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177、決断する時です





夜遅くだというのに、2人は快く時間を作ってくれた。突然の申し出にも関わらず、2人は私が来るのを待っていたかのように一緒にいた。


「もう決めたのね」

「はい」


訪れた私の顔を見たお母さんは、安心したように笑っていた。


この表情を見ても、私の心はひどく凪いでいる。さっきまでの私なら、私と別れる事を喜んでいると落ち込んでいただろう。けれど、今はそうは思わない。2人は私の事を愛してくれていた。だからこそ私と別れなければいけなかった。それが分かっているから。


2人の前のしっかり立って、自分の意思を表明する。


「私の心を戻してくれますか?」

「ええ、もちろんよ」


私の決断は、私だけのものではない。結果的に多くの人に関わってくる。どうして私がこのような決断をしなければならないかと恨むような気持ちもあるけれど、それでも仕方がないのだ。

私が私である限り仕方が無い。光の少女の生まれ変わりである以上、仕方がない事なのである。私は彼女の記憶は全くないけれど、当時彼女が世界を救ったことに間違いはない。だから彼女の生まれ変わりという事は光栄な事なのだ。魂を引き継いだ私の役割なのだ。


寧ろ、私が特別な存在だった事が嬉しい。だって、私が普通の人で、光の少女やリーアの生まれ変わりでは無かったら、2人に出会えていない。様々な偶然が重なって、出会えた。いや、これは偶然と言えるのだろうか。全ては決まっている。今回の件もそのひとつだろう。


「これで、私の中の悪魔が消えるんだよね?」

「ああ」


これで私が悪夢に苛まれることも、レオンお兄様や、ソフィアに入り込もうとする事もなくなるだろう。嫌な事が無くなるのだ。それはとても喜ばしい。


きっと、これでいいのだ。


神様である2人をいつまでもこの世界に縛り付けておくわけにはいかない。私はずっと2人にここにいて欲しいけれど、2人の居場所はここではない。きっと神として果たさなければいけない役目はまだ他にも沢山ある。


そして、お義父様とお義母様も本来のお義父様とお義母様に戻らなければならないだろう。


最後に、というとお別れが近づいて来ている感じがして嫌だけど、最後に2人に抱きついた。

力強い手と優しい手が私の背中を撫でる。


泣いてはいけない。これを悲しい別れにしたくないから。


「幸せになってね」


お母さんのその言葉に私はふと顔を上げる


幸せ………。


「私、幸せです。家族が、アル様が愛してくれるから」


だからもっともっと、幸せになる。幸せにならないと、2人に笑顔で顔向けが出来ない。


「聞いてもいい?」


お母さんが恐る恐る私に聞いてきた。


「うん」


何についてか分からないけれど、お母さんが聞きたいというのなら答える。私が答えられる範囲にはなってしまうけれど。神様であるお母さんにも分からない事があるんだね。


「どうして決断してくれたの?」

「どうして?」


難しい質問だ。確かに私は、さっきまで決断したくなかった。いや、決断しなくてはいけない事は分かっていたけれど、どうしてもその答えを出す事が出来なかった。そんな私がその日のうちにこのように決断を明かしてきたのだから、不思議には思うだろう。

自分の中でも答えはわからないけど、それはきっと


「アル様のおかげかな」

「アルの?」

「うん」


思い出すのは先程、私を抱きしめてくれた優しいアル様の腕の中。


「アル様が『おかえり』って言ってくれたから、私の居場所があるって分かったんだ」

「そう…」


私のその言葉に、お母さんもほっとしたように笑った。そしてお父さんも笑っていた。

私は1人ではない。その事が伝わったようで安心した。


前までの私なら2人がいなくなったらどうしていいか分からなかった。けれど、もう大丈夫。アル様は私を愛してくれているから。




そして私が心を取り戻すと決めた要因のもう一つは、




「アル様が『愛してる』って言ってくれた時、私は『愛してる』って返せなかった」




これがずっと心残りだった。アル様は、ある時を境に私に対して『愛してる』と言ってくれるようになった。けれど、私はそんなアル様に、大好きとしか答えられなかった。アル様はいつだって私を大切にして愛してくれた。もちろん私だって、アル様の事が大好きだったけれど、私はアル様の『愛してる』という言葉にどう返していいか分からなかった。勿論、私も『愛してる』と返せたらよかったのだろうけれど、私はその愛してるを理解できなかった。愛されてる事は理解出来ても、自分が愛する事は理解できなかった。だから、どう返事していいか分からなかったのだ。


「私はその愛情をアル様に返せない。そんなの嫌だから。私だってアル様を愛したい。お兄様の結婚式でお兄様とマリーお姉様が見せたような、あんな幸せそうな気持を私も味わいたい。心から人を愛してみたい。」


だから、わたしはもっともっと幸せになる。

 愛した人達と一緒に。


「ありがとう、お父さん、お母さん」


ずっと、見守ってくれてありがとう。


会いに来てくれてありがとう。


産んでくれてありがとう。


抱きしめてくれてありがとう。


手を取ってくれてありがとう。


アル様と出会わせてくれてありがとう。




愛してくれてありがとう。



沢山のありがとうを込めて、2人に贈る。


「あり、がとう」


これで本当にお別れだ。


「ありがとう……」


もう、会うことはないだろう。それが理。



泣きたくなんかないのに、目から零れ落ちる雫を止める事が出来ない。でも、最後はやっぱり、泣き顔じゃなくて


「あり、がとうっ!」


とびきりの笑顔でそう言う。例え目が潤んでいようとも、これが今の私が2人に贈れるとびきりの笑顔。

2人にすがりついている手が震えている事も当然ながら2人は気付いているだろう。でも、いい。不格好でもいい。


さよならなんて言いたくない。だから、2人への感謝を何度も贈る。


「愛してくれて、ありがとう」


これで、最後だ。


「愛してる」


初めて、この言葉を贈る。贈りたくても、贈れなかった私の『心』。


 私がそういうと、お父さんとお母さんは安心したようにゆっくりと目を閉じた。





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