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173、二人の存在




「分かりやすく言うと、神様みたいなものかしら」


 2人の言葉に私の思考中だった頭も思考を止めた。


 ……………ん?


 止めざるを得なかった。


「かみ、?」


 こんな言葉を聞かされて頭が正常に働く訳がない。

 これは聞き間違いだろうか。聞き間違いであってほしい。だって2人がこんな冗談を言うはずがない。


 2人の言葉をぽつりと呟き返してみるけれど、その言葉はしっくりこない。


「あぁ、そうだ。向こうで桜の親として死んでから、神になったんだ」

「え、と。は…、え?」


 理解が追い付かない。やっぱり揶揄われているのだろうか?


 かみって髪の事だろうか?それとも紙?

 いやいや、こんな冗談を言っている場合ではない。


 思わず私の中で知っている神の定義を繰り返し、頭の中で唱えてみるけれど、それに一致するようなものはなかなか見つからなかった。

だって2人は普通の人間で、目の前で今、同じように…、私達と同じように生きているのだから。


 確かに私は2人の事をどこか特別な存在だと思っていた。小説の事を知らないはずなのに、この世界について私より詳しい気がしたから。普通の人間と思いながらも、どこか私とは違うと感じていた。

 でもまさか、あんな答えが返ってくるなんて全く予想していなかった。


 



 更に詳しく聞こうとすると、入り口の方からアル様が歩いてきているのが見えた。ここは庭園だから誰かが来るとすぐに分かってしまう。アル様がこちらに向かって歩いてきてるのもすぐに分かった。アル様がいる場所でこの話をする訳には行かない。私はアル様に前世の記憶がある事を言っていないから。リーアの記憶がある事は知っているけれど、桜の記憶があることは知らない。だから言えない。アル様は当然ながら、お義父様とお義母様が日本での記憶がある事も知らないだろう。だから言えない。


 私としてはもう少し2人と話がしたかったのだけれど、アル様が来てしまったのなら仕方がない。





「続きはまた、今度な」


 そう言ってお父さん…、お義父様は私の頭を撫でる。


 気になる事は沢山ある。でも、今は、この幸せを。再び出会えた幸せをかみしめたい。


「……うん」





 




「シルフィー、どうしたの?」

「……なんでも、ないです」


 私は、アル様の部屋についた途端、アル様に抱き着いた。

 いつもならすぐ抱きしめ返してくれるアル様だったけれど、私の様子がおかしいと思ったのか、私を横抱きして、アル様の上に私が座る形でソファに座ってくれた。


 私は遠慮なく、アル様の膝の上に座りながら、その肩に顔を埋める。


 今思うと、アル様が入ってきてくれて良かったかもしれない。私にも落ち着く時間が必要だったのだ。先程は2人が神なんて言っていたから気が動揺していたけれど、ここにきて落ち着いてきた。



 でも、気を緩めると泣きそうになる。

 もう、会えないと思っていた二人に会えた。



 会えないと思っていたソフィアに再び会えた。リヒトにも。そして、お父さんとお母さんにも。こんなにも奇跡が続いてもいいのだろうか。


「ねえ、アル様、奇跡って何だと思う?」

「奇跡?」

「うん。」


 だってね、私の周りには奇跡が起きすぎている。これはもう奇跡とは呼べないのかもしれない。だって


「奇跡かぁ。うーん、本来起こるはずのない事が起こる事かな?あと、もう二度と起こらないようなこと?」


 私にとっての奇跡も同じような意味合いだと思う。だからこそ、私はこれを奇跡と呼んでいいのか分からない。だってもう3度目だ。いや、自分が転生したことを含めるともう4度目かな。あまりにも起こりすぎている。良い事なのか悪い事なのかも分からない。でもこれにも意味があるのだろうか。私達が転生して、その記憶を持っているという事は何か特別な意味があるのかもしれない。けれど、それが何なのか分からない。今その奇跡を甘んじて享受していいのか分からない。でも私は受け入れるしかないのだ。私自身が受け入れたいと思っているから。例えそこにどのような代償があろうとしても、それは私にとって奇跡を受け入れない理由にはならない。


「ねえ、シルフィー。これだけは答えて。」

「?」

「今、悲しい?」


 アル様がそう聞いてくれる。

 何があったか聞かないでいてくれるアル様の優しさが嬉しい。だって、聞かれても、答えられないから。


「違う。」


 自分の感情と向き合ってみて分かる。私は今、悲しいわけではない。


「違うの。」


 そう。これは喜び。


「嬉しくて、胸がいっぱいで、溢れそうなの」」


「そっか」


 私がそう答えると、アル様は安心したように、私の頭と背中を撫で撫でた。





 アル様はそれから何も言わなかったけれど、それが嬉しかった。静かな、静かな空間。でも、温かくて安心した。


 そう、私は嬉しいのだ。2人がまた2人でいてくれる事が嬉しい。また、私と出会ってくれた事が嬉しい。私を恨んでいなかった事が嬉しい私を愛してくれていたことが嬉しい。全部全部嬉しいのは本当だ。ただ、どうしても最後の2人の言葉に動揺してしまっただけ。

 それでも2人が転生していた事に対しての喜びは変わりようがない。


「あのね…、」


 思わず口からぽつりと言葉が飛び出した。特に言おうとは思っていたのに、つい言葉が出てしまったのだ。でもそれはよかったのかもしれない。1人で溜め込むにはどうしても気持ちが抑えきれなかったから。


「うん」


 アル様は余計な事を言わずに私の言葉に頷いてくれた。ただ、そばにいてくれる、それがこんなに嬉しいなんて。


「私。嬉しいの」

「何が?」

「陛下と王妃様が、お義父様とお義母様になる事…」


 言葉にして、改めてそう感じた。

 そうだ、それ自体は私にとってすごく嬉しいことだ。


「そっか。それを聞いたら、きっと二人もすごく喜ぶと思うよ」

「ありがとう。アル様」

「ふふ、どういたしまして。」





 その日、アル様はいつものように私を抱きしめて一緒に眠ってくれた。


 眠る前、アル様はポツリと私に「愛しているよ」と言ってくれた。私はそれがとても嬉しくて「私も大好きです」と返した。








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