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174、二人の役目





 次の日、アル様が仕事に行った後、私はお父さんとお母さんに時間を作ってもらっていた。昨日の話の続きをする為だ。

 2人が神だという事は聞いたけれど、詳しい事は全く分からない。それを聞くために2人にお願いをした。


 場所は昨日と同じ所。その方が私が落ち着いて話せる気がしたから。一晩経って、私もだいぶ落ち着いてきた。アル様のおかげかもしれない。


「あの、昨日言ってた神って?」


 昨日の続きと言えば、まずはここ。昨日はここで話が終わったから。

 2人とも私がこの質問をする事を想定していたのか、軽く頷き言葉を続けた。


「神と言っても、私達がそう自覚したのは死んでからよ。」


 死んでからという事は、桜の両親として生きていた時はまだ普通の人間だったという事だろう。


「いや、自覚したというのも少し違うかもしれない。私達は普通の人間だったが、そこに神の魂が入り込んだといった方が聞こえが良いかもしれない。死後の世界で、私達の中に神の魂が入り込んだ。だからこそ、私達は神となり、今このように2人の体に宿る事が出来ている。」

「なるほど?」


 私は神についてよく分からないから、神がどういう役割を果たしているのか分かっていない。けれど、2人の言葉からすると、自由にこの世界に降りてくる事が出来るという事だろうか。でも、そうなるならこの世界は神様だらけになってしまう。いや、そもそも神様って一体何人ぐらいいるのだろうか。勝手に沢山いるものと思っていたけれど2人だけなのかな。でも、フロイアン建国物語では神様って沢山いた気がする。


「私達は役目があったから、この世界に降りてくる事が出来た」

「役目?」


 という事は、普通は自由にここに来る事は出来ないという事だろうか。役目が無ければ、私達は出会えなかったのだろう。


「私達の役目はシルフィーに、『心』を返す事」

「心…?」


 私に?それに、返すって?


 私にはちゃんと心が宿っているよ?それとも違うの?私の心は私のものじゃないの?私の心は別の誰かのもの?私の心は取られているの?返すという事は、私の中に内という事?それをお父さん達が持ってるということ?


 そんな事を言われると、今までの私が私なのか分からなくなる。やっぱり私の心は別の誰かのものなのだろうか。私の心は誰のもの?今、私が感じているこの感情は本当に私が感じているもの?





 一気に世界が冷たくなった気がした





「それで、私達の役目は終わる」


 お父さんの言葉に私はハッと下に向けかけていた視線を元に戻す


「終わる…?終わったら、どうなるの?」


 2人は役目があるから、この世界に降りて来たと言っていた。もし役目が無かったらこの世界に降りてきてはいない。だとしたら役目が終わってしまうとどうなるのか。このままこの世界に居続けられるかもしれないけれど、そうではなかったら?



 ………そうじゃなかったら?



 いやだ、聞きたくない。


「その役目が、終わったら、」


 やめて、言葉にしないで。





「私達は、消えるわ」





 頭が真っ白になるのが分かる。


『消える』


 その言葉が私の頭の中に染み込んでいく。


「消えると言っても、私達の存在が、この身体から抜けるだけよ」

「つまり、シルフィーが桜の事を忘れてしまうような事だな」


 と、お父さんが冷静につけ加える。つまり、お父さん達が言いたいのは、お義父様、お義母様が、お父さんとお母さんの記憶を失うという事だ。そしてそれは、お父さんとお母さんとの別れを指す。だって、本人が自覚していないのに、お父さんとお母さんと話すなんて出来ない。私だって桜としての記憶が無かったら、桜として悠里ちゃん……、ソフィアと話す事なんて出来ない。


