにこちらを見て、


「トーリお兄様と呼んでもいいぞ」


 と言った。


 そっか、トーリ様はお姉様と結婚するから、本当にお兄様になるんだ。でも、お兄様って呼ぶと、お姉様の婚約者として認めてるみたい。……認めてるけど。認めてあげてもいいけど!

 でも、トーリ様が凄く期待している目でこちらを見てくる。……呼ぶしかないよね?


「トーリ、おにーしゃま………?」


 そう呼ぶと頭をわしゃわしゃと撫でられる。これ、私じゃなかったら、髪が乱れるって怒られるやつですよ?

 何だか、お兄様や王子様達とは違う雰囲気だけど、トーリお兄様もやっぱり格好いい。イケメンは何をしてもイケメンという言葉が身に染みます。





 そして、その後、お姉様とトーリお兄様がサンドウィッチを食べさせ合いながらイチャイチャしているのを間近で見せられるという苦行を強いられるとは、この時の私は思いもしなかった……。

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