その言葉が頭に入ってきてはいる。しかし、それを理解する事は出来ない。正確には理解したくない。

 二人の存在がこの世から消える。お義父様とお義母様は消えなくても、お父さんとお母さんが消える。

 でも、私にとってはそれが全てだ。


 2人が消えるなんて考えられない。だってお義父様とお義母様は、お父さんとお母さんが入っていたからこそ、今のお義父様とお義母様になったのだ。お父さんとお母さんがいなくなるという事は、自分の中の1部を無くしたお義父様とお義母様になるという事だ。それは果たして、私達の知っているお義父様とお義母様だろうか。


「い、やだ」


 いらない。


「お願い。やめて」


 心なんていらない。


「いかないで」


 私が拒めば二人は役割を果たせない。


「ここにいて」


 ここにいてくれるはず。


「いらない。『心』なんて、いらないから、だから、」


 そばに、いてよ。


 言葉にならない心があふれ出す。

 

 だって、『心』なんてなくても、私は生きていける。今、幸せだもの。家族がいて、友達がいて、婚約者もいる。これ以上、何を望めばいいの?


 だって、私は私だもの。今更別の『心』が入り込んで来たら、それは私ではなくなってしまうかもしれない。そうまでして手に入れなければならない私の『心』ってなに?



 いらない。


 必要ない。


 私は私だ。



二人に縋りつくように服をつかむ。


「また、」


 誰にも言わなかった心が、あふれだす。


「また、おいていくの…?」


 怖くて、苦しい。


 また、一人になるの?あの時みたいに?

 二人が死んだときみたいに、また、離れないといけないの?


 あの時みたいに、家族ではない人達と一緒に生きていかなければいけないの?前の人生ではたった3年しか一緒にいられなかった。やっとこれからまた一緒にいられると思ったのに。


 また寂しい思いをしないといけないの?


「いやだ…」


 確かに『心』は必要なものかもしれないが、私には必要性を感じない。2人が離れていい理由にはならない。2人は私のそばにいてくれないといけない。



 こんな事なら奇跡なんて起こらないでほしかった。もう一度2人と出会ってしまったから、別れるのが寂しくなる。こんな事なら初めから出会わない方が良かったかもしれない。奇跡なんて起きない方がよかった。起きてほしくなかった。


 諦めから、少しずつ縋りつく手が緩んでいく。





「初めから、話そう」


 お父さんは突然そう言った。


 初め、から?それは2人が消える事と私に『心』を返す事に関係があるの?


 お父さんはそう言いながらお母さんと顔を合わせる。そして、人は私に向き直った。





「まず、シルフィーは、『リーア・ライ・ドマール』の生まれ変わりだろう?」





 そう言ったお父さんに驚く。


「どうして、それを?」


 私だって、最近知ったのに。

 ……いや、疑問持つ方がおかしいか。だって2人は


「私達は、神だから」


 その言葉に、二人が全てを知っているのだと、悟った。聞かなければ、ならないと。聞きたくなかったけれど、それでも聞かないと何も分からないと感じた。





 そうして、二人は少しずつ語り始めた。


「シルフィーは、フロイアン王国建国物語を知っているね」

「はい」


 知っている。だって、習ったもの。





フロイアン王国建国物語


神々は天界に住んでいた。

そこでは美しい花が咲き乱れ、神々は心穏やかに過ごしていた。


しかし、悪魔はそんな天界全体へ呪いをかけた。


自身の欲を最大限まで増長させる呪い。


神々は自身の欲を求めるようになった。そして、その欲を妨害するものは残らず排除した。それが、かつて仲間であった神であろうと関係なく。


しかし、神は死なない。


それ故、神々の戦いは徐々に激しくなり、やがて人間界へも影響が出た。神々の強すぎる力は、とうとう人間界を高密度の魔力で埋めつくした。人間達は無意識にその魔力を体内に取り込み、やがて狂っていった。


人間同士の殺し合い。


他人を殺すことに優越感を持つ者もいた。数億人いた人間達は、1人減り、2人減り、やがて最後の1人となった。最後の1人となった少女は、高密度の魔力を取り込みながらも何とか自我を保っていた。そんな少女は、自分一人しか残っていないという事実に絶望し、自身に取り込んでいた魔力を放出した。取り込んだ魔力を急激に放出することに少女の体は耐えられるはずもなく、少女の体は光となって消えてしまった。


しかし、その光は、神々にかけられた悪魔の呪いをも消し去った。


正気に戻った神々は、魔法によって起こる争いを恐れた。しかし、 神は人間界の監視者であるため、人間界を作らなければならない。それ故、神はあらたな大陸を作り、魔力を持たない人々を作った。





 それがフロイアン王国建国物語。私が5歳の時にロバートから習った。


「シルフィーにこれを教えるように言ったのは、私達なんだ」

「そう、なの?」


 あの時な何とも思わなかったけれど、5歳の子どもにあの建国物語は普通教えないと思う。だって怖かったし。それに、普通はまだ文字を習っている頃だと思う。

 あの時はなぜこの物語を聞いたのか分からなかった、でもそれには意味があったんだとわかった。


「あの、建国物語は。シルフィーに関係があるんだ」

「関係…?」


 ずっと、ずっと、遥か昔の、おとぎ話のような話が?



「あの建国物語は本当にあった事なんだ」

「本当に…」


 現実味がわかない。でも、有り得ない話でない。だって、この世界は魔法の世界だから、だからこそ本当にあったと言われても納得できる。



「シルフィーは、『リーア・ライ・ドマール』の生まれ変わりだ」


 そして、と、お父さんが続ける。


「建国物語の、光の少女の生まれ変わりでもある」


 理解が追いつかないとは、こういう事を言うのだろう。

 建国物語が私に関係していると聞いて、どういう事か分からなかったけれど、そういうことなのか。

 でも、私にはその少女の記憶も何も残っていない。私がその少女だという実感が全くない。


「光になって消えた少女は、ずっと、はるか未来に悪魔によって再生した。リーア・ライ・ドマールとして」

「!」


リーアが生まれかわり?


 大体分かってきた。リーアが、少女の生まれ変わりだから、リーアの生まれ変わりである私も少女の生まれ変わりというわけだ。


 でも、どうして悪魔は少女を再生させたのだろうか


 2人の話によると、こうだ。





 少女が光を放出させた時、神々にかかった呪い消えてしまったが、悪魔は消えなかった。


 そして、悪魔自身が少女の肉体を操るために再生させた。それがリーアだ。

 しかし、悪魔が入った事により、再生したはずのリーアは耐え切れず、分裂した。


 肉体と魂に。


 リーアの死は、決して偶然なんかではない。悪魔によって仕組まれた事だった。

 私が…、いや、リーアがあの日、自分が死ぬと直感したのも偶然ではなかったという訳だ。死なないように部屋に籠ろうとしたのを拒絶した私の心も、リヒトのそばに行こうと思ったのも、リヒトを矢から守ろうと思ったのも全て、ただの勘ではなく悪魔が仕組んだ事だったのだ。


「シルフィーはソフィア嬢が好きか?」


 脈略もないような突然のお父さんの質問に、私は迷わずに答える。


「うん、好き」

「だろうな」


 お父さんもお母さんも分かっていたように軽く頷く。

 けれど、どうして急にソフィアの話が出てくるのだろうか。


「シルフィーは、ソフィアとリーアの容姿が似ていると感じた事はないか?」


 この言葉に今度は少し考え込んでしまう。リーアは薄水色の髪と瞳だった。そしてそれは、ソフィアも一緒。もちろん考えた事は……、


「ある」


 偶然とはいえ、本当に、色はよく似ていた。髪質だって一緒。不思議なくらい似てるなと思っていた。でもそれが何なのだろうか。


 もしかして


「そうだ、シルフィーにはリーアの魂が、そしてソフィアにリーアの肉体が受け継がれた。」





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